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過去との決別【ベルク宰相視点】

ベルク宰相視点です。

主人公の視点に戻るまで残り8話。

 時間も無い事だし、今日は私が出向くか。

 そう思い魔導団本部の団長室に向かった。

 サイファ団長と雑談をしているとジョージさんとスミレさんがやってきた。

 少しビックリした顔をするジョージさん。

 こんな顔を見られるなんて、来て良かったですね。


「今日は同席させていただくよ。昨日の経緯と来週からの外交団でロード王国に行く話をしようと思ってね」


「昨晩ギランさんがウチの屋敷に来て大変だったんですよ。一体何を言ったんです?」


「いや全てジョージさんがフレイヤの処罰の軽減を提案して、私はジョージさんの手前、不承不承(ふしょうぶしょう)受け入れた事にしたのさ。これで私はノースコート侯爵家に貸しを一つ作り、良い距離感が保てるからね。ジョージさんも義理のお父さんから感謝されれば、今後楽だろう? それにギラン・ノースコート侯爵からフレイヤの罪を認める文書を作成した。今後、フレイヤが何か事を起こせば、今回の罪の罰則を実施するという文書だ。これで安心だ」


 その後は外交団の人員について話をして終了した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ジョージさんとスミレさんの結婚式はとても荘厳で感動的だった。

 心から祝福ができた結婚式だ。

 若い二人に幸多からん事を願って。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ロード王国へ出発の日が来た。

 今回の最大の目的はジョージさんの過去の清算だ。ロード王国との戦争回避はその次になる。その順番を間違えてはいけない。それほどジョージさんはエクス帝国に必要な人材だ。

 ロード王国に入るまでは特に問題は起きなかった。

 ロード王国に入ってからはジョージさんの強さに愕然としてしまう。味方の私ですらそうなのだからロード王国の人達は恐怖に震えていただろう。

 またジョージさんが初の人殺しを経験した。その夜はスミレさんの肌のぬくもりを感じるように助言する。これが一番の薬になる。


 さぁ明日はロード王国の王城での会談だ。頑張るとしよう。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 先程まで行われていたロード王国の王城での恫喝は成功だろう。象徴である玉座を跡形も無くしてきたからな。それにしても年甲斐も無く楽しんでいた自分がいた。


 宿に戻ってからジョージさんが話しかけてきた。


「凄いゴリ押しでしたね。ベルク宰相が怖かったですよ」


「圧倒的に戦力差があれば強制外交が一番楽なんです。外交では簡単な部類ですね」


「ロード王国はどうすると思いますか?」


「そうですね。起死回生を狙ってジョージさんを取り込もうとしますか。サライドール家と血縁関係があるので、その辺で攻めてみる感じです。今回の面会で顔繋ぎをして、取り敢えず屈辱外交を飲む。その後にジョージさんにロード王国に鞍替えしてもらえば戦力差は逆転しますから」


 驚いた顔をするジョージさん。

 全く自分の価値を理解してないな。


「エクス帝国の視点で考えれば、今回の外交団の仕事は、ジョージさんがエル・サライドールとその母親と面会する方が重要性が高いですね。今後の軍事力に直結しますから」


 やっと納得顔になった。

 もう少し話したほうが良いか。


「ジョージさんの場合は母親と妹に肉親の情を持っているかどうかだね。肉親の情を持っているなら、それはロード王国が付け込む隙になる可能性があるから。でもそれも悪手かな。例え人質にしてもジョージさんが力付くで解放しちゃうもんね。だからジョージさんがエクス帝国を捨てない限り、気楽に面会してもらって良いよ」


 急にスミレさんが後ろから椅子に座っているジョージさんを抱き締める。


「ジョージの好きにしてください。私はいつでもジョージの一番の味方ですから」


「ありがとう、スミレ。しっかりと過去を清算する心構えができたよ」


 素敵な二人と感じた私だった。

 さぁ本番はこれからだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 サライドール家には、私とジョージさんとスミレさんの三人で行く事にする。聞かれたくない話もあるだろうから。


 通された部屋はなかなか豪華な部屋だった。

 すぐに白髪混じりの黒髪をした60歳くらいの男性と、女性2人が入室してきた。男性は昨日の謁見の間で見た覚えがある。


「おぉ! 昨日の謁見の間でも見たが、本当にお前がカフィの息子か! わしの孫息子になるわけだな。立派な青年になっているようで嬉しい限りだ」


 今にも抱きつきそうな男性にジョージさんは冷たい声で拒絶する。


「俺には生まれてから今まで祖父はいません。それはこれからも変わりません」


 ジョージさんの言葉に虚を突かれたのか男性の広げた腕が固まった。

 ジョージさんの冷たい言葉が続く。


「今更どの面下げて「わしは祖父だ」なんて言えるのか神経を疑いますね。ロード王国ではこれが普通なんですか?」


 男性の額に青筋が立っている。

 ここは冷静にいきますか。


「まぁ、まずは落ち着いて話し合いましょう。まずは自己紹介からですね」


 それからソファに座り自己紹介が始まる。

 白髪混じりの黒髪の男性はパウエル・サライドール。現在、サライドール子爵家を息子に譲り、ロード王国の将軍をしているそうだ。


 ジョージさんの母親のカフィ・サライドールはサライドール子爵当主の兄の世話になっているそうだ。


 ジョージさんの妹のエル・サライドールはロード王国の軍に入り、魔導師として活躍しているとのこと。ずっと無表情のままだ。


 自己紹介が終わったところでジョージさんが話し出した。


「今回、面会をお願いしたのは俺の過去を清算するためです。俺が13歳の時にそこにいる母親であるカフィ・サライドールは妹だけを連れて蒸発しております。俺は暴力を振るう父と一緒に生活するしかありませんでした。何故、俺を置いて蒸発したのか聞かせてもらいたい」


 ビクッとなる母親のカフィ。

 それでも重苦しそうに口を開く。


「あなたをサライドール子爵家に連れて行くと後継者問題や遺産問題が生じるから連れてくるなとお父様から言われて……」


 反論するパウエル。


「お前が息子は何か薄気味悪いから置いていきたいと言ったではないか! 今更ワシのせいにするでない!」


 達観したような顔をするジョージさん。

 横を見るとスミレさんがジョージさんの手を握った。


 ジョージさんとスミレさんは目を合わせた。

 たぶん心が通じ合えたのだろう。

 その後のジョージさんの声に私は強い意志を感じた。


「自分が母親に捨てられた事が良く分かりました。これで安心して過去と決別できそうです。もう特に何もありません。それでは失礼させていただきます」


 ジョージさんがソファを立ちあがろうとすると、今まで無表情だったエル・サライドールが声を上げた。


「あなたのせいで私は今ロード王国内で責められているのよ! どうしてくれるのよ!」


 急な叫びに唖然としてしまった。


「エルは国境での活躍でロード王国内で英雄視されているんじゃないのか?」


「それのせいよ! ドットバン伯爵の領軍を撃退したせいで、今回エクス帝国に付け入る隙を与えたって言われているわ! あなたさえいなければ私は英雄のままでいられたわ!」


 何を思ったかエルは呪文の詠唱を始めた。


【火の変化、千変万……】


 気がつくとスミレさんがエルの右肩を【雪花】で貫いていた。


「ギャーー!!」

「キャーー!!」


 絶叫と悲鳴が上がる。

 絶叫は妹のエルで、悲鳴は母親のカフィだ。

 スミレさんはそのまま【雪花】をエルの喉元に突き付ける。


「声を出すな。もう一度呪文を詠唱しようとしたら躊躇わずに喉を突き刺すぞ」


 これは参りましたね。それでもこの暴挙はほっとけない。


「今日の面会はロード王国王家からの許可をもらって行っているものだ。その責任者はパウエル・サライドール将軍で間違いないですな。この失態はどのように処理してくれるのですかな?」


「ワ、ワシのせいではない! この小娘一人の責任だ!」


「なるほど、ではこの小娘はエクス帝国で処理しても構わないって事ですな」


「別に構わん。勝手に連れていけ!」


「お父様! そんな! それはあんまりです!」


 祖父のパウエルに縋る母親のカフィ。


「うるさい! 出戻りが口答えするな!」


 パウエルは泣き崩れるカフィを放置する事にしたようだ。カフィの啜り泣く声が部屋に響く。

 取り敢えず終わったかな。

 私は締め括る事にした。


「では宿泊施設に帰りましょうか。ちょうど魔導団特製手錠をサイファ魔導団団長から借りてきているんですよ。早速この娘に嵌めないと危ないですからね」


 サライドール子爵家の使用人に縄を持ってきてもらい、スミレさんがエルを後ろ手に縛る。

 そのままサライドール子爵家の屋敷をあとにした。


 宿泊施設に着いた後はエルの手を前に出させて魔導団特製手錠を嵌めた。

 あとはどうとでもなる。

 ジョージさんが過去と決別できてホッとした自分がいた。

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