スイフト皇子
午後3時になり、改めてスイフト皇子の部屋に行った。
今度はカメリア夫人も金切り声を上げない。
これなら落ち着いてスイフト皇子と話ができるかな?
椅子に座りスイフト皇子を観察する。
こちらを見つめる小さな二つの目。目が左右に揺れている。
「こんにちは、スイフト様。私はジョージ・グラコートです。今日はスイフト様とお話しにきました」
スイフト皇子は俺から目を離し、カメリア夫人を窺う。カメリア夫人が頷くと、スイフト皇子は俺を見て喋り出す。
「父上はいつ戻ってくるのですか?」
「それは私にはわかりません。私が決める事ではないですから」
「母上はジョージが父上の味方をすれば戻ってくるって言っていた。ジョージが父上の味方になれば良いじゃないか!」
「そんな簡単な話ではないのです。エクス帝国民の将来が決まる事ですから」
「そんな難しい事はわからないよ! 早く父上を返してよ!」
あ、これはダメな面談になったな。スイフト皇子との直接的な話は諦めるか。いや、もう少し頑張るか。
「スイフト様はお勉強は好きですか? それとも運動のほうが好きですか?」
「そんな事より父上を早く返して!」
あ、泣き出した……。駄目だな、これは。だいたい4歳児をどう見極めろってんだ。
その後もスイフト皇子は泣き止まず、面会を中止した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
スイフト皇子の直接の面談は諦め、スイフト皇子に勉強を教えている教師から話を聞く事にした。
我ながら良い考えだ。
スイフト皇子の教師は前ベラルク伯爵のバスケ・ベラルクが担当しているそうだ。
ベラルク伯爵領は帝都の西側にあり、侵略戦争推進派である。バスケさんはエクス城にいたため、すぐに面会ができた。
バスケさんは50過ぎの痩せ型の禿頭の男性だった。
「スイフト皇子について話をすれば良いのですね。理解力は人並みにあり、時に光る質問をする子供ですね。まだ4歳ですが、未来の皇帝陛下になるように教育しております」
ふ〜ん。まぁ自分が教えているのだから、相当問題が無いと貶しはしないよな。少し突っ込んだ質問をするか。
「バスケさんは侵略戦争推進派と聞きましたが、その辺のところはスイフト皇子にどの様に教えているのですか?」
「別に侵略戦争が悪いわけではありません。カイト皇太子が皇帝陛下に即位なされれば、ロード王国等に戦争を仕掛ける事が国是となります。スイフト皇子には、今のところ、戦争をする利益と不利益を教えております」
「単純に答えて欲しいのですが、スイフト皇子が侵略戦争を容認するように教育していると考えて間違いないですか?」
「別に、侵略戦争を容認するように教えてはいないです。客観的な利益と不利益を私なりに教えております」
なるほどなぁ。教育は結局、教える側の信条が伝わるもんだ。このまま、この教師がスイフト皇子を教えていると侵略戦争推進派になりそうな事はわかった。
「スイフト皇子は剣術や体術などの運動は好きな方ですか?」
「まぁ普通の子と変わらないと思いますね。まだ4歳のため、遊びながら体力をつけているところです」
俺の中のスイフト皇子の人物像はそれなりに出来上がった。まぁ普通の才能なんだろう。まだまだ成長段階のため、周りの大人の影響を色濃く受けそうだ。現時点でのスイフト皇子の評価は、そのまま周りの評価って事になるな。
その後、軽い雑談をしてバスケさんと別れた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その日の晩、ベッドの中でスミレと今後の事について話し合った。
「俺は体調的に問題があったとしてもアリス皇女を支えたいかな。スミレはどう思った?」
「ダマス皇子は論外よね。ダマス皇子が皇帝陛下になったら暗い未来しか見えないわ。スイフト皇子はまだこれからだから判別不可能よね。周りの環境はあまり良くないとは思ったけど。アリス皇女はとても良い印象を受けたわ。でも皇帝陛下の重責に耐えられるかしら?」
そうなんだよな。それなんだよ、問題は。まぁ考えてもしょうがないな。
俺はスミレの身体を引き寄せた。
「今晩はゆっくり楽しみたいな」
「ジョージはすぐにそれなんだから」
微笑みを浮かべるスミレ。
俺はスミレのネグリジェに手をかけた。
この小説の投稿を初めて一ヵ月経ちました。
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