20 建築作業が始まるようです?
『クウ』
『ミャウー』
目を開けると目の前には、ケットシーの子供の子猫と、双頭の赤ちゃんワンコの顔があった。
なんだか前にも同じようなことがあったな、と思ったが、違った。
『クオクオッ!』
『ミャウミャウッ!』
テシテシ、プニプニと顔に犬猫パンチをしきりに繰り出されているのだ。
まだ爪は伸びておらず、顔に当たるのはまだ柔らかい、ピンクの肉球の感触だからたいして痛くはないし、何なら幸せな感触なのだが、何故自分がそんな状況にいるのかをぼんやりと思い出してみると。
あっ、そうだ。俺、ドライアードの魅力にのぼせて鼻血を出して……。
うわぁ、自分でも最低だな。あれ、でも鼻血は、と手で鼻を触ってみると、柔らかな布が当てられていた。
『ああ、イツキ。気が付いたの?ドライアードにのぼせて鼻血を出して気を失うなんて、ドン引きだよ……。でも、優しいシェロに感謝するんだね。布を当ててくれたのは、彼だよ』
いや、確かに自分でもドン引きだけどさっ!どこからそんな言葉が出て来るんだよ、ドライはっ!!ううっ……。でも、手当をしてくれたのはシェロなのか。ここはアーシュの守護する森の中だから、もしかしたら雨ではぐれた俺を探して来てくれたのかな?うわぁ、なんだかとても申し訳ない……。
首と肩に乗っている子猫と赤ちゃんワンコを落とさないようにそっとお腹の上へと移動し、鼻に添えられた布を落とさないように手で押さえながらゆっくりと起き上がる。
するとすぐ傍には座ったドライ、そしてドライの奥には背丈が一メートルちょっとくらいの小さなゴツイ髭もじゃのおっさんがわさわさと動き回っていた。その足元には、小さなノームやスプライトたちの姿も見える。
「うわっ、もしかしてドワーフ、か?確か、物語によっては亜人だったり妖精だったり、精霊の一種だったりしたけど、この世界では精霊、になるのかな?」
『ドワーフは精霊ですね。土の属性の上位、私と同じ階級の精霊です。実体があり、物作りが好きなのです。普段は地下などで、石や鉱石を加工しているのですが、今回は木の加工をお願いしました。快く引き受けてすぐにここまで出て来てくれましたから、心配いりませんよ』
小声で呟いたつもりの独り言に返事があり、しかもその声の主のドライアードがいつの間にか後ろに立っていたことにも驚いて飛び上がってしまった。
「ウヒッ!って、ああ、すいませんっ!ドワーフは精霊なんですね。答えてくれてありがとうございます。あ、あと、先ほどは、その……倒れてすいませんでしたっ!!」
心構えもないままにドライアードの声を聴いて、先ほどの失態を思い出してワタワタしてしまった。
だって、どんな顔で会ったらいいんだよっ!!で、でも、振り向かない訳にはいかない、よな……。
そーっと、恐る恐る振り返ると、いい笑顔のドライアードを見て、つい条件反射のようにぺこぺこしながら謝ってしまったよ……。これぞ日本のサラリーマン、だな。
とりあえずそんなわちゃわちゃとした状況が落ち着くと、子猫と赤ちゃんワンコを両手に抱えて立ち上がって改めて辺りを見回して様子を見てみると、なんだか大変なことになっていた。
鼻血の具合から、気を失ってそれ程時間は経ってないと思うのに、もうすでにドライアードの大木の周囲の草はなくなり、どこからか持ち込まれた木が材木へとドワーフによって製材も開始されていた。
その周辺では、スプライトがわさわさと草を移動させ(ってスプライトは草を移動できたのか!知らなかった!)、ノームが草がどいた場所の土を整え、更に石なども砕いたりどかしたりしてせっせと整地作業をしている。
みるみる内に出来た空き地に、ケットシーとクー・シー達が何やら持ち込んだ種を植えていた。
『ああ、気が付いたのですか、イツキ。強い雨が降り出したと思ったら、お子様たちが貴方とはぐれたと慌てて集落へ戻って来た時には驚きましたよ。なのに、何故か聖地へまで入っていて、更に神獣様や幻獣様と顔を会わせてドライアード様の大木に住むことになった、なんて一体どうしたらそうなるのですか。本当に貴方は変わっていますよね』
ハハハハハ……。そう改めて言われると、我ながらひどいな……。これが他人事なら、まさに、「なんだよそれっ!ありえないだろうっ!」って叫ぶところだよ。
でも、自分のことながら何がどうなってこんなことになっているのかは、全くわからないんだよなぁ……。
「なんだか気づいたらそういうことになってたんだよな。あ、そうだ。クー・シーの集落の人たちも手伝ってくれているんだな。ありがとう。あと、探して貰ったお礼もまだ言ってなかった。あんな雨の中探して貰って申し訳ない。心配してくれてありがとうな」
なんだか本当にクー・シーの集落の皆にも世話をかけちゃったよな。今日、初めてお邪魔させて貰ったっていうのに。
クー・シーの集落では歓迎してくれて、しかも子供達も抱っこしてもふもふさせて貰ったりしたんだよな。いやぁ。クー・シーの子供達もかわいかったなぁ。
『いや、お礼を言うのはこちらなのです。こうしてこの土地が聖地と繋がり、畏れ多くも私たちクー・シーまでもこの地から聖地へ立ち入る許可を神獣フェニックス様からいただけたのです。それに、この地を通してケットシー達にも、これから様々な物を融通して貰えることになったのです。だから、集落の皆も大喜びしているので、気にしないで下さい』
ほほう、そんなことになっているのか。それがどう凄いのかはなんとなくしか分からないけど、まあ、クー・シー達もここに訪ねて来てくれるなら、俺もうれしいよな。アーシュはいつもとんでもないことばかり俺にやらせると思っていたけど、クー・シー達のことは感謝だ。
『クー・シーさん達は皆さん真面目ですなぁ。我らなど、守護地の幻獣様のところへよく押しかけて、色々融通を頼んでますなぁ。ああ、クー・シーさん達も、昼間はここに子供達を預ければいいのではないですかなぁ。ねえ、イツキ殿』
シェロと話していると、子猫の父親のケットシーがとことこと近寄って来てそう言った。
まあ、確かに今日会ったクー・シーの集落の子供達は子犬なのに二足歩行していてとっても可愛かったし、犬好きな俺としても歓迎だけどさ。なんだかこのケットシーのペースに乗せられると、なんでもあっという間に決まっていそうだよな。
「そうだな。シェロ、もし集落の人たちがいいなら、そうしてくれていいよ。ここに家が建てば、ケットシーの子供達も毎日預けに来る、んですよね?」
『ええ、ええ、お陰様で我らケットシーもこの地へと立ち入ることの許可を無事にいただきましたからなぁ。何か必要な物があれば我らが手に入れて来ますので、いつでもご要望下さいなぁ。例えば、今まいている野菜の種、以外の様々な種や苗なども人里から入手も出来ますでなぁ?』
うう……。やり手だな、この人。俺には太刀打ち出来そうにないな。くっ。いつかその見事な毛並みをもふもふさせて貰うからな!得にその太めのふさふさの尻尾だ!
結局色々とケットシー達には頼むことになり、それからシェロと一緒にスプライト達の案内で森の中に散らばる倒木を集めに出かけた。
マジックバックにそのまま入らない程大きな木は、一緒に来てくれたドワーフがあっという間に建材に加工してくれたぞ。
あのドライアードの依り代の木に住むなんて、考えただけでどうしようかと思うけど、でも、どんな家ができるかなんだか楽しみだな!
次こそもっともふもふ成分を……!!
イツキがどんどん情けない成分の割合が増えている感じがしますが、まあ、それがイツキ、ということで!
どうぞよろしくお願いします<(_ _)>




