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85 雪ウサギな雪の精霊の訪れ

大変お待たせいたしましたーーーー!

「うーー!うぅ!」

『『『『『『ーーーー、----!』』』』』


 今、目の前には雪が積もった畑に立つユーラと、その周りを飛び跳ねる雪ウサギ達。というメルヘンな場面が繰り広げられていた。




 雪ウサギが動いている!!と驚きで俺が叫び声を上げると、背中に飛びついたままのクオンも『雪ウサギ?』と騒ぎだし、その騒ぎに他の子供達やユーラが俺の方へとやって来た。

 そうして俺の叫び声に硬直したままだった雪ウサギは、ユーラが俺の隣に立った時にぴょーーん、と一メートル程も飛び跳ね、そして着地した時には五匹に増殖していた。


 ……意味が分からないよな?すぐ目の前で見ていた俺にもまったく理解できなかったからな!!本当に、飛び跳ねて、着地した時にはブレたように増殖していたんだから。


 はあ?と目を見開いて呆然としている内に、増殖したウサギ五匹がまたぴょーーんと跳ね、そして着地した時には十匹になり。あ、五倍じゃなかった、とか思っていたらどんどん飛び跳ねては増えていって、気づくと雪の残った畑は雪ウサギに埋め尽くされていたのだ!


 あんまりな事態にただ惚けて見ていた俺の横でユーラが動き、一歩前に出ると手を雪ウサギに伸ばした。そうすると雪ウサギが楕円形な体で精いっぱい顔を伏せ、そうして最初の一匹が前に出るとユーラの指先に飛び上がってちょこんと挨拶するかのように額を当てたのだ。


 ……なんか見たことある光景、だよな?え、ってことはこのどう見ても雪で作った雪ウサギにしか見えないのが、もしかしなくても精霊、ってことか?えええーーーー!


 そう、これは正しくユーラが誕生してから何度か見た光景、世界樹の守り人たるユーラへの謁見の光景だったのだ。

 それからいつまでもクオンを背中に乗せて這いつくばっていても仕方がないのでクオンを下ろして立ち上がると、ロトムを俺の傍に残して他の子供達はたくさんの雪ウサギと一緒に雪を集めに散って行った。そうして俺とロトムはユーラが最初の一匹とああして話しているのを見守っている、という訳なのだが。



「なあ、ロトム。あの雪ウサギ、あ、去年かまくらと一緒に雪で作ったウサギにそっくりだよな。で、あの雪ウサギ、精霊、なんだよな?」

『うむ。そうだな。雪の精霊だ』『世界樹が衰えてから季節の精霊は姿を消していたから、知識としては知っていたが見るのは初めてだな』


 季節の精霊……?言われてみれば確かに俺がこの地で会ったのは地水風火、ドライアードや植物の精霊、それにクー・シーやケット・シー、それにドワーフにトントゥ、くらいだったか。季節の精霊っていうと春の精霊とか夏の精霊が本来ならこの世界ではいたってことだよな。


 元々この世界には地とか火、水などの実体のあるものを司る精霊と、季節などの事象を司る精霊がこの世界には存在していた。でも、人の戦乱の影響で世界のバランスが闇に傾いたせいで世界樹が世界の存続の為に力を使い過ぎて衰えた。そして恐らくその時に事象を司る精霊たちは世界樹を補助して力を使い果たし、この世界から姿を消していた、ってことか?


 雪は実体があるから区別としてはどっちになるのかは俺には分からないけど、冬を象徴するのが雪だから季節の精霊、ってことになる気がするし。


 ぼへーーーっと子供達と雪ウサギ達が雪と戯れる姿を見ていると、くいくいとズボンを引っ張られた。


「お、ユーラ。話は終わったのか?」

「う!うううーー!」


 目線を合わせるようにしゃがみユーラに尋ねると、その横にいた雪ウサギが俺に向かってぺこり、とお辞儀をした。


「こちらこそよろしくな。最初は驚いて叫んじゃってごめんな。雪がある間、俺とも仲良くしてくれな」

『ーーーー』


 そっと手を差し出すと、ぴょこん、と跳ねて俺の手の上に乗ってくれた。その体はやはり雪なのかとても冷たかったが不思議と柔らかい手触りをしていた。




 それからは雪の精霊の雪ウサギ達が協力してくれて、昨日積んで固まってしまった雪を適度にさらさらな状態に戻し、更に子供達と協力して適度な大きさに固めてくれたのだ。そのお陰でかまくら作りの作業は一気に進んだ。

 昼食になってアインス達が戻って来て、その光景を見て驚いていたが、アインスとツヴァイはすぐに子供達に混ざりに突進して行ったし、ドライは雪ウサギと挨拶して会話をしていた。


 昼食、子供達の昼寝の後も更に雪ウサギ達と一緒に作業を続け、夕方前までには広場の半分近くを占める巨大な雪の小山が出来上がった。積み上げる時には、ライがしっかりと場所を指示していて活躍していたぞ!

 明日も一緒にかまくらの中を掘ろう、とユーラと子供達が雪ウサギ達と約束していた。


 夕方になり、子供達を見送ると夕食の準備だ。

 すっかり雪が無くなった広場の台所の竈に火をつけて、食材をマジックバッグから取り出していると。


「ん、なんだ?」

「うー?うーー!」


 つんつん、と足をつつかれて見ると、足元に雪ウサギがいた。ユーラと会話している感じをみると、恐らく最初の雪ウサギだと思われる。


「う!」

「お、そっちに行けばいいのか?」

『そうみたいだよ。何か見せてくれるって』


 こっちとユーラにズボンを引っ張られていると、ドライが来て通訳してくれた。

 何だろう、と思いつつ飛び跳ねる雪ウサギにユーラとドライと一緒についていくと、広場の周囲の畑を過ぎ、森の入り口まで来た。

 立ち止まった雪ウサギを見守っていると、身体に隠れてしまっている短い前足でたしたしと雪を叩き、そしてぴょーんっと飛び跳ねた。


「え?」

『ほほーう。これは……』


 雪ウサギが飛び跳ねた場所の少し前の木の根元に、ほんのりとした灯りが灯ったのだ。その後も少し進んでまた前足で地面とたしたちと叩いて飛び跳ねると、また少し先に灯りが灯る。気が付くとあちこちでほんのりとした灯りが雪の上に灯り、暗闇へと色を変化させる夕暮れ時と相まって森の中が幻想的な空間へと変化していた。


「キレイだな……。ありがとうな、見せてくれて」

「う!ううう、ううーー!」

『ーーー、ーーーーーっ!』


 しばらく惚けたようにその光景を眺めた後、しゃがんで戻ってきていた雪ウサギにお礼を言うと。


『イツキ、どうやらこの光景を見せたかった訳じゃないみたいですよ。光っている場所の雪をどけて見ろ、って言っているようですね』

「へ?そうなのか?じゃあやってみるか」


 少し前にある、最初に光った木の根元の雪をどけてみると。


「あれ?これ、なんだ?」


 そこにはひょっこりと、ホワイトアスパラに似た白い芽が伸びていた。


「うー、う!」

『へえ。それ、食べられるようですよ?恐らく精霊の力が籠った植物ですね』

「え!これ、食べられるのか。もしかして、採っていいのか?」

『ーー!ーーー!!』


 頷くようにぴょんぴょん飛び跳ねる雪ウサギの姿に、遠慮なく採って行くことにした。冬に野菜は貴重なので、かなりありがたい。

 全てを集め、改めて夕食の準備にとりかかる前に、ユーラに今採ったばかりのホワイトアスパラもどきを食べるか聞いてみると、手にとって生のままストローのように切り口に唇を寄せて吸いだした。


「うわっ。また光ってる!」


 ユーラに吸われるように先から根本へと小さな灯りが流れて行く。そうしてユーラが口を離すと、ホワイトアスパラもどきはしんなりとしぼみ、気づくと消えてしまっていた。


「……こ、これ、俺が食べても平気なのか?」

『精霊の力が籠った植物ですからね。イツキはニキニキだって食べていたから平気では?』


 そう言われると、確かにファーナの実はその色から食べるのに躊躇して食べていなかったが、それ以外の精霊の力が籠った果実やニキニキなどは食べていた。

 もう今更か、と思い食べたホワイトアスパラもどきは。ほんのりとした甘みがあり、柔らかくてとても美味しかったのだった。







日曜日は更新できずすいませんでした。

毎年のことなのですが、台風が来ると体調があまり良くなくなり……。

季節の変わり目に弱いので、また今後も台風の影響などで今月は更新が少なくなるかもです。

申し訳ありませんが、のんびりとお待ちいただけたら嬉しいです。


次は日曜日、に更新できたらいいな、と。

どうぞよろしくお願いいたします。


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