54 新たなご近所さんが引っ越してきたようです
ドワーフ達への依頼した品物は、あっという間に試作品が仕上がり、翌日にはベッドが設置された。
そこに毛皮の毛布をひいて横たえ、食事の準備中は子供達に様子を見て貰えるので安心だ。ユーラは未だにほとんど身動きもしないけど、しっかりと転落防止柵もつけてもらったしな!!
抱っこ紐は一番大変だった。洋服はベッドと共にトントゥ達が持って来てくれ、今では下着も洋服もユーラに着せることも出来たが、抱っこ紐は精霊達にとってはまったくの未知の物だっただけに、何度も試作品を作っては改良し、結局トントゥ達が満足できる仕上がりになったのは五日後だった。
紐の太さでユーラに負担がかかったり、お尻の保持が不安定になったりと、ユーラが意思表示を示さないがゆえに細心の注意を払って作ってくれたのだ。
お陰で抱っこもおんぶも出来るようになり、両手も使えるようになったから、ずっとユーラと一緒でも自由に作業も出来るようになって大助かりだ。
『考えてみましたが、こうして今まで知らなかった物を作るのも楽しいですし、世界樹の守り人の成長を近くで見守りたいという一族の総意もありましてな。我らドワーフとトントゥの一部ですが、この近くに引っ越してこようかと思っておるのですが、かまいませんかな?』
「おお!デントさんも来てくれるのですか?俺はとても助かりますが、ここら辺は岩山とはいえ森で、資材が揃うと思えないんですがいいんですか?」
ドワーフ達への依頼は、ノーム達に頼めば今までも出来ていたが、近くに引っ越してくれたらいつでも思いついた物を作って貰えたら、俺としてはとっても助かる。けど、森から出て岩山まで行けば、掘れば鉱石くらいは出そうだけど、ここの守護地は岩山だということを忘れるくらいに森しかないのだ。
『いや、そこはここの主のフェニックス様にお尋ねして許可を貰わないとなりませんがな。ここからそれ程いかない場所の地下には鉱石がありそうな処があるとノーム達が教えてくれましてな。そこに是非とも数人を常駐させたいと思っているのです』
「そうか。ノーム達に聞けば、鉱石の場所なんていくらでも分かるのか。なら、俺としては助かりますので、アーシュは明日の朝に顔を出すと思いますので、今日は泊まって行って下さい」
そうしてアーシュにきちんと許可をとり、ドワーフ達とトントゥ達の一部が近所に住むようになったのだ。これでご近所さんはクー・シーの集落とドワーフとトントゥ達とで二か所となり、ちょっとだけ毎日がまた賑やかになった。
引っ越しはあっけない程にすぐで、地下を掘るのもノーム達とドワーフ達の作業であっという間だった。
あの時は驚いたよなぁ。見ていても、一時間もしないで洞窟が掘り上がったのだから。そこから交代でドワーフ達が鉱石を掘ったりするらしいけど、この場所を聖地と繋いでいるからか、なかなか貴重な鉱石も出ているみたいだしな。
こうしてユーラとの暮らしを快適にできるように色々と改築し、一月が経った。
その間にはとうとう念願の風呂の改装もしたぞ!今までは井戸の近くに浴槽だけ置いてある感じだったのが、ユーラも風呂に入れるように、とドワーフの棟梁たちが屋根と小さな小屋をつけてくれたのだ。
お陰で雨の日も雪の日も、お湯をなんとかできればお風呂に入れるようになったのだ!!
思わず出来た時はうれしくて、張り切って井戸から水を汲んで、アインス達に頼んでお湯を沸かして貰ったよ。
浴槽自体は子供達も入れるように大きく作っておいたので、キキリとドライも一緒に入ったぞ。
アインスとツヴァイは俺にお湯で洗われるのを嫌がって、聖地の泉での水浴びですますんだよな。ドライは案外お湯で身体を洗われるのも気に入っていて、たまにお湯を沸かしてくれる替わりに洗ったりしている。
その間に森はいつの間にかすっかり春となり、新しい果物もあちこちで見かけるようになっていた。
その為、アーシュに少し結界を広げて貰い、ユーラをおんぶして今日は午前中に日課をすませ、午後は子供達と一緒に森へお出かけすることにした。
ユーラを聖地の外へ出すのは不安だったが、この一月で大分安定したとかで、家の近辺の森なら、と許可が出たのだ。でも怖いから、日課の後、世界樹の処で過ごす時間をいつもよりも多くとってみたぞ。
『あったーーー!こっちに果物、あったよ!』
「おお、ありがとう、クオン。今そっちに行くなー!」
すっかり春の森の中は、苺のような果物なども豊富で、あちこちでスプライト達がこっちこっちと手招きをしてくれた。
果物は子供達のおやつにも出来るし、干して保存食にもなる。そしてドワーフ達へのお礼の果物酒にもなるので、果物が豊富な内にたくさん確保しておきたいのだ。
「おお、これはまた凄いな!これは食べられる果物だよな?」
クオンがこっち!と案内してくれた場所には、俺が手を伸ばしてやっと届くくらいの木に、青い小さなブルーベリーのような果実が鈴なりに実っていた。
足元のスプライト達に確認すると、大きく頷いてどうぞどうぞと促してくれる。
「でも俺でも上の方には手が届かないし、実も小さいからどうやって集めようかな……」
『僕、上の方採るよ!落とすから下で拾って』
『ニャウナァン!』
「お?ライがやってくれるのか?それに、確かナウだったか。ナウも木登り出来るのか?」
『ニャウン!』
得意そうに胸を張る、まだ二足歩行できない小さなケットシーの子猫のナウを抱っこして聞いてみると、得意そうに胸を張った。
ゴロゴロと喉元をくすぐってやり、そっと木の枝にのせると身軽にひょいひょいと木を登って行った。ライも俺の目の前で空中でホバリングしながらチラチラこちらを見ていたので、腕を差し出してとまらせるとあたまをそっと撫でる。
ユーラをだっこしたりおんぶしたりしていると、少し大きくなってきているライが肩に乗るとユーラに羽が当たってしまうのだ。だから最近では遠慮しているけど、甘えたいそぶりをみせるライをこうして腕にとまらせるようになったのだ。
「ライも頼むな。今から下で皆に頼んで布を広げるから、そこに落としてくれ」
『うん!たくさん落とすね!』
バサッと飛び立つライを見送り、クオンやキキリ、それにケットシーとクー・シーの子供達にお願いしてカバンからトントゥ達に作って貰った大きな布を広げて貰う。
そこに上から青い小さな果実がどんどんと落とされて溜まって行き、子供達から歓声が上がった。
その後もあちこちで果物を皆でとり、そろそろ戻ろうかと話していた時。
ふと、おんぶしているユーラが動いた気がした。これまでもたまに瞬きをしたり、口元を動かしたりはしていたが、顔や手足を動かすことはほとんどなかった。それが急にかすかでも動いたので気になり、後ろを向いてユーラの方を伺うと、少しだけ顔を動かし、右の方を見ていた。
ユーラが動いてまで何を見ているんだ?……ん?あの真珠色はファーナ?凄く珍しい筈なのに……?
「ん?あれ、あれは……」
ファーナの方へ向かおうと思った時、ふいに視線を感じてファーナの傍の木の陰に目を向けると。
ああっ!確か初めてアーシュの守護結界を越えてこの森へ入ってしまい、シェロに会った時に見かけた!
ユーラよりもちいさな、大きな耳を持つ兎に似たもふっとした姿に額にキラリと宝石が光る。
カーバンクルだっ!!
すいません、新しい子?のようなそうでないような( ´艸`)もうちょっと後にしようかと思ったんですが登場です。
次の子はカーバンクルになりました!
ふっと忘れれていたのを思い出した、なんてことはない……です、よ?(チラチラ)
カーバンクルは神獣です!
どうぞよろしくお願いします<(_ _)>




