うちのお嬢は推しを応援したい
お嬢がたどりついたのは、遠くからでも見える巨大建築物。
あちこちに穴が開いているように見える、円形の建物でした。
「コロッセオ! こんなところに来ておられるのですか」
「その通りでございます」
――もっと言ってやってください。
と、私――セヴァスは内心呟きつつも、実際嘆息が漏れるのを止められませんでした。
とはいえ、
「こ、ここってあれでしたよね? 犯罪者に魔獣をけしかけて処刑したり、奴隷同士を戦わせて殺し合わせたり」
「あぁ、そういったダーティーな戦いはさすがに見に来られませんよ。というかあれ、成人指定の、大人の楽しみらしいですし、お嬢は入れません」
流石のお嬢も血まみれの処刑ショーが見たいわけではありません。と、一応、エトワール様に断わっておきます。
「え? で、でもお父様が言うには……野蛮なところだから近づくなと」
「否定はしませんが、昼間のうちは女性や子供も見るので、割とマイルドになっていますよ」
お嬢が並んだ別の入場券販売場にならびながら、私は販売場上に掲げられた看板を指差しました。
「えっと……《烈火の誓い》VSエルドトード? 《黒狼の咆哮》VSエルダーテイル?」
「要するに冒険者パーティーの腕試しです。腕に覚えがある冒険者。あるいは、一皮むけたい新人冒険者なんかがここに参戦登録して、調教された魔物と戦うんです。調教された魔物であるがゆえに、凶暴性はかなり押さえられていますし、本当に危なくなれば運営からの手助けも期待できます。つまり、実戦で戦うよりも安全に、冒険者たちは経験を積むことができ、娯楽に飢えた上流階級の人々には、かっこうの娯楽を提供できるというわけです。おまけに、夕方から夜にかけて行われるダーティーなイベントと違い、人死に等は御法度となっていますので、女性や子供でも安心して見られると、今話題沸騰中なのですよ」
「へぇ~! そんなこと知っているなんて、ヴィクトリア様はすごいのですね……」
「いえ。お嬢は普通に知りませんでしたよ?」
「え?」
「初めてきたときは、大人のフリをして入り込もうとしていました。おかげで私は、お嬢を肩車したうえ全身が隠れるコートを着込みましたから、大変でしたよ。私は前が見えないのに、きちんと歩けと上で文句ばかりたれて……」
――おっと、いけない、いけない。怨み辛みを垂れていたらいつまでも止まりませんからね。
と、私が頭を振り暗くなった思考を頭の中から追い出します。
エトワールさんの顔が引きつっているようにも見えますが……まぁ許容範囲でしょう。
「な、なかなかお転婆な方なのですね?」
「お転婆? HAHAHA! そんな言葉で片付けて言い程度なら可愛いものですとも!」
「セヴァスティアさん!? 黒い。笑みが黒いですよ!」
「おっと」
――いけないけない。お嬢が見ていないからと執事としてあるまじき醜態を。自重せねば。
そう自分に言い聞かせ、私は今度こそ自分の気持ちを持ち直し、解説を再開しました。
「というわけで、お嬢は暇を見つけてはこのコロッセオに通うようになり、冒険者たちの熱い戦いを見て手に汗を握っておられるのです」
「なんだってそんなことを?」
「単純に見ていて楽しいからというのもあるのでしょうが、一番の目的は人材発掘です」
「人材発掘?」
そう。それこそがお嬢の最大の趣味。幼少のころから有能な人間を見つけては雇い入れてきた、お嬢の得意分野でもある。
「冒険者というものは、御存じのとおり荒仕事です。人々の依頼を受け、魔獣を倒し、未知の遺跡に侵入して危険性がないか調査し、魔族との戦争に駆り出され武勲を上げる。華やかな冒険譚に謳われる冒険者は数多いますが、その実情は自身の命を賭け、金を稼ぐ……いつ死んでもおかしくない危険な仕事です。当然そんな仕事をしている面子というのは、英雄になることを憧れたからという人もいますが、大多数はそれでしか食っていけないからという、身分や生まれによってまともな仕事に就けない人間が占めています」
私の言葉に、エトワール様は悲しそうな顔をされました。きっとお嬢と違って……お嬢と違って(ここ重要)! 心のお優しい方なのでしょう。彼女にはこのまま真っ直ぐ育ってほしいものです。
と、どこか上から目線で失礼な考えをしながら、私はエトワール様を安心させるように笑いました。
「そして、そういったハングリー精神は、時に傑物を生み出します。エトワール様も噂くらいは聞いたことがあるのでは? 《亜竜殺し(デミドラゴンスレイヤ―)》《神聖守護聖人》。そして今代、第九位十星勇者《天変》」
「き、聞いたことがあります。どの人も、今の魔族戦役で活躍した今代の英雄だと、父から教えられました!」
「そのだれもが、冒険者出身の英雄なのです。貴族のだれもが見向きもしなかった戦士たちが、人類を救う可能性がある英雄となっている。そこでお嬢様は考えられました。これはまだ他にもいるのではないかと。身分や生まれを理由に不遇な扱いを受けている英雄が、まだいるのではないかと」
そうこうしているうちに試合が始まったのか、コロッセオからは歓声が響き渡りました。
違う列に並んでいるお嬢は特に慌てた様子はありません。お嬢の目的は黒い方ですからね。
《烈火の誓い》なる冒険者パーティーには、せいぜい前座として頑張ってもらおう程度に考えているはずです。
「というわけで、お嬢はここにやってくるであろう冒険者たちを吟味し、力がありそうな人は試合後にロレーヌ家の近衛騎士団に入らないかと、勧誘するのが趣味なんですよ」
「さ、流石はヴィクトリア様ですわ。私と同い年なのに、もうそんなことまで考えているなんて」
感心したように吐息を吐き、ますます尊敬の念がこもった視線をお嬢に向けるエトワール様。
そんな純真無垢な彼女の姿にちょっとだけ微笑みながら、私は最後に一つ真実を隠してしまったことに、罪悪感を覚えます。
――まぁ、最近はそればかりが理由ではないのですが……それは言わぬが花というモノですね。
…†…†…………†…†…
それから数分後、私達は無事次の試合の入場券を買うことができ、お嬢が座る席から三列程後ろの席に座りました。
お嬢の護衛の関係上、よく来るようになった私の顔は覚えられていたのか、売り場のご老人に「デートかい?」と尋ねられたこと以外は、特に問題ありませんでしたとも……ええ。
「あの、申し訳ございません、エトワール様。一介の執事ごときが」
「い、いえ! こ、こちらこそ、ご迷惑をおかけして!」
そのおかげで、エトワール様はさっきからこの調子だ。
常に顔を真っ赤にしながら俯いて、私が話しかけてもどもってしまい、ワタワタと手を振りながら何度も頭を下げてくる。
本当にこの人貴族令嬢なのでしょうか? 可愛いからとくに文句はありませんが、父曰く、魑魅魍魎の巣らしい社交界に出た後が心配です。
と、余計なお世話過ぎる心配を私が抱く中、とうとう試合が始まりました。
『レディース・アンド・ジェントルメン! ようこそ、コロッセオへっ!』
始まりは、私たちが座る場所とは反対側に設置された実況席。そこから拡声魔法で声を届けてくる、コロッセオの管理運営をしている黄色い服を着た中年貴族の挨拶から始まりました。
「あれ、エリシュデータ卿ですよね?」
「代々コロッセオの管理運営を任されているお家柄だそうですよ」
「お父様が言うには、一番近づいちゃいけない貴族の類だと……」
「まぁ、反抗的な奴隷や、犯罪奴隷の処刑場も兼ねた場所の管理をしているわけですからね……。最近は大衆受けを狙って、そういったイベントを夜に回したみたいですが、実際黒い噂が消えたわけでもないですし」
とは言いつつも、お嬢はあのエリシュデータ卿のことを何気に気に入っておられるみたいでした。なんでも、前世の夢で見た黄色い熊を彷彿とさせる姿がいいのだとか……。
『今宵この伝統と格調高いリングに上がるのは、新進気鋭の黒き狼たち! 討伐モンスター数は今日でとうとう五十を超え、去年は《無冠賞:新人冒険者部門》を受賞した英雄の卵たち! その名もぉおおおおおおおお! 《黒狼の咆哮》ぉおおおおおおおおおおおおお!』
「「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」
野太い男の声や、
「「「「「きゃぁあああああああああああああああああ!」」」」」
甲高い女性の歓声を受け、それは現れる。
全身黒い装備で統一した五人の若い男たち。その全員が、目鼻立ちがくっきりと整い、さわやかな笑顔を口元に浮かべていた。
とくに装備が薄い弓兵のリップサービスは凄まじく、女性の声が聞こえてくるあたりに向かって投げキッスまで送り「応援よろしく! 僕のハニーたち!」と、よく通る声でキザなセリフを送り、さらなる歓声を浴びていた。
そんな弓兵の隣で頭痛を覚えるかのように、頭を抱えている騎士の青年の気持ちが、今の私にはよく分かります。
なぜなら、私たちの席の丁度三列程先の席にて、
「きゃぁああああああ! こくろぉおおおおおおお! L・O・V・E・こ・く・ろ・う! かっこいいですわぁああああ! こっち向いて、こっち向いてくださいまし! きゃぁあああああ! 今こっち見てくれましたのっ! 見ましたわよね、おじ様! 今こくろーが私のほう見てくれましたわよねっ!」
「お、おう……」
隣に座っていた見知らぬ中年男性すら巻き込み、お嬢がはしゃぎにはしゃいでいたからです。
「あ、あの……セヴァス様。あれって……ヴィクトリア様」
「言わないでください」
「いや、でも……」
「言わないでください。わかっています。わかっていますが、ああなったお嬢は誰にも止められないので、できるだけ他人のフリを」
「は、はぁ……」
護衛としてそれはどうなのでしょう? と、エトワール様の視線が言っているような気がしたが、あの状態のお嬢に近づくのは本当に危険なのだ。やめておいた方がいい。
そう。もとは人材発掘のためにこのコロッセオに訪れていたお嬢。ですが、彗星のように現れた《黒狼の咆哮》たちの甘いマスクにすっかりやられたお嬢は、今では彼らの熱狂的なファンになり、試合の予定が決まれば欠かさず見に行く《黒狼の咆哮》フリークになってしまっていたのです。
――どうしてこうなった?
いまさら自問自答しますが、答えが返ってくることはありません。あえて自分で答えを出すのならば……お嬢には素質があったからとしか……。
「ご安心を。試合さえ終われば元の頭おかしいお嬢に戻る……あれ? ひょっとしてお嬢、ずっと頭おかしい?」
「しっかりしてください、セヴァス様!」
お嬢のあまりの醜態に、私がちょっとだけ錯乱する中、試合は始まりました。
『本日の敵は、堂々のBランク魔獣――エルダーテイルだぁ! 強靭な筋肉と、強力な尾の一撃が特徴的な魔物だぞっ!』
実況のエリシュデータ卿の雄叫び染みた解説が終わると同時に、闘技場に設置された一つの檻の扉が開きます。
そこから現れたのは、鋼のような体毛に覆われた巨躯と、鼻だけしかない顔を蠢かせる不気味な化物でした。
「あれがエルダーテイル……」
「Bランク魔獣としては最高峰の戦闘能力を誇る魔獣です。退化した眼球の代わりに、ありとあらゆる匂いを嗅ぎ分ける鋭敏な嗅覚。そして、あの巨大な体を支える二本の強靭な足。とはいえ、やはり支えきれないのか、上半身は僅かに折れ曲がって猫背みたいになっていますが……」
「手がないのはそのためですか?」
「ええ、あるとバランスがうまく取れないんだとか……。代わりに奴らは、自らの尾をより強靭に強化しました」
私が、興奮したように鼻息を荒くする魔獣の解説をする中、戦闘は迅速に開始されました。
「速攻で行くぞっ! エルバラン、悪臭系の道具だ!」
「了解だ、リューヘル! 作戦通りだなっ!」
正面で盾と剣を構え、咆哮を上げるエルダーテイルに対峙する騎士の指示に、盗賊と思しき軽装の男が答えました。
口元を覆うマスクで顔の下半分を隠した軽装の男――エルバランは、円を描くように疾走。正面で盾を構え敵意をむき出しにする騎士――リューヘルに視線が釘付けになっていたエルダーテイルの背後にまわり、
「おっとっ!」
完全に死角に入ったにもかかわらず、正確に自身を狙ってきた尾の一撃を、紙一重で躱します!
「かーっ! やっぱり鼻潰さないと、死角なんてできないってか!」
目があれば、ギロリと睨みつけていたであろう、振り返ったエルダーテイルの顔を見て、エルバランは不敵に笑い、
「まぁ、対策はとっくの昔にうっているんだけどな」
エルダーテイルは人語を解すことはできないが、嫌な予感は覚えたのでしょう。
慌てて鼻をうごめかせ周辺環境の把握に努めますが、
「遅いってな!」
頭上にある完全防臭処置が施された球体には気づかない。
その事実に歯をむき出すような笑みを浮かべながら、先程投げキッスをしていた弓兵が矢を放ちました。
矢が球体に直撃、爆散。
それにより球体から撒き散らされるのは、観客席まで漂ってくる気が遠くなるほどの悪臭。
「な、なんですこれ」
「悪臭玉ですね。特殊な肉食性魔獣の排せつ物から作られる補助アイテムで、鼻が利く魔獣の嗅覚を潰す際に重宝されます」
蝶よ花よと育てられたために悪臭の類には耐性がなかったのか、目元に涙さえ浮かべてうめくエトワール様に私はハンカチを貸しておきます。
――エルダーテイル討伐とかかれている時点で、こうなることは予想済みだったでしょうに。私一生の不覚でございます。
と、私が内心ちょっとだけ悔しがるのをしり目に、試合はその後危なげなく《黒狼の咆哮》有利で進んでいました。
なにせエルダーテイルは、視覚の代わりをしていた嗅覚を、悪臭玉につぶされたのです。いかに強靭な肉体をもっていようと、相手の位置を確認できない状態では、《黒狼の咆哮》に勝てるわけがない。
ほぼ一方的にモンスターにダメージが刻まれていく中、コロッセオ内のボルテージは最高潮。同時に推しの大活躍っぷりにお嬢も最高潮になっていた。
「いいわよ、こくろぉ! そこよっ! やってしまいなさい!」
「お嬢……すっかり個々のおっさんどもと同じになっちゃって」
――昔のアホっぽくて可愛らしくてお嬢はどこに……。
と、私は嘆き、ハンカチで鼻を抑えながら、エトワール様は目を真ん丸に見開かれます。
「いかがですか、エトワール様」
「え?」
「今のお嬢を見て、お嬢に迷惑かけたという気持ちはなくなったのではありませんか?」
「あ、そういえば……」
言われてエトワール様はようやく気付かれたようでした。ボッチだろうが何だろうが、お嬢は割かしこの生活を楽しんでいると。学園でボッチしていることを憐れみ、特別気に病む必要はないのだと。
「初めからそれを教えるために、私をここまで連れてきたんですか?」
「エトワール様は思い込みが激しい上に、一度決めたら梃子でも動きそうにない頑固さを持っておられるようでしたから、実際見てもらった方が早いかと愚考した次第です」
自覚はあったか、それとも家族の誰かに言われたことがあるのか……私の指摘に、エトワール様は顔を真っ赤にし、俯いてしまわれました。
「お嬢は確かに友人がいないことを悩んでおられましたが、それはあの時あんな言葉を吐いたお嬢の自業自得。お嬢もそれ自身はよく理解しておられます。だから、私をあなたの元へとつかわせた。そして、友人がいないならいないで、お嬢は楽しむ術を見つける方法をきちんと心得ているのです」
昔からお嬢はそうだった。友人づきあいが嫌いというわけではなく、寧ろご友人と遊ぶこと自体はとても楽しめるかたでしたが……予定が合わないなどの理由で遊べないときも特に退屈そうにしておられたことはない。
友人がいないならいないで、やりたいことも、楽しみたいこともたくさん抱えておられる人なのだ。
「まぁ、結果として落ち着いたのが冒険者たちの剣闘観戦だというのは、執事としては誠に遺憾であり、もうちょっと女性らしい趣味の一つでも身に着けていただきたいというのが、本音ではありますが……」
「……そう、ですか」
ため息。そして肩を落とす。
そんなコンボを決める私に、エトワール様はクスリとお笑いになった後、
「確かにあなたの言うとおりです、セヴァス様。私なんかが心配するなんて、おこがましかった。あの人は、初めて見た時の印象を裏切られない……強く、眩しい女性だったのですね」
どこか眩しいものを見るような目で、お嬢をじっと見つめておられました。
残念なことに、その眩しいものは現在、
「きゃぁああああ! あぶない! チョットあの魔獣調教ミスっているんじゃないですのっ! さっきから割とギリな打撃が多いのですけどっ!」
「く、苦しい! 嬢ちゃん苦しいって!」
《黒狼の咆哮》メンバーに攻撃がかすりかけるたびに悲鳴を上げ、隣の中年男性の首を絞めているのだが……それは指摘しないのが花だろう。
そう思いつつも、思わず目が細まるのを止められない私に、
「ねぇ、セヴァス様」
「はい?」
「こんな私ですが……あの人の、ととと、友達になってもよろしいでしょうか!」
「え?」
エトワール様から信じられない言葉が発せられた。
「血迷われましたか?」
「あの、主人の友人になりたいといった人物に対する第一声がそれなのはどうかと……」
「失礼。熱がおありなのですね?」
「い、至って健康体ですぅ」
しまった。お嬢よりメンタルが柔いんだった、この人。少しいじっただけなのに、もうちょっと泣きそうになっている。
「申し訳ありません、軽いウィットにとんだ執事ジョークです。ですがなにゆえ、あのお嬢のご友人になりたいなどと……? 見ていただいたらわかるとおり、素のお嬢はその……公爵家令嬢にふさわしい人格だとは思えないかと。おまけにそれを隠し切れていないせいで、はっきり言ってスクールカーストは下から数えた方が早いですよ? 公爵家令嬢とは言え、友人になっても利用価値とかあんまりないかと」
「利用価値がないと、友人になってはいけませんか?」
ちょっとスンスンと鼻を鳴らしつつも、先程渡したハンカチでこぼれかけた涙のしずくをぬぐいつつ、エトワール様は笑われました。
「あの人の友人になりたい。今日の姿を見て、私はそう思っただけです。他に理由なんてありません」
「……さようですか」
その言葉を聞き、私は胸のつかえが取れた気がした。
――そこまで言っていただけるなら、大丈夫だろう。いや、寧ろ……。
「あなたは……」
「はい?」
「お嬢の生涯における……」
――唯一無二の友人になってくれるのかもしれませんね。
と、私が言いかけた時だった。
…†…†…………†…†…
「作戦開始だ……いいか。失敗しそうでも手を出すなよ? あくまで事故死に見せかけろ」
「わかっているって。標的がいる場所は?」
「さぁな。この人だかりじゃどこにいるかなんてわからんよ。だが、こいつには匂いさえ教えておけばあとは勝手に探してくれるさ」
「そいじゃ、いつものごとくさっさとズラかろうぜ」
「あぁ、そうだな。じゃぁな、ロレーヌ家のご令嬢殿。これも主のお導きだ。悪く思うなよ」