力無い笑い
ベルク宰相から言われて理解した。俺はいろんな人と友好を深めて来たんだって。
こんな世話になったベルク宰相が悲しむのは嫌だな。
簡単にエクス帝国を出るなんて言っちゃいけないわ。
今晩は壁に向かって正座して反省しよう。
「了解しました。エクス帝国を出るのは最後の手段にします。ギリギリまで頑張ってみます」
「ありがたいですね。そうしていただけるととても助かります。あ、今回のタイル公爵の提案の当事者の事も考えないと駄目ですね。オリビア・バラスの事です」
あの棒読み姉ちゃんの事か。
黒髪の美人なんだけどな。黒髪はタイル公爵譲りなのかな?
あ、俺の側室にならなかったら奴隷になるのか……。
あまり知らない人とはいえ、それは相当嫌だな。
「たぶんジョージさんの性格から、オリビア・バラスが奴隷に落とされるのは嫌でしょう」
ベルク宰相の言葉に俺は頷いた。
「ここで前提条件が4つになりました。一つ目がジョージさんがエクス帝国の皇帝陛下にならない。二つ目がスミレさん以外の人と婚姻関係を結ばない。三つ目がジョージさんがエクス帝国を出ていかない。四つ目がオリビア・バラスが奴隷に落とされない。以上です。よろしいですか?」
おぉ! しっかり纏まっているな。さすが俺のお父さん。
俺はまた頷いた。
「この四つの条件を完全に満たすのは難しいのです。特に二つ目と四つ目が矛盾しているのですよ」
確かにオリビアが奴隷に落とされない為にはタイル公爵の提案を飲んで、オリビアを俺の側室にしないと駄目だ。スミレ以外の人と婚姻しないとなるとオリビアは奴隷になってしまう。
「なんか良い方法はないですかね?」
「私は選択肢を提示するだけしかできません。選ぶのはジョージさんとスミレさんです。それを理解してください」
俺はスミレと目を合わせる。頷くスミレ。
よし! ベルク宰相の選択肢を聞くとするか。
「了解致しました。お願いします」
一つ頷いて、ベルク宰相は言葉を続ける。
「まずは一つ目の案ですがオリビア・バラスを側室にしてしまいます。この場合、ジョージさんがオリビアと夫婦生活をするかどうかはジョージさんとスミレさん、オリビアで話し合ってください。オリビアが納得しない状況になりますと、側室を虐めているとタイル公爵から攻撃される可能性が生じます」
なるほど。でも俺はスミレとだけ婚姻関係が良いな。
何か特別な人って感じが良いよね。
「二つ目はオリビアをジョージさんとスミレさんの養子にする事です。バラス公爵家の娘をグラコート伯爵家に養子として貰い受けるわけですから友誼を結ぶ事になります」
俺とスミレより歳上の女性を養子って!?
そんなこと可能なの?
でも文官最高位のベルク宰相が言っている事だから可能なんだろうな。
「これで問題になるのはグラコート伯爵家の財産がオリビアが継ぐ事になることですか。ジョージさんとスミレさんの間に子供ができた時に揉める事になりますね」
確かにそうなるのか。俺はスミレとの子供を諦めていないからな。将来的に問題が生じてしまうのか……。
「おすすめは前提条件の二つ目に反しますが、オリビアを側室にする事ですね。その後、他の貴族に側室を譲り渡す事も可能ですから。形として側室にして、その間にオリビアの結婚相手を探す感じですか」
側室を譲り渡すって……。
平民の俺には無い感覚だな。
「側室を他人に譲るって事は、当たり前なんですか? 聞いた事が無かったんですけど」
「法律的には許されています。六代前の皇帝陛下が功のあった貴族に側室を褒美として下賜したがあります。それが元になって法律ができていますね。実際に実例はほとんど無いですが」
そりゃそうだ。
そんな事をするとエウル神の天罰が下るわ。
「それなら側室じゃなく、養子にして他の貴族と結婚させれば良くないですか? または養子に出してしまうとか」
「養子にした場合、他家に嫁いでも実家の相続権は無くならないのです。また他家の養子にすればオリビアを蔑ろにしたと言われるでしょう」
側室にして、他貴族に譲り渡すのはあり。しかしスミレ以外と婚姻関係を結ばないという条件を捨てる事になる。
養子にして、他貴族と結婚させるのは財産権で問題が生じる。
養子にして、また養子に出すと蔑ろにしていると非難されるか。
そしてベルク宰相が話を締め括った。
「ジョージさんはスミレさんとじっくりと話し合ってください。できればオリビア・バラスとも話し合ったほうが良いかもしれませんね。オリビアはエクス帝国騎士団に所属していますから、ライバー騎士団長に場を作っていただいてはどうでしょうか」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
夕食後に俺の部屋でスミレとゆっくり話し合う事にした。
「スミレはどうしたら良いと思う?」
「そうね。さすがにこの短期間でジョージの結婚話が2回も生じたわ。やっぱりジョージが側室を持つ事はしょうがない気がしているの。それは私に取って悲しい事かもしれないけれど、それは受け入れていかないとダメかなって」
スミレはそう言って力無く笑う。
諦めの感情が読み取れる。
スミレにこんな顔をさせるなんて……。
俺はなんて情けないんだ。
何か方法は無いのか。
やっぱり側室はダメだ。俺とスミレの仲に歪みが生じる。
その時、ノックがした。
入室の許可を出すと家宰のマリウスが部屋に入ってきた。
「旦那様、誠に申し訳ないのですが、一つ頼みがございまして」
「なんだい? できる事はなんでもするよ」
「実は旦那様に保護して欲しい人がいるのですが……」
保護? 猫じゃないよな。人の保護なんてした事ないや。
「了解したよ。どこの人?」
「あ、ありがとうございます! 旦那様! 実は今、ここグラコート邸に来ております」
あ、そういえば知らない魔力反応を先程から感じていたよ。
それなら客室で会うか。