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地下4階へ

特別任務21日目。

 今日はダンジョン調査の日。

 スミレさんはスパルタだった。地下1階と地下2階は俺だけで近接戦闘で魔物を倒す事になった。それも身体能力向上を使わずにだ。あくまで剣術の技術だけで倒すように命令される。

 コボルトとゴブリンといえど、一歩間違えば大怪我になる。緊張感が半端ない。

 スミレさん曰く、自ら枷をかける事により技術的にも精神的にも鍛えられるそうだ。

 それでも何とか地下3階に到着した。


 地下3階からはオーガをサーチ&デストロイ。何て気楽な戦闘だ。

 ガンガン倒して、マッピングも進んでいく。地下4階への階段が見つかったが、まだマッピングが全て終わっていないため後回しにする。

 俺とスミレさんのリュックが魔石でパンパンになったため、少し早いが今日のダンジョン調査を終了した。


 冒険者ギルドで魔石の納品をしたが、換金額は最近気にしない事にした。凄い金額にはなっているので現実味が無い。


「ジョージ君、時間もあるし、せっかくだから美味しいものでも食べに行かないか。私のお勧めのお店があるんだよ」


 おぉ! スミレさんから正式な食事のお誘いだ。断るほうが難しい。


「是非お供させていただきます!」


「じゃ、身体の汚れを落としてからだな。1時間後に宿舎に迎えに行くよ」


 急いで宿舎に帰り、汗を落とす。ストライプのシャツに黒のズボン、上からジャケットを着る。

 スミレさんと食事に行けるなら私服を新調したのに……。まぁこれならそれなりのお店にも入店できるだろう。

 女性を待たせるのは男性としてマズい。

 まだ早いが宿舎の入り口でスミレさんを待つ。少し待っていると、通りの向こうから私服姿のスミレさんが歩いてきた。


 白のワンピース姿だ! これは貴重だ! スミレさんの私服姿を初めて見た! 神様ありがとう!

 スミレさんは歩きながら軽く手を振ってくれる。

 おぉ! 幸せ過ぎてどうにかなりそうだ……。


「もう待っていたのか ?悪いな、待たせてしまったかな。それじゃ行こうか」


 俺はスミレさんについていく。本当はスマートにこちらがリードしたいものだ。そんなスキルは俺には無いけどね。今後はもう少しそういうスキルを磨かないと俺の人生寂しくなるな。

 スミレさんが連れて行ってくれたところは高級そうなお店だった。入るだけでドキドキしてしまう。さすが侯爵令嬢。

 個室に案内されワインで乾杯する。料理はお店お任せのコースだ。

 ワインを飲みながらスミレさんが会話を始める。


「ゾロン騎士団団長とサイファ魔導団団長から君の状況の説明を受けた。今現在、帝国の中枢では大騒ぎだ。間違いなく君は帝国に今以上に取り込まれる事になる」


「取り込まれるって具体的にはどうなるのですか?」


「まず、今の部署の変更だな。最低でも魔導団第一隊の所属にはなると思う。地位も上がるだろう。その他には爵位が上がるな。たぶん子爵、伯爵になる可能性もある。状況によっては領地持ちになるかもな」


 うーん。他人事(ひとごと)のように聞こえる。

 論文モテモテ計画が、いつの間にか出世ウハウハ人生に変わってしまったようだ。


「本当にそうなりますかね。俺はもともと平民ですよ」


「君の戦闘能力を考えれば充分考えられる範囲だよ。オーガ討伐で、まだまだレベルも上がるだろうし。私も君の戦闘能力向上を助けるのが任務になったからな」


「なんか急に人生が変わりそうで頭がついてきてないです。恥ずかしい事に困惑しています」


「ジョージ君には前にも聞いたけど、やりたい事はないのかな? あれから君の状況は激変している。目標でも良いんだが。このまま流されて生きていくと辛い思いをするかもしれない」


 仕事については国の決定に従うしかないな。これはどうしようもない。納得しなかったら他の国に行くだけだ。今の実力なら冒険者として食べて行けるだろう。


 目標か……。愛する人と温かい家庭を築く事。前に話していた時は身分違いだったけどスミレさんとの結婚の可能性は生じたのか。やっぱり無理かな。


「ありがとうございます。まぁゆっくり考えてみます。まずはダンジョン調査と戦闘能力の向上に努めますよ」


 俺がそう言うとスミレさんは柔らかい笑顔をしてくれた。


「そうだな。まずは帝国の意向がどうなるかわからないしな。せっかくの美味しい食事とお酒だ。今日は煩わしい事を忘れて楽しもう」


 確かに美味しい食事とお酒だったけど、何を食べるかじゃなく、誰と食べるかが大事と思わせてもらった会食だった。

 やっぱり俺はスミレさんが大好きだ!!


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


特別任務22日目。

 今日はダンジョン調査ではなく騎士団第一隊の訓練に参加している。訓練中はずっと体内魔法の身体能力向上を使うように言われた。

 まずは全身金属鎧での走り込みを1時間。戦争時の行軍に必須だそうだ。その後は剣術の型の素振りをする。変なクセがついていると教官から鉄拳制裁が飛ぶ。集中して素振りをすると結構疲れが溜まった。


 その後は模擬戦だ。模擬剣とはいえ当たりどころが悪ければ大怪我につながる。剣術の模擬戦ながら殴ってきたり蹴ってきたりする。まさに戦争格闘技だ。

 なるほど、騎士団第一隊はエリートだが戦い方はお行儀が良くない。訓練についていくのが精一杯だ。


 ヘトヘトになったところで俺だけの特別訓練が待っていた。剣で多人数を相手にしながらファイアアローを撃つ練習だ。

 ファイアアローは威力を最小限に抑えて急所は外している。体内魔法と体外魔法の対人戦の実戦訓練だ。

 初めのうちはなかなか集中ができなく上手くいかなかったが、20分もやっていると慣れてくる。要所でファイアアローを放つことができるようになる。

 騎士団第一隊の訓練はキツかったが初日としてはまあまあの手応えを感じた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


特別任務23日目。

 今日はダンジョン調査の日だ。

 コボルトとゴブリンを相手にしても良い意味で余裕が持てるようになってきた。特に問題なく地下3階に入る。

 地下3階のマッピングはもう少しで終わる。その最後のところにモンスターハウスらしきものが存在している。魔力ソナーで確かめてみると18体のオーガがいるようだ。


「スミレさん。この扉の先はモンスターハウスです。魔力ソナーの反応では18体のオーガがいますね。行って良いですか?」


「ジョージ君に自信があるなら私は反対はしないよ。何かあったらサポートするから安心してくれ」


 なんてテンションが上がる言い方なんだろう! これでやらなければ男じゃない!


「ありがとうございます。俺が突っ込んで一気にファイアアローを放ちます。射線が通ってないオーガはその後2発目で沈めてみせます! それでは行きます!」


 俺は扉を開けてファイアアローの詠唱をしながらオーガを確認する。こちらを見つめる目が多数。馬鹿なことに弱点を晒しやがった。


【火の変化、千変万化たる身を矢にして穿(うが)て、ファイアアロー!】


 25本の火の矢がオーガの眼球に刺さっていく。

 倒れていくオーガの群れ。後ろにいた5体ほどが生き残っている。

 すかさず2度目のファイアアローを放つ。残っていたオーガも息絶えた。

 圧勝である。

 調子に乗ってしまいそうだ。だけどこれはしょうがないと思う。それだけの戦果だ。


「圧倒的な殲滅力だな」


 亡骸になったオーガの群れを見ながらスミレさんが呟いた。

 たしかに死屍累々。オーガながら少し気の毒に思ってしまう。まぁ魔石に変わるからそこまで罪悪感はない。

 18個の大きな魔石を2人で拾う。しめて180,000バルトだ。こりゃオーガを倒しているだけで大富豪になれそうだ。

 帝都にオーガ御殿を建てたりして。


「スミレさん。これで地下3階のマッピングが終わりました。時間がまだあるし地下4階を確認してみますか?」


 少し悩んだスミレさん。どうなるかな?


「そうだな。地下4階に降りてみようか。ジョージ君の魔力ソナーでどの程度の敵か分かるだろう。情報を仕入れて引き返しても良いからな」


 モンスターハウスを出て、前に発見していた地下4階への階段に向かう。

 どんな魔物がいるのかな? まさかオーガより強いのは出てこないよな。まぁ危なかったら身体能力向上で逃げよう。


 階段の前まで来た。索敵として俺が先に階段を降りる。

 長い階段だった。4〜5階分の階段だ。階段の終わりになったようだ。

 地下4階は洞窟になっていて、30m先に光が差し込んでいる。洞窟を出た瞬間に息を飲んだ。

 地下なのに日が昇っている。草原が広がっている。ダンジョンの果てが見えない。

 慌てて魔力ソナーを広げてみる。現在の魔力ソナーの有効範囲は以前の300mから大幅に伸びている。なかなか魔力反応を感じない。もっと広げてみよう。

 広く、広く。薄く、薄く。

 1kmを超えたところに魔力反応があった。

 俺の膝はガクガク震え出す。有無を言わせずスミレさんに命令する。


「撤退です! ヤバ過ぎます! あれはヤバい!」


 震える膝に力を入れて洞窟に戻る。

 慌てて階段を登り始めて少し経つと落ち着いてきた。俺を心配そうに見るスミレさん。


「どうした? 大丈夫か? どんな魔力反応だったんだ?」


「わかりません。ただし比べるとオーガの魔力の大きさがまるで赤子のようです。それほど大きな魔力反応でした」


 俺はまだ膝が震えている。


「オーガと比べても段違いに大きな魔力反応か。それは危険過ぎるな。これも団長案件だな」


「団長案件って本気ですか! 団長が行けと行ったら行く事になるんですか! 自殺行為ですよ!」


「自殺行為だろうが上官が行けと命令するならばいくのが騎士団だ。これは鉄の掟だよ」


スミレさんに当たり前の顔で言われた。

俺は少し呆れてしまう。


「騎士団の鉄の掟は分かりましたが魔導団にはそんなもの聞いた事ありません。もし行けと言われたら、俺はすぐに辞表を出しますよ」


「このダンジョンは一度に2人しか入れない。地下3階を抜けるためには、君の力が必要だ。君が地下4階の調査を拒否するなら、このダンジョン調査は終了になるかもな」


 そう言われると何か悪い事を言っているような気がする。俺は小市民だからな。でも命は大事だよ。

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