ソニアVSデュラン
戦闘開始の合図と共にソニアはデュランの下へ駆け抜けた。下段に構えた戦斧を勢いよく振り上げる。
「先手必勝おおおぉぉぉぉぉ!」
上段に構えた大剣がそれを迎え撃つ。斧と剣がぶつかり合う。瞬間、耳をつんざくような轟音が響き渡る。近くで見物していた騎士や、レイ達も思わず耳を押さえた。
「見かけによらず、とんでもない力だね……ッフ!!」
ソニアの一撃を受け止めたデュランは、押し返すように斧を弾き飛ばすと一歩踏み込み、そのまま剣を切り返してソニアを狙った。押し返されたソニアは迫りくる下段からの剣戟を、間一髪でバックステップでかわした。が、その頬には一筋の傷が付いていた。
「さすが騎士団長さん。やるじゃないか……! 身体強化付与!! ッハアアアア!!」
頬から流れる血をペロリと舌で舐めたソニアは、すぐさま身体強化をすると斧を回転させながら斬りかかる。凄まじい速さで左右から連撃を放つソニア。だが、デュランはことごとくの斬撃を大剣で受けている。
(全部受けきっている……? いや、わずかに力を流して捌いているのか)
力だけでは押し切れないと察したソニアは一旦後ろに下がり、呼吸を整える。
「韋駄天!」
後ろに下がったのも束の間、脚全体に魔力を流したソニアの姿が一瞬で消えた。
(疾いっ!!)
デュランは一瞬ソニアを見失うも、すぐに下段に剣を構えると、すぐ近くに限界まで体勢を低くし疾走してくるソニアを見据えた。
交錯の瞬間、デュランはソニアへ剣を切り上げる。剣がソニアに吸い込まれるように当たった瞬間、ソニアの姿がブレた。剣はそのまま空を切った。
(なに!? 横か!!)
消えた残像を横目に、右に視線をやると既に戦斧を横に振りかぶったソニアが肉薄していた。
「ック!!」
剣を握る手にありったけの力を込めて打ちおろす。だが、迫る斧の軌道が寸前で上に逸れ、デュランの剣を激しく打った。再び鳴り響く轟音。振り下ろした瞬間を狙われたため、大きく剣は弾き返されデュランは体勢を崩す。
(始めから剣を狙ってたのか!!)
ソニアは、斧を振り上げた勢いでそのまま縦に一回転すると、猛烈な蹴りをデュランの左脇腹に命中させた。
「グガアァァァッッ!!」
そのまま吹っ飛んだデュランは盛大に地面を転がり、辺りは土煙を上げた。
一連の攻防を見た周囲の騎士達は、息を飲むように土煙が晴れるのを見守る。
「うっわ〜痛そうなの入ったにゃあ。君のお姉さんは中々やるにゃあ」
「……はい、いつもボコボコにされてます……」
土煙が上がった鍛錬場の端を見ながら、ソニアは斧を構え直した。
(手応えはあった……だが、こんなんでやられるほどヤワじゃないだろうねぇ)
やがて土煙が晴れると、鎧についた土を払いながらデュランが現れた。たまらず騎士達は歓声をあげる。
「おおお!! さすが団長!! タフだなぁ〜〜! あれ食らってピンピンしてるとか!」
「あの緑髪の姉ちゃんも中々やるな!!」
「どっちも負けんなよ〜〜〜〜!!!」
土を払ったデュランは、カツカツと歩きながら元の位置に戻ると、油断なく斧を構えたソニアに、
「君が只者ではないのは分かっていたがここまでやるとはな、あの村の広場にいた魔物は君がやったんだろう?」
「まあね、あんな奴ら何匹切ったところで自慢にはなりゃしないけどね……」
「いやいや、そんな事はない。女性ながら大したものだ、力を見るつもりだけだったが私も楽しくなってきたのでな。少し本気で行くぞ」
(やっぱりこの程度じゃやられないかい……それなら……)
無言で斧を構えるソニアを見てデュランはニヤリと笑うと、
「身体強化付与……鉄壁の城塞!! 行くぞ! ソニア君!!」
「あちゃ〜、団長の悪い癖がでたにゃあ」
「……え?」
エミールが呟くとレイは問い返すようにエミールを見た。
体技を発動させたデュランは、ソニアに向かって駆け出した。上段に剣を振り上げ斬りかかる。
「脇ががら空きだよ!!! 団長さんよぉぉぉ!!」
肉薄したデュランに、すかさず斧を隙だらけの胴に向けて薙ぎ払う、が胴に当たった瞬間斧は弾き飛ばされてしまった。
(なにっ!!)
目を見開いたソニアは頭上に迫る剣をかろうじて受けると、たまらず距離を取った。
「そんな攻撃じゃ、俺の守りは崩せんぞ!」
「もろに攻撃が入ったのに、なんともない!?」
「あれはウチの団長の十八番にゃあ。ついた異名が、要塞。まあ簡単に言えばメチャメチャ硬いのにゃあ、うちの団長は」
レイが驚いてデュランを見ると、エミールが嘆息して説明した。
距離を取ったソニアに考える隙を与えまいと、デュランが再び突貫する。自身の守りは全く頓着せず次々に攻撃を繰り出すデュランに、ソニアは思わず歯噛みした。
(守りは万全ってか!! 上等だ!! ならその鉄壁の守りをぶっ壊してやるさね!!)
ソニアはデュランの剣を受けつつ韋駄天で後方に一瞬下がると、斧に魔力をありったけ流した。そして、韋駄天を発動させつつデュランの周りを縦横無尽に飛び回る。
「るおおぉぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁ!!」
咆哮を上げ、斬る。斬る。斬る。あらゆる方向から戦斧がデュランを捉える。が、そのことごとくを弾き返す鉄壁は、デュランに傷一つ付けることを許さない。
それでも斬りかかるソニアは、自身の限界を振り絞るように戦斧を振る速度を上げていく。腕が軋むように悲鳴を上げ、飛び回っている脚にも震えが出始める。
「うおおおおおおおあああああ!!!!」
「ッグ!!」
凄まじい猛攻に、デュランも冷や汗を流すものの、可能な限りソニアの攻撃を捌いた。ソニアの限界が近いことを肌で感じていたデュランは、剣を横に構え力を溜め始めた。その様子を見たソニアは、その一撃が来る前に勝負をつけるため、斧を握る手に一層の力を込めた。
空中に躍り出たソニアは、そのまま大きく斧を振りかぶり、それを見たデュランも溜めていた力で剣を放った。
「おおおおおお戦斧の一撃ゥゥゥゥァァァァァ!!」
「反撃要塞!!!!」
唸る轟音。
技の凄まじさを物語るように土煙が上がる。
固唾を飲んで見守る観衆。
土煙が晴れると、そこには首筋に剣をピタリと付けられていたソニアの姿があった。
ソニアの放った渾身の一撃は、デュランの鉄壁にヒビを入れたものの、惜しくも届かなかった。
「……ハァ……ハァ……ハァ……。ったく……化け物かよアンタは……」
「俺の鉄壁にヒビを入れたソニア君も十分化け物だと思うがね!! ガッハッハッハ!」
「ッハ……悔しいけどアタシの負けだねえ」
「いや、いい勝負だった!! 少し模擬戦の域を超えてしまっていたがな!」
決着がついた二人を迎えたのは、湧き上がる歓声であった。周囲の騎士達は、口々に両者を讃え戦闘の凄まじさを隣の者と話していた。
「うおおおおおお!! やるな! あの姉ちゃん!!」
「団長の鉄壁にヒビ入れたやつなんて久しぶりに見たぞ!!」
「団長さすが!! 硬すぎだろう!!」
興奮したように話す騎士達を横目に、エミールは唸っていた。
「団長の鉄壁の城塞にヒビを入れるなんて、ソニアちゃん……とんでもない逸材だにゃあ……これで辺境の村の娘なんだから驚きだにゃあ…………ん? レイ君? れいくーん!」
話しかけられたレイは、魂が抜けたように呆けているとエミールに肩を揺すられハッとした。
(二人ともレベルが違いすぎるでしょ!!!!)
あまりの凄まじい試合にそう思ったレイであったが、隣で模擬戦を見ていたアリアを見ると
(姉さんが勝てなかった団長さんより強いアリアさんって一体……てかその人と今から戦うの!?)
アリアはレイの視線に気づくと、首を傾げてこちらを見た。
(僕どうなっちゃうの〜〜〜〜〜〜!?)
これからする模擬戦を思うと、ため息が止まらないレイであった。
ฅ•ω•ฅ「ソニアちゃんてホントに村娘なのかにゃ」
( • ̀ω•́ )「まぁ、一応……あんなんだから男の人が寄ってこないんですよね……(ボソッ)」
( ⚭_⚭)「……レイ、後で詰所裏に集合しなぁ」
( • ̀ω•́ )「げぇぇぇ!」