銀翼騎士団
一行はエミールの案内で、王都の中心にある詰所に向かって行った。大通りは沢山の露店や、客引きする商売人達、買い物をする主婦や旅人などで溢れ返っており大変な賑わいだ。
「エミールちゃん! 今日は買ってかないのかい!? いい野菜が入ってるよー!」
「ありがと〜! でも今仕事中だから、またよるにゃー!」
「お! エミールじゃねぇか! またサボってんのか?? ハッハッハ!」
「にゃ! サボってないにゃ! 真心込めてお仕事にゃ!」
「エミールちゃーん! いいお魚入ってるぞー! サービスしとくぞー!」
「仕事終わったらよるにゃー!」
エミールが一行を連れて大通りを歩くとこの有様である。
「…………エミールさん、ホントに人気者ですね……。」
「……確かに、大したもんだねぇ」
「いやいや、違う違う。私がって言うよりかは銀翼騎士団が人気があるんじゃないかにゃ?」
「そうなんですか?」
王都には、歩兵部隊、魔装歩兵部隊、騎兵団、重装騎兵団などいくつもの部隊があるが、その中でも騎士団は花形の部隊だそうだ。その分、入団する倍率はかなり高いらしい。
「騎士団って、銀翼騎士団だけなんですか?」
「いんや、他にも三つあるにゃあ。桜蘭騎士団、黒装騎士団、聖剣騎士団にゃ。各騎士団で特色があるんだけど、ウチはバランス型なのにゃあ」
各属性に秀でた魔法使いを擁する桜蘭騎士団。黒づくめの装いで、騎士団一の速さと連携力を持ち、武術に秀でた騎士たちが多く所属する黒装騎士団。聖剣を持つ団長が率いるという、圧倒的な戦闘力を誇る聖剣騎士団。そして、魔法や武術バランス良く使える、殲滅戦から撹乱、救助や捜索まで幅広く対応するのが銀翼騎士団である。
「まぁ、ウチは器用貧乏な分色々やらされててにゃあ。民衆に触れ合う機会が結構あるのにゃ、団長がお人好しってのと、副団長が騎士団一の美少女ってのもあるけどにゃあ」
「ハッハッハ! 確かにあの団長さんは面倒見が良さそうだねぇ。でかい図体の割に」
「ちょ、姉さん失礼だろ……、でも確かに色々お世話になっててすごく助かってます。それに、アリアさんもすごく綺麗ですもんね」
「ウチの団長はお人好しだからにゃあ、アリアはもうちょっと明るくなればいいんだがにゃあ……っとあそこが銀翼騎士団の詰所にゃ」
そうこう話している内に、一行は銀翼騎士団の詰所に到着した。
城のすぐ近く南東方向に位置する銀翼騎士団の詰所は、二階建てでコの字型に構えられており、作戦司令室、仮眠室、食堂から武器庫さらには専用の鍛冶場まであり、ここだけで村ほどの広さがありそうであった。
詰所の外には、円形に設置された屋根付きの鍛錬場まであり、銀鎧をきた騎士達が訓練中であった。
この詰所には、騎士団員達が三交代制で百五十人程が常に待機しており、巡回や城の警備に当たっているという。団員は全員合わせて五百人ほどだそうだ。
「すごい設備ですね…………」
「ニャハハハ! ここはまだ小さいほうなんだよ、レイ少年! 聖剣騎士団の所なんて、ちょっとした砦みたいだからにゃあ」
「これで小さいとは…………ウッドガーデンは恵まれているようだな……」
シャルは詰所の設備を見回し、呟くように言った。
「たしかに、これだけ設備が揃ってると、鍛錬に最適だねえ」
「非番の騎士や待機中で仕事のない騎士達も、ここで訓練してたりするのにゃ、夜も含めて一日中解放してるから、いつでも好きな時に訓練できるのにゃ、中の食堂なんかも一日中やってるのにゃ!」
エミールは、ドヤァと言うような表情で胸を張った。ソニアが、ムムムと唸りながら羨ましそうに設備を眺めていると、詰所入り口から大きな大剣を背負ったデュランと、細剣を帯びたアリアがこちらに向かってきた。
「おお! 来たか、レイ君にソニア君! それに昨日会った君は…………」
「昨日は自己紹介もできず申し訳ありません。シャルと申します。レイとソニアに恩があり行動を共にさせて頂いております。本日はお招きされていないにも関わらず、付いてきてしまい……」
「ガッハッハ!! よいよい! 堅苦しいのは好きじゃないからな! レイ君とソニア君の友人なら信頼できるのであろう。ゆっくりしていくと良い」
「恐れ入ります」
シャルは深々と頭を下げた。
「デュランさん、こんにちは! すごい設備ですね! 銀翼騎士団の詰所は! 」
「…………そうでもない…………他の騎士団の方が広いよ……」
「ガッハッハ! まあうちは人数が少ない方だからな!! しかし、気持ちでは負けておらんぞ!! っとそうそう、今日来てもらったのは他でもなく、レイ君とソニア君に話を聞かせてもらおうと思ったのだがな……まあその前に、ちょっとやってかないか?」
デュランは、顎をクイックイッと鍛錬場の方に向けると、大剣をコンコンと叩いてニヤリと笑いながらこちらを見てきた。
「ッハ! なるほどねぇ、それで獲物も持ってこいっつった訳かい。フフフ……面白いじゃないか、銀翼の騎士団がどれほどなのかアタシも知りたかったからねぇ」
ソニアは待ってましたと言わんばかりに、持ってきた戦斧を軽々と回すと、ドシン!と地面に突き立て、デュランを見返した。
「……え? 僕も……? 」
「何言ってんだい、当たり前だろ」
「……ええええぇぇぇぇ……朝稽古でヘトヘトなんだけど……」
「…………あなたの相手は…………私」
アリアは、目を白黒させているレイの前まで歩いてくると、ジーッとレイを見つめて言った。
「ア、アリアさんがですか…………!!」
「……私じゃ……ダメ……?」
「いやいやいやいや! そういうことじゃなくって……副団長さんって聞いてたので凄く強いんじゃ……?」
レイは、アリアに見つめられて赤くなりながらも、問い返す。
「……そんなことない…………。普通…………だよ……?」
「ガッハッハ!!! アリアは強いぞぉ? レイ君!! 下手したら俺より強いんじゃないかな? ガッハッハッハ!」
「ガッハッハって…………それって僕死んじゃいません……?」
レイは死んだ魚の様な目で呟くと、
「大丈夫……だよ……。エミールがいるから…………」
「にゃっはっは!! 安心するのにゃあ!! どんな怪我でも治しちゃうぞぉ! テヘッ!」
「アハハハハハ…………」
レイは完全に魂が抜けている様子だったが、アリアを訝しむような目で見ていたシャルが
「長い銀髪に碧眼……青い意匠の細剣……? まさか……銀閃姫……?」
「ほほう、シャル君はアリアの異名を知っているのか」
「ええ、まあ。というより知らない者はいないと思いますが……」
「良くも悪くも、大陸中に知れ渡っているからな!! アリアは!! ガッハッハ!」
「四大精霊ウンディーネの使い手にして、ひとたび戦場に出れば、敵という敵を片っ端から一刀両断にするという……銀髪碧眼の女騎士、ついた異名が銀閃姫……初めてお目にかかる……」
「四大精霊……?」
レイが首をかしげると、
「うむ、まあその辺の話は後でな。ソニア君が待ちきれない様なのでね。ではソニア君は私が相手をしよう」
ソニアがウズウズとしているのを見たデュランは、苦笑しながらもこれから始まる模擬戦の開始を促した。鍛錬場で稽古をしていた騎士達も、団長と副団長が模擬戦を行うと知るや否や、あっという間に非番の騎士や待機中の者達までも集まり、今か今かと待っていた。
「早くやろうや! なあ団長さんよ!!」
「姉さん……バトルジャンキーすぎるだろ……」
「うむ、たしかにな」
レイとシャルは互いにうなずきあうと、ワクワクしている様子が丸わかりなソニアを見て呟いた。
模擬戦は一組づつ行い、審判は稽古をしていた古参の騎士団員が務めるようであった。
「それでは、デュラン・グロリアスとソニア・オラトリオの模擬戦を開始します。互いに即死となるような攻撃は禁止。戦闘不能、もしくは降参により敗北とみなします。エミール殿がいるからと言ってやり過ぎないこと! 両者よろしいですか?」
「うむ、分かった!」
「ああ」
デュランは大剣を上段に、ソニアは戦斧を低く構え見つめ合う。
「それでは…………試合開始!!!!!」
試合が開始した瞬間、両者は激しくぶつかり合った。