表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/17

レイVSアリア

 模擬戦を終えたソニアは、体を限界まで酷使したせいかフラフラと歩いてくると、レイ達の横まで来て地面に座り込んだ。


「あ〜あ〜!! ありゃあ勝てる気がしないわ! アッハッハッハ!!」


「いやあ、ソニアちゃん十分に渡り合ってたにゃあ。団長は頭おかしいくらい硬いからしょうがないにゃあ」


「……ヒビ……入ってた……中々出来ることじゃ……ないよ……?」


 ソニアは豪快に笑い言い放つと、模擬戦を見ていた面々が先ほどの戦闘を讃える。

 すると、デュランが鍛錬場から戻ってきてソニアに言った。


「ソニア君は想像以上の腕前だったな! とても村娘とは思えない戦闘力なのだが……一体どこで戦い方を……?」


「うちのジジイに少しな……魔物から身を守るためにだ。こいつもまだ小さかった頃さ。後は我流よ我流」


「祖父殿にか……しかし我流とは恐れ入った。これはレイ君の模擬戦も楽しみだな! ガッハッハッハ!」



 何故か姉の話から自分の模擬戦の期待のハードルが上がってしまったレイは、もうどうにでもなれと腹をくくった。



「こいつはまだてんで素人さ。戦い方のたの字も知らんガキさね。まあ、だが…………みてのお楽しみだねえ」


(なんで期待させるようなこと言ってんの姉さんンンンン!!!)


 姉がフォローしてくれるかと思いきや、期待させるような発言をした為、レイは空に昇った後叩き落とされたような気分になった。そして、周りはソニアの発言を聞き、ほほぅとレイを見て唸っている。



「では早速つぎの模擬戦を始めようか! アリア、レイ君、準備はいいか?」


「……はい……大丈夫です……」


「………………はい……ハハハ」


 デュランがレイとアリアに準備の確認をすると、ソニアはおもむろに二人にに近寄る。


「レイ。いつつつつ……あ、これ腕イッてんな…………。まぁアンタがどうあがいても勝てないだろう相手だが、こんな機会は滅多にないよ。後先考えず最初から全力でいきな。一太刀でも浴びせれば、今日の晩飯は大盤振る舞いだよ! あとアリアっつったか。これは忠告だけど、獲物を木剣にするのはやめたほうがいいよ」


「……え……?」


 ソニアは、レイに合わせて木剣で相手をしようとしていたアリアを諌めた。周囲の者も首を傾げて不思議がっていたが、アリアは素直に鉄製の剣に持ち替えた。

 アリア以上に口数が少なくなっていたレイであったが、ソニアから一太刀浴びせれば夕飯が豪華になると聞かされると、


「え!! ほんとに!! やったぁ!! 頑張るぞぉぉぉ!!」


 「…………」


 あまりの食欲に忠実なレイを見て、周りのものは思わず苦笑していた。



「それでは両者! こちらへ!」


 審判の騎士が二人を鍛錬場に促した。




 ーーーー




「さて、どうなるかにゃあ」


「アリアがやりすぎなければ良いがな! ガッハッハ!」


「銀閃姫と謳われた者の実力を間近で見られるとは……ついている」


「…………」


 各々模擬戦の予想を口にしている中、ソニアは黙ったまま行方を見守っていた。鍛錬場では、洗練された無駄のない動きで構えを取るアリアと、完全に素人感丸出しではあるが正眼に構えるレイの姿があった。


(さすがだねぇ……動きに無駄がない上に隙も無い。さて、あいつがどこまでやれるか……切り札が唯一の勝機だねぇ)


 ソニアが思考を巡らせていると、審判が模擬戦の始まりを両者に確認する。


「それではこれより、アリア・クロノス・アスター対レイ・オラトリアの模擬戦を始めます。互いに致命傷となるような攻撃は禁止。戦闘続行不能、もしくは降参により敗北とみなします。両者よろしいですか?」


「…………はい……」


「はい!! よろしくお願いします!!」



「それでは……試合開始!!!」




 ーーーーーー



 レイは、審判の模擬戦の確認事項を聞きながら、先程姉から言われたことを思い返していた。


(姉さんに、後先考えず最初から全力でって言われたけど……剣に魔力を流すのと……身体にも流した方がいいのかな?…………でも後から怒られるのも面倒だし、全開で行こう!)


 目の前にはアリアが流麗な動きで構えを取り、こちらを見据えている。


(あの団長さん以上に強いアリアさんと、僕が戦えるなんて……確かにこんな機会はないよなぁ。失礼にならないように全力でやらせてもらわないと!)


 最初から全力全開でいくことを心に決めたレイは、審判の開始の合図を待った。


「それでは……試合開始!!」




 開始の合図と共に、レイは全力で剣と身体に魔力を流した。

 凄まじい魔力の奔流が、周りの空気を揺るがす。白い光の奔流が、剣に宿りその形を変えていく。身体にも濃密な魔力を纏い、サラサラな緑髪が魔力の流れに沿うように逆立つ。今や緑色の髪は白い光に染まる白髪の様相を呈していた。





「にゃにゃにゃにゃにゃんだこりゃあああああああ!!!!!!!」



「これは…………!!! あの時の白い光か!!!!!!!」



「ダーーッハッハッハッハ!!! あいつ! 潜在魔力が上がってやがる!! アホだ!! ハッハッハッ!」



 あまりのレイの変わりように、周りの騎士達は開いた口が塞がらない。中には、食堂から持ってきたつまみを驚きすぎて周りにぶちまけている者もいた。

 エミールとデュランですら、驚愕し呆然としていた。ソニアに至っては爆笑している。

 そんな中、シャルも驚愕を隠し得なかったが、


(こ、これはまさか………いや、そんなはずは……)


 思考に耽るシャルであったが、一部始終を逃すまいと食い入るように視線を鍛錬場に戻した。



 ビリビリと伝わるほどの濃密な魔力の奔流を肌で感じながら、アリアはレイを見据えていた。


(……ただの男の子じゃないとは思ってたけど……)


 アリアとデュランは巨狼を倒した現場を目撃した。禍々しいほどに変異した巨大な狼の死体と、切り倒された巨大な木。そしてあまりにも場にそぐわない傷だらけの気を失った少年。

 アリアはそこで確かに、精霊の魔力の気配を感じた。だが、隙を見つけては少年を観察したものの、精霊の気配は感じられなかった。最初は偶然かとも思った。だが、


(……これは……精霊の力じゃない……? ……魔法でもない……。……単なる魔力で全身を包んでるだけ? ……恐ろしいほどの魔力量……)


 レイの様子を油断なく観察し、分析するアリアであったが、


(……来る……!)



 瞬間、体勢を低くしたレイはアリアへ全力で駆け出した。

 一気に限界まで加速したレイは、瞬時にアリアへ肉薄した。速すぎる加速と魔力の奔流が空気を震わせ、突風を辺りに巻き起こす。

 レイは低くした体勢から、剣をアリアに振り上げる。なんとかレイの姿を目で捉えたアリアは、左下段から迫るそれをそのまま右に受け流す。


「うにゃああああ!! は、はっや!!」


「魔力を脚に流しているのか、いや……全身……? 身体強化を使った様子は無い……それにただの魔力が継続的に可視化するなど……」


 レイの加速を分析するシャルであったが、不可思議な現象が次々と起こっているため理解が追いついていない。



「っととと!! うわっ!」


 ズテーーーーン!!



 受け流されたレイは勢い余って地面に転がってしまった。魔力を流しすぎて、身体が追いついていなかったようだ。これには、驚愕していた周囲の者達も目を丸くする。


(……剣の腕自体は……そうでもない……ただ……)


 アリアは、たった今受け流しをした鉄製の剣をチラリと見る。刃の部分が削り取られ、ボロボロになっていた。


(木剣だったら……今のでやられていた……)


 背筋に多少の冷や汗をかきつつも、剣の腕自体は素人であると判断したアリアは気を引き締め直す。どれだけ早くとも、来ると分かっていれば対処はできる。


(問題は……剣が持つかどうか……)


 早めに勝負をつけなければいけないとアリアは悟った。

 レイは、大分転がり回ったもののやっと起き上がり剣を横に構えている。


「……身体強化(エンチャント)付与(フィジカル)……」


 身体強化をしたアリアは、いつレイが来てもいいように迎撃の構えを取る。



「えっと、打ち込みの瞬間に力を込めて……んでたくさん魔力を……」



『クスクスクス……そのまま、思いっきり……横に振って』


(…………あの時の声……!?)



 誰かの声が聞こえた気がしたが、すぐさま思考をアリアに移す。



(打ち込みの瞬間力を込めて、そのまま……思いっきり横に……)



 レイは姉から教わった剣の振り方を確認するように呟くと、()()()()()()剣を横に薙いだ。





(……?? 何をやって…………!!!!!)


 瞬間、ゾクリと嫌な気配を感じたアリアは、全力で身をかがめた。






 一閃。






 なりふり構わずのけぞるように身をかがめたアリアは、何かが鼻先を掠めた音を確かに聞いた。

 周囲の者は、何が起きたか分からずにただ状況を見守る。

 二人の位置は五メートルは離れている。

 あの位置から剣を振るい、何ができると言うのか。アリアはのけぞった体勢を戻し、再び剣を構えると


 ポロリ……カンッカンッカララン……。ズガッシャーーーーン!!!



 柄から先の刃が、まるで鋭利な刃で切られたかのように切り取られ、虚しい音を立てて地面に落ちた。そして、アリアが背にしていた闘技場の支柱の一本が斜めに切り崩され、音を立てて崩壊した。



「……え…………?」



「は…………?」



 状況を飲み込めないアリアを含めた周囲の者達は、ただ呆然とレイを見やると、


「え、えっと…………」


 そこには光の刃が伸びた剣を持つレイが、場の空気に耐えきれず困惑していた。





「………!? …こ、これは……。……戦闘続行不可能と見なし、しょ……勝者! レイ・オラトリオ!!」




「「「ええぇぇぇぇぇぇ〜〜〜!!!!」」」



 一同驚きのあまり開いた口が塞がらず、揃って声を上げた。

 アリアは、残された柄を見つめると、ふっと笑みをこぼして


「……やっぱり…………」


 ひっそりと呟いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ