平行線
10月9日【赤の日】
面倒な事は早く済ませる主義の俺。今日はカイト皇太子に会うつもりだ。カイト皇太子は現在も騎士団第二隊の詰所に拘束されている。
まずはサイファ団長に挨拶する。サイファ団長は前回と同じ奥の部屋で書類仕事をしていた。
「一昨日来たばかりなのにもう来たの? カイト殿下以外の継承権を持っている人には面会が終わったのかしら?」
「一応、会う事はできました。後はカイト殿下だけです。今日、これから会えますか?」
「カイト殿下には、もう少し反省していてもらいたいんだけどねぇ。まぁ良いか。会わせてあげるわ。もうカイト殿下を取り調べる事は終わっているのよ。あとは沙汰が出るまで反省するだけね」
「沙汰って、誰が出すんです?」
「貴族会で出す事になるでしょうね。後継者が決まった後じゃないとカイト殿下の処分も考えられないわ。もしかしたらカイト殿下が後継者になるかもしれないし。現在、貴族では多数派工作が盛んね」
なるほど。早めにベルク宰相に会って、今後の事を相談しないとな。
サイファ団長が案内してくれたのは騎士団第二詰所にある貴族用の収容部屋だった。
鍵を開けて入るといきなり罵声が飛んだ。
「いったいいつまで俺を閉じ込めておくんだ! ふざけるにもほどがあるぞ!」
小綺麗な部屋ではあったが皇太子が入るほど豪華ではない。その一室のソファにカイト皇太子が偉そうに座っている。
カイト皇太子は俺を見るなり睨みつけ叫び出す。
「ジョージ! お前は何をしてたんだ! ずっと呼んでいたのに! 来るのが遅過ぎるぞ!」
そんな事言われてもな……。カイト皇太子を最後にしろって言ったのサイファ団長だし。
まぁいいや。
「ご無沙汰しております。俺に何か用事がありましたか?」
「何か用事だと!? お前が俺の後ろ盾になれば、こんなところから直ぐに出られるんだぞ! ダマスやアリスと会ったんだろ! それなら俺しか皇帝になれる奴がいない事が分かるだろ!」
「それを決めるのは俺じゃないです。貴族会で決めるみたいですよ」
「その貴族会でお前が俺の後ろ盾になる事を宣言しろ! それで全て上手くいく」
「そんな事を言われても困ります。俺は侵略戦争推進派の貴方には肩入れしたくないんですよ」
「まだそんな事を言っているのか! 現実を直視しろ! 早くロード王国を滅ぼして大陸の北を固めないと、エクス帝国は南のエルバド共和国に呑み込まれるぞ!」
エルバド共和国の情報を俺は大して持っていないからわからないぞ。せいぜいエルバド共和国は他の大陸と交易を行なっており、経済、軍事、共に大陸最強と言われているのを知ってるぐらいだ。
本当にエルバド共和国はエクス帝国に攻めてくるのかな?
攻めてくれば撃退すれば良いか。
「エルバド共和国が攻めてくるなら俺が撃退しますよ。それなら焦らなくて良くないですか?」
「お前は馬鹿か! 軍事力だけで国の力が決まるんじゃない。経済で抑えつけられる可能性があるだろ! 力を行使しない軍隊はハリボテの軍隊と思われる。外交にも影響を与えるんだ!」
そうなのか。流石にそこまではわからないな。俺の範疇ではないな。
「誠に申し訳ございませんが、私の考える事ではないような気がします。エクス城の高官が考える事と思います」
「そうじゃない! ジョージ! お前は1人で一騎当千の軍人だ! その力の行使には高度な政治的な判断が必要になるだろ! そんなお前が思考を止めてどうする」
う、言い返せない。
俺が変わらないといけない事は理解はしているんだけどね。
でもカイト皇太子には言われたくないな。
「貴方の言い分には納得できるものがありました。しかしザラス皇帝陛下の暗殺依頼をしたのは問題じゃないんですか? 貴方が皇帝になろうとしても反発されますよ」
「あれは酒の席での話だろ! そんな事で皇帝陛下を殺す馬鹿が何処にいる! 俺の知った事じゃない!」
「それは通じない話ですよ。貴方はザラス皇帝陛下の死を潜在的に望んでいたのでしょう? 親殺しの貴方に、誰が忠誠を誓うというのですか?」
「俺が皇帝にならないとエクス帝国は滅びるぞ! それがわかっているのか!」
「貴方が皇帝になってもエクス帝国は滅びそうです。滅びなくても周辺国の民は不幸になりそうですね。俺はなるべく戦争はしたくないんです」
「なぜそこまで戦争をしたくないんだ? 他国を攻めて領土を増やす事は、国として当たり前の事だぞ」
「俺の夢は温かい家庭を作る事です。それには戦争は不要です。また私の家内のスミレは他国の民も幸せにしたいと願っております。それにも戦争は不要なんです」
「それは夢物語だろ? そんな考えだと他国に好きなようにやられるだけだ」
「そうならないようにベルク宰相に外交を頑張ってもらうだけです。力だけで解決しようとすると反動も凄くなると思いますけど」
「生温い考えだ。きっと後悔するぞ」
「どうなんでしょうね。未来の事はわからないから、その時に考えますよ」
カイト皇太子と俺の会話は平行線のまま終了した。
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