美人局!?
12月9日【赤の日】
「おはようございます。今日も一日よろしくお願いします」
明るく元気に俺の部屋に入ってきたサラ。
テキパキとするべき仕事を片付けていく。
サラが泣いてから二日間、グラコート侯爵家は普通の日常が流れていた。
ザインもサラも何事もなかったように仕事をしている。
二人が付き合ったのが9月4日だ。別れたのが5日前だからちょうど3ヶ月か。
男性は付き合い始めのドキドキが無くなる頃って良く言われるな。
俺がスミレに告白したのは6月25日。今は5ヶ月目に入っているんだ。
3ヶ月目の頃はどうだったかな? 2度目のロード王国訪問から帰ってきた辺りか。ロード王国のパトリシア王女の提案でスミレとギスギスしたのはその頃だ。
あの時、もう一度二人の気持ちを再確認したのが結果として良かったのかな?
俺はスミレに今もドキドキしているのかな?
確かに【初めての会話記念日】の4月1日のようなドキドキは無い。
でもそれ以上にスミレといると俺の心が温かくなる。
きっとこれが愛情なのかな……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
今日の夕食はダンと約束している。場所はいつもスミレと食事をしている飲食店の【菫】にした。
そう何とこの飲食店、名前を変えやがった。
俺とスミレが愛を育んだ場所として帝都で有名になったからだ。俺のプロポーズアイテムの菫の花束から取ったみたい。
まぁ良いけどね。
待ち合わせ時間の夜の19時に菫に行くと既にダンが待っていた。
「ジョージさん、今日はお時間を作っていただきありがとうございます。また現在帝都で評判の素敵なお店に予約まで入れていただき恐縮しております」
「そんな堅苦しい言葉はいらないよ。俺とダンの仲じゃない。もう敬語もやめて欲しいんだけど」
「いやいや流石に平民の私がエクス帝国の英雄であり伯爵様のジョージさんに敬語を使わないのはあり得ませんよ」
うーん。
俺はもっとダンと親密になりたいのに。俺は元々平民だし。俺って親友と呼べる人がいないからなぁ。
ダンと親友になれないかな?
男性同士が親密になる方法か……。
そういえば独身寮で女性を自室に連れ込んでいた先輩が言ってたなぁ。
男性同士が親密になる方法は、一緒に酒を飲む、一緒に賭け事をする、一緒に女性に声をかける。
いろいろ言われているが究極の方法は……。
同じ商売女性を抱く事だ!って。
でもそれはさすがに無理じゃん。
しょうがないから少しずつダンとは仲良くなるか。
「まぁいいや。それより飯にするか。ダンの用事は食べながら聞いて大丈夫?」
「問題ありません。ここの食事は絶品みたいですから楽しみですよ」
ワインで乾杯をしてディナーを楽しんだ。
ほろ酔いになったところでダンが急に真剣な顔になる。
「ジョージさんに頼みたい事をお話ししてよろしいでしょうか?」
お、やっと今日の本題か。
はたしてどんな頼みかな。まぁダンの頼みならだいたいの事はやるけどね。
「実はジョージさんの魔力ソナーで魔力判定して欲しい女性がいるんです。ジョージさんは相手の魔力の質で性格が大凡わかるってライバー騎士団長から聞きましたよ」
まぁあれだけハイドンで大騒ぎしたからな。別に秘密にはしてないから、俺が魔力判定をできるって知ってる人は知ってるわな。
それよりダンが女性の魔力判定して欲しいなんて……。
どんな女性か興味が湧くな。
「別にそれくらいはわけないよ。それにしても相手は誰? ダンの付き合っている人? 美人系? 可愛い系? おっぱいは大きいの?」
「全くジョージさんはすぐそうなりますね。そんな色っぽい話じゃないんです。あ、でも色っぽい話でもあるのかな? 1週間前あたりから私に急接近してくる女性がいるんです。それが私の理想の外見の人なんですよ」
おぉ! 【人は外見じゃ無い、中身だ!】と言ったところで付き合うならやっぱり理想の外見である方が良いよね。
それにしてもカッコいい男は理想的な外見の女性も向こうから寄ってくるのか……。
なんだこれは? ダンの自慢話を聞かされているのか?
「はいはい、ダンはモテて良いですね。独身だし遊び放題ですよ。既婚者の俺を悔しがらせて何が目的?」
「まぁモテるのは否定しませんけど、今回の女性は間違いなく裏で手を引いている人物がいますね」
なぬ美人局なのか!? ハメようとしたらハメられる! 話には聞いた事があるけど、本当にあるんだ……。
「そんなヤバい女性は会わなければ良いんじゃない? 魔力ソナーで性格を確認しても意味ないじゃん」
「いや、いつもは時間をかけてゆっくりと背後関係を洗うのですが、現在はアリス皇女の戴冠を控えている状況です。エクス帝国皇室の権力が揺らいでいるところで時間をかけたくないんですよ」
美人局が何でアリス皇女の戴冠の話になるの? 怖いオッサンに身包み剥がされるだけじゃないのか?
「何でアリス皇女の即位が関係しているの? よくわからないんだけど?」
「あぁすいません。しっかりと説明させていただきます。現在、エクス帝国では権力継承に伴ってさまざまな勢力が蠢いています。侵略戦争推進派、反対派、アリス皇女派、カイト・ハイドース侯爵派、そしてジョージ・グラコート伯爵派です。これは複雑に絡み合っていますね。今後、そこにロード王国やエルバト共和国だって暗躍してくるかもしれません」
何か色恋沙汰の話が政治的な話になっている?
まぁダンの話を大人しく聞くか。
「他勢力の情報の取得がとても重要なのです。私はベルク宰相に近い人物になります。ベルク宰相は侵略戦争反対派の重鎮であり、アリス皇女派でしょう。またジョージ・グラコート伯爵派でもあります。その敵対勢力が情報収集するために女性を使って私に接近しているって事です」
あ、なんだ、そっちのほうか。
夢が無い、殺伐としているなぁ。普通に女性と楽しめないなんて。
「権力の継承が行われている現在が一番エクス帝国に付け入りやすくなります。ロード王国やエルバト共和国が暗躍する前に侵略戦争推進派とカイト・ハイドース侯爵派の力を削いでおきたいのです。無駄な時間をかけるのは愚策でしょう。強引ですが、ジョージさんには件の女性を魔力ソナーで魔力判定してもらって、問題がありそうなら直ぐに拘束して背後の人物を特定する予定です」
そういえばダンはロード王国への捜査団に入るためにライバルを裏の手で辞退させたと言っていたな。
こういう行為も得意なのか。
「分かったよ。その依頼を受ける。その代わりダンには俺の頼みを一つ聞いてくれるとありがたいな」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
食事を終えたダンと俺は、ダンに急接近してきている女性の住居まで足を運んだ。
外から魔力ソナーで屋内の人物の魔力反応を確認する。
2つの反応があり、魔力の質を確認した。
あ、こりゃアウトだわ。
どちらもドロドロした魔力を持っている。こういう人は悪意の塊なんだよね。
俺はダンにその旨を伝えて帰宅した。