ジョージ・グラコートの意志表明
ベルク宰相は俺を見ながら話を始める。
「ジョージ・グラコート伯爵はロード王国からの公爵への打診を拒否しました。拒否した理由はグラコート伯爵夫人であるスミレ・グラコート以外の人と婚姻をしたくないとのことです。しかしジョージ・グラコート伯爵はエクス帝国の守護者以外にもロード王国の守護者にもなると明言しております」
また騒つく会議室。
「どういう事だ?」「意味がわからない」等の声が聞こえてくる。
構わず話を進めるベルク宰相。
「今までロード王国はエクス帝国の敵国の位置付けでした。そのためロード王国の戦力を削ぐために毎年、貢ぎ物をエクス帝国に納めるように外交的努力をしました。しかしジョージ・グラコート伯爵がロード王国の守護者にもなろうとする場合、これは愚策になります」
まぁ俺が守る国が弱くなったら、確かに俺が困るわな。
「ロード王国との話し合いはこれからですが、ジョージ・グラコート伯爵はロード王国の貴族にもなるでしょう。エクス帝国としてはロード王国を敵対国から友好国に変える必要が出てきます。その事を皆さん頭に入れておいてください。ジョージ・グラコート伯爵からは何か言葉はありますか?」
俺に話を振ってきたか。ここは一つ、しっかりと意志表明するべきだな。
俺は優雅に立ち上がり、会議室を見渡す。
「私はエクス帝国が好きです。そこで暮らしている帝国民を守りたいと常々思っております。最近、2回程ロード王国の王都に行ってきました。ロード王国で暮らしている人々はエクス帝国で暮らしてる人々と何も変わりませんでした。私は考え方が変わりました。エクス帝国民だけが幸せになるのはどうなのだろうか? 私はロード王国民にも幸せになって欲しいと思いました。現在、私はロード王国より守護者になって欲しいと頼まれております。私はこの頼みを受けたいと思います。どうぞ皆様、ご協力の程よろしくお願いします」
シーンっとなった会議室。
あれ?何か言われると思っていたのだが……。
タイル・バラス公爵が手を挙げて発言をする。
「グラコート伯爵はエクス帝国の守護者を辞めるつもりはないと考えて良いのかな?」
「もちろんです。エクス帝国は私の故郷です。ここの守護者を辞めるつもりはありません」
「それを聞いて安心したよ。エクス帝国とロード王国の両方の守護者になるという事で間違いないですな」
随分と念押しするな。
「間違いないです。私の拠点はここ帝都ですから」
ベルク宰相が言葉を挟む。
「バラス公爵、その辺でよろしいのではないでしょうか? お金儲けは後からゆっくり考えてください。それでは何か質問がある人はいますか? 何でも良いですよ」
その声にゾロン騎士団団長が手を挙げた。
「カメリア皇太子夫人とスイフト皇子はどうなるのでしょうか? 皇家を出る事になるのでしょうか?」
「今の状況では、その可能性が高いと思います。カイト皇太子が侯爵になる時に、そちらの家に移る事になるでしょう」
顔を赤くして俯くゾロン騎士団団長。相当怒っているようだ。
それにしてもカイト皇太子には甘い処罰で終わった印象だけどな。見方が違うと変わるのかもしれないけど。
「それでは今日の会議をまとめますと、アリス皇女には皇太女になっていただきます。皇帝即位はザラス陛下の喪が開けた4月にする。カイト皇太子はエクス皇家を抜け、侯爵位になってもらう。喪が開けるまでは謹慎処分。ダマス皇子は騎士団第二隊に任せる事にする。たぶん厳罰に処されるでしょう。またロード王国は今後友好国扱いとして外交を行なっていく。だいたいこんなところですかな」
ベルク宰相の総括で貴族会議は恙無く終了した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
貴族会議の後にベルク宰相の執務室に呼ばれた。
部屋のソファに座るなりベルク宰相が話し始める。
「取り敢えずはアリス皇女に皇帝になっていただく。皇配を早く決めないといけません。アリス皇女と相性が良ければよいのですが……。ジョージさんにはアリス皇女への支援をお願いします」
アリス皇女ならエクス帝国を無理に戦争に導かないだろう。助けるのは当たり前だ。
「任せてください。できる限り支えます」
「ジョージさんにそう言っていただければ、アリス皇女が皇帝に即位しても盤石になります。後はカイト皇太子、いやカイト侯爵を中心とした侵略戦争推進派の動きですか。エクス帝国の運営に失敗すれば不満が噴出しそうです」
そうだよな。いろいろと問題が出てくるんだろうな。ロード王国との付き合い方も変えるようだし。
「ジョージさんにお願いしたい事があるのです。景気を上げるためにも、どんどんドラゴンの魔石を納入して欲しいですね。ドラゴンの魔石でエネルギー革命を起こして欲しいのです。ドラゴンの魔石のおかげで魔道具の開発にも投資が増えて来ています。ついでにドラゴンの魔石で外貨を稼いで欲しいですね。まぁ微々たるものでしょうが。それと並行して騎士団と魔導団の実力の底上げもよろしくお願いします」
ドラゴンの魔石でエネルギー革命か。それはエクス帝国にプラスになる事だな。よし頑張ってみるか。
「私はロード王国と話し合って、今後の方針を固めたいと思います。ジョージさんのロード王国の立場を決めたりしますので一任してもらって大丈夫ですか? それに外交の方向性を完全に変える事になりますから、軽い軋轢はあるかもしれませんね」
「ベルク宰相にお任せいたします。変化には得する人と損する人が出るので、軋轢はしょうがないですね」
「それにしてもバラス公爵は凄いですな。情勢が変わる事で生じる金儲けの機会を既に考えていますからね」
そうなんだ。確かにロード王国が友好国になれば貿易が活発になるか。お金儲けのチャンスだね。
「あと、アリス皇女の皇配の候補を推薦してくるでしょうね」
「バラス公爵家には年齢が釣り合う男性がいるのですか?」
「いやいませんね。たぶん他の家から養子を取る事を考えていると思います。いったいどうなるやら……」
こりゃ大変だ。
俺は面倒事を全てベルク宰相に丸投げして執務室をあとにした。
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