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名宰相

1月5日【白の日】


 今日はアリス皇女を私室から連れ出す日だ。今日で最後の予定になる。

 アリス皇女にはベルク宰相が経緯を説明してくれると言っていた。果たして納得してくれているかな?

 今日はエバンビーク公爵の次男のバラフィー・エバンビークとアリス皇女の部屋を訪問する。


 アリス皇女の私室の前室で時間調整をする。既にバラフィーさんは前室に来ていた。

 バラフィーさんはアリス皇女の結婚相手の最右翼の29歳。少し小太りの低身長の男性だ。

 今日も汗をかいていてハンカチで額を拭いている。


「これはグラコート伯爵。私が不甲斐ないためにグラコート伯爵にはご迷惑をおかけしています。今日はよろしくお願い致します」


 柔らかい物腰。人の良さそうな雰囲気を感じる。こういう人を品がある人っていうんだろうな。


「こちらこそよろしくお願い致します。バラフィー様はアリス皇女との交流は上手くいっていますか?」


 少し暗い顔をするバラフィーさん。


「なんともね……。どうしても私はこんな外見ですから。若い女性にはモテないですから」


 確かに若い女性は外見重視の人が多いよな。エクス帝国民の女性の結婚年齢は23歳くらいが平均だ。貴族では恋愛結婚は少ないが平民ではそれなりにいる。

 家の都合で結婚しなければならない貴族の女性は恋愛結婚に憧れている人が多い。流行りの恋愛小説を読みながら夢を持ってしまう。

 人は外見ではなく、内面が重要と理解していても、感情では納得している女性は少ない。

 バラフィーさんの良さがわかる女性は、ある程度の経験を積んだ女性じゃないと難しいかもしれない。


「ここにおりましたかバラフィー様。それではこちらがグラコート伯爵様ですか?」


 若い男性が部屋に入ってきた。顔立ちは整っている。歳は25歳くらいか?

 何となく生理的に受け付けない感じだ。


「私がグラコートですが、貴方は?」


「あ、これは失礼いたしました。私はコールド・バラスです。この度はバラス公爵家に養子となりました。元々はドットバン伯爵家の三男ですね。ジョージ・グラコート伯爵様にはこれからいろいろとお世話になると思いますのでよろしくお願い致します」


 情報が多いな。

 ドットバン伯爵って確かロード王国との国境の貴族だよな。侵略戦争推進派の一人。妹のエルに領軍を殺された貴族だ。

 その三男がバラス公爵の養子? 前にベルク宰相が言っていたアリス皇女と結婚させる貴族ってか。


「今日は私もご一緒することになりました。グラコート伯爵様にはご連絡が行ってないでしょうか?」


 アリス皇女を部屋から連れ出す役割りを、結婚する可能性の高い2人に任せる感じだね。

 まぁ俺には関係ない話か。


 その後、時間になるまで、コールド・バラスが一人で喋っていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「悲しいですよジョージ様! 今日で最後なんて……。でもしょうがないですよね。ジョージ様みたいな忙しい人を今まで独占していたのが異常ですから」


 うん? 俺が忙しい?

 何かおかしいぞ?


「この度は私の我儘を受け入れていただきありがとうございます。アリス皇女には変わらずの忠誠を伯爵として誓います」


「我儘じゃないですよ。ジョージ様はエクス帝国の最重要人物です。そんなジョージ様が忙しくて当たり前じゃないですか。ベルク宰相から説明を受けましたので安心してください」


 そう言ってニッコリ笑うアリス皇女。

 なるほど、ベルク宰相はアリス皇女に俺が忙しいと説明したんだな。

 これくらいの嘘は問題無いか。ベルク宰相が選択したならそれが最良なんだろ。


「これはありがたいお言葉をいただきありがとうございます。それでは今日はお二人に任せて私はこれで失礼致します」


 アリス皇女は少し悲しそうな顔をしていたが、しょうがないね。

 俺はアリス皇女をバラフィーとコールドに任せてアリス皇女の私室を後にした。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 俺はアリス皇女の部屋を辞してから、真っ直ぐベルク宰相の執務室に直行した。

 一応、抗議はしとかないとな。


「しっかりと説明しなかったんですね」


 俺の軽く責める口調に顔色一つ変えないベルク宰相。


「何の事です? とんとわかりませんね」


 この古狸め!


「アリス皇女に俺が辞退した理由ですよ! 何で忙しいって嘘をつくんです!」


「嘘ですか? これは聞き捨てなりませんな。私はエクス帝国一の正直者と自負していますから。ジョージさんがアリス皇女の件を辞退した理由は聞いてはいませんが、浅慮ながら推察した答えが忙しいって事になりました」


 帝国一の正直者って……。

 確かにあの時、俺はベルク宰相に理由は話していない。ただ、ベルク宰相はスミレのためであると理解していたはず。


「明確に理由は話さなかったけれど、ベルク宰相はスミレは幸せ者って言ってたじゃないですか」


「確かにスミレさんは幸せ者と言いましたね。でもそれは私がいつも思っている事ですよ。ただの世間話ですね」


 文官と言葉の応酬で勝てるわけがない。おまけに目の前にいるのはエクス帝国一の文官のベルク宰相だ。

 いつの間にかベルク宰相が俺を優しい目で見ている。


「良いですかジョージさん。アリス皇女が自室から出られるようになる事は現在のエクス帝国の問題の中で極めて重要度が高いのです。その手助けを断るとしたら生半可の理由じゃ周囲が納得しません。国にとって重要度が高いものは軍事と経済。おあつらえ向きにジョージさんはエクス帝国軍の実力の底上げとドラゴンの魔石の納入をしております。特にエクス帝国軍の実力の底上げは、エルバト共和国との交渉に有利にするために時間が限られているんですよ。アリス皇女の件を断る理由に、これ程適したものはありませんね」


 周囲を納得させるために必要な説明だってことか……。

 まぁ俺はアリス皇女と定期的に会う必要が無くなればそれで良いけどね。


「もう一つ理由があります。そしてこれが本当の理由です。アリス皇女は今年の4月に帝位を継ぐ予定です。後ろ盾はジョージさん、貴方です。アリス皇女とジョージさんの仲を修復不可能にはしたくないのです。アリス皇女の立場になって考えてみてください。アリス皇女はジョージさんに懸想(けそう)しております。ジョージさんが奥方のスミレさんのために自分と会わないと申し出をしたらどう思うでしょうか? 当然の事と理解はできるのです。しかし人は感情的に反発をするのですよ。一度感情的に反発をすると、その後の関係はおかしくなっていきます。最後は生理的に受け付けなくなってしまいますから。それはエクス帝国政府の宰相として未然に防ぐ必要がありますね」


 心の機微かぁ。

 結局、社会は人間が形成しているんだな。

 感情に着目した運営ができないと名宰相とは呼ばれないよね。


「ベルク宰相、ありがとうございます。今後とも指導のほどをよろしくお願い致します」


 俺は感服して頭を下げた。

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