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胸に走る痛み【スミレ視点】

12月2日【緑の日】


 1週間休んでしっかりと英気が養えた。

 今日からガンガンと頑張っていこう。


 日課の魔力ソナーの鍛錬をしているとジョージが眠そうな声で話しかけてくる。


「スミレ、今日は長期休暇明けだから、午前中のドラゴン討伐は軽くにしない?」


 どうやらジョージはまだ休暇気分が抜けてないみたい。長期休暇明けの駄目な人の見本だわ。


「ジョージ、ダメよ。長期休暇明けだからしっかり頑張るの。弛んだ気持ちを引き締める必要があるわ」


 目を見開いて驚くジョージ。

 そして急にお爺さん口調になる。


「のぉ、スミレさんや。俺達はもう軍人じゃないんじゃよ。任務じゃないんだから、そこはナァナァで良くないかのぉ」


「そんな口調で言ってもダメよ。軍人じゃないから自分達で引き締めてやらないとダメなの。それにベルク宰相からもエクス帝国の経済のためにドラゴンの魔石の納品を頑張って欲しいと言われているでしょ。ダメな考えは早く捨てなさい」


 私の言葉にシュンとしたジョージ。落ち込んだかなって思っていたらニヤけてきた。

 あ、この顔はエッチな事を考えているジョージだ……。


「何、鼻の穴を膨らませているの? 早く用意して修練のダンジョンに行くわよ」


 私は無理矢理ジョージを部屋から連れ出した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 夕食後にジョージに来客があった。ベルク宰相がグラコート伯爵邸まで足を運ぶ用事ってなんだろう?


 客間でジョージと話していたベルク宰相が私の部屋を一人訪ねてきた。

 来客用のソファに座り、柔和な笑顔を見せるベルク宰相。その笑顔を見て、こちらが緊張してしまう。


「本日はスミレさんにお願いがあってやってきました。アリス皇女が自室から出られるようになる為に、ジョージさんに助力を願いたいのです」


 穏やかな声で現状を丁寧に説明してくれるベルク宰相。確かにアリス皇女が皇帝陛下に即位した場合、自室から出られないと不都合しかないだろう。現時点でジョージと一緒ならアリス皇女は自室を出る事ができる。

 これはジョージがアリス皇女を手助けするのは確定事項だろう。あとは私が一緒について行くかどうかだ……。


 私が了承の意を伝えるとベルク宰相は静かに部屋から退出した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ベルク宰相が帰った後、考えが纏まるまで自室にいた。気持ちが固まりジョージの部屋に入室する。


「ベルク宰相から聞いたわよ。ジョージが私に気を遣ってアリス皇女の件を断ろうとしたって」


 私の少し責める口調に軽くムッとした顔をするジョージ。


「だって間違いなくアリス皇女は俺の事を恋慕(れんぼ)している。これは自惚(うぬぼ)れじゃない。アリス皇女からは憧れだけじゃない心を感じるんだ。俺も俺の事を想ってくれる女性と一緒にいたら自制が効かない可能性だってあるよ。藁の近くで火遊びはしたくないんだ。それが火事になるかもしれないだろ?」


「確かにアリス皇女の魔力は清涼で優しい魔力を感じるわね。きっとジョージのジョージくんも元気溌剌(はつらつ)になるでしょうね」


「それならなんで了解したんだよ。俺はスミレが反対してくれると思ったのに。勝手だけど、俺は少しだけアリス皇女とそういう事になる事を望んでいるんだ。なかなか自分から断る踏ん切りがつかないんだよ。ズルいけどスミレが断ってくれたら、それが踏ん切りになったのに……」


 男ってズルいんだな……。でもそれが男ってもんなんだろうな。またそんなところも可愛いか。

 私はソファに座っていたジョージの頭を両手で抱きしめた。


「そんな事はハイドンの貴方を見てわかっているわよ。貴方が他の女性にも性的な事をしたいって思っていること。それは健全な男性だったら当たり前でしょ」


 私は抱きしめていた腕を解いて、ジョージの眼を見つめる。瞳には少し困惑の色が見えた。

 ここからが勝負だ。気持ちを落ち着かせてゆっくりと言葉を紡ぐ。


「ジョージが浮気したいと思わせない努力を私はするわ。貴方を私で骨抜きにしてあげる。アリス皇女と会う前の晩はジョージを朝まで寝かせないわよ。それにアリス皇女と会って帰ってきた日は私を可愛がってね」


 笑え、笑うんだ。辛い顔をしちゃダメだ。平静という仮面を被るんだ。


「あ、あの……。スミレさん? それはアリス皇女と会う前の晩だけですか? できればどんなもんか味わってみたいのですが?」


「本当にジョージはしょうがないわね。そうね、寝室に行きましょうか」


 ジョージが私に性的な興奮を感じている事に身体の芯から喜ぶ自分がいる。

 ジョージと手を繋ぎながら寝室のドアを開けた時、僅かな胸の痛みが走った。

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