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妄執の塊

 バラス公爵家との友好確認が終わり、俺とダンはエクス城の一室に向かう。扉を開けると正装に身を包んだタイル前公爵が椅子に座っていた。

 入った瞬間、タイル前公爵は俺を殺す勢いの視線をぶつけてくる。俺はちょっと威圧されたが平然とした顔を装ってタイル前公爵の向かいの席に座った。


「どういうつもりだ」


 低く、くぐもった声。しかし明確な敵意を感じる声だ。


「どういうつもりなにも、私の優秀な参謀から後顧(こうこ)(うれ)いは()っておくべきと進言がありましてね」


 眼を見開くタイル前公爵。急に呼吸が浅く激しくなった。

 なんだ!? 大丈夫か?


「その言い方は誤解されますよ。タイル前公爵はジョージ様に殺されると思ってしまったようです」


 なるほど。不用意な言葉だったかな。


「これは誤解させてしまいましたか。タイル公爵、あ、今はタイル前公爵ですか。貴方を害するつもりは毛頭ございません。その点は安心してくださいます」


 眼をパチクリさせるタイル前公爵。

 よく見ると滝のような汗をかいている。

 まぁ良いか。時間も無いことだし本題に入ろう。


「今回の件でいろいろと情報を得ましてね。私はこれ以上、貴方に粘着されるのは御免被りたいと思っています。先程、バラス公爵家と協定を結びましたが、貴方はそれを破りそうだ」


「それはどういう了見だ。今日結ばれた協定を破ればバラス公爵家は終わりなのはわかっている。そんな事をするわけがないだろう」


 おぉ!! さすがタイル前公爵。先程の取り乱しを感じさせない。一瞬にして体勢を整えたのは感嘆するよ。やっぱり一角(ひとかど)の人物なんだろうな。


「それを理解している貴方は裏で画策するでしょうね。グラコート伯爵家でポーラを保護している限りは」


 ジロリと厳しい眼で俺を見るタイル前公爵。気にせず話を続けるか。


「もうやめませんか。(はた)から見ていると痛々しいですよ。貴方のポーラに対する愛情表現は屈折しています。このまま行くと貴方は今より酷い事になるでしょう。それは理解していますか?」


「お、お前に何がわかる!! そんな事は重々承知しているわ! なんとしても手に入れたい女性なんだ! ほんの僅かでも可能性があるのならば諦められるわけがないだろう!」


「だったら何故貴方は強引にポーラを自分のものにしなかったのですか? 貴方の権力ならばいくらでもやりようがあったでしょう? ポーラの娘のオリビアを利用してポーラに圧力をかけたりしていますが、生ぬるいんですよね。今考えるとオリビアをバラス公爵家に迎えたのも、オリビアを私の側室にする目的以外にポーラの気を引くためなんでしょう?」


 オデコに青筋が立ってるよ……。それに握りしめた拳が震えているわ。

 まぁ良いか。気にせず話を続けよう。


「貴方のポーラへの強い想いは長い間抑圧されていた為妄執(もうしゅう)の塊になっています。はっきり言って周りが迷惑するんですよ。今日はそれを解消しようと思いましてね」


「何を言っている? わけがわからん」


「タイル前公爵。簡単ですよ。素直になれば良いのです。貴方の熱い心をポーラにぶつけるだけです。心の準備ができましたらポーラをこの部屋に呼びます」


「なっ!」


「それともこのまま領地に引っ込んで再起を目指しますか? 妄執に従い我がグラコート伯爵家に挑戦なさいますか? 悪いですがそんな兆しを感じましたら全力で叩き潰しますけど」


「しかし……」


「貴方も煮え切らない人ですね。もしポーラが貴方の気持ちに応えるのならば、そのまま領地に連れていただいて結構です。協定にはバラス公爵家は今後一切ポーラとオリビアに関与しないとありますが、ポーラが望むのなら別に問題無いでしょう」


 タイル前公爵は眼を閉じ、腕を組んで考え始めた。


「確かにポーラが貴方を受け入れる可能性は低いかもしれません。しかし貴方とポーラが結ばれる可能性としては1番高い方法ではないでしょうか?」


 ゆっくりと眼を開けるタイル前公爵。眼に力が感じられる。


「わかった。ポーラを呼んでくれ」


 タイル前公爵が発した言葉は、穏やかで力強かった。

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