11 崖上の森には不思議が隠れていたようです?
「んん-ーーー?変?どこが変なんだ?」
アインスたちに呼ばれて近づいても、俺には何も変わったものは感じなかった。それまでと同じような木が生え、下生えの草もなんの変化もない。
『えーーーーっ!感じないのかー?』
『イツキー、イツキー、ここだよ、ここ!ここから先、変なんだって!』
『イツキは鈍いから、そんな感覚的なことは分からないんじゃないか?』
って何気にドライがひどいな!こいつは冷静沈着な性格じゃなくて、ただ単に腹黒なのでは?と最近思い始めたぞ!
「いや、感じないのか、って言われても。俺はまだ、魔力とか感じられないからなぁ」
ここは神獣フェニックスが住処にしているくらいの場所だから、この世界でもとびっきり魔力が濃い場所らしいが、それでも少し感じるかも?ってくらいになるのに、一月かかっているんだぞ!
……ドライが言ったのは、意地悪ではなく本当のことを言っただけか?いや、絶対腹黒だよな!
と思わず脇道にそれてそう考えていると、じとーーーーっとしたドライの視線を注がれた。
ん、んんんっ。
思わせぶりに咳をしてから、とりあえず皆がここから先が変、と羽で示している場所へ近づいてみる。
んーーーーー……。やっぱり、俺には何が変かさっぱり分からないのだが。
つい、手を伸ばしまったら、慌てたツヴァイが『イツキー!何があるか父ちゃんに聞いてからの方がいいって!』と俺を引っ張ろうとしたのか羽を伸ばし、まんまとその力が強くて俺がよろけてもろに皆が言っていた、ここから先、の境界線を越えて倒れ込んでしまった。
『『イツキーーーーっ!!』』
それを見て慌てたのだろう、アインスとツヴァイも飛び込むように俺の上へと倒れ込んで来た。
……いや、俺を支えてくれようとしたのだとは思う。思うのだが。
「ぐ、ぐえええぇ……。お、お……重いーーーー……。つ、潰れるから、どいて、どいてくれ……」
見事に二人の重みに潰れた。背中にのしかかるふわふわな羽毛の感触など、味わう余裕は全くなく、今すぐどいて貰わないと呼吸が止まりそうなくらいに苦しい。
『もう、仕方ないなぁ。なんとなく、こうなるような気はしたけど』
その声と共に、「何か変」な境界線をドライも越え、俺の上に重なるアインスとツヴァイをどけてくれた。
「ゼー。ゼーー……。ふ、ふう……。はーーーーー、行き返った。空気が上手いなー。ありがとうな、ドライ。助かったよ。アインスとツヴァイも、助けようとしてくれたのはありがたいが、もうちょっと落ち着いて考えてから動いてくれな」
毎回何かやらかす毎に言っているが、まあ、脳筋な二人には無理なのだろう。
そう諦めて大きくため息を吐き、改めて周囲を確認しようと地面を見てみると。そこに、何かが過った。
「へ?今、何か……」
もしかして見間違いか、と目をゴシゴシとこすってから、もう一度目を凝らして周囲を見回してみると。
あちこちに、存在感が薄くて半透明な何かが漂っていた。
『ああ、もしかして父さんが張っている守護結界を越えちゃったのか。ここが神獣フェニックスが守護している場所だったんだね』
「どういうことだ?ドライ」
確かにアーシュは自分のことを神獣だって言ってたし、何かこの世界で役割があるようにも言ってたけど。
人に崇められたことはない、って言ってたから、人に関係してない事柄なんだろうな、とは思ってたんだよね。でも、守護結界、ということは、ここを守るのがアーシュの役割ってことか?
改めて見回してみると、やはり目の端に何かがチラチラと横切って行く。
『イツキー、イツキー、見えないのか?ほら、あっちにもこっちにも精霊がうろついているだろうが。今の世界は荒れてているから、こうして守護結界で精霊を保護しないと、この世界から自然がなくなってしまうんだぞ!』
うをっ!ツヴァイがドライのようなことを言っている!!
と、いうか、ついこの間までは、アインスたちは皆餌を求めてピィピィ鳴いている、普通の鳥の雛だったよな?まあ、大きさはかなり大きかったけど。いつの間に、この世界のことなんて学んだんだ?
『あー。なんかツヴァイがまともなこと言ったからイツキが混乱してる。あのね、僕達はフェニックスだから。成獣しないと神獣とはならないけど、生まれた時から僕達はこの世界の知識を持っているんだよ。というか、そのようにして神獣とか幻獣は子をなすんだ。何もかも親から教わる動物とは違うんだよ?』
ん?確かに、話せるようになった途端に普通に会話できてるなってのは思ってたけど……。ってことは、別に俺が子守りとして一緒にいる必要、ってないんじゃないのか?だって、生まれながらにこの世界の知識を持っているってことは……っていうか、元々俺はこの世界のことは何にも知らないから、教えられることなんて何もなかったか!!
ガーーーーン……。と、さすがにつきつけられた事実に、しばし頭が真っ白になる。
自分が扶養していたつもりだったのに、実は自分が扶養家族だったという事実。もしかして、肉を焼く係だから母親がわり?ま、まさか、そんな……。
『おーい、イツキ。精霊、ってとこはいいのかー?』
「ハッ!アインス、そうだった!!さっきからチラチラ見えるような見えないような感じのが、精霊なのか?」
『僕達にはきっちり見えているからね。ああ、ホラ、イツキの足元でノームが見上げているよ?』
ドライの言葉に、慌てて下を向いて目を凝らしていると。ぼんやりとした輪郭が、どんどんハッキリとしてきたような?
じーーーっと見つめていると、恐らく背丈は三十センチもない、小さな子人のような姿が見えて来た。
驚かせないようにゆっくりとしゃがみ、できるだけ目線を低くしてそっと指を伸ばしてみると。
何か、かすかに指に触れた?そう感じた瞬間、パッと照明がついたかのようにぼんやりとした輪郭がはっきりと浮き上がって色づいた。
「えええっ!?うわ!見える、見えるぞ!この子がノーム、か?それに……」
俺が伸ばした指に、興味深そうに触れているノームをしっかりと見ると、肌は褐色で髪も茶色、目も茶色のまんま土のような色あいの、茶色のチュニックとズボンを履いていて、海外のファンタジー小説の挿絵に描かれているような小人そのものの見た目だった。
そしてハッキリと見えるようになったのは、目の前のノームだけでは無かった。ノームの後ろの草影からは、緑のクルンとした長めの髪に緑の目、そしてうっすらと緑がかった白い肌のかわいい妖精のような姿の子が覗いていた。
「ええと……ドライアードは木の精霊だったっけ?草は……スプライト、だったか?」
『そうだぞ。まあ、細かく分けると色々いるけどな!まあ、纏めた総称でいいんじゃないか?』
おお、またツヴァイがまともなことを!
驚いて顔を上げると、見える景色が一変していた。
木々の緑はより鮮やかに彩られ、あちこちから様々な精霊がこちらを覗いている。それに木々を通り抜ける風にも、薄い緑の羽のある女の子の姿があった。
「風……シルフ、か。凄いな。この世界には、こんなにたくさんの精霊がいたんだな」
どこを見ても楽しそうな精霊の姿があった。
『いや、この場所は守護結界で守られているから、これだけの精霊が存在しているんだよ。それにしても、ここには集まって来ていると思うけど……』
『おやぁ。精霊たちがざわついていると思ったら、珍しいお客様ですね。神獣フェニックス様のお子様たちに、それに……んん?人……とはまた違うような?不思議な方ですね』
アインスとツヴァイは楽しそうに精霊と遊びだし、ドライと一緒に精霊たちを見回していると、そこに声がかかった。
声を掛けて来た方を見ると、そこには……。
「お、おおおっ!ジロウを二足歩行にしてデフォルメしたような……か、かわいい!」
そう、二本足で立ち、もっふもふな真っ白な毛並みの中型犬程の大きさのまんま犬の姿があったのだ!!
もふもふはもふもふでも今回は精霊でした!
イツキは託児所の子守りであって先生にはなれそうにもありません( ´艸`)
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