おばあちゃんの魔法の鏡
なろうラジオ大賞3
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私は小学生の頃、いじめられていた。
その度に、家でおばあちゃんに慰めてもらっていた。
そして今日も。
「みんながブスとか、豚とか言ってくるの」
「そんなことないわよ。アキちゃんはかわいいわよ」
「嘘よ! もう学校行かない!」
そんな私におばあちゃんは一つの手鏡をくれた。
「これ見てごらん。誰が写ってる?」
「……わたし」
「アキちゃんでしょ? 豚でもブスでもないでしょ?」
「……うん」
それからは、
辛いことがあったら、鏡を見て自分を励ました。
鏡の自分に向かって話す練習もした。
中学生になって、回りとうまくやっていけるか心配だったが、この鏡のお陰でクラスのみんなと打ち解ける事ができた。
私はあの頃とは違い、明るく、話せる、積極的な女の子となった。
中学生の時に、大好きなおばあちゃんは亡くなってしまったが、この鏡はおばあちゃんだと思って、ずっと大事にした。
そして高校に入学。
あの頃の私では想像もつかないほど、可愛く明るいクラスの人気者となっていた。
この鏡のお陰で、お化粧も上手くなった。
そして大好きな彼と付き合うこともできた。
全てこの鏡のお陰だった。
そして今日、彼氏とデートの日。
鏡に写った私は、最高の自分。
しかし、それは彼氏と道を歩いている時に起きた。
前から来た男がすれ違いざま、私のバックにぶつかった。
その時、私の大切なものが粉々に砕け散った気がし、胸の鼓動が速くなるのを抑えながら、慌ててポーチの中の鏡を取り出した。
鏡は無惨にもひび割れ、私の姿を醜く写し出した。
「どうしたアキ? 顔色が悪いぞ」
「顔……が……悪い!?」
嫌だ、見られたくない!
ブスの私を見ないで!
私は顔を隠し、身を隠すように自販機の裏でうずくまった。
「来ないで! 触らないて!」
パニックになり、その場でわめき散らしていた。
そんな私を黙らせるために彼は、
私に口づけをした。
胸の鼓動は静かになり、そして高鳴りへと変わる。
そしてゆっくりと放れる唇。
「落ち着け、アキ」
「大切な……鏡が……割れちゃったの」
「そんな鏡がなくても、お前は可愛いよ」
「違う! ブスよ」
「ブスにキスなんか、しないだろ?」
「でも私……鏡がないと」
「鏡と俺と、どっちを信じるんだよ!」
「え?」
「俺が今見ているアキは、可愛くて好きだよ」
「鏡の自分ばかり見ないで、これからは俺を見てくれよ」
「……うん」
彼のキスにより私は、魔法の鏡の呪縛から解き放たれた。
そして今まで守ってくれてありがとう、おばあちゃん。




