55 カーバンクルと少しだけ触れ合えた?ようです
落ち着け……落ち着くんだ。ここで俺がテンション上げて近づいたら、絶対逃げて行っちゃうからな。
カーバンクルは、最初の時に見かけて以来、あれから何度森へ来ても一度も気配さえ感じたことはなかった。それがこんなに近くに来た、ということはファーナの果実か、又はユーラに反応しているかだろう。
……今まで全く反応しなかったユーラがカーバンクルに反応したのは気になるけど、とりあえずこの前は果実が気になっていたようだし。とりあえずファーナの果実で聞いてみるか。でも、驚かせないように、慎重にそっと声を掛けてみよう。
「……ファーナの果実が欲しいのか?俺は何もしないし、ただ果実を持って行くだけだから逃げないでくれよ?」
皆にはそのまま静かに待機をお願いして、ゆっくりと一歩、一歩とファーナの果実の方へ近づく。
ファーナの果実はこの間と同じように、俺の腰程の細い若木に三つ、真珠色に輝く果実をつけていた。
時間をかけてファーナの果実の元へたどり着くと、手をそっと果実の下へと差し出す。ポトッと落ちて来る果実を順に全てとると、採った果実を掲げる。
「ほら、採ったぞ。そっちに持って行くから、そこで待っていてくれな?」
ファーナへ近づいた時よりも更に身長に、カーバンクルの隠れている木の方へと近づいて行く。そして残りあとニメートル、という処でしゃがんで果物を置いた。
「ここに置いておくな。……なあ、ファーナの実も勿論だけど、もしかしてユーラのことも気になっているんじゃないか?ユーラは新しい世界樹の守り人のハイ・エルフの赤ちゃんなんだ」
近づきながら伺っていたら、カーバンクルは俺よりも俺の背のユーラのことをチラチラと気にしているようだったのだ。
カーバンクルはこの世界では恐らく神獣か幻獣だよな?だとすると、絶対世界樹の守り人であるユーラのことは気になっている筈だもんな。
しゃがんだまま抱っこ紐をほどき、おんぶしていたユーラを前に持って来てだっこの状態にする。するとユーラの顔が動き、カーバンクルの方を見つめた。
おおおおおっ!動いた、ユーラが動いたぞ!最近は目の表情を少しだけ読めるようになって来たけど、こうして意思表示しているのを見ると、感慨深いものだな。ユーラにはゆっくりと成長して欲しいけど、うれしい、楽しいと感情を表現してくれれば、その感情を共感できるしな!
じっと見つめる瞳からは感情を伺うことは出来なかったが、それでもユーラがカーバンクルのことを気にしていることは良く分かった。
カーバンクルの方は、と見てみると、木の陰から身体一つ分出て来て、じっとユーラの方を見つめていた。
おおおっ!耳は確かに長めでうさぎに似ているけど、毛色が耳の先が濃い翠で根元へ向けて白っぽくグラデーションになっているし、身体も白かと思ったらうっすら薄緑だな。それにうさぎとは体型が違って、どちらかというと子犬のような体型だし、後ろ脚はシュッとしているな!尻尾も長くてふっさふさだし。ああ……ほっぺのふくふくの毛並みに、もふっと手を埋めたらとても気持ちよさそうだ……。
そう考えた瞬間、ビクッとカーバンクルが飛び上がり、俺の方をじーっとみつめた。
ええっ!もしかして自分に向けられる感情が分かるのか?いやいやいや、やりませんよ、勿論!いいと言われるまで、ノータッチですよ!ほら、俺、手を出さないですよ!
ワタワタと内心大慌てで取り繕いながらカーバンクルの方を伺うと、一歩下がっただけでなんとかとどまってくれていた。
ふと視線を下から感じて見ると、ユーラがじーっと俺を見ていた。
うううう。すみませんでした!本当にすみませんでしたっ!最近はいつでも子供達をもふもふできるから、自分の欲望に素直になり過ぎているんです!嫌がる子を無理やり、なんて絶対しませんから!!
そう必死で思いつつしょんぼりと頭を下げたら、仕方ないな、と言わんばかりにユーラの視線がカーバンクルへとそれた。
なんだよ、ユーラ。一気に感情が出るようになったじゃないか。うれしいけど、なんか複雑なんだけど!
と、複雑な内心を持て余していたら、ユーラとカーバンクルの見つめ合いの間に、ぴょこんとノームが顔を出した。そしてすぐにスプライト達もわちゃわちゃとカーバンクルの方へ寄って行く。
おお、ちょっと戸惑っているけど、逃げる感じはないな。まあ、精霊相手に逃げるなんてことはないか。
何事か、と思って見守っていると、カーバンクルの目の前に到着したノームとスプライト達が、俺の方を見ながら大きな身振り手振りで何かを訴え始めた。
あれ?もしかして俺は大丈夫、とか言ってくれたりしているのかな?うわぁ、思わぬところからの援護射撃が!ありがとう、ありがとう!本当にお世話になりっぱなしだなぁ……。
しばらく続いていたが、何かが通じたのか大きく頷いたノームとスプライト達が今度はこちらへ歩いて来る。
そして俺の目の前で止まると、俺の目の前で身振り手振りで帰るように促し出した。
「ん?……んーーーー。もしかして、俺達に先に家に戻れ、って言っているのか?ふむふむ。その後はカーバンクルが付いて来てくれる、と。おお、そうだよな。いきなり親しくなんてなれないもんな。俺達の家や暮らしをゆっくり観察して、一緒に過ごせると思ったら姿を現してくれたらいいか」
なんとなくそう訴えかけられている気がして言ってみると、うんうん、と大きく頷いた。どうやら合っていたようだ。
「だってさ、ユーラ。家に来てくれるみたいだから、またカーバンクルには会えるからな。今日はもう戻ろうか」
そう語り掛けると、しばらくしてからカーバンクルの方を見ていた顔を戻し、俺を見上げた。
よし、これはいいってことだよな!じゃあ、そろそろ子供達の迎えが来る頃だし。急いで戻らないとな。
ユーラをだっこしたまま立ち上がろうとすると、慌ててスプライト達が俺のズボンをくいくいと引っ張った。
「ん?まだ何かあるのか?……ああ、ファーナの果実か。あれ、一つでいいのか?じゃあ二つはしまっておくから、欲しい時は言ってくれな」
目線を逸らしている間に、いつの間にかカーバンクルがファーナの果実を一つ持って行き、その場で食べていた。
本当に食べられるんだな……。カーバンクルの好物なのかな?でも確かにあの小さな身体で一気に三つはいらないか。じゃあ、ファーナの果実をしまって行くか。
そっと立ち上がり、ファーナの果実を拾ってから引き返し、子供達と合流してから急いで家へと向かう。
『ねえねえ、あの子、後ろをついて来ているよ?一緒に行かないのかな?』
「そうか、クオン。後ろをついて来てくれているか。あの子はちょっとだけ警戒心が強い子なんだよ。俺達になれたら自分から出て来てくれるだろうから、それまではそっとしておいてあげてくれな」
俺の隣を歩きつつ、後ろをしきりに気にしているクオンにそう言うと、「分かった!」とそれきり気にしなくなった。
「皆もあの子のことはそっとしてあげてくれな」
『『『『『『うん!(ギャウ!)(ワンッ)(ニャー!)』』』』』』
結局俺はそれからはカーバンクルの気配には気づけず、家へ戻ってからはいつものように過ごしたのだった。
ただたまにユーラの視線が動くようになり、それを見るたびに微笑んでいたらツヴァイに「ニヤニヤして気持ち悪い!」と言われてそのうれしさがしぼんでしまい、ツヴァイの夕食の焼肉を少な目にとりわけて出してしまったのは仕方ないよな!!
いや、大人気ないと思います!( ´艸`)
さあ、イツキがカーバンクルを存分にもふれる日がいつか来るのでしょうか!!
カーバンクルについてはまた次回です。
どうぞよろしくお願いします<(_ _)>




