プロローグ:うちのお嬢は変わっている……
これは、ある貴族令嬢の華麗なる日々の物語(大嘘)。
どうぞ、お暇ならばご覧あれ!
――うちのお嬢様は変わっている。
吹き飛び、気絶する未来の元帥閣下の姿に、私は内心で独りごちる。
その光景を作り出した御仁は、私を振り返り、
「逃げますわよ、セヴァス!」
「流石ですお嬢! 自分の保身がかかった時の決断の速さはピカいちですな!」
「褒めてないですわよね? 褒めてないですわよね!」
そういって、出てきた生垣めがけて走り出したお嬢の背中に、私はついていく。
――まったく、どうしてこうなったのか。
ため息と共に、今後どうやってこの事実を隠匿するかと考えながら……。
(セヴァスティアの日記:第一項より抜粋)
…†…†…………†…†…
皆さまお初にお目にかかります。私は神聖ロマウス帝国の三公爵家の一角、ロレーヌ公爵家に仕えている執事――セヴァスティア・アトモスフィアでございます。呼びにくければセヴァスとおよびください。
とはいえ、いまだ私は十を超えた程度の若輩の身。代々執事をしていた家系でしたので、物心ついたころから執事業を学んでいましたが……まだまだ一人前には程遠い身分と言えました。というわけで、今私がしている主な仕事は、同い年ほどのご令嬢=ロレーヌ公爵家第一令嬢――ヴィクトリア・ウィ・フォンティーヌ・ロレーヌ様のお世話係。
ですがこのお嬢は、幼少のころから少々変わったお子様でした。
私をひきつれ旦那様には無断で屋敷を抜け出したかと思うと、「いまのうちから“ふらぐ”をたてておくのでしゅ」とわけのわからぬことを言いながら、下町の少年に話しかけたり、
かと思えば、突然旦那様に「ぶどうをならいたいの」とおねだりし、令嬢には不釣り合いな剣術や格闘術各種を習得しようとしたり、
あげくの果てには、私が十歳になった夜。突然私の寝室の扉をけ破り、「今思い出したわっ! 私、悪徳令嬢じゃない! どうしようセヴァス! うちの家このままだと没落するわ!」などと、突然物騒なことを言い出す始末。
とはいえ、私にとっては同じような年齢の、いつも一緒に育ったお嬢様です。いわゆる幼馴染というやつです。多少頭が残念だからと言って、見捨てるわけにはいきません。
というわけで、私は半泣きになりながら、「どうしよう? どうしよう?」とつぶやくお嬢様を見て決意したのです。
他の誰が見捨てようとも、私だけはお嬢様の言うことを信じてあげようと。
たとえ内心どう思っていようと! チョット視線が生暖かくなることを、お嬢様に咎められようと!
というわけで、これは私――セヴァスと、ちょっと変わったお嬢様の物語。
珍妙な知識を持っているらしいお嬢様の素っ頓狂な毎日を、私が必死こいて軌道修正する苦労譚であります。