オリビア先輩
「ジョージは本当に凄いやつだな! こんな素晴らしい男性は初めてみたぞ! あの糞タイルが都落ちだ! ザマァねぇな! こんな痛快な事は生まれて初めてだよ!」
いつの間にか俺の隣りに座って、俺の肩を叩きまくるオリビアちゃん。
「ジョージのおかげで私とママはバラス公爵家からの支配から抜け出せたよ。さすが英雄は違うな。力だけあっても英雄じゃない。英雄とは心も英雄なんだな」
心も英雄っておかしな言葉喋っているよ……。それに叩かれている肩が微妙に痛い。
「ジョージ、酒を早く注げ! それになんだ、ジョージ、もっと飲め飲め! どうせ備え付けられているお酒は宿泊費に含まれているんだ。飲まなきゃ損だぞ! 私もジョージと同じで平民出身だからな。いつまで経っても貧乏症だ。ハハハハッ!」
エクス帝国騎士団は体育会系だからなぁ。それにオリビアちゃんが配属されていたところが気性の激しいエルバト共和国との国境警備。豪快な奴が多い騎士団の中でもレベルが違う。
俺は大人しいエクス帝国魔道団出身の窓際第三隊出身。事務仕事の暗い奴が多い。毛色が違い過ぎるわ!
一応、オリビア先輩はエクス帝国高等学校の先輩だからな。ノリが先輩後輩みたいな感じになっているわ。
こりゃどうやったらこの不思議な飲み会は終わるんだ? それに話があるんじゃ無かったのか?
「あのオリビア先輩、何かお話があるって言ってましたが……」
俺の言葉に反応し、身体が硬直するオリビア先輩。数秒固まったあと、急に真顔になるオリビア先輩。顔をこちらに向けて真正面から見つめてくる。
「ジョージ伯爵、いやジョージ様。私の数々の無礼をお許しください」
口調が一変したぞ!? それにジョージ様って……。散々呼び捨てにしてたじゃん! 先程までのオリビア先輩はどこへ行った?
「無礼って肩を叩いてた事? 別にお酒の場だし、学部は違うけどエクス帝国高等学校の先輩と後輩じゃん。エクス帝国軍でも俺は後輩だからね。このくらいのノリは問題無いよ」
「そうじゃありません。初めて会った時の私の発言です。糞タイルにイラついて関係の無いジョージ様を怒らせるような事をしました。誠にすいませんでした」
あぁ、発端のあのアリス皇女の部屋での事か。オリビア先輩から俺は能無しの玉無しって言われたんだよな。なかなか上手い煽りだよね。
「あれはもう何も気にしていないよ。それに後日オリビア先輩の謝罪を受け入れたじゃない。もう掘り返したりはしないよ」
「いやあの謝罪は言葉だけの上っ面です。今は心の底からジョージ様に謝罪しております。本当にすいませんでした」
「よし! その謝罪を受け入れた! これで話は終わりかな?」
「いやまだです。先日の私の振る舞いはジョージ様に対して不敬でした。私はライドさんに指摘されて自分を見つめ直す事ができました。母親に依存し過ぎていたようです。母親がジョージ様に取られたように感じてしまって……。ジョージ様の専任侍女に抜擢されて母は本当に喜んでいます。あんな幸せそうな母を見るのは初めてです。嫉妬や焦燥感を感じていました。でも母の幸せを本当に考えるならジョージ様に感謝しないとと思いました。どうぞ母をよろしくお願いいたします」
あら? 何て大人の考え方。
オリビア先輩がポーラを俺に取られて嫉妬しているのを理解して煽っていた俺が子供に感じてしまう。これは反省案件だな。でも後悔はしない!! 【反省は良いが後悔はするな】が俺の座右の銘だからな。
「この件の謝罪も頼みも受け入れるよ。これで話は終了かな?」
「話はあと一つです……。ジョージ様、少しの間眼を閉じてくれませんか?」
眼を閉じる? 今は殊勝な感じのオリビア先輩だが、先程までは豪快モードだったからなぁ。この人の前で隙を見せたら、何か悪戯されそうだよ。
「嫌ですよ。どうせ何か悪戯するんでしょ。お断りです」
俺の返答を受けて厳しい視線に急に変わるオリビア先輩。
「いいからジョージ、眼をつぶれ」
「はいっ!」
ヤバい、反射的に眼を閉じてしまった。オリビア先輩、軍人の雰囲気を出すんだもん。俺もエクス帝国軍に在籍していたから上官の命令には絶対服従が骨の髄まで染み込んでるもんなぁ……。





