12 ここは精霊パラダイスだったようです?
『お、クー・シーだね。彼も精霊だよ。姿は幻獣のようだけどね』
思わず手をわきわきと動かし、一歩、一歩と近づいている最中にドライの声に我に返った。因みにクー・シーの彼までは約ニメートル手前で止まったぞ!だから、そんな不審そうな目で見ないで下さい!
『ええと?彼はこの守護結界に入ることは、神獣フェニックス様の許可は得ているのですよね?』
『ここに守護結界があるって聞いてなくて、皆で入ってきちゃったんだー。でも、どうせ父さんも気づいているだろうし、来ないならいいんじゃないー?イツキは父さんが拾って来たんだし』
アインス……。言い方!確かに拾われたけど!そして放り投げられたけど!でも理由はお前たちの子守りだからな!
でもまあ、確かに今アーシュが来てないのなら、入ってもいいのかな?できたらせっかくだし、もうちょっと奥まで見てみたいよな。
「えーっと。アーシュに、ああ、神獣フェニックス様には子供達の子守りとして拾われたんだ。なあ、せっかくここまで来ちゃったんだし、もう少し見て回ったらダメかな?」
『んーーー……。そうですね。この場所にあなたは拒絶されていないようですし、お子様たちと一緒なら大丈夫でしょう。ただ、この入り口付近まではいいですが、奥へ立ち入るのなら、神獣フェニックス様の許可を貰ってからにして下さい』
この奥って何かあるのかな?ここの守護結界は、精霊の保護の為だけではないってことか。とても気にはなるけど、でも、もうなんだかんだで結構時間経っているしな。お昼には戻らないとアインス達もお腹が減るだろうし、アーシュも迎えに来るかもしれないしな。今はここら辺を回れるだけで十分だ。
「分かった。ありがとう。どうせそろそろ戻らないといけない時間だから、それまでこの近辺だけ見させて貰うな」
『あっ!そうだな、お腹減ってきたもんな!じゃあ、もうちょっとここら辺みたら、戻ろうぜ!』
と、いうことで、それぞれこの近辺を出歩いてみることになった。
実はさっきから甘い匂いがしていて、気になっていたんだよな!
風に遊ぶシルフたちに髪をもてあそばれながら、草に潜むスプライトやノームたちを踏まないように歩きつつ、甘い匂いを追ってクー・シーと一緒に進む。
クー・シーはもしかしたら俺の監視なのかもしれないが、短い脚でちょこちょこ歩いて姿がたまらなくかわいらしいから俺的にはそんなことはどうでもいい。
ドライがクー・シーは精霊だって言ってたけど、すっごく柔らかそうなもふもふな毛並みは、触ったらとっても気持ちよさそうだ。
クー・シーって実体はないのかな?今触れてみたら、もっふもふを味わえるのでは……。
そんなことを考えていたからか、少しだけ距離をおかれてしまい、ガックリしてしまった。
アインス達の羽毛も素晴らしいけど、犬系のもふもふな毛並みも大好きなんだよなー。
「おっ、あれかな?なあ、クー・シー。あの果実が食べて大丈夫な物なら、少しだけ採らせて貰ってもいいかな?」
トボトボとシルフに笑われながら歩き、甘い匂いの元の木に実った果実を見つけた。
俺の背丈ほどの小さめの木に実っていたオレンジ色の果物は、ぶどうのように房に小さな果実がいくつも連なっていた。そんな木が五、六本纏まって生えており、辺りに甘い匂いを振り撒いていたのだ。
『あれは毒はないし、人が食べても大丈夫だと思います。……貴方でも、食べても害はないと思いますよ。ただこの果物は精霊も森の小さな動物達も大好きなので、食べられる分だけにして下さい』
「ああ、分かったよ。ありがとう。じゃあ、五個貰うな」
人が大丈夫だと言ったのに、わざわざ俺のことを付け足したのは気になるが、まあ、そこはもう一度会えたらオルトロスにでも聞いてみるしかないだろう。聞くにも覚悟がいりそうなので、とりあえず今は気にしないことにして果物に手を伸ばした。
匂いが熟して強い果実を選んで、一つ、二つと採ってカバンへ入れていると、下からじーっと熱い視線を感じた。
「ん?おおっ、お前さん達も欲しいのか?ちょっと待っててな」
下を見ると、ノームや妖精のような姿の小さな精霊たちがじっと果物を見上げていた。そして遠巻きに、木の陰には兎のような細長い耳のもふっとした小さな動物?の姿もチラチラと見えていた。
「クー・シー。皆に熟している果物を採ってあげていいか?」
『はい。ふふふ。貴方は不思議な人ですね。カーバンクルまで姿を見せるなんて。私達の前にも、あまり出て来ないんですよ』
な、なんだって!カーバンクル!あの、額に宝石のある、兎に似たもふもふだったよな!大抵どの物語でも、乱獲されて希少だったり、姿を人前にほとんど出さない幻の存在!
思わず木の陰を覗いて姿を見てみたい!という衝動のまま近寄りそうになるが、そこはぐっと堪えて熟している果物を自分の分以外にいくつか余計に採る。
そして足物の精霊たちを踏まないようにゆっくりとしゃがむと、手のひらに果物を乗せて差し出した。
『ーーーーーーーっ!!』
かすかに歓声が聞こえた記がしたが、その姿に合わせた声の大きさなのか、それとも俺には聞き取れない言葉だったのかは不明だが俺の耳には内容は聞き取れなかった。
それでもうれしそうにわーーーっと寄ってきた小さな精霊たちが、房の一つを引っ張ってとっては両手に抱えて齧りつく。おじさん顔のノームも、小さな幼女のようなスプライトたちも、皆が満面の笑みを浮かべている。
まるでガリバー旅行記の中にいるみたいだ。
「ふふふ。ここにいくつか置いておくから、皆で食べてくれな」
いつまでも眺めていられそうな光景だが、そろそろ戻る時間だ。立ち上がり、果物に群がる精霊たちをゆっくりと迂回し、じーっと視線を感じる木の傍まで近寄ると、そっと草の上に果物を置いた。
そのまま何か声を掛けようかとも思ったけど、何だかそうしたら果物を食べずに姿を消す気がして何も言わずにそのままクー・シーの方へと行く。
「さあ、戻ろうか。もういい時間だから、子供達に声を掛けて戻るよ。果物、ありがとうな。あ、クー・シーも食べるかい?一つだけ余っているけど、子供達は肉しか食べないからね」
実が実っているのは俺の胸元くらいの高さだから、俺のお腹までも身長のないクー・シーも届かないのでは?と思い、一つだけ残しておいたのだ。
『で、では、いただきます。……あなたは本当に不思議な人ですね』
「ふふふ。皆に変だ、変だって言われているけど、俺は俺だしなぁ。あ、そうだ。クー・シーは種族名だろ。またここに来るかもしれないし、名前があったら教えてくれないか?」
「……私達は他の精霊とは違って実体を持ちますから、個々の呼び名はあります。私はシェロと呼ばれています」
お、おお、クー・シーは実体があるのか!仲良くなったら、撫でさせてくれるかな?楽しみだ!それにシェロって、真っ白なキレイな毛並みだしシロと同じ響きでピッタリだな!
「ありがとう、シェロ。俺は子供達に呼ばれてたから知っていると思うけどイツキ、だ。ちょっと変わっているけど、よろしくな!」
『イツキー!俺、腹減ったよ!急いで戻ってご飯にしようぜ!』
『イツキー、戻るよー。置いて行っちゃうよー』
なんとなくいい雰囲気で歩いて戻っていると、ツヴァイとアインスの声がして、三人揃って俺を待っている姿が見えて来た。やっぱりもう、時間だったみたいだな。
「今、行くよー!置いていかないでくれよ!こんな森の奥から俺一人じゃ戻れないからな!」
えばって言うことではないが、俺は今でも全く戦えないからな!木の上から大きな蜘蛛が襲って来た時なんて、悲鳴を上げて尻もちをついて逃げられもしなかったしな!
……情けないけど、無理なものは無理だと、もう諦めたよ。子供達といつも一緒だから、一応死ぬような目にはあってないしな!
『まったくイツキは……。じゃあ、背中に乗って下さいね。のんびり歩いていたら、アインスとツヴァイに置いていかれますよ』
「おう、ありがとうな、ドライ!じゃあ、またなシェロ!果物、ありがとう!』
俺達を楽しそうに走って追いかけて来たシルフや小さな精霊たちに手を振り、ドライの背中に乗った。
それからは無事に守護結界を抜けて出られることは出来たが、森の中を木を避けながら走るドライの背は、右に左に遠心力に振られて更にそのたびに体は跳ね上がり、草原が見えたところで腕の力が尽きて滑り落ちてしまった。
もう、余程のことがない限り、森の中では子供達の背中には乗らない、そう誓ったのだった。
イツキがシェロやカーバンクルを撫でられる日は、いつ来るでしょうか( ´艸`)
暑さバテが酷くなって来たので(暑さに弱いので)更新が不定期になるかもしれません。
どうぞよろしくお願いします<(_ _)>




