side:リュシアス
分かるようになってきたと思っていた彼女が、また分からなくなった。
近づいて手が届きそうにな距離に近づいたはずなのに、それはいっそ幻だったのではないかと錯覚する。
荒野にただ一人残され、暗闇に光る一つの星を見つめているようだ。
まばゆいそれは、手をのばせば届きそうな気がするのに。
その程遠い距離に、それは全くの気のせいだと突き付けられ絶望すら覚えた。
彼女が距離を置きたいと望むならば、私はそれに従うべきだと感じた。
その通りにしてみても、私の思いはなんら色あせることはない。
それどころか、焦がれる思いが募っていくだけだった。
彼女のふとした表情がやけに気になる。
前よりも遠くを見つめ寂しそうにして、空虚な目をすることが増えたように思えた。
私と距離を置けば何かいい方向へと変わるならば、それも仕方がないと思えた。
しかしそれとは裏腹な彼女の様子に、どうして私から離れていくのか一層分からなくなった。
何から自分を守ろうとしているのか。
それをして彼女は果たして幸せなのか。
問いただしたい衝動が湧きおこり、今のこの関係に苛立ちを覚える。
社交界の方も随分と騒がしい。
彼女をパートナーとして社交の場へ連れて行ったことで、私が後妻を娶る気があると勘違いした輩が、次々に令嬢の調書を送り付けてくる。
私が望んでいるのは、後妻ではない。
彼女が欲しいだけだ。
しかし必ずしも、彼女をその立場に押さえつけたいわけでもない。
側にいてくれればそれでいい。
その形が結婚であれ、同居であれ、なんだって構わない。
それにパートナー同伴での招待状も増えている。
皇太子殿下さえも彼女に会いたいと所望されている。
だが私は彼女を貴族たちの噂にしたり、見世物になど絶対にしたくない。
そんな中、彼女はまた私の手を握ってくれた。
強制的な舞踏会という形だが、それでもパートナーとしていてくれる。
彼女が側にいるだけで、私はもう幸せだと思った。
それに例え今彼女が私を望んでいなくても、近くにいれば私の熱が彼女に移るはずだと確信している。
早くこの熱が彼女に伝わるといい。
彼女は私だけのものだ。
そして私は彼女だけのものだ。
他の誰にも譲らない。
他の誰もいらいない。
ただティアーナが欲しい。




