オプションサービス
「ジョージさん、助かったよ……」
ライドさんが座り込んでいる。大丈夫だったかな?
「怪我は無い? 取り敢えず殺さないように注意はしたけど、今度はどうなるかわからないよ。さすがに舐められちゃマズいから。それにしてもエルフって随分好戦的だね。いきなり弓と魔法をバンバン撃ってくるなんて、伝えられているエルフの性質は当てにならないや」
「いや、……ハハハ、そ、そうだな、好戦的だな」
エルフは長命のため一人一人の知識が豊富である。簡単に言えば博識。そして争い事を好まず穏やかな性質。
自然をこよなく愛し、自然と共に生きる。【賢者の中の賢者】。これが巷に知れ渡るエルフの異名だ。
何か全然違うやん。キャッハー!の世界がすぐ隣りにあるから影響を受けているのかな?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
砦の内側の魔力反応が門の前に集まって来ている。まだ時間はあるが意見はまとまったのかな?
そして砦の門がゆっくりと左右に開く。
武装解除をしているエルフの集団がこちらに歩いてくる。あれ? 全員女性のエルフだったのか。魔力反応の数は27人。間違いなく全員だ。スミレや茜師匠がいない状況だから気を抜いては駄目だからな。なっ!?
俺は近付いてくる集団の先頭のエルフを見て驚愕した。
何故ここにサイファ魔導団長が!?
「ジョージ・グラコート伯爵。貴方と敵対する気はこちらには毛頭ございません。またエクス帝国に弓を弾くつもりもございません。貴方の指示に従い武装解除を致しました。これでこちらの真意が示されるでしょうか?」
あれ? サイファ魔導団長じゃない? もしかしてただのそっくりさん? サイファ魔導団長なら俺にこんな低姿勢を取るなんて有り得ないもんな。でも魔力の質までサイファ魔導団長とそっくりだよ。本当に本人じゃないよな?
「武装解除に従ってくれて礼を言う。それにしてもいきなり攻撃してくるのは無いんじゃない? どう見ても敵対行動だよね?」
「誠に申し訳ございません。我々はジョージ様では無くそこの腐れ外道を攻撃しただけです。そこのところをどうか理解していただきたい」
サイファ魔導団長のそっくりさんの言葉に合わせて27人の女性のエルフが蔑む視線をライドさんに向ける。
うん? これはSMクラブのオプションサービスの【蔑む視線】! いつの間にオプションを付けてたんだよライドさん!
「ちょ、ちょっと言い過ぎじゃないかな、シルファ。兄に向かって腐れ外道はないでしょう? 兄さんは悲しくなっちゃうよ」
サイファ魔導団長のそっくりさんはライドさんの妹? それならサイファ魔導団長の姉妹になるわけか。そっくりなのも理解できるわ。
あ、シルファと呼ばれた女性の視線が更に冷たくなった。
「貴様など既に兄でもなんでもない。それに腐れ外道に腐れ外道と言って何が悪い。自分が仕出かした事を胸に手を当てて考えてみろ」
「僕は母なる世界樹に誓って何も疚しいことはしていない」
胸を張るライドさん。その姿を見てシルファの顔が憤怒の表情に変わる……。
「貴様っ! 母なる世界樹に誓ってだと! それは世界樹を冒涜する発言だ! 取り消せ! 今すぐその発言を取り消せ!」
「それはできないな。僕は僕の信念に従って行動している。そこには一点の曇りもない。僕の主観では何も疚しい事はしてないのだから。他人の主観までは責任取れないよ。簡単に言えば見解の相違ってやつだね」
シルファの怒りの言葉に淡々と返答するライドさん。そのライドさんの態度はシルファの怒りをかきたてる。
「何が見解の相違だ! 事実から目を背けるな! 姫が泣いているぞ! 結婚式の当日に新郎が逃げ出したのだからな。どの面下げてエンヴァラに戻ってきた!」
「戻りたくないけど、しょうがないじゃないか。世界樹が復活する可能性があるのだから。それは長老だって理解しているんじゃないか?」
何か不穏な言葉がチラホラ聞こえてくるよ……。
先程攻撃されたのは完全にライドさんのせいだな。
この口論は終わりそうも無いなぁ。そういえば腹減ったよ。砦になら何か食べ物があるんじゃない?
「あの……。お取り込み中申し訳ないけど、何か食べるものないかな?」





