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1 ティアーナ・アコーリス

「お嬢様、お目覚めですか。お加減いかがですか。」


――――『お嬢様』。そう、私のことである。

『ティアーナ・アコーリス』

成金男爵家の長女として生を受けて15年になる。

商家あがりの貴族のため、両親ともに忙しく働き回るのが好きで、いつも家を留守にしがちだ。兄は5つ離れており、後継の勉強のため両親の手伝いに忙しくあまり構ってもらえない。

あわただしく過ごしている家族だが、なるべく食事の時は皆揃って取るようにしているし、家族仲はおおむね良好と言っていい。


容姿はというと……自分で言うのもなんだが、整っている方だと思う。

腰までゆるやかに揺蕩う、りんどう色の髪。

小ぢんまりとしたかんばせには、さくらんぼ色の唇に、アーモンド型のぱっちりとした青藤色の目がかわいらしく配置されている。

肌の色は陶器を思わせるような、透き通るような白だ。

細い体躯だが、出るところは出ている。

儚げ美少女とはまさにこんな感じだろう。


なぜこのように自分の身分や容姿を紹介するようにつらつらと考えているのか。

それは、昨日あった事故により自らに関する記憶を整理するためである。


怪我をするような大事故ではなく、馬車に轢かれそうになっただけで、かすり傷ほどの怪我もしなかった。

怪我の衝撃で脳に損傷がとか、記憶喪失になったわけでは決してない。

まぁ、近いようなものか。


記憶に混乱が生じた。これである。

つまり、自分でも信じがたいことに、前世の記憶を思い出してしまったのだ。


なんでこんなことに。


いや、前世でも多神教信者のような仏教徒であり、輪廻転生はよくよく知られ、信じられてきたことである。

でも前世で、そのまた前世の記憶があったわけではない。

前前前世なんて、さらに疑わしいものだ。

輪廻転生を願っても、心底信じていたわけではない。

まして別の人生の記憶なんてあっても、ただ虚しく、悲しいだけじゃないか。

だって愛していた人たち、環境がまるっと同じなわけではないし。

死んだあとの続きや、後悔した出来事のやり直しを出来るわけでもないだろう。

どうしようもなく辛い境遇だったならまだしも、そこそこ幸せな人生を送ったと自分では思っている。

まあトラックにはねられ人生を終えたのだから、予期せぬ最期だったのだが。


そんな前世最後の記憶にある事故と同じような事故にあったためか、その瞬間に怒濤のように記憶がよみがえってしまった。

普通走馬灯って、その人生を反芻するものではないのか。

なぜ今世の自分でなく、前世の自分の走馬灯をみなければならないのだ。解せない。


そんなこんなで、一夜経っても未だにやや混乱しているわけである。

今世の自分に関することを忘れたりしているわけでは決してない。

前世から始まった生が、別の人となってさらに繋がって、続いていく。


どうしたもんかなぁ。

行き場のないため息ばかりが部屋を満たす。


何で今さら、平凡な日本人のアラフォーどころか、アラフィフに片足突っ込んだようなおばちゃんが転生とかするんだ。

転生ものの小説大好物だったけど!悪役令嬢ばっちこい!

いやいや。だからって、こんなおばちゃんキャスティングするとかないわー。

てか、小説の世界とかそんなんじゃないんだろうけど。


ほんとどうしようねぇ。


――――うん。

とりあえず、お腹すいた。

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