レオのいない猫屋敷。
12月30日、長年猫屋敷を護ってきたレオが失踪事件の容疑者として警察に連れていかれてしまった。
警察たちがいなくなり、静かになった玄関先…誰もが黙りこくっていた。
当然だろう、今まで信じていた人物が突然容疑者だと聞かされ、嵐のように連れ去られて行ってしまったのだから。
静寂の中…動揺し身体の色を次々と変えるランプモンスターたちの灯りが揺らめいていた。
「…信じらんないよ…師匠が犯人だなんて。…俺の家族も消えたから、犯人には捕まって欲しいと思うよ?…でも…でもさ。師匠がその犯人だなんてありえないよ…!」
静寂を破ったのは、シュエットだった。
「でも…執事のナイトも姿を消してるんだぜ。共犯で捕まらないために逃げたってことも考えられんじゃん」
とアルヴィンが彼を見ながら、冷たく言う。
そう、レオが捕まったと同時にナイトが姿を消したのだ。
「それは…きっと何か事情があんだよ!」
「どんな事情があんだよ…」
「2人ともやめなさい。今一番ショックを受けているのはキトさんなの」
ソフィはキトの肩を抱き寄せながら、2人に声をかけた。
キトは、先ほどの出来事で頭がいっぱいになっていた。
“…レオさんの瞳に見つめられて目を離せなかった…勝手に私の意志と関係なく身体が動いて……話して…瞳の色も違った…あれはいったい何だったの……?…レオさん…どうして黙って行ってしまったの…。レオさんが犯人なわけ…そんなわけないのに……”
ふと、キトの頭にシュエットのパパとガーネットが言っていたことを思い出す。
―狼の一族が復活したんじゃないかと噂されているんだ。
―逆らえなくなるのよ。…瞳で見つめられたら一瞬でかかってしまうらしい…
“…もしかして…さっきのは服従の魔法…?…催眠魔法とは感覚が全然違ったもの…。…狼の一族が使えるって言ってた…じゃあ…レオさんは狼の一族ってことに……。可能性はある…ずっと生き続けている…それに歴史の話をした時、声のトーンが下がった。…「本に記されている歴史は、都合の良いように書き換えることもできるから」って言っていたわ。狼の一族が犯人なら…本当にレオさんが犯人なの…?でも…一緒にいたのは事実……。魔法を使えば一瞬でできちゃうものなのかな……。いったい何がどうなっているの…わからないよ……”
キトは混乱して黙り込み、瞳は動揺で揺らぐ。
そんな彼女に対し、ソフィは寄り添って肩を撫でて落ち着かせようとした。
3人も心配そうに見つめた。
―――――
少し気が落ち着いてきたキトは、レオがいなくなったというのに猫たちの姿が全くないことに気づく。
4人に声をかけ、猫たちや他の生きものたちを探すことにした。
手分けして屋敷内を探すが、見当たらない…。
残りは地下室だけだが、何故か鍵がかかっていた。
シュエットとアルヴィンは鍵をかけた覚えはないと言う。
誰も地下室を開ける鍵は持っておらず、八方塞がりな状況だった。
キトは、地下室に繋がる扉を叩いてみる。
「みんな、ここにいるの?…バニラさん…アーモンドさん!―…」
トントントンと何度も叩き、それぞれの名前を呼んで確かめる。
それでも全く反応がなく、猫たちもみんな消えてしまったのか…と肩を落として叩くのをやめた。
地下室は、そこに繋がる階段を間に挟んで2重扉になっているため、彼女の声が届いていないか、キトに猫たちの声が届いていない可能性は十分にある。
「魔法で鍵を開けてみるわ」
とソフィが言い、ドアノブをギュッと握り、ふぅっと一息つく。
彼女の手の上にエメラルドグリーンのふわふわした光が出てくる。
その光は一瞬フクロウの形に姿を変え、また光に戻りながら鍵穴に入っていく。
しかし、光はパッと消えてしまった。
「ダメだわ…魔法をはじいちゃった……。きっと勝手に開けられないように魔法がかけられているんだわ」
「そんな…2人でやってもだめでしょうか?」
とアリシアが隣に来て尋ねる。
「たぶんだめだと思う…一瞬ではじいてしまったもの。きっとここにいるメンバーでは魔力が弱すぎるわ」
「そうですよね……」
アリシアも肩を落としてしまった。
どうしたらよいか、答えが見出せず、みんなで立ち尽くす。
その時…ペタペタペタと聞き馴染みのある足音が聞こえ、みんなで振り向く。
すると、冷蔵室のミニペンギンたちが7匹全員出てきて、歩いてきたのだ。
「みんな!無事だったのね!」
キトは彼らの姿が見れて安心し、笑顔を浮かべた。
赤リボンのミニペンギンが前に出てきて、翼を前に伸ばして地下室の扉を指した。
「やっぱり…みんな中にいるの?」
キトは赤リボンのミニペンギンを真っ直ぐ見つめて尋ねる。
こくっと頭を下げる赤リボンのミニペンギン。
「どうやって入ったらいいのかな…鍵が開かなくて…。頑張れば壊せるかな……」
キトが悩んでいると、今度は青リボンのミニペンギンが歩き出し、大きな黒猫の銅像を指し示した。
「黒猫の銅像…?…そういえば…御屋敷に初めて来た時、銅像の手に触れたら床が開いて地下室に落ちたんだっけ…。そうね、もしかしたらまだできるのかも!」
キトは青リボンのミニペンギンの方へ駆け寄る。
ソフィも一緒にキトについていった。
「手に触ったら本当に地下室に落ちるの?」
と尋ねるソフィ。
「うん、この招いている手に触ったらガチッと音がして下がったの」
「そうなんだ…試してみる価値はあるね!この青ペンギンさんも教えてくれてることだし…」
ソフィは下にいる青リボンのミニペンギンを見る。
青リボンのミニペンギンは「早くやれ」と言うように、もう一度ピシッと翼を伸ばして銅像を指した。
キトとソフィは黒猫の銅像の招き手に、重ねて手を乗せる。
そして、手を下げてみる。
そうすると…ガチッと音がして、本当に床が開いた。
「わぁあっ!」と2人は声をあげながら、地下室へと落ちていった。
「本当に落ちた…!」
シュエットは駆け寄って、開いた床を見る。
見た瞬間に、パタンと閉じて元の床に戻ってしまった。
―――――
地下室のふかふかのベッドに落ちたキトとソフィ。
閉じていた目をゆっくりと開くと、目の前に猫たちが集まっていた。
「みんな…!」
キトは彼らの姿を見て、とても安心して、笑顔になる。
「ティポもここにいたのね…!」
と机の上にいるフクロウのティポを見つけて、ソフィも笑った。
ティポは頷くようにゆっくりと一度目を閉じた。
「ナイトの奴がここに閉じ込めやがった…」
と低い声で怒るように言うのは、タイガーだ。
「ナイトさんに閉じ込められたの?」
キトは眉を下げて、猫たちのことを見渡す。
「そうなんだよ!ボスのこと助けに行こうとしたら、地下室に押し込められたの!」と子猫のチェスがムッとした声で言う。
チェスのことを見ながら、「鍵まで閉めるんだもんなー…驚いたよな」とアーモンドが呟く。
「そうだったの…本当に、みんな無事でよかった…」
キトはナイトが閉じ込めたと聞き、胸が痛んだ。
無愛想だけど、優しい人…そう思っていたからだ。
そんな中、ふわふわと数匹のシュムシュムたちがキトの傍にやってきて、彼女の膝の上に乗り、お腹にスリスリと小さな身体を寄せてきた。
「シュムちゃんたちもここにいたのね…よかった」
そう言って、スリスリしてくるシュムシュムたちを人差し指で撫でてあげる。
撫でながら顔を上げると、スヌクルのトゥトゥが目に入った。
トゥトゥは「元気だよ!」と教えてくれているように、キトに向けてニコニコの笑顔で手を振ってくれた。
キトも笑顔を返した。
地下室にいるランプモンスターたちもみんなの傍に寄り添い、元気そうな様子だ。
キトたちは中から地下室の鍵をあけ、シュエットたちと合流することができた。
みんなゆっくり眠れるはずもなく、広間に集まって朝まで過ごした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
レオがいなくなってから…数日が経ち、年も明けてしまった。
アリシアたちに話を聞き、事件の次の日からガーネットは必ず毎日顔を出してくれるようになった。
ナイトがいなくなり、食事はソフィが中心になって作り、キトとミニペンギンたちが手伝った。
キトはあれから食事がのどを通らなくなっていた。
大切につけていた結婚指輪も身につけるのをやめ、丁寧にケースにしまい、そのままベッド横の引き出しにいれたままだ。
何となく寂しい雰囲気の猫屋敷。
何となく物足りない感覚を屋敷の誰もが感じていた。
そして…1月5日のこと、ガーネットも混ざって居間で夕飯を食べていた。
ガーネットは暗くなっている雰囲気を盛り上げようと色々話すが、暗い雰囲気は変わらない。
食べている途中、急に猫たちが耳をぴくっと動かし、一斉に玄関の方に視線を向けた。
「どしたの、急に」
とガーネットが目線を合わせて一緒に玄関の方を見ながら、猫たちに尋ねる。
ウォールナットがガーネットを見て、「何かいるの…」と言う。
「何かって…。よし、みんなここにいて。私が見てくる」
ガーネットは椅子から立ち上がり、玄関の方へ向かう。
彼女のボディガードであるライオンのケイも一緒についていく。
色々と事件が起きているため、みんなの警戒心は強まっていた。
玄関の扉の前に立ったガーネットは、気合を入れて扉を開く。
しかし、目の前には誰もおらず、遠くを見渡しても誰もいなかった。
“おかしいな…”と思って首を傾げ、扉を閉めようとする。
そこへ「助けてください…」と足元から声が聞こえ、目線を下す。
すると、階段のところに2匹の猫がいた。
1匹は真っ黒で瞳が紫色の黒猫、もう1匹は赤毛で足先が靴下を履いているように白色の猫だ。
赤毛の猫の方はぐったりとしているようだった。
「この子を…助けてほしいんです…」
と黒猫が頭を下げる。
ガーネットは一瞬本当に猫なのだろうか…と警戒し、もう一度辺りを見渡した。
「……この御屋敷は猫を迎え入れてくれる暖かい場所だと聞きました…違うのですか?」
そう言う黒猫の瞳は潤んでいて、しっぽが下に垂れ下がり、見るからに哀しそうだ。
「あー…そういうことならおいで」
ガーネットは見ていられなくなり、赤毛の猫を抱きかかえ、黒猫とともに御屋敷の中へ入った。
哀しそうだった黒猫のしっぽは上を向き、とても嬉しそうだ。
「ねぇ正体は猫だったんだけど、この子すごい身体冷えてんの。どこ連れてったらいい?」
と居間を覗き込み、みんなに声をかける。
「それなら地下室に!今行きます」
キトは慌てて席を離れ、地下室の扉を開けて待機した。
ガーネットはそのまま赤毛の猫を抱え、地下室へと降りる。
黒猫も彼女の後を追った。
キトもその後に続いて、階段を駆け下りた。
居間で食事をしているみんなは、大勢行っても邪魔になるからとそのまま待機することにした。
キトは身体を温められそうなものをかき集め、テーブルの上に準備する。
大きな柔らかいクッションを置き、その上に赤毛の猫をそっと寝かせた。
温かいケットを重ねてかけてあげる。
「パッと見た感じ怪我はしてなさそうだけど…何か食べたりとかした?」
と黒猫に尋ねるガーネット。
「ううん…変なものは食べてない」
心配そうに赤毛の猫を見つめる黒猫。
「そう…じゃあ毒とかではないか?とりあえず治療薬飲ませとくか。軽いものならたいていはそれでよくなるし。キト、治療薬ってある?」
「それなら確か……この辺に…」
キトは魔法薬の置いてある棚を探る。
種類が多すぎてなかなか治療薬を見つけるのに手間取ってしまう。
ガーネットも一緒に治療薬を探すのを手伝った。
「…あ…これだ」
「見つけましたか?!」
「うん、見つけた」
「よかった…」
ガーネットはすぐに治療薬を手に持ち、赤毛の猫の傍にいく。
ぐったりしている赤毛の猫の身体を起こし、口を開かせる。
「猫。薬飲ませるから、ごくって飲み込むんだよ?」
というガーネットの言葉を聞いた赤毛の猫はうっすらと目を開け、口に入ってくる薬を飲み込んだ。
「よし、えらい。治療薬飲ませたし様子見るか。きっとすぐよくなるさ。身体が冷えてるせいかもしれないし。良くならなさそうだったらすぐ医者んとこ連れて行ってあげるから」
と心配そうに赤毛の猫を見つめる黒猫に対して言うガーネット。
「赤毛のお姉さん、ありがとう!」
大きな瞳を輝かせて、ガーネットに向かって言う黒猫。
「ガーネットでいいよ。とりあえずお友だちが無事でよかったな」
ガーネットは黒猫に微笑みかける。
普段、猫はあまり好きじゃないと言いながら、なんだかんだ優しいのがガーネットという人だ。
黒猫はテーブルの上に乗り、赤毛の猫に寄り添うように横になった。
キトは地下室にいるランプモンスターたちに赤毛の猫を温めるお手伝いをしてほしいと頼んだ。
ランプモンスターたちは猫たちの傍に行き、温かい光を当てる。
「わぁあったかい♩」と黒猫は呟いた。
「しばらくここでゆっくりするといいですよ。私たちは上にいますけど、何かあったらいつでも声かけてくださいね?」
と黒猫に優しく声をかけるキト。
黒猫は「はーい」と元気よく返事をし、幸せそうな表情で赤毛の猫の傍にいた。
黒猫にもケットをかけてあげ、2人は居間へと戻ることにした。
「猫さんたちは大丈夫そう?」
と居間に戻ってきた2人にソフィが尋ねる。
「すぐ良くなると思うよ、たぶん身体が冷えちゃってるせいじゃないかな」
ガーネットが微笑みながら、答える。
「そっか…よかった」
ソフィは安心したように微笑み返す。
「猫の訪問って久しぶりね」
とウォールナットが猫たちに向かって言う。
「確かにそうだね。お嬢さんが来てからは来なかったもんね」
とアーモンドが返す。
そのあと引き続き食事をし、少々地下室にいる2匹のために残しておいた。
寝る準備をしていた頃、赤毛の猫も目を覚まし、2人に残しておいたご飯をあげる。
治療薬のおかげか、身体が温かくなったおかげか、ぐったりしていた赤毛の猫は元気を取り戻し、ご飯を食べてくれた。
黒猫は〔ルネ〕、赤毛の猫は〔レネ〕という名前だそうだ。
いつまでいるかは分からないけれど、猫屋敷に新しい仲間が増えた。
2匹は地下室のベッドで寝ているシュエットの布団に入ってきた。
優しいシュエットは「俺の隣でいいの?」と笑いながら言い、迎え入れた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
次の日…朝方にドンガシャンと騒がしい音が聞こえ、それに驚いてキトは飛び起きた。
同じ部屋で寝ているソフィもその音で目覚め、カーテンを開け、窓から外の様子を見ていた。
「外で何かあったの?」
とソフィに尋ねる。
「ううん、何もないみたい。御屋敷の中かも」
不安そうな表情でベッドの上にいるキトを見つめるソフィ。
何が起きてもおかしくない落ち着かない日々に不安を感じている2人。
寄り添いながら、恐る恐る階段を降りて様子を見に行くことにした。
下の階に近づくごとに、「あー!!だめだよ!!!」と大声をあげているシュエットの声が聞こえてきた。
玄関まで降りてきた2人は、目の前に広がっている光景に唖然とした。
シュエットがすっかり元気になった赤毛の猫レネを必死に追いかけており、床一面が散らかり放題になっていた。
クッションやケット類が床に散乱しており、どこから出してきたのか分からない猫のぬいぐるみや置き物があちらこちらに落ちていた。
新聞紙が開きっぱなし、空箱がどうやって運んだのか分からない高い場所に置いてある、棚が倒れて食材が入った瓶が散らばり、絵具の中に飛び込んだのかと思うほど何故かポタポタと赤色を落としていくシュムシュムたち…ととにかくごちゃごちゃな状態だった。
最上階の部屋まで聞こえた大きな音は、棚が倒れた時の音だろうか。
そんな中、キッチンの方からは楽器を鳴らすような音が聞こえており、覗きに行ってみると…ミニペンギンたちがお鍋やスプーンなどあるものを楽器にして演奏をしていた。
そして、黒猫ルネが歌い、音楽好きのアーモンドも混ざっていた。
その演奏会をバニラとクラウドが楽しそうにしっぽでリズムを取りながら聴いている。
「…歌ってる?」とソフィが戸惑いの表情で呟く。
猫の一族ではない彼女には、リズムに合わせてみゃーと鳴いているように聞こえている。
「うん…歌ってるね」
キトとソフィは一度顔を見合わせた。
広間の様子を見に向かうと、タイガーが暖炉の前で散らばっている新聞を持ってきて眺めていて、チェスは猫のぬいぐるみにじゃれついて遊び、それをコットが見守っていた。
シュムシュムたちを赤色にしたのは、ウォールナットとスヌクルのトゥトゥだった。
筆に絵具をつけて、色々な白いものを赤色に変えているようだ。
床にポタポタと赤色の絵具が散らばっていた。
なぜシュエットがレネを追っかけているのかと思ったら、レネも絵具のついた筆を咥えて走り回っていたからだった。
おかげでカーテンや棚など色々なところに赤色の絵具がついてしまっていた。
どう収集をつけたらよいのか分からない事態に、2人は戸惑い立ち尽くした。
暗くなっていた猫たちが楽しそうなのは何よりだが…散らかり放題なのはどうしたものか。
「ソフィ…!俺止めようと思ったけど無理だよ。どうしよう…!」
レネを追っかけるのをやめ、2人に気づいたシュエットが駆け寄ってくる。
「シュエット…まだ朝方なのにすごいことになってるね」
「うん…ルネとレネが猫たちを誘って一時間前くらいから遊び始めたみたいなんだけど、だんだん騒がしくなってきてさ。起きて止めに来た時にはもうこうなってた」
起きてから必死に止めようとしていたからかシュエットも寝間着のままだ。
「どうする?キトさん…」
「んー…なんとかしてみる」
キトはそう言って、ソフィに笑いかけ、広間まで歩いて行った。
ソフィとシュエットは彼女がどうするのか、入口から中を覗き込んで、様子を見守った。
まずは筆を咥えたまま歩いているレネの傍に行き、「レネさん」としゃがみながら声をかける。
それに気づいて一瞬レネは歩きを止め、キトを見た。
キトは微笑み、咥えた筆の先を指で挟み持ち、「お口開けてくださいますか?」と尋ねる。
レネはじーっと彼女の目を見つめた後、口を開けた。
「ありがとうございます」と微笑みながら、キトは口元から筆をとる。
そのまま「楽しく遊べましたか?」と聞く。
レネは少し戸惑いながら、「うん、楽しかった」と言う。
「そろそろ朝ごはんの時間になりますから、片づけましょうか。ルネさんにも伝えていただけますか?」
盛り上がっている空気を落ち着かせるように静かに優しい声で、しっかりとレネを見据えて言うキト。
レネは、気が抜けたように「…あ、うん」と言う。
その返事を聞いたキトは、一度レネに微笑みかけ、そのままシュムシュムたちに色塗りをしているウォールナットとトゥトゥのところに行く。
レネはそんなキトの姿をしばらくぼーっと見ていたが、言われた通りにしようと思ったのか、ソフィとシュエットの横を通り、キッチンへと向かった。
キトが来たことに気づいたウォールナットはハッとして慌てて、「…ごめんなさい!」と謝る。
釣られてトゥトゥも「ごめんなさい」と謝る。
「シュムちゃんが嫌がってないなら、あとで片づけられるなら…いいんです」と微笑みかける。
シュムシュムたちは、一緒に楽しく遊び、嫌がっていなさそうだった。
「あとで身体洗いましょうね?」とシュムシュムたちに声をかける。
彼らは、頷いて答える。
「ふふ、トゥトゥさんのお洋服も、ウォールナットさんの手も絵具落とさないとですね」と笑うキト。
彼らも、頷いて答える。
キトがチェスとコットのところ、タイガーのところと順々に声かけをしていると、盛り上がっていた演奏会は終わり、静かな御屋敷が戻り始めていた。
キトは「私たちも身だしなみを整えたら、朝ご飯作っちゃいましょうか」とソフィたちに声をかける。
「キトさんすげぇな。俺止められなかったのに」とシュエットが感心したように言う。
彼に対し、キトは「話せばわかってくださるみんなだと思うから。あと孤児院で最年長だった時期が長くて慣れてるのもあります」と笑う。
寝間着のままだったので、とりあえず3人はきちんと身だしなみを整えにいった。
そのあと、キトとソフィは朝食の準備をした。
2人が朝食を作っている間、スヌクルのトゥトゥが絵具で汚れた洋服を脱ぎ、お風呂場でシュムシュムたちの身体を洗い流す。
同じように絵具で汚れてしまっていたウォールナットとレネもお風呂場に連れていかれ、シュエットが洗い流してあげた。
そして、朝食の後は、散らかった部屋の片づけタイムだ。
―――――
キトがみんなに指示にして、片づけが始まった。
引っ張り出したりぐちゃぐちゃにするのは得意だが、お片づけはあまり得意ではない猫たち。
猫たちには、まず引っ張り出してきたクッションやケット類、猫のぬいぐるみなどを元に戻すように伝える。
猫たちで手分けして片づけ作業にとりかかる。
スヌクルのトゥトゥは、御屋敷に来てからもらった新しい洋服に着替え、猫たちの手伝いをした。
地下室でじっとしていたシュエットの相棒フクロウのティポに頼み、変な場所にある空箱を降ろしてもらった。
ソフィとシュエットは、倒れた棚や食材が入った瓶などを片づける。
シュエットはあまり魔法が得意ではないので普通に拾う感じだが、ソフィは移動魔法を使って華麗に元の場所に戻していた。
キトはできるようになってきた移動魔法も使いながら、散らばっている新聞や猫の置き物たち、ティポが落としてくれた空箱などを片づける。
ミニペンギンたちは散らかったキッチンの片づけを担当した。
そうやって慌しくしているところに、いつものように様子を見にガーネットがやってきた。
ぐちゃぐちゃになっている部屋を片づけしているみんなを見て、驚いて一瞬言葉を失った。
一番魔法が使えるガーネットは、絵具で汚れた床やカーテンなどを綺麗にする手伝いをしてくれた。
全て片づけ終わった後、キトは「少し部屋で休みます」と言って自分の部屋へ行った。
ガーネットとソフィ、シュエットは、そう言う彼女を1人にしてあげ、広間でのんびりすることにした。
騒がしかった猫たちもみんなのんびりお昼寝の時間に切り替えた。
トゥトゥとシュムシュムたちも猫たちと一緒にお昼寝することにした。
ミニペンギンたちは冷蔵室に戻り、ティポはまた地下室に戻った。
―――――
部屋に戻ったキトは、扉の鍵を閉めて、ふぅ…っと一息ついた。
そして、引き出しにしまい込んだ結婚指輪のケースを取り出し、ぼーっと眺めた。
そのまま、ベッドに倒れ込み、大切そうに胸の上でケースを握りしめる。
“だめね…私が暗くっちゃ。今日遊んでいる時のみんな…楽しそうだった。…私がいつまで経ってもこの調子だから…御屋敷を暗くしちゃってる……情けない。…でも…どうしても頭の整理がつかない…。やっぱりレオさんが犯人だなんて…信じられない。けれど…最後にレオさんが私にかけた魔法は…恐かった……私は何を信じるべきなのか…どうすることが正解なのか……わからない”
熱くなってきた目頭を腕で抑える。
溢れてきた涙が袖に染み込む…。
静かな部屋の中で、キトのすすり泣く音だけが響いた。
そんな中、カタッと物音が聞こえ、その音の方に目を向ける。
“あれ…遺言書が…しまっていたはずなのに…どうして机の上に?”
なぜか机の上に遺言書があり、ベッドから降りて遺言書を取りに行く。
一度机にケースを置き、遺言書を少し開いて、中身をぼーっと眺める。
ひいおばあさまの直筆で書いてある御屋敷を譲る2つの条件に目をやる。
―1つ、御屋敷に住む猫たちと遊びに来る猫たちを大切にし、仲良くすること
―2つ、ボス猫のレオと結婚し、御屋敷を守ること
“ひいおばあさま……どうして私を選んだんだろ。……レオさんのこと…ひいおばあさまなら分かるのかな……”
と心の中で呟き、遺言書をキュッと握り締める。
左手に遺言書、右手に結婚指輪のケースを持ち、どちらも抱き締めるように胸に引き寄せる。
静かに目を閉じ、そのまましばらく時が流れる。
そこへ突然…「だいぶ滅入ってるみたいね?」と後ろから声が聞こえた。
顔を上げて振り返ると、ベッドの上に黒猫のルネが座っていた。
「え?!…どうして、鍵閉めたはずなのに……」
キトは遺言書とケースを机に置き、扉の鍵を確かめに行くと、確かに閉まっていた。
もう一度ルネの方に視線を向けた彼女の表情は、困惑そのものだった。
一方で、ルネは「ふふーん♩」とご機嫌な様子でしっぽを揺らしていた。
「あなたはいったい…」
困惑した表情のまま、ルネを見つめて尋ねる。
「んー…何で遺言書が机の上にあったでしょうか?」
逆にご機嫌な様子で質問を返されるキト。
答えが分からず、首を傾げる。
「分からないかー…じゃあ遺言書は誰からもらいましたか?」
「…ひいおばあさま?」
「じゃあ…ひいおばあさまの名前は?」
「ルナ…さん」
「せいかーい♩ 私の名前もルナ!」
黒猫ルネの質問の意図を汲み取れず、さらに首を傾げるキト。
「んー…だめか。じゃあ…この姿になったら分かるかな?」
と急に黒猫は姿を人間に変える。
その姿をみて、キトは目を見開いて驚く。
レオに見せてもらった写真に写っていた若い頃のひいおばあさまそのものだったのだ。
長い黒髪のおさげ、大きな紫色の瞳、黒い魔法帽と紫色のワンピース…なんとなく魔女らしい。
「嘘……写真で見たひいおばあさまそっくり…」
「そーう♩ そのひいおばあさまよ!」
「え……え?!…ど、どういうことですか。ひいおばあさまは亡くなられたはずじゃ…」
キトは混乱して目が回りそうだった。
「そうね、確かに死んだわ。死んだ後に目の前にいるということは?」
「まさか……幽霊?」
「せいかーい♡ 幽霊だから鍵が閉まっていても部屋に侵入できちゃうのだ♩ すごいでしょ?」
ルナと名乗る幽霊は、自慢げな笑顔を見せる。
「本物のひいおばあさまの幽霊なんですか…?」
「そう♩」
キトは突然の出来事に言葉を失い、ぽかーんとして動きが止まる。
「あら…?おーい、キトちゃん?」
彼女の顔の前で手を振るルナ。
「あらま、だめだ。固まっちゃってる」
言葉を失っているキトの足元に違和を感じる。
ハッとして下を見ると、赤毛の猫レネが足に甘噛みしていた。
「どうしてレネさんも中に?!」
鍵を閉めているはずなのに赤毛の猫までも入ってきて驚く。
「私が鍵開けたの。大丈夫よ、もっかい閉めたから」
とルナが言い、レネは噛むのをやめ、ルナの足元へと歩いていった。
「…は…そ、そうですか。すみません…あのどうして急に…今まで…」
「んー…そうね。レオがいなくなっちゃってピンチかなーっと思ったから。今までもちょこちょこ様子見に来てたけど、幸せそうにやってたから邪魔しなかっただけ。私がレオを置いて黙って死ねるわけないじゃないの。私の愛しの旦那さまよりも長く一緒に時を過ごした兄であり、相棒であるレオには幸せになってほしいもん。だから、それを見届けるまでは死んでも死にきれないってもんよ」
ルナは胸を張って、はっきりと言い切った。
「…そうだったんですね。お会いできて…嬉しいです」
困惑の表情だったキトに、笑顔が戻ってきた。
「私も嬉しいわ♩」と満面の笑みで返すルナ。
ルナに言われ、とりあえずベッドに腰かける。
隣にふわっとルナも腰かけた。
レネはキトを間に挟むように、ルナと反対側の隣に座った。
「えっと……レネさんももしかして幽霊なんですか?」
「この子は新しい相棒。きれいな猫さんでしょう?この子は幽霊じゃないわ」
レネは軽く会釈し、「今日はごめんなさい」と言う。
その言葉にキトは少し目を丸くした。
「ルナがみんな暗くなってるから遊ぼうって言いだして。私も楽しくなっちゃってつい…」
レネは大人びた美しい声をしている。
「安心したわ、やっぱりキトちゃんはしっかりしてる子だったもの」
とルナが優しく微笑みながら言い、キトの手に手を重ねる。
幽霊である彼女の手、触れられている感触がなかった。
“本当に幽霊なんだ”と実感する。
哀しそうな表情を浮かべるキトに対し、「ふふ、猫の姿だと触れるんだけど。この姿だとだめなの」と笑いながらルナが返す。
「そんな哀しそうな顔しないでよ。私はこの姿になったことで夢の一つを叶えられたんだもの。ずっと猫になってみたかったの!私には変身魔法は使えなくて叶えられなかったけど、今はできるの♩」
と嬉しそうに笑うルナ。
その言葉を聞いて、安心したように微笑むキト。
「それにね、あのレオの私生活を覗けるようになったし…。例えば、入浴中とか?」
悪戯っ子なにんまり笑顔を見せ、キトの反応を確かめるようにじっと見つめてくる。
少し頬を染めて驚いた顔をしているキトを見て、ルナは一言「ふふ、かわいい♡」と呟いた。
「ふふ、冗談♩ 悪戯は大好きだけど、覗きなんて悪趣味なことはしないわ。……んー…全くしてないわけではないけど…。あはは、少なくともお風呂は覗いてないわ」
と大笑いして、とても楽しそうなルナだった。
常に前向きで笑顔の絶えないルナを見ていると、自然と笑顔が移る。
ナイトが言っていたことはこういうことなのだろう。
「あらためて今日は働かせちゃってごめんね?御屋敷の雰囲気が暗かったから嫌んなっちゃったの。それで…」
キトの表情を窺いながら、甘えるような表情をして大きな瞳を輝かせるルナ。
「みんな楽しそうだったから…気分転換になったのならよかったんです。散らかった部屋は片づければいいことですから」
と微笑み返すキトを見て、ルナはホッとしたように笑う。
その様子を見ている赤毛の猫レネは、呆れたように溜め息をつく。
キトの足をつつき、「甘やかしたらだめよ」と言う。
「もーレネったら硬いこと言わないのー。楽しかったんだからいいじゃない♩」
「キトちゃん、甘やかしたらまた何しでかすか分からないわよ。怒るぐらいしてもいいと思うの」
「あー…まぁ…確かに?…レオは怒らせると恐かったもんな」
眉間に皺を寄せて、考え込むように呟くルナ。
「え…レオさんって怒ることあるんですか…?」
きょとんと驚いた表情を浮かべるキト。
「あれ、怒られたことない?」
ルナもきょとんとする。
「優しく注意しているところは見たことありますが…怒っているところは…」
「キトちゃんは良い子だから、怒られるようなことしてないのよ」
とレネがルナを見つめながら言う。
「私…昔から悪戯好きなのよねー…。だから、よく悪戯したし…猫たちと一緒に今日みたいに部屋を散らかすことなんてしょっちゅうだった。そしたら、レオがどうするかというとね。怒鳴ったりはしないけど、私の目を真っ直ぐ見つめてきて、「ルナ…片づけようね?」って声を低くして言うの!いつもニコニコしているから余計にその冷たい目が恐いのよ。しかもそれ以上のこと言わなくて、私が「はい」って言うまで目を逸らさないの。あの目を見た後は素直に片づけてしばらくは悪戯をやめるんだけど…時が経つと薄れちゃうのよね…だからまたやっちゃうの」
悩むように腕を組みながら話し続けるルナ。
自分の知らないレオの一面を聞き、もっと色んな話を聞いてみたいと思うキトだった。
「ひいおばあさま…」
彼女なら自分の知りたいと思っていることを教えてくれるかもしれないと思い、声をかける。
「ひいおばあさまなんてやめてよ。ルナって呼んで」
「でも…」
「おばあちゃんは嫌なの。今は若い頃の姿なんだから♩」
「分かりました…。ルナさん…あの」
「レオのこと教えてほしいんでしょ?」
「…え」
「いやー…まさかキトちゃんがレオに本当に惚れてくれるとは…思っていなかったわ。こんなにも気にかけてくれるなんて…キトちゃんをお嫁さんに選んでよかったわ」
瞳を輝かせ、頷きながら言うルナ。
「…ルナさんにもバレてるんですね」
キトは驚いた顔をした後、俯いて足元を眺め、照れて頬を染める。
「それで、まず何を知りたいの?」
俯く彼女の横顔を穏やかな表情で見つめるルナ。
キトは顔を上げ、ルナのことを黙って見つめた。
しかし、一度視線を逸らして、言葉を選ぶように考え込む。
「…レオさんは…狼の一族なんでしょうか」
色々考えた末、今一番気になっていることを単刀直入に尋ねる。
尋ねた時の彼女の表情はとても真剣で、瞳は少し不安そうに揺らめいていた。
真っ直ぐ見つめられたルナは、揺らめく瞳を黙って見つめ、沈黙を続けた。
そして、「…そうね、レオは狼の子」と返した。
何となく察していたが、そうだと分かった衝撃は大きく、キトは言葉を失った。
「でもね。狼の子だから、悪いではないの。歴史は都合のいいように書き換えられる」
3つの一族について調べていた時、レオが言っていた言葉だ。
確かにあの時の彼は、いつもの優しい雰囲気と違っていた。
「…まぁ。詳しくは彼から直接聞きたいと思うからあまり言わないけど…。彼は狼の一族の生き残り。ほぼ絶滅したのは事実、けど…狼の一族が悪は嘘」
明るい笑顔がトレードマークのルナの表情が、怒りが混じっているような真剣な表情に変わる。
キトは気持ちを切り替え、きちんと事実に耳を傾けようと姿勢を正した。
「狼の一族は、とても強い魔法使いの一族だということは知っている?」
「はい…」
「レオを見れば分かるよね?あれでも本来の力は出し切っていないと思うけど。狼の一族は、優しくて強い…優秀な一族だったの。だからこそ、抹殺したかったの。その主犯がレオの仇で、恐らくキトちゃんの命を狙っている奴」
ルナにとってレオが大切な家族であったことが伝わってきた。
彼女の表情や声には、自分のことのように怒り、悔しく思う感情が感じられたからだ。
「生き残るためには狼の子であることは隠して生きなければならなかった。彼が自分の過去や本名を隠しているのもそのため。仇をとるために、不死身になる道を選んだの」
「そうだったんですね…。レオさんが捕まってしまった時、私は取り乱して必死に止めようとしたんです。けど…レオさんがたぶん…服従の魔法を使って…私を黙らせました」
どことなく哀し気に、呟くように話すキト。
ルナはその内容を聞いて、衝撃を受けているような表情になる。
「キトちゃん…何故貴女に服従の魔法を使ったか分かる?」
キトを見据えるルナの瞳は、怒りに満ち溢れているように見える。
「貴女を守るため。私の知る限りでは…彼は今まで一度も服従の魔法を使ってはいない。いつだって使えたはず。私たちを服従させることだってできたはず。でもただの一度も使ってない」
その言葉を聞いて、キトは驚いた。
「貴女まで捕まってしまってはいけないから…だから、貴女に恐い思いをさせることを承知で使ったのよ。レオが捕まったのは、貴女を守る鉄壁だから。それを崩したい者たちが陥れた。本当の犯人が貴女を手に入れたくてしたこと。大きな騒ぎになれば貴女が危険になるから…黙って捕まったんだと思う。本当の意図は本人じゃないから分からないけど…。でも…彼はそういう人よ」
レオが誤解されていることに対する怒りが、ルナの感情に混ざってしまったようだ。
話しながら少しずつ怒りから、彼女の声に哀しみが混ざり始めた。
「…そうですよね。レオさんは…そういう人ですよね」
そう呟いたキトは、立ち上がって机の上に置きっぱなしなっていた結婚指輪のケースを取りに行く。
ケースを開け、戸惑いや迷いからしまい込んでしまっていた指輪を取り出す。
そして、丁寧に左手の薬指に着け直す。
その様子をルナとレネは黙って見守った。
「私が間違ってました…何を迷っていたんでしょう。誰がなんて言おうと、私が知っているレオさんは失踪事件を起こすような人ではありません。誰に対しても丁寧に接してくださる優しい方。「種別の壁を越えてレオさんにとって素敵なお嫁さんになれるように頑張る!」なんて大きなこと言っておいて、こんなことで揺らいでしまうようではだめですね…レオさんのこと信じなきゃ」
指輪をつけた左手を右手で大事そうに覆い、胸元に引き寄せる。
目を瞑りながら、ゆっくりと自分に言い聞かせるように言葉を続けるキト。
ルナはそのキトの様子を見て、怒りや哀しさを忘れ、ホッとしたような笑顔になる。
「ねぇ、キトちゃん。レオと私がどうやって出会ったか。どうやって猫屋敷を建てることになったか知りたい?」
明るい笑顔がルナに戻り、前のめりでキトに尋ねる。
キトは瞑っていた目を開いて、輝く瞳でルナの方を見る。
「知りたいです!」と花が咲いたような笑顔で、元気よく返事をした。
「じゃあ…話すね♩ 隣においで!」
キトは言われた通り、元々座っていた場所に座り直し、ワクワクした気持ちで耳を傾けるのだった。
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一方…時は戻り、ルナとレネがシュエットの布団に入り込み、一緒に眠りについていた頃のこと。
「あれが失踪事件の犯人だってほんとか…?」
「なんだお前…ここの当番は今日が初めてか」
「あぁ…失踪事件を起こしたようには見えねぇよな……」
「見た目に騙されるな、極悪人だぞ…気を引き締めろ」
「お…おう」
大きな檻の前で話をするのは、2人の監視員たちだ。
檻は黒色の霧に包まれている。
その中心に…レオがいた。
彼は、檻の中にいるだけでなく、手枷や足枷で動きを封じられていた。
そして、俯いたまま座っている…。
「お前たち外せ…」
と突然目の前に現れた男の声に監視員たちは恐れ身体を震わす。
「はっ!」と声を揃えて返事をし、駆け足でその場を離れた。
声の主は、ゆっくりと歩き…檻の前で立ち止まった。
「…久しぶりだな、レオ。いや…フィンレーと呼ぶべきか?」
その低い声を聞き、俯いていたレオは顔をあげた。
目の前にいる男を見て、レオの瞳は動揺しているように見える。
「……カーモス」
そう真っ直ぐ男を見ながら呟いたレオに対し、男は不敵な笑みを送った…。
第7章:レオのいない猫屋敷。を読んでいただき、ありがとうございます。
次回、レオとひいおばあさまルナとの出会いが明らかに…?!
第8章:さすらいの一匹猫とさみしやの少女。(仮名)をお楽しみに!
ぜひ読んでいただけると嬉しいです!
★前書きの表紙についての解説
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赤色の絵具でシュムシュムに色塗りするトゥトゥとレネ、ウォールナット。
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★登場キャラクターイメージ
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青色リボンのミニペンギン
→ミニペンギンたちの中で一番せっかちさん。
ルネ
レネ
若い頃の姿のひいおばあさま、ルナ