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まさかのお誘い【ベルク宰相視点】

ベルク宰相視点です。

主人公の視点に戻るまで残り4話。

 しばらくすると情報が大量に入ってくる。また多くの貴族がエクス城に登城してきている。まずは貴族達に対して説明をしないといけない。そしてその場でやらなければならない事がある。


 私は貴族が集められているホールに向かう。ホールには多くの貴族でいっぱいになっていた。ホールの壇上に上がり、声を大きくする魔道具を手にした。


「諸君。既に聞いた事だと思うが、改めて説明させていただく。昨夜、ザラス皇帝陛下が心臓をナイフで刺されて殺された。実行犯と思われるラナス男爵家の三女のキャリンはエクス城から200m離れた路地裏で死体で発見された。現在、キャリンの背後を調べている最中だ。調査の責任者はサイファ魔導団団長が行っている。皆んなも何か知っている事があったなら騎士団か魔導団の第二隊に知らせてほしい。このような時だからこそエクス帝国内で結束しないといけない。それを良く理解してほしい。特にジョージ・グラコート伯爵は軽はずみな行動を取らないように」


 ジョージさんの顔を見て念を押す。


「今日はザラス皇帝陛下の勅命の内容を発表する。これは何かがあった時に既に手を打っておいたものだ。既に効力が発揮されている勅命だ。これを発表する機会が訪れた事は悲しい事だが……」


 まさかこれを発表する機会があるとは……。でも先に手を打っておいて良かったといえる。


「それでは発表する! 帝都の東で新たに見つかったダンジョンである修練のダンジョンは、ジョージ・グラコート伯爵に与えるものとする。これはジョージ・グラコート伯爵が平民となっても、所有権を保持するものとする。このジョージ・グラコート伯爵の所有権をエクス帝国は未来永劫守る事に尽力する。以上だ」


 キョトンとした顔のジョージさん。


「なんだ? あまり喜ばないな?」


 あまり分かっていないようだな。

 私はニコリと笑う。


「修練のダンジョンはジョージ伯爵なら簡単にドラゴンの魔石を得られるだろう。君から見たら金のなる木じゃないか? 簡単に他の土地に移住する気が無くなるじゃないか」


 少しずつ理解してくれているようだ。


「それにジョージ伯爵に修練のダンジョンを与えれば、君の意にそぐわない人のレベルを上げる事はしないだろ。人は過剰な戦力を持つと使いたくなるんだよ。ジョージさんなら歯止めになってくれるだろ?」


 やっと納得した顔になったジョージさんを見て、安心した。これでエクス帝国の守護者を失わなくて済む。

 私はホールを見渡し、口を開く。


「ザラス皇帝陛下の葬儀は9月30日に執り行う。これよりエクス帝国は喪に服す。期間は来年の3月末日までとする。その後、新皇帝陛下の即位式を行う予定だ。新皇帝陛下が即位されるまでの執務は非才ながら私ベルクが執り行う」


 そこで1人の貴族が声を上げる。


「皇帝陛下の崩御後の執務は皇太子であるべきでは無いのですか?」


「通常ならばその通りだ。ただし今回の場合は違う。現在、カイト皇太子はザラス皇帝陛下の殺害の容疑がかかっている。身の潔白が明かされるまでは謹慎となる。また、この謹慎はゾロン騎士団団長とタイル・バラス公爵、ギラン・ノースコート侯爵が対象となっている」


 どよめくホール。

 ホールが静まるのを待って説明を続ける。


「あくまでも容疑だ。最近の侵略戦争推進派と反対派の(いさか)いは皆も知っているだろう。ザラス皇帝陛下はロード王国への侵略戦争に反対だったからな。ザラス皇帝陛下が殺害されれば疑われて当たり前だ。やましい事がなければ、すぐに謹慎は解かれるだろう。この処置は私とサイファ魔導団団長が提案したものだ。謹慎する者に了解は得ている」


 他に意見が無いか確認する。特に声は上がらなかった。

 取り敢えずはこれで終了か。


「5日後の9月19日に臨時貴族会を招集する。その時に続報を知らせる。今日は以上だ。あと、ジョージ・グラコート伯爵には少し話があるから私に付いてきてくれ。奥方も一緒で構わない」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ジョージさんとスミレさんを私の執務室に案内し、来客用ソファに座らせて話を始めた。


「やられましたよ。まさか陛下のお手付きになっている侍女を使うとは。この事を知っている人なんて極僅かしかいないって思っていたのですが……」


「その事は結構知られていたのですか?」


「最近、娘が陛下のお手付きになっている事を知ったラナス男爵が吹聴していたようです。娘がもうすぐ陛下の側室になるって。それを利用されましたね。キャリンをどのようにして実行犯にできたのか? 脅しか、金品か、それとも初めから暗殺する為に送り込んでいたのか? 今のところは背後関係の調査はキャリンで糸がぷっつり切れていますよ」


「調査がこれ以上進まないとどうなるのですか?」


「カイト殿下が皇帝陛下に即位する事になるでしょうな。私もお役御免になりそうです。まぁエバンビーク公爵領に引っ込んで当主の兄の手伝いでもしますかな」


 まぁそれが良いかな。中央政界にも疲れてきたしな。


「何を言っているんですかベルク宰相! あなたがエクス城の政治の中枢からいなくなってしまったら、俺なんか簡単に良いように使われてしまいますよ! それは断固拒否します!」


「そうは言ってもカイト殿下が実権を握れば、私がいるとやり(にく)いでしょう。カイト殿下は間違いなく大陸制覇に向けて帝国軍を使った侵略戦争を開始するでしょう。それに私もザラス皇帝陛下には忠誠を誓えますが、カイト殿下には忠誠が誓えそうにないんです。この気持ちは分かるでしょう? そして私はエクス帝国には忠誠心があるんです。だから身を引くんですよ」


 少し考えた後にジョージさんが口を開く。


「仮定の話ですよ。もし宰相を辞めた場合、俺の為に知恵を貸してくれませんか? 俺がベルク宰相を雇いたいです! こんな若造に雇われるのは抵抗があるかもしれませんが、何とか考慮してもらえないですか?」


 一瞬何を言っているのか理解ができなかった。

 仮にもエクス帝国の宰相を務めた私を一伯爵が雇うなんて……。

 呆れながらも嬉しくなった自分がいた。

 気がつくと心から笑っていた。


「それは有難い申し出ですね。その場合は喜んでジョージ・グラコート伯爵に仕えますよ。私は子供ができなかったですが、失礼ながらジョージさんを見ていると自分の子供のように感じてしまっていてね。何かほっとけない感じなんです。最強の力を持っているのに、それをひけらかさない。それでいて危うい心を持っている感じですからね。乾燥した藁の前で火遊びしている子供に感じています」


 この際だから言いたいことを言っておきますか。


「まずはジョージさんに言っておきたい事は、軽はずみの行動は控えてくださいね。私かサイファ団長に相談してくれると嬉しいです。それができない時はスミレさんの意見をしっかり聞いてください」


 神妙な顔で聞いているジョージさん。


「喪に服している間は侵略戦争はできません。早くても新皇帝が即位してからでしょう。それまでは余裕がありますから腰を据えていきましょう。あとはロード王国と南の大国のエルバド共和国から、ジョージさんに内密に接触があると思われます。相手に安易な返事はしないようにお願いしますね。スミレさんを必ず同席させる事です」


「了解致しました。あとは何かありますか?」


「ジョージさんとスミレさんはエクス魔導団を辞めた方が良いかと思います。そしてあらたにエクス騎士団と魔導団と契約を結ぶと良いと思います」


 まだ理解していないようなのでしっかり説明する。


「現在、ジョージさんとスミレさんはエクス魔導団第一隊修練部の部長です。その責務は騎士団と魔導団の能力の底上げになります。しかし先程公表したように、修練のダンジョンは既にジョージさんの物です。それをどう使おうがジョージさんの判断になります。魔導団を辞めれば別に騎士団と魔導団の能力の底上げなどしなくても良くなりますよ。それに軍人じゃなくなりますから侵略戦争に駆り出される事もなくなるでしょう。エクス帝国の騎士団と魔導団がどうしても能力を底上げしたいというなら、ジョージさんの許可制にしてお金を取れば良いのです。それが契約ですよ」


「魔導団を辞めた方が良い事は分かりました。グラコート伯爵の地位は返上したほうが良いでしょうか?」


「それはそのままが良いと思います。ジョージさんがエクス帝国の伯爵である限り、エクス帝国の安全性は高まります。カイト皇太子もそれは分かっていると思いますよ。それについては私が調整しておきますから」


 取り敢えずはこんなものか。


「それではこれでジョージさんに注意しておく事はないですね。私はまだこれからもうひと頑張りです」


 私はこれから始まる皇位継承に頭を悩まさなければならない。

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