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プロローグ

初めまして。小説の連載を始めました。ラブパートまで少し長いですが、お付き合いいただければ幸いです! 最初からしばらくがっつりシリアスです。ご注意ください!

「うっそ、ジュリマリの世界じゃない」

 

 双子の妹のマリエッタが変わってしまった日のことはよく覚えている。

 七歳になったばかりの寒い冬の夕方のこと。


「ジュリ、マリ……? 私とマリのこと?」


 初めて聞くはきはきとした声で、マリは意味のわからない言葉を発した。


「マリ、もしかしてまだ頭が痛いんじゃなあい? 覚えてる? マリは図書室のハシゴから落ちて頭を打ったのよ。二人でかくれんぼしてたとき」


 マリの様子がおかしいのは転落の痛みがまだどこかに残ってるからかと思った。ベッドの枕元に座ってマリの顔を覗き込む。


「マリ、マリエッタ。ねえ、姉さまの私にはちゃんと痛いって教えて? 精霊さまにお祈りしてあげるから」


 お母さまがよくしてくださるように、マリの額にかかる前髪をそぉっと指でどかした。けれど、その指をマリがうるさそうに払う。


「え……」


 きょとんとする私に、マリがゆっくりと起き上がった。さらさらと肩を滑り落ちていく麦の実りのような金髪も初夏の庭のような緑色の目もいつものマリと変わらないのに、なぜだか全然違って見える。冷たい目つきは人を観察しているようで何だか嫌な感じがした。


「マリ……?」

「あんたは記憶がないんだ?」


 温かみがない声で訊ねられて私はますます首を傾げてしまう。何より『あんた』なんて初めて聞く乱暴な言葉に胸がどきどきと苦しくなった。


 マリが、マリじゃないみたい。


 知らないうちに私はぎくしゃくとベッドから立ち上がって後ずさっていた。


 難しい言葉で二卵性双生児というらしい私とマリは、顔形も姿もまったく似ていない。私の髪の方が金髪の色が薄くてふわふわしてるし、目の色はマリと違ってお空の水色だ。


 だけど双子として生まれて、いつだって何をするのだって一緒だったし、だからマリのことはもう一人の自分みたいに感じていた。マリの考えていることはいつも何となくわかったし、マリのことは私が一番知っていると自負する。


 朝起きるのが得意でちょっと自慢に思っていることも、始めたばかりの刺繍が楽しくて私よりうんと上手に出来ることも、外を走り回るより人形遊びが好きなことも、グリンピースが嫌いでピーマンはもっと嫌いなことも、何でも知ってるんだから。


 大人しくて引っ込み思案で、人の好き嫌いが激しいために家族や数人のメイド以外とは話すことも出来ない人見知りのマリ。いつだって私の後ろに隠れるようなマリを、私が守るとずっとずっと心に決めていた。


私は姉さまだから――――。


 誰よりも大切なマリだからこそ、今目の前にいるマリがまったく知らない人みたいで怖くなる。外の寒さが急に部屋の中に入り込んできたようで、体がぶるぶる震えた。


「マリぃ……」


 願うように呼んだ声に、我に返ったみたいにマリが顔を横に振った。


「いやいや、私がマリエッタなんてちょっとマジムリっ。何でジュリエッタじゃないの、絶対ジュリの方がいいでしょ。ジュリは王子さまと幸せハッピーエンドで、マリはざまあされて修道院行きじゃん。もう何これ、めっちゃムカつく! 王子キースも麗しのルカーシュさまもジュリにしか興味ないじゃんっ!」 

「ひっ」


 激しい口調も大人みたいなもの言いも乱雑で汚い言葉も何もかもいつものマリと違う。怯えて思わず後ずさる。


「あっ、そういえば今いつよ!? 王宮でのお茶会はまだ? 確かあれは七歳の初夏で、じゃ、セーフってこと? あれでキース王子と運命的な出会いをして、だからジュリは……」


 勝手にひとりでしゃべっていたマリが私を見てふと言葉を止めた。何かを考えるふうで指先をカリカリと噛んでいる。そうやって口を開かないでいると可愛い妹のマリ以外の何ものでもなくて、ほんの少し落ち着いた私は姿勢を正した。


「マリエッタ、待ってて。お母さまに言って、お医者さまを呼んできてもらうから」


 震える指を握り込んで、誰か呼んでこようと歩き出す。


 お医者さまか誰か、ちゃんとマリを治してもらう人を連れてくるから!


「ははっ、そうだよ。まだ始まってもないんだから、私がジュリになってもいいじゃん。ううん、マリジュリにすればいいんだ。うふふ、キース王子もルカーシュさまも私のものでしょ!」

 

 部屋のドアを開けたとき、背後で私の名前が聞こえて振り返る。マリエッタは声を上げて笑っていた。見たことがない怖い笑顔で。

 

 まるで絵本に出てきた魔物付きのお化けみたい……。

 

 そう思って、けれどすぐに自分がとてもひどいことを考えたことに気付いて顔が真っ赤になる。とっさに目を逸らして廊下へと駆け出した。


「お母さま、お母さまっ。マリエッタが何か変なの――っ!」


読んでいただきましてありがとうございます。ジュリエッタの中の人の記憶が戻るのはもうしばらくあとになります。それまではなるべく早く更新する予定です。

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