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秋空のような高い目標【カタスの視点】

 私の魔導団第一隊への復帰が決まった。今考えると第三隊での生活も悪くはなかったな。

 エルはアリス皇女の即位に合わせて恩赦を与えられる事が決まっていた。しかしエルは優秀な魔導師だ。エクス帝国上層部にエルの訓練を早期に実施したい思惑があり恩赦の前倒しが為された。

 これでエルはエクス帝国で犯罪者では無くなる。

 そしてエルはエクス帝国に忠誠を誓い、魔導団に入隊した。ザラス皇帝陛下の喪が明け、アリス皇女が即位するまでは第一隊の預かりになる。

 

 結婚式もザラス皇帝陛下の喪が明けてからにする事になった。

 その前にジョージさんに挨拶に行かないとな。


「エル、ジョージさんに婚約の報告に行こうと思うんだけど」


 顔を顰めるエル。


「別に行かなくて良いんじゃない? あの根暗と私は仲良くないし……」


 なんとなくエルには反対されると思っていた。しかしエルにはジョージさんと仲良くなって欲しい。血が繋がっている兄妹なのだから。こう言われた時の返しは考えておいた。


「そんな事言わずに挨拶に行くよ。ジョージさんはエクス帝国の重要人物なんだ。彼との仲が良好だと、エクス帝国の軍人に取っては大きな利点になる。エルはこのエクス帝国で上を目指すんだろ? ならジョージさんとの関係を強くするべきと思うね」


 不承不承(ふしょうぶしょう)ながら首を縦に振るエル。

 エル自身も今後のジョージさんとの関係をどうしたいのかはっきりしていないんだろうな。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 非番の日にエルを連れてジョージさんの屋敷を訪ねる事にした。ジョージさんの屋敷は魔導団本部から歩いて5分、帝都の一等地にある。なかなか洒落(しゃれ)た屋敷だ。

 屋敷に着くとジョージさんとスミレさんがわざわざ出迎えてくれた。

 私は姿勢を糺して挨拶をする。


「この度はジョージさんの妹であるエル・サライドールと婚約する事になりました。今回はそのご報告に参りました」


「なんだいカタスさん。そんな堅苦しい挨拶なんか良いから。一緒にロード王国に行った仲じゃないですか。言ってみれば戦友みたいなもんですよ」


 戦友とは!? エクス帝国の英雄から有難い言葉をもらった。胸に熱いものが湧き上がる。

 ジョージさんは私の隣に立っていたエルに笑顔を向けた。


「エルも良かったな。カタスさんならすぐに魔導団のエリートコースに復帰するよ。良い相手と婚約ができておめでとう」


 ジョージさんの言葉に無表情だったエルの顔が少し崩れた。

 そんなエルの顔を見て私はホッと胸を撫で下ろした。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 客室に案内されている間に気が付いた。ここの屋敷の人達はジョージさんを心底慕っていると。

 この屋敷はとても温かな空気に包まれている空間だ。

 これはジョージさんの人徳のなせる業なんだろうな。


 客室では私とエルとジョージさんとスミレさんの4人で会話が弾んだ。

 エルも自然と笑顔を見せていた。このような時間を積み重ねていけば、エルとジョージさんの(わだかま)りも無くなっていくだろうな。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


【ゴァーーー!】


 身体を震わす音。

 恐怖で身体が強張るのを感じる。

 ドラゴンの咆哮の声だ。

 その時、静かな詠唱が聞こえてくる。


静謐(せいひつ)なる氷、悠久(ゆうきゅう)の身を矢にして貫け、アイシクルアロー!】


 辺り一面に広がる無数の氷の矢。

 それが凄いスピードで恐怖の根源のドラゴンに向かっていく。

 串刺しになったドラゴンは、そのまま落下して轟音を立てる。


「さ、倒しましたから魔石を取りにいきますよ」


 ジョージさんはまるで何事もなかったような顔で平然としている。

 私は今更ながら彼に恐怖を感じた。


 私より先にジョージさんと修練のダンジョンに入ったエルの顔が強張っていて当たり前だ。

 エルはジョージさんのように英雄になると言っていた。また私と伝説を作るとも。

 実際の英雄であり、現在進行形で伝説を作り上げているジョージさんを見てどう思ったのだろうか。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 現在、私とエルは魔導団本部の近くに部屋を借りて同棲をしている。


 ジョージさんが引率してくれた修練のダンジョンの地下4階のドラゴン討伐はエルにも私にも途轍もない衝撃を与えた。

 その日からエルは塞ぎ込んでいる。自室から出ようとしない。私はそっとしておくのが良いと判断していた。

 現実を受け入れる事も大切だ。

 決してジョージさんは目指す対象ではない。あれは規格外の存在なのだから……。


 ドラゴン討伐から4日目の朝、塞ぎ込んでいたエルが部屋から勢いよく飛び出してきた。


「カタス! 私はジョージを超えてやるわ! 私にもアイツと同じ血が流れているのよ! アイツにできて私にできないはずがないわ!」


 私はあまりの勢いに圧倒されてしまった。エルの顔は真剣だ。本気なのか?


「ジョージさんのドラゴン討伐を身近で見て、まだあれを目指すのかい?」


「当たり前でしょ! 目標が高ければ高いほど、達成した時の喜びも大きくなるわ! 首を洗って待ってなさいジョージ! 私が蹴落としてやるわ!」


 あのジョージさんを見て当たり前と言い切るエルに私はつい笑ってしまった。

 そうだな。目標は高ければ高いほど良いかもな。

 よし! やれるだけやってみるか。


「それなら朝食を食べたら早速魔法射撃場に行こうか。ドラゴン討伐で上がったレベルに身体を慣らさないとね」


「もちろんよ! カタス! 2人で伝説をつくるわよ!」


 エルを見ていると本当に伝説を作りそうだ。

 窓から外を見ると秋空がとても高かった。

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