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69 初夏の訪れ

 シェロと一緒に森を歩き、念願の胡椒を入手して不思議植物のニキニキを大量に採った翌日の今日は、俺の晴れやかな心を写したような晴天だった。


 差し込む眩しい朝陽に飛び起きた俺は、朝食の準備の前に広場の台を日当たりの良い場所に移動し、胡椒の果実を並べて干した。

 漂う独特の刺激のある匂いにドライが嫌そうにしていたけど、俺の昨日からの浮かれ具合を知っているからか口に出しては苦言は何も言われなかった。


 まあ、アインス達は誰も近寄りもしなかったけどな!でもこれだけは絶対に譲れないからな!干さなくても確か食べられたと思うけど、でも、生で食べるのもちょっと勇気がいるから、ここはしっかり干すまで我慢だ。


 因みにニキニキはシェロが言っていたように、夕食に湯通しして塩をまぶして食べてみたが、食べた感じはおかひじきに似ていた。味はえぐみも苦みもあまりなく、噛んだ触感は乾燥ひじきよりも生ひじきって感じだった。

 でも、野菜炒めの具材としては触感も面白いし、今の時期しかないなら見かけたらもうちょっと確保しようかと思ったぞ。


 ただ、そう昨夜思ってしまったのがいけなかったのか。


『うわぁ!昨日のニョキッと生えてたのが、畑に引っ越して来ているの!もしかして、イツキについて来ちゃったの?』

「う、うーん。多分、ついて来てはいないとは思うんだけどな……。でも、もしかしたら俺達が楽しそうだったからついて来ちゃったのかもな?」


 そう、今朝起きて「やった晴天だ!胡椒を干すぞ!」と勢い込んで外に出て目に入ったのは、雨期が開けそうだから種蒔き用に用意していた畑にいつの間にか群生して生えていたニキニキの姿だったのだ。

 茫然と立ち尽くした俺の目の前で、ニョキッと生えたニキニキは、とうとう畑から広場へと陣地を広げた。


 まあ、それでも胡椒を干すのを優先させたがな。優先順位的に胡椒は譲れないからな!


『じゃあ、今日もこれ、採る?』

「そうだね。これ以上ほうっておいたら、広場もニキニキで埋まってしまいそうだから、聖地に行く前に皆で採って貰おうかな」

『わかった。じゃあ、採るぞ』

『おう。採るか』


 一番最初に来たクオンと、二番目に来たロトムがまだ朝食を食べている俺の脇で楽しそうにニョキニョキ顔を出すニキニキをどんどん根こそぎ採りだした。


「あ、そうだ。クオン、ちょっとおいで」

『なーに?イツキ』

「これ、ちょっと食べてみるか?ニキニキを湯がいて塩をふったヤツだけど」

『これー?……じゃあ、一口だけ食べてみる』


 丁度クオンの足元から顔を出したニキニキをちょいっと前脚で採ったクオンが、小首を傾げながら口を開けた。そこに一口分、ニキニキを放り込むと。

 んー?むーーー?と味を確かめるように噛みしめたクオンは、ゴクンと飲み込んだ後も不思議そうに小首を傾げたまま口を開いた。


『んーーー。なんか、ぷにぷにしてて面白いね。味はあんまりないから、食べられるのは食べられるけど』

「そうか。今日もたっぷり採れるから、帰りに少し持って帰って皆で食べてみてな。生でも同じような感じだから」

『分かった!じゃあ、張り切って採るね!』


 精霊の力によって生えた不思議植物なだけに、実は魔力が濃いとか何か効果があるかな、と思ったけどクオンでも何も感じなかったか。そこら辺はアーシュが来たら聞くしかないかな。じゃあさっさと食べて、俺も採るか。


 急いで朝食を食べている内に次々と到着した子供達は、昨日とは景色が一変した広場を見て目を丸くした後は、せっせと採取するクオン達を見ると、一緒にニキニキの採取をしてくれた。

 俺が片付けて合流する頃にはもう半分くらい採取が終わっていて、そこに更に生えるニキニキももぐら叩きのように楽しそうに駆け回りながら採っている。


『あっ、イツキはあそこの台の周りね!あの匂いだと、私達は近づけないから』

「ああそうか。分かったよ。じゃあ俺は台の周りを採るな」


 クオンに言われて見回すと、確かに胡椒を干した台の周囲だけはぽっかりと一面の緑となっていた。

 そしてなんとかあらかた台の周囲を採りおわる頃には、子供達が採ってくれたニキニキは小山が二つできていたのだった。


 ただ、それでも採り終わった場所からもニョキッと顔を出すニキニキに切りがないと、日課の為に子供達に声を掛けて聖地へと向かった。


 ……家に戻ったら、また群生していたらどうしよう。これはそのままにしていたら、雨期が開けたら消えるのかな?後でクー・シーの集落に問い合わせてみよう。


 いつものように泉で子供達と別れ、世界樹へ向かうといつもの場所でおんぶしていたユーラを降ろす。すると途端にバタバタと手足を動かして寝がえりをうつまで見守っていると、いつの間にかカーバンクルが世界樹から降りて来ていた。


「ああ、そうだ。カーバンクル、もしかしたらこれも食べるか?さっき採った物だぞ。ファーナの果実と一緒に置いておくから、良かったら食べてくれな」


 日課へ行く前に、マジックバッグからファーナの果実とさっき採ったニキニキを何本か一緒に並べて置くと、それを見て近づいて来たカーバンクルがニキニキに鼻を寄せてクンクンと匂いを嗅ぐと、パクッと口に入れた。


 おお、やっぱりカーバンクルは食べたか。不思議植物だから、もしかしたら、って思ったんだよな。やっぱりニキニキにも不思議な力か何かがあるのかもな。


 最初は俺が居ると近寄って来なかったカーバンクルも、最近では俺が居ても近くまでは来るようになっていた。


 でもまだ撫でさせてはくれないんだよな。まあ、ユーラの子育てと同じで長期戦で構えていれば、そのうちまた肉球の感触だけでも味わえるかもしれないしな!


 ユーラが寝がえりからスムーズにお座りしたのを見届けてから世界樹へと近づき、世界樹の葉を片手にいつものように目を閉じる。


 そうだ。今日はあのニキニキを思い浮かべてみるか。本当にみるみるうちに伸びるんだもんな。思わずムー〇ンのにょろにょろだっけ?あれを想像しちゃったもんな。


 ニョキニョキと葉が枝から伸びる様を想像しながら魔力を注ぎ、目を開けると。


「おお。も、もしかしてニキニキのことを世界樹が意識した、とか?いやいや、まさかな……」


 キラキラと光を振りまくように、風もないのに遥か上空で枝がわさわさとざわめいていた。

 ホースで水をまくように、波のように降り注ぐ光をぼんやりと眺めながらもしかしたら今頃ニョキニョキと葉が生えているのかもしれない、とざわめく枝を見上げていると、いつかのようにヒラヒラと一枚の葉が舞い降りて来た。


「おお、二枚目だ!これ、俺が貰ってもいいんですよね?ありがとうございます!」


 両手を広げた手に舞い降りて来た世界樹の葉は、以前貰った物よりも鮮やかな薄緑色で二回りくらい小さい新葉だった。

 その葉を陽ざしにかざしてみると、いっそう薄く緑に輝いて、初夏の到来を知らせてくれたかのように思えたのだった。






なんかまたニキニキが登場してしまいました( ´艸`)こんなに出番がある予定じゃなかったのに……。

次はユーラの成長になるかと思います。


大変お待たせ致しましたーーーーーっ!!

予防接種の副作用が……中々抜けませんでした<(_ _)>

 

やっと回復して来たのにこの冷え込みで、本当に秋はイヤ!というイヤイヤ気分です( ´艸`)

次はお待たせせず投稿できると思います。


申し訳ありませんが、のんびりとお付き合いいただけるとうれしいです。

どうぞよろしくお願いします<(_ _)>



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