88 魂の在りどころ
シリアス?回です。
雪ウサギ達に連れられて精霊の果樹を探すのは、毎朝の日課になった。
陽の光が当たると散ってしまうので、聖地へ行く前に森へ入り探すのだ。最初の日に採ったのは、小さな薄い青い実だったが、木の形状はほとんど変わらないのに、毎回生っている果実が違ったのだ。
あまりの不思議に思わず雪ウサギ達に問いかけたが、「雪の結晶だって形状は全部違う」という返答に、雪の時期の果樹の特徴なのだろう、と納得した。
『あったーーー!あったよ、イツキ!今日はリンゴみたいな果実なの!美味しそうーー!』
「お、あったか。じゃあ急いで採るよ!今日の果実は重いから、木を揺らして採るから、皆で下で布をしっかり持っていてくれなー!」
子供達が毎日楽しそうに探すので、最近では雪ウサギ達は近くまで案内だけして、木を探すのは子供達に任せている。
リンゴのような大きさで真っ青な果実を木を揺らして落とし、残った果実はライに頑張って落として貰った。
全部集めたと同時に陽が差して弾ける木を皆で見つめ、それから試食にする。一個が大きいので、八等分に切って皆に渡して一斉に食べてみると。
『『『『『『『すっぱあまーーーい!!』』』』』』』
「甘酸っぱいな!」
口に入れた瞬間、すっぱさが広がり、シャリシャリする果実を噛みしめると、後から甘い汁が溢れて来た。これは絞ってジュースにして、少しハチミツを入れて炭酸で割るととても美味しくなりそうだ。そんな甘酸っぱい味だった。
昨日の果実は洋ナシのような形をしていて、甘いと思いきや口に入れた途端に果汁となった。噛み応えはほぼなく、果物なのに冷たい果汁水を飲んでいるかのようだった。
その他にもかき氷のようにガチガチに凍った実だったり、形状も口ごたえも味も様々で毎日楽しいのだ。
ユーラも毎日の世界樹の水の他にこの果実を食べているからか、最近では歩く足元がしっかりして来ている気がしている。
オズは預かってから半月ほどはほとんど寝ていた。起きた時に世界樹の泉の水とスープを飲ませていたが、少しずつ量をとれるようになってから、起きている時間が長くなり、きちんとベッドに座らせて食事を給仕するようになった。
ぼんやりと目を開けているが、その瞳は昏く、ほぼ何も映していないようだったが、それでもずっと付き添っているキキリとユーラの勧めで子供達が昼寝をしている間は、俺が少しずつ脚を動かすようにしていた。
そうして本格的な雪が降り出し、かまくらを作った辺りからは、オズの手を引いてまずロフトの中を、そうして脚がよろめかなくなって来た頃に子供達が昼寝している部屋の中を歩かせるようになっている。
そうしてそれと同時に野菜を煮溶かしたスープではなく、柔らかく煮込んだ野菜と細かく刻んだ肉を入れたスープへと変えたことで、皮と骨だけな程に痩せ程った体には、少しずつ肉が付き始めている。
それでもまだ瞳は昏く淀んでいるが、心神喪失状態はほんの少し脱する兆しが見えてきたように思える。
これもキキリがずっとつきっきりで付き添っていてくれたお陰だなぁ。優しく見守っているのかと思いきや、きっちり食事の時に座らせたり、脚を動かさせて筋肉の低下を防いでいたり、それに最近ではオズがトイレに行きたそうな時は知らせてくれるしな。俺にはまだあのぼんやりとした顔から表情の機微なんて読み取れないのにな。
オズもずっと最初からつきっきりで寄り添っているキキリの誘導には、無意識化でかきちんと応じているように思える。もしかしたらこれも世界の守護人である古龍の血が何かしらオズの精神に安定への影響を与えているのかもしれない。
そう、でも一番に注目なのは、トイレだ。オズは心神喪失状態でほぼ飲まず食わずだったし、最初のころはコップ半分の水しか飲めなかったから出る物はなかった。
でもスープの量が増えるにつれ、トイレに行く必要が出て来たのだ。それを最初に教えてくれたのはキキリで、それから慌ててロフトの部屋の床板を外してトイレを設えていた。
……その時になってやっと、あれ、俺ってトイレ行ってない!って気が付いたんだよ。本当に鈍い、ってだけでは済まないくらいに、自分の馬鹿さ加減にあきれ果ててさすがにしばらく落ち込んでしまった。
まあそれも、クオンにさんざん心配されて、クオンのもふもふな尻尾を抱えてふて寝したら回復していたが。自分でもどうかと思うのだが。
この世界に来てから、食事はしているのに髪や爪、それにひげも全く伸びていないことを、最初はなんとなく自分でも気づいてはいたのだが、認めたくなくて全力で気が付かないフリをしていたのだ。
食事は人の三大欲求の一つだし、本能で必要、と自分で思い込んでいたからお腹も空くし、喉も乾く。でもトイレに関してはアーシュに連れ込まれたのが岩山の崖の鳥の巣だったから、恐らく無意識化であそこでアインス達に見られながらトイレをすることに抵抗があって全力で気が付かないフリをしたように思うのだが。
そしてそのままトイレのことを忘れていたっていうのが、本気で自分でもどうかと思ったのだが。まあ、こうして状況証拠を積み上げて、自分が普通の人間ではない、ということに向き合って自覚することを避けて来てたんだよな。オズと暮らすようになって、さすがにきっちりと自覚しないとならない時期が来た、ってことだろうが。
まあ、魂の管理官と再会した時に、はっきり俺は魂の状態で人間ではない、とは言われていたけど、その後もユーラのこととか色々あって、あまりしっかりと向き合っていなかったように思う。まあ、あの時はまだ、向き合うだけの覚悟がなかったしな。
アーシュ達に俺のような者、と言われるたびに気が付かないフリをしていた。でも認めてしまえば、【魂のゆりかご】は俺についた称号というよりも、そのまま俺の状態を表していたのかな、とも思う。
でも何故俺が魂のまま固定して存在していられるか、というのは俺にも、そして神獣や幻獣達にも分からなかったみたいだ。
魂の管理官さんに話しかけられた時に「俺が今の状態でこの世界に居て大丈夫なのか」は確認していたが、「何故か原因はわからないが俺の存在は今の状態でこの世界で安定しているから俺が揺らがなければそのまま存在し続けられるだろう」というもので。
俺の自我で魂をこういうもの、として前世の斎藤樹の肉体を定義してこの世界で固定しているから、俺が自分でもう死んだだろう、と思い込まなければこのまま存在できる、ということなのだろう。
これを自覚した時にはさすがに自分が揺らぎそうになったが、それでも、今の子供達との暮らしを思い描けば、その暮らしを手放すことは考えられない訳で。
だってここ、もふもふ天国だからな!こんな色々な神獣や幻獣の子供達と接し放題もふもふし放題の生活、手放せる訳なんてないだろう?もう、ここで俺は求め続けられるなら、子守の役目が終わるまでは子守を続けよう、そう腹をくくったのだ。
だから。
オズがこれまでどれだけ辛い目ばかりにあって来たかは俺には恐らく想像もつかない。
それでも。魂さえこの世界から逃げたい、消滅したい、という虚無感は、寄り添うキキリの暖かな体温や、気づくとオズに寄り添っているシュウのぬくもりに少しでも無くなってくれるといいな、と思う。
世界樹の守り人であるユーラがオズを虚無の海から抜け出す道を示すのなら、俺は【魂のゆりかご】となって魂を守りたい、そう思ったのだった。
魂の管理官が出た(50話前後ですね)の時にも触れていますが、オズのこともあるのでもう少しはっきり説明を入れてみました。
結論はもふもふ天国万歳!なイツキなので、まったりのんびり継続です。
(だから最終回が近い!とかはありません。もふもふ天国がメインなので(笑)
のんびりもふもふ継続ですが、少しずつオズも入れて行く予定です。
次か次辺りから春になるかも?です。
(春にはまたもふもふ登場予定です!)
次回は水曜日か木曜日に更新予定です。
どうぞよろしくお願いします。




