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朝の鍛錬と待ち合わせ

 昼食を食べた後、適当に王都を散策した三人であったが、人が多い上に広大な都市ではどこから見て回ればいいのか分からず、ひとまず旅の疲れを癒やす為、各々の宿に戻った。

 シャルとは、とりあえずこれで別れかと思いきや、


「何を言う。命を救ってもらった恩があるというのに、これで別れるなど出来ぬ。しっかりと恩を返すまで行動を共にしよう」


 ソニアとレイは気にしていないと言ったが、シャルは頑として譲らなかった為、二人は笑いながらも、


「そっか! じゃあしばらくの間ヨロシクね! シャル!」


 シャルとしばらくの間行動を共にすることになった。明日は銀翼騎士団の詰所に招かれている為、明朝の鐘八つ時ぐらいには森閑亭に来るそうだ。

 宿に戻った頃には、空が夕焼けに染まり始める頃となっていた。

 二人は、室内で荷物の整理などをしていたが、



「レイ、アンタ今日の鍛錬をしてないだろう。庭借りて素振りでもしてきな」


「え! 今から!?」


「そうだよ。強くなりたいなら一日足りとも怠らない事が肝心だよ、明日の早朝もアタシと組み手に剣の稽古もするからね」


「うぇぇ……分かったよ。行ってくる」



 魔の夜があってからというものの、何かあった時のために強くなりたいと望んだレイは、姉に暇がある時に稽古を付けてもらっていた。旅をしていた間も、出発前の朝には欠かさず稽古を付けてもらっていた。

 だが、まさか今から素振りをしろと言われるとは思っていなかったのか、レイは渋々と神木の剣を持つと外に向かって行った。


 荷物の整理を終えたソニアは、ベッドに腰掛ける。


(レイは戦闘に関してはド素人だ、魔力はバカみたいにあるが、アイツは魔法が使えないからねぇ……戦い方は少しでも磨いておいた方がいい………)


(それに、次いつ魔物が出てくるか分からない。アタシが守れるとも限らないからねぇ。自分の身は自分で守らせないと)


 頬杖をつきながら、ソニアは今後のことについて思いを巡らせていた。


(それはそうと…………シャルだが、悪いやつじゃないけどねぇ、どうにもきな臭いね)


(身なりといい、言葉遣いといい育ちの良さが垣間見える…………まぁ平民じゃあないだろうね。それにあの門番の対応…………通行許可証を見た途端態度が変わった……レプシディアの貴族のご令嬢ってとこか……?お共の者とはぐれたって言ってたけど、どうしてまたアクアウルグに……?あの格好は完全にお忍びだろうねえ……)


 シャルと出会ってから、心の隅に引っかかっていた点を整理していく。ある程度正体に見当は付けていたものの、目的までは情報が少なすぎて分からなかった。


(まぁ、レイに稽古を付けつつ王都を散策して復興金と支援物資ふんだくって村に帰る。アタシらのやる事に変わりはないけどね)


 いくら考えても分からないものは分からないため、強引に思考をまとめて、窓から素振りをしているレイを見るのであった。




-----------------------------



 翌朝の早朝、鍛錬のため近所迷惑にならないように森閑亭から城壁の近くに移動した二人は、早々に稽古を開始した。


「えええええええい!!」


 カァァァン!



「握りが甘い! 打ち込みの瞬間はしっかりと力を込めろ! あと掛け声が女々しい!」


「セヤアァァァ!!」


「脇ががら空きだ、切ってくださいって言ってるようなもんだぞ!」


 ドゴォォ!



「ウギッッッ…………つつつ……」


「くっ…………っはぁぁぁぁ!」


「相手の動きをよく見ろ! 相手の攻撃を頭の中で予測して、対応を体に一瞬で伝えろ! あと、足ががら空き!」


「ヒギャン!」


 ステーーン!!



 ソニアに打ち込むが、いいようにあしらわれるレイ。稽古初日に比べてマシにはなったものの、まだまだ半人前にも行かないといったところであった。



「しょうがないねぇ全く。少し休憩だよ…………これであの狼を倒したってんだから驚きさね…………」


「ゼェ……ゼェ……ゼェ……ハ……ハハハ……。あれは運が良かったというかなんというか……」



 レイは息を切らしながら、首にかけている十字の首飾りを見ながら答えた。あの巨狼と戦っていた時は何か得体の知れない力が働いていた。身体が大きく強化され、魔力も溢れんばかりに湧いてきたのだ。どう考えても自分が一人で倒したとは言い難いと、仰向けになりながら歯を食いしばる。



「はい、休憩終了。次は魔力操作の稽古だよ。集中してさっさと魔力を剣に流しな!」


「休憩はや!! もはや休憩じゃない!!」



「グダグダ言うと、素振り千回加えるよ」


「ヒィィィィィ」



 息をつく間もない休憩時間に苦言を呈しながらも、レイは目を閉じて剣に魔力を流し始めた。

 少しづつ剣に魔力が集まっていき、やがて白い光を帯び始めた。それを見ながらソニアは冷や汗を流す。


(これだ……これだけが理解不能さね。本人は何の気なしにやってるけど、一体どれほど魔力を込めればこんなになるんだい……)


 しばらくすると、完全に白い光を纏った剣は、光の分も含め元の剣の長さより幾分か長くなっている。


「アンタ、それ。剣の長さは伸ばしたり、形はかえれるのかい?」


「うん、もっと魔力込めれば多分。形は今は無理かな……ただすごく疲れる」


「アンタ狼を倒した時、斧の形にしたんじゃなかったか?」


「あの時は無我夢中で……不思議な声が聞こえてきた時は出来たんだけど……」


「まぁいい、ちょっと長さを変えてみな」


「分かった」




 そう言うとレイは更に魔力を込め始めた。額に大粒の汗が浮き出る。見る見るうちに光の奔流が剣を包み込み白い光がぐんぐん伸びていくと、元の剣の倍ほどの長さになった。


(こんなの見たことも聞いたこともない……だが、使いこなせればレイの切札になる……)


 そう思ったソニアは


「暇な時を使って、可能な限り素早く伸ばしたり元の長さに戻したり出来るようにしな! 長さが変わった剣で素振りするのも忘れるな。一応形を変えるのも練習しとけ」


「ヒ、ヒェェェェ、これすごく疲れるのに……」


「泣き言言ったから素振り千回な」


「ゲェッ!」



 そこから約束の時間まで、泣きそうになりながら素振りをするレイであった。



 鐘八つ時になる頃、鍛錬を終えてレイとソニアは森閑亭に戻っていた。

 相変わらず白いローブを深くかぶったシャルが、通りのベンチに腰掛けて待っていた。


「おお、シャル! 待たせて悪かったねえ」


「ソニアか、私も先程来たばかりだ……ところで、レイは大丈夫か? ボロボロの雑巾みたいになっているぞ?」


「ああ……シャル。おはよう……」


「まあ、いつものやつさね。甘えたこと言うもんだから、ちょっと絞ってやったのさ」


「ちょっと…………!? まあいいや……とにかく僕は着替えてくるよ」


「ああ、シャルは朝飯はまだだろう? 中で何か食いながら使いの奴を待とう」


「ああ、じゃあレイ。先に席についているぞ」


「は〜い……」




 手を挙げて答えようにも、素振りのせいで腕が上がらないレイは、目で答えると二階の部屋に上がっていった。

 森閑亭は一階が食事処と受付になっており、客室は二階となっている。今の時間はこれから仕事に向かう者や、旅に出発する前に腹ごしらえをするものなど沢山の人で溢れていた。

 空いているところに適当に座ったソニアとシャルは、レイの分も適当に注文をすませた。が、ソニアは妙に視線を感じると辺りを見回した。


「なんか、やけに見られてないかい?」


「ふむ、無自覚か。ソニアは言葉遣いこそ豪胆な気質がよく現れているが、見た目はかなり美人だからな。特に体つきは出るところは出ているしな。男共も自然に目がいってしまうのだろう」


「それを言ったら、アンタだってそうだろうさ。人形みたいな顔してるくせによく言うよ、まったく……こっちを見てる奴ら全員捻り潰してやろうか……」


「フフフ……やめておけ……目立ってもいいことなどあるまいさ」


「二人ともお待たせ」


「遅いよ、全く。アンタの分も適当に注文しといたよ」


「ありがと姉さん。なにが来るのかなぁ。もうお腹すいて死にそう」




 呑気に朝食を楽しみにしているレイだったが、綺麗どころ二人と一緒に食事を取っている事に周りの男たちから恨めしそうに視線を送られていた。が、そんな事には全く気づかず、料理が来ると


「うわ! 美味そう〜! いただきま〜〜!…………モグモグ……ガツガツ……うわ! これうま!! 王都の食事は美味しいものばっかだよね〜…………あれ、二人は食べないの?」


 周りから怨念のような視線を送られているレイに、二人とも気づいていたものの、あまりに幸せそうに食事をとるレイを見て、二人は苦笑する。


「まあここまで鈍いと、逆に幸せなんだろうねえ」


「フフフ……笑わせないでくれ……レイ……」


「……ガツガツ……モグモグ…………っふぇ?……モグモグ……」




 ひたすら食事に夢中なレイを横目に、ソニアとシャルも食事を進めていった。



 食事が終わり、九つ時を知らせる鐘が鳴ると森閑亭の入り口から、鈍く光る銀色の女性用の軽鎧を着たエミールが入ってきた。



「ってエミールさん!」


「やほやほ! レイ少年! 久しぶりだにゃあ! ソニアちゃんも元気にしてたかい?」


「エミールじゃないか、その節は世話になったね」


「いいっていいって。それより団長から話は聞いてると思うけど大丈夫かにゃあ?」


「ああ、問題ないんだが、こっちの知り合いも付いて行ったらまずいかね?」



 ソニアはそう言って、シャルの方を見ると



「知り合いかにゃあ? 大丈夫だと思う、多分。隠すものなんて別にないしにゃあ」


「そうか、有難い。ついて行かせてもらう事にするよ」


 そんなやりとりをしていると、周りがザワザワし始めた。



「おい、あれ銀翼のエミールじゃないか?」

「あいつらと話してるけど、知り合いなのか?」

「エミールちゃん! 本物じゃん! やっぱかわい〜〜!」

「戦場の天使!! 握手してもらおうかな! おれ!」


 食事をしていた男達が、エミールを見た途端色めき立ち始めたようだ。




「アハハハ……ちょっとここじゃあ人目につくにゃあ。詰所に向かいながら話そうか〜〜」


「なんだい、アンタ有名人なのかい?」


「いや、まあそう言うわけじゃないんだけどにゃあ」


「エミールさん綺麗ですからね!」


「お、さすが少年! わかってるにゃあ!」


 スパーン!!


「イッタアアア!」


「アンタはほいほい無自覚にそういうことを言うんじゃない!」


「ええええええ!」



 そんなやり取りをしつつ、一行は森閑亭を出て銀翼騎士団詰所に向かうのであった。


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