旅の間の休息
二人は金髪の少女を馬車に運んで寝かせ、小さな川の近くのひらけた場所で昼食の準備を進める。
火を起こしたレイは、鍋の中にミレニア村で採れたミレニア芋を適当に切り、水と調味料を少々いれ、塊の干し肉を切り分けて途中で摘んだ香草と一緒にグツグツと煮込む。
しばらくすると、辺りには香草と肉の良い匂いが広がり、二人の食欲をそそった。
「へえ、うまそうなスープの匂いじゃないか。アンタ料理が出来たのかい」
「リリアにね……無理やり教えられたんだ……ハハハ……」
ソニアは、料理などてんでやった事がなく、食器の準備や、村から大量に持ってきたパンを出して昼食の準備をしていた。
準備が一通り終わり、二人が昼食にありつこうとすると、匂いにつられてか荷車に乗っていた少女が目を覚ました。
「……んん……っ……え?……ここは!?」
「あっ! 目が覚めたんですね〜! 良かった! 僕たちは怪しいものではありません。ミレニア村から来た……」
「…………!! 寄るな!!」
レイが挨拶をしようと近寄ると、金髪の少女はいきなり剣を抜きこちらに向けて構えてきた。
「っへ!! ワワワ! ちょっと待った!!」
「私をどうするつもりだ!! 答えろ!!」
「っハァ……アンタねえ……。冷静に周りを見てみな」
突如剣呑な雰囲気に包まれ、レイがアタフタしていると、ソニアはスープをすすりながら呆れたように少女に尋ねた。
少女は、レイに対し剣を構えながらも周りの状況を確認していく。
荷車に乗せられていた自分。毛布が身体にかけられていたようで、手足は特に縛られてはいない。荷車の上も、特にふつうの旅支度の荷物で、少年とスープを今なおすすりながら此方を見ている女性は特に武装した様子はない。
「ふむ、貴殿らは盗賊の類ではなさそうだな」
「そりゃこっちのセリフさ。街道にぶっ倒れていて、水を〜水を〜って言うもんだから飲ませてやったら、全部飲んじまいやがって挙句に気絶しちまったしねえ……。そのまま置いといたら、盗賊かなんかに連れてかれちまうと思ったから連れてきたんだけどねぇ」
「なっ…………!!」
少女は倒れていた時の事を思い出したのか、顔がカーッと赤く染めて俯くと、しばらくして、
「どうやら貴殿らは命の恩人のようだ。非礼を詫びよう、すまなかった……そしてありがとう」
剣をしまうと二人に向き直り、頭を下げた。
「そんな、いいんですよ。困った時はお互い様って言いますし」
「う、うむ……そう言ってくれると有難いが……」
グウウウゥゥゥゥゥゥ
少女の腹からはっきりと聞こえるような腹の音が鳴った。
「っっっっ!!!!!」
「ハッハッハッ! まあそんな事だろうと思ったさね。ちょうど飯が出来たから食べるかい?」
「よ、よいのか……?」
少女は顔を赤らめながら尋ねる。
「みんなで食べた方が美味しいですからね! 一緒にたべましょう!」
「助かる。では頂こう」
そう言うと、三人は出来たばかりの昼食を、輪になって食べ始めた。
ーーーーーー
昼食を食べ終わった三人は、一息つくと少女について話し始めた。
「見たところお前さん。レイと同じくらいか少し上に見えるけど、一人で旅してたのかい?」
「う、うむ。まあそうなるな。歳は今年で17になる」
少女は答えづらそうにしつつも肯定した。
「へぇ…………。そうかい、それで一体何処からやって来たんだい?」
「それは…………、まあ北のほうからだな」
「北っていうと…………まさかとは思うが、レプシディアから来たのかい??」
「ああ、あまり詳しいことは言えないが…………」
アクアウルグ王国と国境を面する北側の国、レプシディア大公国。
魔法大国とも呼ばれ、各方面に秀でたあらゆる魔法の研究がなされている。
アクアウルグ王国との関係は良好で、魔界と隣接しているドルトニア城塞では両軍で連携しつつ魔物に対抗している。
「なんだい、行き倒れを救ってやったってのに……」
「まあまあ姉さん。誰にでも言えない事の一つや二つはあるよ」
「って言ってもねえ……そういやお前さん名前は? アタシはソニア。こっちはレイ。 弟さね」
「そ、そうか。私は………………シャルだ」
「シャルさんですね。よろしくお願いします」
「いや、敬語はやめてくれ、シャルでいいよ。主らは命の恩人だ。レイ殿、ソニア殿、改めて命を助けてくれた事、感謝する。」
シャルと名乗った少女は、改めて二人に向き直ると、頭を下げた。
「いいさいいさ。それにそっちもソニアでいい、むず痒くなっちまう。こいつもレイで構わんさ。シャルは王都を目指してたのかい?」
ソニアは手を振り感謝は不要と答えると、シャルの行き先を尋ねた。
「ああそうだ。あるものを探していてな」
「それならアタシらと一緒に行くかい? また行き倒れられても困るからねえ」
「それは有難い申し出だが……良いのか?」
「僕は構いませんよ! 人数は多い方がきっと楽しいですから!」
レイは満面の笑みで、シャルの同行に賛成した。
「……ッフフ」
シャルはそんなレイを見ると、初めて笑顔を見せて目を閉じる。
レイはなぜ笑われたのか分からず、怪訝な顔をしていると、
「いや、なに。まるで初めての旅ではしゃぐ子供のようでな…………フフフ」
「ななっ!!」
「ハッハッハ! 違いない! それにシャルが綺麗なもんだから浮かれちまってるんだろうさ!」
「そそ、そんな事ないって!!」
レイは慌てて否定すると、今度はシャルが
「そうか…………私も容姿には少しだけ自信があったのだがな……お目に叶わなかったか……」
と落胆する素振りを見せると、
「いやいや!! べつにシャルさんが綺麗じゃないって意味ではなくて!! むしろすごく綺麗ですけど、そういうことじゃないっていうか……あの、その……」
「フフフフ……! ……レイ、冗談だよ。君は純粋すぎるな」
「帰ったらリリアに言いつけといてやるから安心しな!」
「ふええええええええ!!」
レイはその後もしばらく二人にからかわれ続けた。
そして、一通りレイをからかった後、一同は王都を目指すのであった。
( • ̀ω•́ )「姉さんは料理は出来ないの?」
(*‘ω‘ *)「あたしだって得意さ! 猪やら兎やらを丸焼きにしたやつだろぅ? あれは焼き加減が命なんだよ」
( ॑꒳ ॑ )「………………」