猫屋敷と不思議な森の結婚式。
16歳になってからレオとともに旅に出て、18歳の時にお気に入りの町を見つけたルナ。
そこでいじわるじいさんキャンベルと出会い、猫屋敷を建てるに至った。
すっかり町に住み慣れ、20歳になったルナは今度は異性に興味を持ち始める。
そして、初めて訪れた隣街の飲み屋で照れ屋のエドワードと出会った。
彼は祖父の経営するレストランで働いており、ルナはほとんど毎日そこに通った。
そのおかげで彼との距離が縮まり、少しずつ【愛】が芽生えていった。
しかし、彼女には一つ大きな問題があった。
それは…彼女が魔女だということで、まだその事実を彼に伝えられていないことだ。
“もし魔女って伝えて嫌われてしまったらどうしよう…”と考え込む。
彼への想いが募るたびに、心がキュッと痛くなった。
彼といない時間はため息をつくことが多くなり、遊びに来る野良猫たちは心配そうにそんな彼女の様子を見ていた。
レオは何か考えながらも…その考えは伝えず、ただ彼女の様子を見守っていた。
そんなある日、いじわるじいさんことキャンベルじいさんの家にルナたちは招待された。
彼女たちは、定期的に独り身のキャンベルじいさんと一緒に夕食を囲んでいた。
夕食中もルナはぼんやりとしていてため息ばかりだった。
「お前さん、そんなに共に食事をするのが嫌か」
キャンベルじいさんは不機嫌そうに言う。
「ち、違うの。そうじゃないの。私はただ…その」
少しずつ声が小さくなり、肩がすぼんでいくルナ。
「なんじゃい、はっきり言わんか。うじうじしてる奴がこの世で一番嫌いなんだ」
元々ムスッとしている顔をさらにムスッとさせて、ステーキを頬張りながら怒るキャンベルじいさん。
「…私…恋をしているの。でも…その人に魔女だってこと言えてなくて…それで……その」
照れもあってか、ぶつぶつと呟きながら答えるルナ。
「なんじゃそら。そんなもん嫌われたくないだけだろ、弱虫娘め。ほんとに好きだってんなら言わない方が失礼だとは思わんのか。本当にお前はバカ娘だ、まったく」
むしゃむしゃと食事を頬張りながら、キャンベルじいさんははっきりと言う。
キャンベルじいさんは魔法使いではないが、レオと知り合いなだけあって魔法使いの知り合いが多い。
町の住民で唯一彼女が魔女であることを知っているのはキャンベルじいさんだけだった。
町一番のいじわるじいさんではあるが、広い世界で見るとキャンベルじいさんは全然悪い人ではないのだ。
口は悪いし嫌味も言うが、意外と世話焼きなところもあって親切な面も持ち合わせている。
キャンベルじいさんにはっきりと言われたルナは、反省した。
確かに言わないで黙っている方がダメだと。
「そうよね、確かにバカ娘だったわ!ありがとう、おじいちゃん!ちゃんと伝える!!」
ルナは満面の笑みでキャンベルじいさんに笑いかけた。
お礼を言われることに慣れていないキャンベルじいさんは戸惑いながら、何かぶつぶつ呟いていた。
そして、照れ隠しなのか、リスのように頬がパンパンに膨らむほど…さらに食事を頬張った。
―――――
決意を固め、ルナはエドワードを猫屋敷に招待することに決めた。
朝からバタバタと片づけやら、慣れない食事の準備をしたりと大慌てだった。
ルナはあまり料理が得意ではないので、普段は外食か食材をそのまま食べるかなのだ。
夕食に間に合うよう、エドワードは隣街から馬車に乗って、猫屋敷のある町へと向かっていた。
ルナは持っている数少ないお洋服の中で、最も大人っぽい黒いドレスに身を包み、いつもよりも念入りに化粧や髪の手入れをした。
食事の準備のあとは、鏡の前から離れなかった。
彼が来る予定の30分前くらいになってやっと鏡の前から離れ、レオや猫たちの前に現れた。
「…ど、どうかな?…変…?」
照れてもじもじとしながら、レオたちに服装を見せるルナ。
いつもと違う大人っぽい雰囲気のルナにレオもびっくりして目を丸くした。
「や、やっぱり変なのね…!」
絶望したような表情を浮かべ、後退りし始めるルナ。
「違うよ。いつもと雰囲気が違うから少し驚いただけ。とても素敵だよ」
「本当?!よかった…」
ルナは優しいレオの声と言葉にホッとした。
小さい頃から彼女の傍にいるレオは、すっかり大人の女性になった彼女を見て、嬉しいような寂しいような複雑な気持ちになった。
しばらく猫たちがルナのことを褒めたり、励ましたりしている様子を…寂し気にぼーっと見つめていた。
彼が来るまでの間、あちらこちらの部屋を見て回り、どこに彼が来ても問題がないかを再確認する。
もちろん、食事に問題がないか、自分の見た目に問題がないかも何度もチェックした。
ソワソワと緊張しながら待っていると、門のベルが鳴った。
ルナは「どうしよう!来ちゃった!」と大慌てで玄関の前を歩き回った。
一度ふぅっと深呼吸をして、玄関を開けて門まで彼を迎えに行く。
門の向こうにいる彼は、自分と同じようにいつもよりもオシャレをしていて、ピシッとスーツを着こなすカッコイイ大人の男性になっていた。
そんな彼に見惚れてしまい、一瞬立ち止まる。
それは彼も同じで、いつもよりも大人っぽい彼女を見て、エドワードもぽぉっとしていた。
射し込む夕日が隠してくれていたが…2人の頬は赤く染まっていた。
「よ、ようこそ!」
そう言って門を開けるルナ。
「今日はお招きありがとう…その…立派な家で驚いちゃったよ」
「素敵な家でしょう?材料を提供してもらったりして自分たちで建てたのよ」
「それはすごいな…」
照れてしまっている2人はぎこちなく会話を続ける。
「エドワード…その今日の…」
「ま、待って。僕から…言ってもいいかな?」
「うん…いいよ…?」
「その……今日のルナ…綺麗だよ。…とても」
恥ずかしそうに首元を手で抑えたり、目線を降ろしたりしながらも…最後は、真っ直ぐ彼女を見据えて言うエドワード。
ルナは同じように褒めようと思っていたが、その言葉が出て来なくなるほど照れてしまい、後ろを向いて熱くなった頬を両手で抑えた。
高鳴る心臓を落ち着かせ、彼の方に向き直る。
「ありがとう、エドワード。…あなたも…とても素敵よ…すごくカッコイイ…!いつもと雰囲気が違うから…照れちゃって言葉を失っちゃった」
照れながら彼に笑いかけるルナ。
「それは僕も同じだよ」
エドワードも笑顔を返した。
そのあと、やっといつものように会話できるようになり、猫屋敷のことを話しながら屋敷の中へと入っていった。
レオや猫たちも混ざって、ルナが頑張って作った夕食を食べ、楽しく会話をした。
やはり彼女は料理が得意ではないようで、下手な味付けで味が濃すぎたり、焦げてしまったりしていた。
それでもエドワードは、普段料理をしないと言っていた彼女が頑張ってくれたことが嬉しく、全部食べ切ったのだった。
夕食を食べ終わった後は、御屋敷の部屋を案内したり、ソファでゆっくり過ごしたりと2人の時間を楽しく過ごした。
レオと猫たちは気を遣って、彼女たちには近づかないようにした。
ルナは自分が魔女であると打ち上げるタイミングを見出せず、気づくとだいぶ時間が経っていた。
夜21時を過ぎ、エドワードがそろそろ帰ると言い出したのだ。
“まだ言えていないのに!”と慌てたルナは、立ち上がろうとする彼の手を掴んだ。
「ま、待って!泊まれる部屋があるの!もう遅いし…明日の朝に帰ればいいわ!もう少し…もう少し一緒にいたいの…だから……まだ帰らないで…?」
真剣な表情のルナを見て、断ることができなかったエドワードは、黙って頷いた。
ルナは今がチャンスだと気持ちを切り替えて、ソファに座り直したエドワードを真っ直ぐ見つめた。
「あの…私。あなたに言わなければならないことがあるの」
とても真剣な表情の彼女…エドワードも真剣な表情になる。
「私……実は…魔女なの!」
驚いた表情をし、何も言わないエドワード。
「信じていないのね…分かったわ。魔法を見せてあげる!」
そう言ってルナは、先が猫の顔になっていて、瞳に紫水晶が埋め込まれている杖を持ってきた。
「見ててね?」
ルナは杖を一振りすると、赤みがかった紫色で猫の形をした光が彼の座るソファの周りを走り回り、ソファの色を紫色から黒に変えた。
エドワードは驚いた表情のまま、変わったソファに目線を落とした。
ルナはきっと嫌われてしまったのだと肩を落として俯き、杖を静かに膝の上に置いた。
2人の様子をレオと猫たちはこっそりと見守っていた。
猫たちは哀しそうなルナを見て、一緒になって落ち込んでいた。
ルナは反応が恐くて顔をあげることができず、エドワードの座る色の変わったソファを黙って見つめていた。
そうしていると…ルナは目を疑う光景を目にした。
なんと、ソファの色が元の紫色に戻ったのだ。
“あれ…私…今魔法をかけてないわ……レオがやったのかな…?”
そう考えながら、首を傾げていると…今度は彼女の身体を赤い靄が包み出した。
“な…なに?!…レオのは緑色だし……じゃあ…もしかしてこれって……”
ルナが恐る恐る顔を上げると、目の前にいるエドワードが指を鳴らした。
真っ黒だった服が赤みがかかった紫色のドレスに色を変えたのだ。
驚いた表情でエドワードを見つめるルナ。
そんな彼女に彼は微笑みかける。
「エドワード……」
「実は…僕も魔法使いであることを隠していたんだ。伝えるのが恐くて…」
ルナはさらに驚いた。
彼も自分と同じく言うのが恐くて隠していたということを知ったからだ。
ルナはふとエドワードと初めて会った時のことを思い出す。
レオがたくさんいる男性たちの中から彼を選んだ時のことをだ。
“まさか…レオ。エドワードが魔法使いだって知ってて……”
ぽーっと考えごとをしたまま、エドワードを見つめるルナ。
「ルナ…?」
「あ…ご、ごめんなさい。あなたも同じだったと聞いてホッとしちゃって」
「それは僕もだよ…」
「ふふ、これで気兼ねなくお互い魔法を使えちゃうね♩」
「そうだね」
お互い見つめ合い、笑い合う2人。
後は1つ、レオという存在を彼に伝えなければならなかった。
0時になるまでそのまま話し続け、もうすぐでレオの姿が人間の姿になる時間になった。
ルナはレオをエドワードの前に連れてきた。
エドワードは不思議そうな顔をしながら、レオを見つめた。
「黙って…レオのこと見ててね?」
そう真剣にルナが言うものだから、言うことを聞くことしかできなかった。
カチッと時計が0時を指し示すと、レオを緑の靄が包み込み、姿を変えた。
もちろんエドワードは先ほど魔女だと打ち明けられた時以上に驚いた。
「最後の秘密よ…レオは猫じゃないの。元々人間なの」
「え……っと。どういう……」
エドワードは驚きすぎて、言葉が出て来なかった。
「驚かせてしまって申し訳ありません。実は…俺は不死の呪いをかけられているために、ずっと人間の姿ではいられないんです。0時から6時までの間は人間に戻りますが、それ以外は猫の姿なんです」
エドワードは混乱しているようで、やはり言葉が出て来ないようだ。
「レオはね…私のお兄ちゃんみたいな存在なの。私が5歳の時からずっと傍にいてくれてて…」
ルナが慌てて、レオのことを伝えようと言葉を絞り出す。
今にも泣きそうなルナを見て、エドワードは彼女のキュッと握り込む手にそっと手を添えた。
「大丈夫…そんなに不安にならないで。僕も魔法使いだから、不死の呪いのことは聞いたことがある。実際に変身する姿を見てしまったら信じない方が難しいよ。それに君にとって彼がとても大切な存在だということも…君の反応でよく分かったよ」
エドワードは優しく微笑み、添えた手に力を込めてキュッと彼女の手を握る。
ルナは微笑む彼を見つめ、「本当に…?」と静かに呟いた。
「うん。2人の目を見れば噓をついていないことは分かるし…哀しい顔をして必死に彼のことを説明しようとしている姿を見たら…彼を大切に想っていることがよく伝わったよ……ごめん、まだ整理がついていないんだけど…でも、大丈夫。君の言葉を疑ってはいないよ」
「エドワード…ありがとう…」
ルナはホッとしたように笑い、キュッと握ってくれた彼の手から手を一度離して、もう一度手のひらが重なるように繋ぎなおした。
「えっと…レオさんでいいですか?」
彼女と手を繋いだまま、レオの方を見るエドワード。
「レオでかまいませんよ」
彼に微笑みかけた後、少し不安そうな表情に戻るレオ。
「レオ。分かりました…。よろしければ…ルナのことだけじゃなくて、貴方のことも色々教えてください。ルナが兄のように想っている人のことなら知りたいですから」
レオの方を見て、エドワードは優しく微笑んだ。
「ありがとう…」
レオもホッとしたように彼に微笑み返した。
レオは自分のせいでルナの邪魔をしてしまうのではないかと心配していたが、エドワードは心が広い人だった。
まだ受け入れきれていない部分や疑問は多くあるだろうが、素直に受け入れる努力をしてくれた。
改めてルナが彼を選んだことにレオはホッとした。
その後、少しだけぎこちない雰囲気だった。
突然にいつも傍にいる猫が不死の呪いをかけられた人間だった等と言われたら、当然だろう。
0時を過ぎ、時間が遅いこともあり、ルナはエドワードの使える寝間着等を準備した。
その後、彼が眠れる部屋へと案内した。
「あの…エドワード。ごめんね?突然のことで…びっくりしたよね」
彼の部屋の前でまた不安そうな表情をしながら言うルナ。
「そうだね…びっくりした…。でも…さっきも言ったけど、そんなに不安な顔しないで。眠ればもっと整理もつくよ」
エドワードはまた彼女を安心させるように微笑み、もう一度彼女の手を握った。
「うん…わかった。おやすみ、エドワード」
彼女も握り返し、少し不安な表情を残しつつ、微笑んだ。
「おやすみ、ルナ」
そっと手を離し、エドワードは部屋に入っていった。
ルナは少し閉まった扉を見つめた後、最上階の自分の部屋に戻った。
2人は色々な想いを胸にしながら、眠りについた。
―――――
レオは眠らずに、玄関の外へ出た。
エドワードが乗ってきた馬車を運んできた馬の様子を見に来たのだった。
馬は座ってゆっくりしていた。
「…寒くはないかな?…―――…」
レオはそっと馬のたてがみを撫でた後、少しの間会話した。
「出発は朝になりそうだから…ゆっくり休んでね」
最後、優しい声で馬に語りかけ、もう一度撫でるレオ。
馬は気持ちよさそうに目を閉じた。
その様子を見て微笑んだ後、撫でる手を離して、レオは屋敷へと戻った。
結局彼は地下室にこもったまま、眠ることなく…
気を落ち着かせようとしているのか、朝まで本を読んで過ごしたのだった。
―――――
朝方5時頃…エドワードは早く目が覚め、リビングへと向かった。
リビングには誰もおらず、“まだ早いから仕方ないか”と思い、昨日ここまで連れてきてくれた馬の様子を見に外へ出た。
すると、馬が食事をしているのを傍で見守っているレオの姿があった。
「レオ…」
その様子をみて、少し驚き、つい声を出してしまったエドワード。
「…あ。おはようございます。早起きですね、眠れなかったんですか?」
レオは彼を見て、少々心配そうにする。
「おはようございます。いえ、ちゃんと眠りました」
エドワードはレオの傍まで歩いてきた。
「そっか…よかった」
ホッとしたように優しく微笑むレオに、エドワードの驚いて強張った表情も緩む。
「ありがとうございます…昨日様子を見ないで寝てしまって…」
元気よく食事をする馬を見て、エドワードは安心しているようだった。
「仕方がないですよ。俺たちが変な話をしてしまいましたから…。いい子ですね。アミ…顔立ちが綺麗な女の子…」
馬を見ながら、そう微笑みながら呟くレオ。
「どうして名前を?」
自分が伝えていない馬の名前と性別を言い当てたレオにまた驚いてしまうエドワード。
「教えてもらったんですよ、彼女から」
「アミから?動物と話せるんですか?」
「はい、話せます」
「そうですか…この子は僕が子どもの頃からの付き合いで一緒に育ってきたんです」
「通りで…貴方のことを大切に想っているようでしたから」
「そんな話を?」
「昨日の夜中に顔を出したんです。その時に貴方のことを心配していました」
「そっか…ごめんね。動揺しちゃってほったらかしにしちゃって…」
アミは主人のその言葉に反応するようにエドワードを見つめた。
「気にしていないようですよ…」
「ありがとう、アミ」
エドワードはアミのたてがみをサラッと撫でる。
アミは一度目を閉じると、また食事をし始めた。
「あの…レオ。不死の呪いって聞きましたけど…どうして…」
レオの方を見て、真剣に少し不安そうに尋ねるエドワード。
エドワードと目は合わせず、アミの方を見続けるレオ。
「……ある事件があって、自分でかけてもらったんだ。…申し訳ない。詳しくはルナにも話していないから……」
寂し気な表情になるレオを見て、エドワードはこれ以上聞いてはいけないような気がして、黙り込む。
「では…ルナとの出会いの話は聞いてもいいですか?」と尋ねた。
「それはもちろん…。きっかけは彼女から声をかけられたことで……―――…」
レオはエドワードに彼女と出会った経緯や過ごすようになった経緯を説明した。
黙って聞いていたエドワードは、懐かしそうに優しい微笑みで語るレオを見て、ルナと同じようにレオも彼女のことを大切に想っていることが伝わってきた。
「俺にとってもルナは妹のような存在で…彼女は貴方を気に入っているようですから…俺の存在のせいで哀しむ結果になるのであれば距離を置こうと思っています」
寂し気に微笑んで、真っ直ぐエドワードを見据えるレオ。
「いえ…そこまでしなくても大丈夫ですよ。お2人がお互いを大切に想っていることは伝わりましたし、彼女が5歳の頃から兄妹のように想い合って…一緒に過ごしてきた家族を引き離すような真似は僕にはできませんよ。それに…驚きはしましたが、貴方は悪い人ではなさそうですから」
エドワードはにっこりとレオに笑いかけた。
その笑顔にレオは救われる気がした。
「…やはり…直感した通り、貴方は良い人で安心しました…」
そう静かに呟くレオ。
「え…僕が良い人だと直感したんですか?」
「ルナにどの人に声をかけたら良いか聞かれまして…それで貴方を選んだんです。まぁ貴方から魔力を感じたというもの1つの理由ですが…」
「それはすごいですね…。じゃあ…貴方がルナと僕を引き合わせてくれたということですね。それなら…むしろ感謝しなくてはいけませんね。僕は彼女と出会えてよかったと心から想っているので…。ありがとうございます」
と言い、エドワードは嬉しそうに笑う。
「あ…いや。お礼を言われるようなことは何も…
しばらく話していると6時になり、レオは猫の姿に戻った。
猫の姿に戻るところを見て、エドワードはその魔法に改めて感心した。
リビングへ戻り、ソファで引き続き会話をしていると、ルナが起きてきた。
楽しそうに会話をしている2人を見て、ルナはとても安心して喜んだ。
エドワードは、朝食を食べた後に家まで帰ることになった。
驚きの話だが…エドワードが自分やレオのことを受け入れてくれた喜びで気が高まっていたルナは、彼を見送るために外に出た後、彼へのお礼の言葉とともに彼を愛する想いを勢いあまって打ち明けてしまったのだった。
もちろんエドワードは驚いたが、同じように愛する想いを伝え返し、2人はめでたく恋人同士になった。
2人にとって、嵐のような2日間だった。
けれど、その嵐の勢いのおかげで2人の間に障害はなくなり、より心の距離を縮めることができたのだから…嵐の1日も悪くはない。
―――――
魔法が解禁されたエドワードは、馬車を使わずとも御屋敷まで彼女に会いに来ることができるようになり…一緒に過ごす時間も増えた。
また、彼女も引き続きレストランに通う日々は変わらず続けた。
そんな生活がしばらく続き…10月1日のこと、2人は猫屋敷の庭にて森の紅葉を眺めながらランチを楽しんでいた。
もちろん料理はエドワードの愛がこもったお手製だ。
この日…エドワードは、ある決意を固めていた。
ソワソワとその決意を示すタイミングを窺っているようだった。
「今日は天気良くてよかったね!景色が綺麗だし、よりご飯が美味しく感じる♩」
ルナはニコニコと幸せそうに笑う。
「…そうだね」
エドワードも笑顔を見えるが…どこか落ち着かない様子だ。
「…ん?エド。全然ご飯進んでないけど…大丈夫?」
彼の顔色を確かめるように、顔を覗き込むルナ。
「あ…いや。その……」
何やら慌てた様子で、距離を離そうとするエドワード。
「どうしたの?やっぱり変だよー。何か隠し事でもあるのー?」
怪しむように見つめながら、また距離を縮めるルナ。
エドワードはこれ以上隠し通せないと覚悟を決めたようで、きちんと座り直して真っ直ぐ彼女を見つめた。
何だか改まった様子の彼にルナは少し緊張する。
「ルナ。手…左手を重ねてもらえるかな?」
そう言ってエドワードは自分の右手を差し出す。
「な、何?手繋ぎたかったの?」
不思議に思いながらも、彼の差し出された右手に左手を重ねるルナ。
すると彼らの手を包むように赤い靄が現れた。
ルナは彼が突然魔法を使い始めたことに驚いた。
黙って重なっている手を見ていると…自分の左手の薬指に指輪が姿を現した。
エドワードは自分の手元にもペアの指輪を出し、彼女の指輪に重ねた。
その指輪には猫のシルエットが刻まれており、ペアで左右に重ね合わせると猫たちが寄り添っているように見えた。
「こ…これ…」
ルナは猫たちが寄り添っているように見える重なった指輪を見つめたまま、瞳を輝かせていく…。
「…ルナ。…僕と結婚してください。この指輪の猫たちみたいに…一緒にこの先もずっと年を取っても寄り添っていきたいと思っているんだ…。この指輪は…そういう意味を込めて準備したんだ…」
緊張した様子で真剣にルナに想いを伝えるエドワード。
彼女の答えを待つ彼の表情は、不安そうだ…。
「…嘘。ほんとに?!…断る理由なんてないわ!もちろんよ!!結婚する!!!」
大層嬉しそうに笑い、彼に思いっきり飛びついて抱き締めるルナ。
喜びがキラキラの笑顔からも伝わってくる。
「いいの…?!すごく嬉しいよっ…!」
エドワードも嬉しそうに満面の笑みを浮かべて、強く抱き締め返した。
「私も嬉しい!!こんな素敵な指輪まで…!!ありがとう、エドワード!!」
ルナも抱き締める力を強め、しばらくの間、2人は笑い合いながら喜びに浸っていた。
こうして…2人はめでたく結婚することになったのだった。
2人で喜び合った後、ルナは大喜びで屋敷にいたレオや猫たち、シュムシュムたち…みんなに指輪を見せて自慢したのだった。
自慢された彼らも共に喜んだのは、言うまでもないだろう。
すでに1度それぞれの両親に会いに行って恋人であることは紹介していたが、2度目は結婚の報告になった。
紹介してくれた時に相手の人柄の良さを気に入っていたため、母親たちとエドワードの父は快く受け入れ、お祝いの言葉を述べてくれた。
ルナの父親だけは不機嫌そうだったが…妻の説得のおかげで最後には“おめでとう”と言ってくれた。
―――――
そして…11月1日、待ちに待った結婚式の日だ。
それぞれの両親とミモザの家族、エドワードの祖父、キャンベルじいさんを招いた。
旅に出る前に仲良くしていた猫たち、猫屋敷によく遊びに来る猫たち、シュムシュムたちも招いた。
もう一人、ルナにとって大切な人もレオに頼んで探してもらったのだった。
そう…半年間一緒に旅をしたクララだ。
結局、猫たちのおかげで伝えることはできたが…来るという約束は得られず、来てくれるかは分からなかった。
クララ以外のみんなが猫屋敷の庭に集まり、ルナもきっと来れなかったんだと諦め、この瞬間を楽しもうと気持ちを切り替えた。
2人の晴れやかな衣装は、ルナが好きな紫を基調としたドレスに、エドワードは赤紫色のスーツに身を包んだ。
ルナのドレスは後ろにかけてふわっと膨らんでいて腰に大きなリボンがついている。
髪は束ね、猫耳のような紫の髪飾りをし、ベールもまた薄紫色だ。
衣装は彼らの家族とミモザと彼女の旦那さんが2人へのお祝いのプレゼントとして準備してくれたものだ。
2人の結婚式には神父はおらず、式の進行は最年長のキャンベルじいさんにお願いした。
普段はいじわるなことを言う彼も、今日は茶化さずにやってくれた。
それぞれの愛を言葉で誓い合い、指輪の交換をする。
最後に…誓いの口づけを交わす。
家族たちは2人の幸せな瞬間を一緒に祝う。
ルナの父親は彼女のウェディングドレス姿を見てからというものずっと泣いていた。
誓いの後は、庭でキャンベルじいさんとエドワードの祖父がお祝いで準備してくれた豪勢な食事をみんなで楽しく会話しながら味わった。
―――――
しばらくそのまま楽しい時が流れた後…不思議な出来事が起きた。
「…あれ?エドワード見て、雪だわ」
「雪…?」
ルナは手のひらを前に出し、ぽつんと落ちる冷たい雫を見ながら、隣に座るエドワードに声をかけた。
「本当だ。今日はすごく天気が良いし…いつもは12月くらいにならないと雪降らないんだけどな…」
上を見上げると、ふわふわと白い粉雪が降ってくる。
けれど、ひんやりと寒いわけではなく、とても不思議な感覚だ。
ルナの隣に座るレオが、その雪を見ながら何かを思っているように見えた。
「レオ…もしかしてこの雪の原因分かるの?」
「…うん、たぶん」
レオはその答えを言わず、周りを警戒するように見回していた。
ルナとエドワードは顔を見合わせて、首を傾げる。
「ルナちゃん…!」
そう呼びかけて駆けてくるのは、薄桃色のショートヘアの少女だ。
「クララさん…!」
クレオメの姿をしたクララが現れたのだ。
来てほしいと思っていた人の姿を見て、ルナは大喜びですぐその場に立ち上がった。
エドワードは少女に対して、“クララさん”と呼びかけていることに驚いているようだ。
クララという人物の話を軽く聞いていたが、てっきり大人の女性だと思っていたのに…。
「遅くなっちゃってごめんね…?」
「ううん、来てくれて嬉しいっ」
ルナは傍に来たクララの手を握り、満面の笑みを彼女に送った。
その様子を見ていたミモザが気を利かせて椅子を準備してくれ、ルナとレオの間に椅子を置いた。
久しぶりにクララに会えたルナは本当に嬉しそうだったが、相変わらずレオは何かを警戒しているようで、クララが来たことに対してあまり反応しなかった。
「実はある人にここまで送ってもらったの」
そうクララが言うと、ひんやりとした風を感じるルナ。
後ろを向くと、風に吹かれた落ち葉がくるくると踊るように舞っている。
その場所をじーっと見つめていると、だんだんと落ち葉ではなく雪が円を描くように踊り出した。
すると、その場に見たことのない人物が姿を現した。
雪のような白い肌、ふわりとした淡い水色の長い髪、輝く雪の結晶が散りばめられて輝くドレスに身を包み…唇と目元を赤く化粧をし、ドレスにも所々赤色が混ざっている。
見るからに普通の人間ではなく、雪の妖精のように見える…。
彼女の姿をみて、レオは目を大きくして驚いているようだ。
もちろん出席している人々も生きものたちも突然姿を現したので驚いていた。
「初めまして、貴女がルナさんね。ご結婚おめでとう」
ルナの傍に歩いてきたその女性は、大人っぽく落ち着きのある美しい声でお祝いの言葉を伝えてくれた。
「あ…ありがとうございます」
誰か分からない人にお祝いの言葉を言われて、きょとんとするルナ。
「レオ…そんなに驚いちゃって…。私に会いたくなかったのかしら?」
今度はレオの方を見て、妖しく微笑む女性。
「ヘレナ…どうして」
「ふふ、弟子を面倒見てくれた人の結婚式だもの。お祝いしなくちゃでしょう?」
意味深な彼女の微笑みに、レオは疑うように目を細めた。
「あなたは…レオのお師匠さんなんですか?」
ルナは興味津々な様子で彼女を見つめる。
「ええ、そうよ。貴女と出会う前に彼は私と一緒にいたの。私が治めるシュネルカという国に」
「シュネルカ…」
「彼が貴方のお相手かしら…」
ヘレナは魅了されたようにエドワードを見つめながら呟く。
彼に近づき、燃えるような赤毛を大きな瞳で興味深そうに見つめる。
エドワードもルナもその様子に戸惑った。
「…何て美しい……」
吸い込まれるように見つめる美しいヘレナに、ルナは少し焦る。
「ご、ごめんね。ルナちゃん。ヘレナは赤いものに目がないの」
と隣に座るクララがフォローする。
「赤いもの…?」
「そうよ、彼女は真っ白な雪と氷の世界に住んでいるから、鮮やかな赤色は珍しいみたいで初めて赤色のものを見た時から大好きみたいなの。だからほらお化粧も赤にしているでしょう?」
「なるほど…それでエドの赤毛に夢中に…」
「ヘレナ、ほらりんごをあげるから。彼から離れてあげて?困っちゃってるわ」
と言い、クララは魔法で真っ赤なりんごを出し、ヘレナに差し出した。
ヘレナはそれを受け取り、嬉しそうにしている。
「前に食べて喜んでたでしょう?」
「うん…好き♡」
大人で妖艶な雰囲気だったヘレナが、何だか幼い子どものようになったのを見て…ルナは面白みを感じた。
「あ…そういえば…プレゼントを忘れていたわ。ルナさん、両手を前に出して」
魔法で手元からりんごを消し、またルナに向き合うヘレナ。
ルナは言われた通りに両手を前に出した。
ヘレナが彼女の手のひらの上に手をかざすと、ルナの手元を真っ白な粉雪が囲み、かまくらのようになる。
パッとかまくらが消えたと思うと、手のひらに一匹の不思議な生きものが姿を現した。
「この子は…」
「ペンギンよ。初めて見る?」
手のひらに姿を現したのは、とても可愛らしい30㎝ほどのミニペンギンだった。
「赤毛が素敵な貴方も…両手を前に出して…」
エドワードにも同じようにさせ、彼の手のひらにももう一匹ミニペンギンを出すヘレナ。
「彼らも新婚さんなの。新婚の2人にぴったりな贈り物でしょう?ルナさんの方がメス、赤毛の貴方の方がオスよ。大切に育ててね♡」
「え…えぇ?!こんなにかわいい子たちをいただいてもいいですか?!」
「もちろん♡ 私の友好の気持ちよ」
動物好きなルナとエドワードは顔を見合わせて、嬉しそうに笑い合った。
「よければ御屋敷に彼らのお家を作ってもかまわないかしら?」
「も、もちろんです!」
「ありがとう…では、台所をお借りしますね?」
「どうぞ!」
ヘレナは庭を離れ、御屋敷の方に歩いていく…。
疑わしく彼女を見つめていたレオも一緒に着いていった。
―――――
御屋敷の玄関前まで歩いてくると、1度立ち止まって御屋敷の外観を見渡すヘレナにレオが声をかける。
「何を企んでいるんですか?」
疑いの目を向けるレオに対し…ヘレナはただ微笑みかける。
返事をせず…そのまま御屋敷の中へ入っていく。
まずは台所を見つけ、一番奥の壁に向かって魔法をかける。
壁が粉雪や雪の結晶に覆われたかと思うと…大きな鉄の扉が出てきた。
「レオ、ここは食糧庫よ。奥にあの子たちの家を準備したわ。あの子たちには食糧庫の番を頼むことにするわね」
と言い残した後…すぐ今度は別の部屋を勝手に見て回るヘレナ。
「台所での用事は終わったはずですが…?」
勝手に歩き回るヘレナに対し、彼女の行動を監視するようにじっと見るレオ。
彼女は各部屋に魔法をかけながら歩いているようで…レオにも目的が分からなかった。
「あら…この猫の銅像…立派ね」
階段の傍にある大きな猫の銅像をじーっと見つめ、何かを思いついたように微笑むヘレナ。
そして…その猫の銅像にもまた何やら魔法をかけた。
「…ヘレナ。いったい何を」
変わらず彼の質問には答えず…今度は螺旋階段を上り、上の階にある部屋も回り出した。
衣装部屋に入り、広いのに全然服が置いていない寂しい部屋を見て、目を丸くするヘレナ。
「あらあら…これしかないの?」
そう言い、また魔法をかけ、床一面を粉雪で満たす。
すると、ぽわっと突然多くの洋服や靴が現れ、衣装部屋がいっぱいになった。
その部屋を見て満足気に笑うヘレナ。
一方で…まったくヘレナが何を考えているのか分からず、レオは困惑していた。
勝手に行動する彼女を止めようとするレオを無視し続け、次々部屋を回り、最上階のルナの部屋にやって来た。
部屋に入った途端、何かを確信したような笑みをを浮かべるヘレナ。
「見える……この部屋だわ」と言いながら、部屋を見渡す。
「何が見えるのですか…?」
と質問するレオの方に視線を向け、初めて彼の質問に答えた。
「未来よ…青の瞳……見えるわ」
ヘレナは遠くを眺めるように窓の外を見つめる。
「青の瞳…?」
彼女はそれ以上のことは答えず…この部屋にも魔法をかけた。
最後、レオが普段生活している地下室を見て回った。
彼女は図書室に入ると、再び何かを確信したような笑みを浮かべた。
「…ヘレナ、もういいでしょう。なぜ魔法をかけているのか知りませんが…」
「…ふふ、貴方に私を止めることはできないのよね?」
猫であるレオと目線を合わせ、にんまりと意地悪な笑みを浮かべるヘレナ。
痛いところ突かれたというように、グヌヌっと顔をしかめるレオ。
「ええ、一通りやりたいことはできたからもう帰るわ…お邪魔みたいだし」
「…邪魔とは言っていませんが……」
「そうかしら?ずーっと怖い顔をしているのに…。ふふ、最後に一つ言っておくわ…。レオ…絶対この屋敷から離れず、彼女たちの傍にいなさい。そうすれば…必ず運命に導かれる…」
その言葉に目を丸くし、しかめていた顔がほどけた。
「…青の瞳…その者に出会うまで…絶対にここを離れてはいけませんよ?」
彼を威圧するように見つめまま…舞う粉雪の中に姿を消した。
消えた場所を黙って見つめたまま…彼女の言葉を思い返すレオ。
“青の瞳…?いったい何を見たんだ……青い瞳なんて…珍しくはないと思うけど…”
しばらく考え込んだ後、結婚式会場に戻るレオ。
不思議そうにするルナたちにヘレナはもう帰ってしまったと伝え、再び楽しい時間を共に過ごした。
さっきまで降っていた雪は、ヘレナが立ち去ると同時になくなり、晴れやかな空が広がっていた。
ルナにとって、大好きなクララも来てくれ、レオの師匠であるというヘレナから素敵なプレゼントをもらい…大満足の結婚式になった。
式が終わり、屋敷に戻った後…一番驚いたのはミニペンギンたちの住まいのことではなく、すっからかんだった衣装部屋に満ち満ちと服や靴が揃っていることだった。
お洒落が好きなルナは大層嬉しそうにしており、しばらく服を見て回って部屋から出なかったそうだ。
夜は、レオも猫たちも御屋敷から離れ…夫婦になって初めての夜を2人きりにしてあげた。
彼女たちが温かで幸せな夜を過ごしたのは…間違いないだろう。
御屋敷を離れ、外を歩いていたレオは…ヘレナがかけた魔法と見た未来について考えていた。
ヘレナはいったい…御屋敷に何の魔法をかけたのだろうか…。
いったい…最上階のあの部屋で…どんな未来を見たのだろうか…。
幸せな将来を誓い合った熱い2人とは違い…冷たい風に当たりながら将来への不安を感じるレオだった。
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時は戻り…ルナの結婚式の思い出を聞き終えたキトは、感動しているようだった。
「…11月1日…私とレオさんが結婚式を挙げた日と同じだったんですね!」
とても嬉しそうに笑うキトに対し、ルナも同じように微笑みながら頷いた。
「あと…結婚式にヘレナさんが現れたんですね?!」
と興味深そうに尋ねるキト。
「そうよ!その時に初めてミニペンギンたちと一緒に住むことになったの。あと素敵なお洋服たちもいーっぱいプレゼントしてくれたの♩…すぐに帰っちゃってその時はあまり話せなかったけど…。御屋敷の中に結構長いことから何してるんだろうって思っていたら…私のためにプレゼントを用意してくれてたなんて、良い人よね!」
あの時の感動を思い出すようにうっとりしながら答えるルナ。
「そうですね!私もお会いしてみたいな…ヘレナさん。お話には聞いたんですけど…今は大変な目に遭っているって言いますし…彼女も無事だといいんですが…」
キトは心配そうな表情を浮かべて、俯く。
「…そうね。きっと大丈夫よ」
ヘレナは安心させるように彼女の手をとり、大きく頷いた。
「さぁてすっかり夕方ね。私の思い出話は楽しかった?」
「はい!とても!!」
幸せそうなキトの微笑みを見て、ルナも安心した。
元気のなさそうだったキトからその影がなくなった。
御屋敷に現れた黒猫がひいおばあさまの幽霊であることはキト以外には伝えず、そのまま黒猫として過ごすことになった。
これからもひいおばあさまが傍にいてくれるということを、彼女は嬉しく思い…ホッとした。
いなくなってしまったレオのことを心配する気持ちは消えなかったが、彼女のおかげで疑いも晴れ…心穏やかに過ごせるようになったのだ。
数日の間は…そのまま穏やかな心と同じく…平和な日が続いた。
しかし、1月11日…また大きな事件が起きるのであった…。
第10章:猫屋敷と不思議な森の結婚式。を読んでいただき、ありがとうございます!
次回は、レオがいなくなったのをいいことに…再びの敵の影が忍び寄る。
そこへ現れた救世主…その者の働きにより驚くべき屋敷の秘密を知ることになる。
第11章:化け狐と化け屋敷。(仮名)をお楽しみに!
ぜひ読んでいただけると嬉しいです!
★前書きの表紙についての解説
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左上:クレオメとレオ(猫)、ヘレナを見て怪しんでいるレオと落ち着かせるクレオメといった感じ。
右上:ヘレナとラブラブなミニペンギンたち。
下:花嫁・花婿衣装のルナとエドワード。2人はとても幸せそう。
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★登場キャラクターイメージ
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ヘレナ
ルナの杖