第五話 御屋敷 探検
こんにちは。雨宮改め、エマです。
もういいやと開き直ることにしました。
私はエマ=クラーク、4歳だそうです。装備品は4歳とは思えぬ眼光と、まるで似合わぬロリータ服、梳かしても梳かしてもすぐカールの戻るドリルヘアです。
眼光とドリルヘアだけでそこらの小動物とか仕留められそうだと思ってる。エマには可哀想だけども。
今日は屋敷の中を探索することにしました。
この一週間、怒涛のように過ぎて行ってしまって、実は私はほとんど屋敷の中のことを知らなかった。
食事は部屋に運ばれてくるし、バスルームも部屋に横付けされている。だから私が知っている場所といえば、自室と玄関ホールくらいなのだった。
1週間、エマは木に登り落ちて怪我をした。どんなじゃじゃ馬姫だよと思うが、まあそのことから、しばらくエマは屋敷内から外出禁止となっている。(これは着せ替え人形にしてくれた母上様の命だ。)
普段のエマの行動からしたら屋敷内より屋敷の庭や森を散策しているほうが”らしい”のかもしれないが、外出禁止となったことは、むしろ私にとっては都合がよかった。大腕振って屋敷の中をうろちょろできるのだから。
私は今、持っている服の中で1番フリルの少ないワンピースに身を包み、赤い絨毯の敷かれた廊下を機嫌良く歩いている。だって考えても見て?ふかふかのレッドカーペットだよ?こんなの国会かどこかの映画祭くらいでしかお目にかかれないやつだよ?こんなの踏みしめて歩けるなんてどこのセレブ!……ああ、この家なんかいいとこの家なんだっけか。
まあそんなことで、私はカーペットや屋敷の調度品を見上げセレブ感を味わいながら鼻歌交じりに廊下を歩いている。時折 すれ違う使用人たちがひっ!と声をあげて立ち止まるので、私はその度に「こんにちはー、今日もおつかれさまです」と気の抜けた挨拶をして通り過ぎている。
廊下歩いてるだけでこんな怯えられるなんて、普段どんな生活してきたんだよエマ……4歳だろ……?
そんなこんなで何度か角を適当に曲がりながら歩いていると、行き止まりにぶつかった。
おおう。ここで私のセレブなお散歩もおしまいか。ちょっと残念な気もするけれど、行き止まりには何やら部屋があるようだった。重厚感ある彫り物がされた観音開きの扉が、少しだけ開いている。
……これは覗いてみるしか、ないよね?
まあここはエマの家なんだし、部屋を覗いたくらいじゃ、そんなに怒られたりしないだろう。それにこんなところで扉が開いてるのが悪い。中を見てみて!って言ってるようなもんだもん。
私は好奇心に駆られて、そっと扉まで近づいてみた。
…人のいる気配は、しない。なんの部屋なんだろう?
なんとなく、そっと忍び足で、扉まで近づき、私は部屋を覗いた。そして、思わず声を出した。
「うわあ…!」
この部屋は、図書室だったのだ。
作り付けの書架は天井まで高く、ぎっしりと本が詰め込まれている。天井には品のいい天使達が思い思いに遊んでいる絵が描かれ、大きな窓は格子状の枠に磨りガラスがはめられている。まるで、おとぎ話に出てきそうな図書室だ。
私はもともと本もアンティークも家具も好きだった。最近じゃ激務に追われて本を読む暇もアンティークの骨董市をのぞく暇もなかったけれど……とにかく、とにかくこの部屋は最高の空間で、私の趣味ドンピシャだった。