表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/81

真似っこ

「もうマリっ、真似っこしないでえっ!」


 あの日から私の大事な双子のマリエッタは変わってしまった。


 人の後ろに隠れるような大人しかったマリが、急に性格が明るくなった。自分から積極的に話しかけたり大きな声で笑ったりまるで別人のよう。


ハシゴから落ちて頭を打ったことで、一体マリに何があったんだって皆がこぞって心配した。


 けれどお医者さまが大丈夫だと太鼓判を押して、マリも今のままではいけないと変わりたいと思っていると口にしたことで、お父さま達は大いに納得して喜んだ。マリの引っ込み思案すぎる性格は皆が気にかけていたところだったから。


私だって最初は嬉しかった。外で思いっきりかけっこをしたりマナーレッスンの厳しい先生から逃げ出したりと、これまでしたくてもやれなかったことを二人でするようになって、頼もしい味方が出来た気分だったのだ。


「あら、ジュリ姉さまこそ真似しないで。りんごの刺繍を最初に刺したのは私の方よ」


「だって、テーブルにはりんごとオレンジしかなかったもの。私がりんごの方が好きってマリも知ってるでしょう? でもっ、蝶々はいなかった。りんごに蝶々をとまらせたのは私なの! お母さまのお好きな蝶々なのにっ」


「私だって、最初からそういうデザインにしようって考えてたのよ。偶然一緒になっただけなのに、ひどいわ、お姉さまったら。人のデザインを真似しておいて、勝手に癇癪を起こして、妹の私を怒鳴ってなじるなんて」


 マリが悲しそうに瞼を伏せると、それまで黙って様子を見ていた刺繍の先生が腰を浮かす。


「ジュリエッタお嬢さま、どうか落ち着いてくださいませ。マリエッタお嬢さまにそんな言い方をしてはいけません。デザインが似ることはよくあることですよ。身近なものを刺しましょうという課題なのですから」


「でも、違うの。違うのっ」


 どうして私がこんなに怒っているのか。わかってくれないのか。私だけが怒られるのか。


もどかしくて悔しくて何度も首を振るけれど、先生は困ったように眉を寄せるだけだ。それを見ると自分がわがままを言っているようで、ぎゅうっと唇を噛んだ。


 最近のマリはいつだって私の真似ばかりするの。刺繍だけじゃないの!


 そう大声で叫びたかった。


 年が明けてすぐ、私が大好きなアプリコット色のドレスを自分のものにしたのが始まり。それまでピンク以外のドレスを選んだことがなかったマリが、私の部屋から毎日のようにドレスを取っていくのだ。リボンだって靴だってハンカチだって。


最初はお揃いだって喜んでいたけど、マリの真似っこは他にもどんどん広がっていった。


髪だってそう――マリはさらりとした直毛、私は柔らかいふわふわとした髪で双子でもまったく違う。違うのにマリは毎朝メイドに頼んで私そっくりのふわふわの髪を作り上げるのだ。二人で並ぶと、私がもう一人いる感じに見える。


他にも食べ物の好き嫌いが私とまったく一緒になったし、することややることだって同じ。今までお父さまにはもじもじして自分からは近付かなかったマリなのに、今では私より先に走っていって抱き上げてもらうようになった。私の場所だったお父さまの腕はマリの場所に変わってしまったのはとても悲しい。


今日一日あったことをお母さまにお話するのだってマリがする。私より先に全部上手に話してしまうから、マリの後には何も話すことがなくなってしまう。前は私とマリで交代交代に話していたのに、マリは私におしゃべりさせてくれない。


マリは私のことが嫌いになっちゃったの? 


どうして私の真似ばかりするの?


もう昔みたいに、マリの心が見えない。


何より、マリは私を悪者にする。それが一番つらかった。


私が変なことをしたとか、わがままを言ったとか、マリは大人みたいに上手に話す。今みたいにいつも私が悪いように周りの人に言いふらす。違うんだって、本当はこう思ったのよって私が言ってもマリみたいに上手く話せないせいで伝わらないし、逆に私が変なことを言ってるって顔して取り合ってくれない。そうこうしているうちに、どこからともなくやってくるマリにいつも邪魔されてしまう。


最近お父さまとお母さまは「ジュリはお姉さまなのだからね」が口癖になった。屋敷中の人達が「マリエッタお嬢さまは今変わろうと頑張っていらっしゃるのに」と困った顔で私を見るようになった。


私はお姉さまだから、マリが変なことを言っても我慢しなきゃならないの? 


嘘だっていう私のことを、どうして信じてくれないの?


マリが変な風に変わってしまったって何でわかってくれないの?


悲しくて悔しくて、今日もぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。


「まあまあ、ジュリエッタお嬢さま。こんなことでお泣きになるなど、素敵なレディーになれませんよ。困りましたわ、これはご両親にご相談しないといけませんわねえ」


 どうして私が怒られているのに、マリは楽しそうに笑ってるんだろう。どうして先生はそんなマリに気付かないんだろう。


 マリが全然知らない人間になってしまったのがとても怖くてとても苦しかった。


読んでいただきましてありがとうございます! ジュリエッタの中の人が前世の記憶を取り戻すまでもう少し。それまでは早めに更新します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ