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うちのお嬢は守られたい?

 あの大騒動のあと。不思議なことにお嬢の特等席となってしまった四阿には、現在四人の人間が集まっていた。

 いつものお嬢と私とエトワール様。そして、


「また暴れたようだな、ヴィクトリア」

「不可抗力の正当防衛ですわよ」


 昼食を食べ終わった後にこちらに寄ってくださった、ルクセント殿下だった。

 どうやら殿下はあの校外学習の事件を実家(ていしつ)づてに聞き及んでおり、事情聴取のためにここを訪れられたようでした。


「それともなんです、殿下? 私があの赤いケダモノどもの腹の中に収まればよかったとおっしゃりたいのかしら?」

「そっちの方が、俺の学園生活は平和になりそうだがな」


 ごもっとも。と、私が思わず頷いてしまった瞬間、お嬢の鋭い踏みつけが、私の足を急襲しました。

 激痛が走りますがそこは執事のたしなみ。無様な姿は晒せないため、私の体は脂汗をにじませる程度で微動だにしません。

 そんな私に不満げな顔をするお嬢をしり目に、ルクセント殿下は言葉を続けられました。


「とはいえだ、仮にも幼馴染に死ねというほど、俺も非道ではないさ」

「まぁ、お優しいこと!」

「問題なのはだ、今回のレッドオーガ達の出現は明らかに召喚術師が絡んでいると分かったうえ、そいつの正体まで調べがついているにも関わらず、その男が一向に捕まらないことにある」


 そう言って殿下は、校外学習の時、ロマウスの神殿騎士たちが調べた事件の調書を私に投げ渡してくださいました。

 私はそれを広げ、目を通し、おおよその事件の全容を把握します。


「ふむ。男はA級の冒険者でありながら、素行不良で冒険者ギルドを除籍されたハグレの召喚士ですか。数日前に珍妙な男に依頼を持ちかけられ、その後失踪。現場に残っていた魔法陣の筆跡から、この男が高い確率で犯人だと判明したものの、行方はいまだわからずと……。消されましたかね?」

「名前は?」


 経歴を読み上げて見ても、お嬢にはピンとこなかったらしく、次いで名前を聞いてこられた。

 対応するのはルクセント殿下です。


「エヴォルガー。ギルドではそう名乗っていたらしいが、聞いた名前か?」

「……いいえ。知らない名前ですわね」

「ということは個人的な恨みの線は消えたか」


 とはいえ、ロレーヌ家は押しも押されぬ公爵家。恨みやヤッカミなど知らないところでいくらでも買っているでしょうから、暗殺を狙ってくる輩は少なくはないのですが……。


「ということは、どこかの誰かに雇われて暗殺ですか。まあ、ありきたりな動機ですわね」

「こ、公爵家ってそういうことがあるんですか?」

「まぁ、殿下よりかは暗殺しやすいですし」

「逆に言えば、俺以外でお前より暗殺しにくい奴はいないということでもあるんだが……」


 謙遜ととっていいのか素で言っているのか、非常にわかりづらい表情で私がいれた紅茶をたしなまれるお嬢に、殿下は眉をしかめて言った。


「実際お前は実家にいるときも何度か暗殺騒動はあったと聞いている。だがそれらはことごとく未然に防がれてきた」

「まぁ、うちのSPは優秀ですので」

「えす、ぴー? 護衛ということか? まぁ、とにかくその優秀な護衛達に護られているお前は、実をいうとそれほど暗殺難易度が低いわけでもないはずだ。だが、どういう訳か今回は、暗殺が実行に移された挙句、その下手人も捕まっていないときた」


 そう言われながら、殿下は私をじっと見つめてきました。


――な、なんですか? そんな熱い視線で見つめられても、私ノーマルなので応えることは。


「何か失礼なことを考えているな?」

「いえ、べつに」

「ちっ……まぁいい。とにかく、今回はお前らロレーヌ家にしては珍しい失態だ。ロレーヌ家が弱体化していると思った裏の連中も活発化していると父上が仰っていた。下手人も捕まっていないし、これまで以上に大人しくしておけ。週末にとっているらしい外出届も取り下げろ」

「……仕方ありませんわね」


 一応心配して言ってくれていると分かっているのか、お嬢はいつになくしおらしい様子で、殿下の助言を受け入れました。そして、


「あぁ、それと……」


 追加で殿下は一枚の紙を、今度はヴィクトリア様に手渡されました。


「……これは?」

「お前の身の安全が不安ということで、学園長から軍人学部に指示が出た。護衛カリキュラムを前倒しにして、そばにいやすい同い年の学生を、お前の護衛に置くんだと。まぁ、学園側もお前の実力は知っているし、正直護衛なんて足手まといだろうが、対策は打ったというポーズをとっておかないと内外に示しがつかないらしくてな。大人しく受け入れてくれ」

「護衛?」

「ははは! それはまた」


――お嬢には最も縁遠い、というよりかは、今回同様襲ってきた相手の方がかわいそうになるお嬢には不要なモノを。


 と、私が内心失笑する中、お嬢はしばらく固まったのち、


「そう! ようやく学園も、私の儚さに気付いたのね! 本当なら百人態勢で護衛をする必要があるほどですわホホホホホっ!」

「はははははは!」

「あははははははは!」

「……その笑いはなんですの? 殿下、セヴァス?」

「近年まれにみる優秀なギャグを聞いてしまって!」

「流石はお嬢! 自己評価の齟齬をネタにさせたら天下一品ですね!」

「バカにしていますわよね? バカにしていますわよねっ!?」


 怒ってブンブン腕を振り回すお嬢から、私と殿下が脱兎のごとく逃げ出す中、中庭の入り口から三人の軍人課生徒の皆さんがやってくるのが見えました。


「あれ? あれって」

「あら!」

「おおおおおお、お久しぶりですロレーヌ公爵令嬢! スキッピオ・ノア・スカドニオール」

「リット・ド・エドワード・シュタイン」

「リンネル……学園長の指示によって、今日の放課後よりヴィクトリア様の護衛をさせていただくことになりました」


 そんな名乗りが、聞こえてきた気がしました。


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