優しい悪魔
のどかな屋敷の上。私達は屋根の上でボーッとしていた。
「あ~。暇だね~」
天使さんが流れる雲を目で追いながら言った。
「そうですね」
と女神さんが返した。
「暇ってことは平和ってことだよね!」
返事された事が嬉しかったのか、天使さんは女神さんにニカッと笑って言った。
「そうですね」
それに女神さんも笑顔で返した。
私はそんな二人のやりとりをほんわかした気持ちで見ていた。すると
「おい」
「ああ、ソリト。どうしたの?」
「どうしたの?じゃねぇよ。なんでお前らここに来てんだよ」
「え?なんでって、裏にはしごが倒れてるの見つけたからそれで」
「そうじゃねぇよ。なんで当たり前の様にここに来てんだっつってんだよ」
ソリトは呆れきった顔で私達を見下ろしていた。
「いいじゃないですか。別にここはあなたの家でも私有物でもないのですから」
女神さんが笑顔のまま、冷たい声でソリトに言った。
「よくないニャ!ここはず~っと前からビディルがいたんだニャ!だからここはビディルの家と言ってもおかしくないニャ!」
ソリトの代わりにルビーがソリトの肩の上から反論した。
すると今度は天使さんがスイッと前に出てきて言った。
「違うよ!自分の家って、ちゃんとけいやく?っていうのしないと自分の家にならないって学校で言ってたよ!」
「人が来ないんだからビディルの家同然ニャ!」
「随分と傲慢な考え方ですね。人が来ないのは結界を張っているからでしょう。結界がなければこのような大きな家は誰かが見つけて商売に使っていますよ。それをさも自分達は何もしていないように言うのはやめてください」
「何をーっ!大体、この家が僕らのじゃないって言うなら、お前らの力で結界をどうにかすればいいんだニャ!それが出来ないから、そうやって口で言うことしか出来ないんだろ!ま、お前らは低級だから、結界の中に入るのが限界なんだろうけどニャ」
「ほぉ~。言ってくれますね。この低級猫が」
「何度も言ってるけど、ぼくは低級じゃないよ!天界学校をちゃんと卒業した立派な天使なんだから!」
「その程度で立派にだなんて笑わせるニャ!そんなもんで立派になれたら苦労はないニャ!」
「なんだって~!」
目が笑っているようで笑っていない女神さんとムッとしてポコポコと怒っている天使さんと眉間にシワが寄っているルビーとの間にバチバチと視線の火花が散っていた。
その様子を見ていた私は、少し困りながらもクスクスと笑った。
ソリトはまた始まったと言うように額に手を当てていた。
「ルビー。言い合いすんのはいいから肩から降りろ。うるせぇ」
「別に好きで言い合いしてるんじゃないニャ!」
そう言いながらもルビーはピョンッとソリトの肩から跳び降りた。
「や~い!注意された~」
天使さんが降りてきたルビーをからかうように言うと再び言い合いが始まった。
(あらら・・・)
眉を下げて笑っていると、ソリトが隣に座った。
「なぁ、お前」
「ん?」
「ここ二週間くらい毎日ここに来てっけど、友達とかと遊ばねぇのか?」
私はそう聞かれると目を閉じた。
「いいの。私、友達いないから」
「えっ。・・・いじめか?」
私は目を開けて曖昧に笑った。
「うーん。なんて言うのかな。暴力とか物が無くなったりとかそういうのはないんだけど、でも、みんな私のこと無視するんだ。まるで見えてないみたいに」
「・・・そうか。悪い。余計なこと聞いた」
「ううん。むしろ、聞いてほしいな。今まで誰にも言えなかったから」
「・・・」
一瞬、その場が静かになった。
すると、いつの間にか言い合いをやめていたルビーが尋ねてきた。
「親はどうしたんだニャ?」
「おいルビー」
「いいの。・・・私の親は死んじゃってるんだ。お母さんは私を産んですぐに。お父さんはその数日後に事故で。だから、今私を育ててくれてるのは本当のお母さんじゃないんだ。でも、私を引き取ってくれたから、私もその恩返しってわけじゃないけど少しでも家族らしくいられたらいいなって思って」
「だから相談しなかったニャ?」
「・・・それもあるんだけど、前にお母さんが夜中に電話してるの聞いちゃってね。『だから言ったじゃない!あの子を預かるのは嫌だって!あの子は呪われてるのよ!あの子を預かってからろくな事がないわ!』って言ってた」
「呪われてる?」
「うん。学校でもそんな噂が流れてて、みんな私に近づかないようにしてるの。私がいると、みんな、不幸に、なるって」
いつの間にか目から涙がこぼれていた。
それから私はぽろぽろと涙をこぼしながら泣いた。その間、ソリトは黙って私が泣き止むのを待ってくれていた。
少しして涙の流れが止まった。
「落ち着いたか?」
その問いに私は目もとを押さえたままコクリと頷いた。
「けど、お前すげぇな」
「え?」
顔を上げると、ソリトは森の方を見つめていた。
「そんな思いしてんのに、ここに来てる間ずっと笑ってさ。俺だったらとっくに破壊衝動に駆られてるぜ」
「破壊衝動ってそんな物騒な!」
私がツッコむとソリトはハハハっと笑った。
(ソリト、笑ってくれた。いつも冷たい表情してるのに)
そう思うと嬉しくなって私はクスクスと笑った。
その時。下の茂みの方からカサカサと音がした。
その途端ソリトの表情が変わった。
それを見て、ルビーに声をかけようと目を向けるとルビーもしっぽを立てて警戒していた。
「どうしたの?二人とも」
「聞いただろ。下に何かいる」
ソリトが下を見たまま答えた。
「聞こえたけど、そんなに身構えなくても森に住んでる動物とかじゃないの?」
「いや、それはない。この屋敷の周りは森全体よりも強めに結界を張ってる。だから、この屋敷の半径五十メートル以内に生き物が入ることは出来ねぇんだ。お前みたいに特殊なの連れてるやつか結界をくぐり抜けられるほどの魔力を持ってるやつじゃない限り・・・」
「じゃあ、あそこにいるのは魔力を持った何かってこと?」
ソリトは頷く代わりにより一層険しい表情で音の方を見つめた。
私その雰囲気にゴクリと息を呑んだ。
私達がジッと茂みを見ていると、次の瞬間バッと何かが飛び出した。
「来るぞルビー」
「ニャッ」
二人の体が怪しく光り出した。
すると
「ま、待って~!警戒し過ぎです~!」
「え?」
「この声・・・」
二人はどうやら今の声に聞き覚えがあるらしく、体から出ていた光は消え、目を見合わせていた。
「気配くらい感じてほしいわ。まったく」
飛んできた影は二つあって、それは屋根の上に着地した。
その影の正体は黒猫だった。
「ひさしぶり~。ルビー、ビディルさ~ん」
片方は柔らかく言った。
「オーマ様の娘とは思えないわね。敵じゃないことくらい気配でわかるでしょ。ルビー。あなたも使い猫ならそれくらい出来ないと」
もう片方は叱るように言った。
二匹の猫はルビーに似ていた。首にもルビーと同じように宝石がついている。柔らかく話す猫の首には緑の宝石、厳しく話す猫の首には青い宝石がついていた。
「ほんとにひさしぶりだニャー」
「二人の知り合いなの?」
「あぁ。ルビーと同じ悪魔の使い猫だ」
「じゃあ、この二人が前に言ってた四人の中の二人なんだね」
「まぁな。正確には俺の父親の使い猫だけどな。青い宝石の方がサイア。緑の宝石の方がエメルだ」
ソリトは丁寧に二人の紹介をしてくれた。
「その子、もしかして人間なの?」
サイアが怪訝そうにソリトに尋ねた。
「あぁ。・・・一応」
ソリトは私を見て答え、「一応」のところで目をサッとそらした。
「一応?!」
「そこにいるのは天使さんと女神さん?はじめまして~」
エメルはマイペースに私の顔の横に浮いていた二人に笑いかけた。
「なっ。あ、悪魔の使い猫のくせに礼儀正しいですね・・・」
「はじめまして!」
戸惑う女神さんと元気よく返す天使さんを微笑ましく思って見ているとサイアが声をかけてきた。
「あなた達は何者?あの結界をくぐり抜けられるなんて、ただ者とは思えないけど」
「私は人間だよ。結界は二人がいたから入れたみたい」
「・・・まぁ、ビディルが隣を許してるから敵ではないんでしょうけど。だとしても経緯は話してもらえるかしら」
「うん」
私はソリトと確認し合いながらこれまでの経緯を話した。
「なるほど。でも、トパーがいないから記憶は消せないわね。それにしてもビディルがそんなことになっているなんて・・・。でも、探しに来てよかったわ。魔界で見かけないから、もしかしたらどこかで死んでるんじゃないかって思ってたの。無事でよかったわ。羽以外」
「相変わらずだな。サイア」
ソリトは苦笑いをしていた。
「そういえば、さっきのあなたの説明で間違いが一つ」
「間違い?」
「ワタシ達はオーマ様の使い猫ではないわ。ビディル。あなたの使い猫よ」
「え、なんで。前は父さんの」
「えぇ。前まではね。でも変わったの。新しい使い猫がオーマ様についたから。よってワタシ達はあなたの使い猫になった」
「そうだったのか・・・」
「ねぇ、ちょっといいかな?」
私は二人の話に割って入った。
「なんだ?」
「サイアやエメルってソリトの使い猫じゃなかったんだよね?」
「ソリトって?」
「ビディルのことニャ」
ルビーとエメルが小声で話した。
「あぁ。ちなみにトパーも違った。俺が魔界から出る前に変わって俺の使い猫になったけど」
「じゃあ、なんでルビーだけ最初からソリトの使い猫だったの?」
「それはルビーが選んだからよ」
サイアはそう言ってルビーに視線を移した。
みんなの視線を受けたルビーはコクリと頷いた。
それに真っ先に反応し、驚いたのはソリトだった。
「えっ。お前、自分から望んで俺といるのか?!」
「えっ。それ以外何があるニャ?」
ルビーは目を丸くした。
「そう、なのか。俺はてっきり、父さんに言われたからだと思ってた」
「僕はオーマの顔、ほとんど知らないニャ」
「ルビー。オーマ様と呼びなさい。あれでも魔界を統べる王よ」
サイアが厳しい目でルビーに言った。
「あれでもって・・・。ってか父さんの顔知らないのか?」
「ぼんやりとしか知らないニャ。一回しか会ったことないからニャ」
「一回だけ?」
「そうニャ。魔力をもらってビディルに会ったあの日だけニャ」
「ソリトの使い猫なのに魔王様から魔力をもらうの?」
「人間。あなた無知なのね」
「ええっ」
サイアは私をジロッと睨んだ。
「まぁまぁサイア~。ボクが説明するので落ち着いてください」
エメルがニコニコ笑ってサイアをなだめた。そしておっとりとした優しい目を私に向けた。
「魔力は確かに契約主からもらうのが定石です。ですが、成人前の悪魔が魔力を他にあげるとその悪魔の膨大な量の魔力がなくなってしまうんです。だから未成年の悪魔が魔力を与える事は魔界の法で禁じられているんです。すると必然的に成人した血縁者から魔力をもらうことになります。ボク達はそうしてビディルさんの使い魔になったんですよ」
そうエメルは説明すると、ソリトに目を向けて
「ビディルさんはまだ子供ですからね~」
と微笑んだ。
「うっせぇ」
少し拗ねたようにソリトはそっぽを向いた。
「そろそろ話を戻してもいいかしら」
サイアが静かに言った。
「あ、うん。ごめんね」
私がハッとして笑うと、サイアはコホンと咳払いをして話し始めた。
「数年前のある日、オーマ様に呼び出された。すると王座の横に見知らぬ黒猫が座っていたわ。その猫が新しい使い猫だと言われ、では、ワタシ達はどうなるのかとオーマ様に聞くとあなたのことを任されたわ。そしてそのついでにあなたの使い猫になれと証を残した」
「証って?」
私が聞くと、サイアはキッと私を睨んだ。
「いちいち間に入ってこないでもらえるかしら」
冷たくそう言うとサイアはツンッとそっぽを向いた。
(うっ)
私は心の中でショックを受けた。
「まぁまぁサイア~」
そう言ってエメルがなだめた。
それを見てソリトは申し訳なさそうに私を見た。
「悪い。サイアも人間が嫌いなんだ。えっとな、魔力を与えたやつはそいつに自分の使い魔だという証として紋章みたいな印をつけるんだ」
「ソリトの紋章もあるの?」
「あぁ。あるぞ。俺はまだ魔力を渡せねぇから父さんがつけるんだけどな」
「なるほど。血縁者であれば本人でなくとも証を残せるのですね」
女神さんは私の隣で顎に手を当ててコクコクと頷いていた。
「へぇ。お前賢いな」
ソリトが感心したように女神さんに言った。
「天界にも似たような決まりがありますから。似ているだけで魔界とは違いますけど。天界では誰かを従えるなんて外道な行為はしませんから」
「なんでいちいちそんな言い方するニャ!喧嘩売ってんのか!」
「すぐに喧嘩と捉えるんなんて、やはり悪魔の使い猫ですね」
「逆にそれを喧嘩でないというのなら、何なのか説明してもらえるかしら」
サイアも混ざって三人は睨み合った。
「なんでこんなに仲が悪いのかな・・・」
私は頭を抱えて下を向いた。頻発しすぎて微笑ましさはなくなった。
するとふとソリトがつぶやいた。
「違うからだろ」
「え?」
顔を上げると、少し寂しそうな目でソリトは遠くを見つめていた。
「種属が違う上、闇と光だ。仲良くなんて出来ねぇよ。自分と反対な者、違う者を忌み嫌うのが生き物だからな」
そう言ったソリトの髪を冷たい風が煽った。
その雰囲気に怯みかけたが、やっぱり言いたくて口を開いた。
「そ、そんなことないよ。闇と光でも、悪魔と天使でも、魔王と神様だって仲良く出来るよ」
「無理だ」
「出来る!絶対に出来る!」
そう言うと、ソリトはイラッとしたように私を睨んだ。
「お前、何を根拠に言ってんだ。お前は同族とすら仲良く出来てねぇってのに」
「そ、そうだけど。でも、私とソリトがこうやって話せるんだよ?だから出来る」
私は小さくガッツポーズを作ってニコッと笑った。
ソリトは目を丸くして私を見た。そしてククッと笑って目もとを手で隠し、声を押し殺すように笑った。
「なんだそれ。お前が光で俺が闇ってことか?」
「ち、違うよ!人間と悪魔が仲良く出来るから、違う者同士でも仲良く出来るってことだよ!」
慌てて言うと、ソリトはへぇーと言いながら笑った。
私はポカンとソリトを見て、それにつられて笑った。
その時ふと視線を感じ、目を落とすとサイアがジッとソリトを見ていた。
「サイア?どうしたの?」
それに気付いた私が声をかけると、サイアはサッと目をそらしてしまった。けど
「に、人間のくせにビディルを笑わせるなんて、や、やるじゃない。正直、ここまで楽しそうに笑うビディルを見たのは初めてよ」
そう言ってサイアはチラッと私に目を向け、フッと笑った。
「ビディルが認めたのなら、ワタシも認めざるを得ないわね」
「珍しいな。サイアが他人を認めるなんて。初めてじゃねぇか?お前が人間に微笑むなんて」
ソリトが少しニヤッとしながら言うと、サイアはツンとした表情に戻った。
「あなたが言えることなのかしら?」
「俺は別に認めたわけじゃねぇよ。人間は人間だ」
「あの~」
サイアとソリトがお互いを茶化すようなやり取りをしているとエメルが申し訳なさそうに手を挙げた。
「人間さんをそろそろ家に帰した方がいいのではないかと。日も傾いてきてますし」
「あ、本当だ」
エメルに言われて日の方を見ると、太陽は半分ほど木の海に沈んでいた。
「やべぇな。早く帰らねぇとまた・・・」
ソリトは気遣うように私を見た。
「でも、今から使小の家まで走ったとしても日が沈む前に家に着くのは無理なんじゃないのかニャ?」
「そうだよな。こいつ鈍くさいからな」
「ニャ・・・」
しれっと失礼な事を言って二人は考え始めた。
(鈍くさい・・・)
否定できない言葉に少しシュンとしながらも私は二人に声をかけた。
「あの、二人とも。私は大丈夫だからそんなに考え込まなくても・・・」
「よし決めた」
私の言葉を遮ってソリトは立ち上がった。
「え、何を?」
私の問いには答えず、ソリトは三人の猫達に視線を向けた。
「ルビー。サイア。エメル。ここを少しの間頼めるか?」
三人はソリトの考えている事がわかっているのか、はたまたどんな事でも従う気なのかただ黙って頷いた。
「ソ、ソリト?どういうこと?何を決めたの?」
もう一度聞くと、ソリトは真顔で振り向き
「お前を送ってやる」
と言った。
「え?!だ、大丈夫だよ!お母さんにはいつも通り、なんでもないって言うだけだから」
自分でそう言った時、頭の中に電話で怒鳴っていた時のお母さんの顔が浮かんだ。
(大丈夫。慣れてる)
一瞬不安になった心を握りつぶすように胸元を押さえた。
その時ソリトがズボンのポケットに手を突っ込んで少しうつむき気味だった私の顔を覗き込んだ。
「そんなしょげたツラして何言ってんだ。大丈夫って顔じゃねぇよ?」
「そ、そんなことないよ」
誤魔化そうと笑って言うと、ソリトはジッと半目で私を見つめた。そして少しの間の後、ニッと笑った。
「まっ、俺に任せろって。お前が走るより絶対速ぇから」
「で、でも・・・」
(ソリトにこれ以上迷惑はかけられないよ・・・)
するとソリトは「はぁ・・・」とため息をついた。
「・・・お前を送るくらい、俺達の世界の事と比べたら迷惑なんて程じゃねぇよ。だから心配すんなよ」
「えっ。今、口に出てた?」
「は?」
ソリトは眉をひそめた。
口から思ってたことが出たわけではなさそうだった。
(なんでわかったんだろう)
不思議に思いながらも、嬉しかった。
少し温かくなった胸を押さえていると、視界が急にぼやけた。
「あ、あれ?なんで・・・」
「つ、使小さん?大丈夫ですか?」
女神さんが心配して声をかけてくれた。
「だ、大丈夫。なんでだろ。あはは」
笑いながら流れてくる涙を拭っていると、ソリトが小さく一人言の様に
「心まで騙そうとすんなよ。表面は繕えても心の底から平気なフリが出来るほど人間は強くねぇんだから。特にお前の場合、ため込みすぎてるみたいだしな。周りが嫌なら、ここに来れば俺が聞いてやるよ。だから、ここにいる時くらいは素直に泣け」
そう言ったソリトの頬は少し赤くなって見えた。夕日のせいかと思ったけど、そうではなかったようで
「ビディル顔が真っ赤ニャ!」
ルビーがからかうように言った。
「バカ!赤くねぇよ!」
そう言いつつ、ソリトは手の甲で口元を隠した。
「なってるわよ」
「ビディルさんは相変わらず嘘が下手ですね~。悪魔なのに」
「~っ。もう、行くぞ」
不機嫌そうに眉をしかめながら私に声をかけた。
「う、うん」
ソリトは私をお姫様抱っこの形で抱えると、屋根から飛び上がった。そして木から木へと飛び移りながら私の家の方へ向かった。
(やっぱり、ソリトってすごいな。背格好があんまり変わらない私を簡単に抱えちゃうし、それに私の考えてることわかっちゃうし)
ソリトの横顔を見ながらそう思い、私はソリトに尋ねてみた。
「ねぇ、ソリト」
「あ?」
前を向いたままソリトは返事をした。
「なんでさっき、私が考えてることわかったの?」
「考えてること?・・・あぁ、迷惑ってやつか」
「うん」
「別になんでとかはねぇよ。顔見てなんとなくわかっただけだ」
「それは、顔に出てたって事・・・?」
「・・・隠し事は向かねぇだろうな」
「やっぱり出てたんだ!?」
(私ってそんなに隠すの下手だったっけ?!じゃあもしかしたら、お母さんに笑ってる時もちゃんと笑えてなかったのかな・・・だから気味悪いって言われるのかな)
「安心しろ。ちゃんと笑えてたから」
「えっ!」
「ん?人間の前で笑えてたか不安だったんだろ?」
「また顔に出てたの?!」
「いや、顔には出てなかったけどなんか考え込んでたから、そうかなって。・・・少なくとも、あの屋敷にいる時は違和感なく笑えてるから大丈夫だ」
「ソリト・・・」
「使小さん。あそこ以外でもあなたはいつも素敵な笑顔で笑っていますよ」
「うんうん!」
私の服にくっついている女神さんと天使さんがニコッと笑った。
「女神さん・・・天使さん・・・」
「こいつらが言うなら確かだな」
私はソリトの顔を見上げた。
「みんな、ありがと」
私はぽかぽかした気持ちで小さく言った。
(ちょっと贅沢かな。こんなに良く言ってもらえるなんて)
そう思っていると
「着いたぞ」
とソリトに声をかけられた。
「え?」
顔を外側に向けると、私の家の前だった。
「あ、ありがとう」
ソリトに下ろしてもらい、お礼を言った。
「本当に速いね」
夕日はまだ沈みきってはいなかった。
「嘘ついてどうすんだよ」
「そっか。そうだね」
「・・・正面が入りづらいならいっそ窓から入るか?」
「ええ?!」
「そしたら、寝てたとか理由付ければ遅くなったことバレずに済むぞ」
「いやいや!靴でバレるよ!それに私の部屋二階だから上がるの大変だし」
「あぁ、あそこか」
ソリトは私の部屋の窓を見上げた。
私の部屋にはベランダはない。あそこに私を上げるのは無理だ。そもそも窓に鍵が掛かっている。
「じゃあ気をつけて帰れよ」
「家目の前だよ。でもありがとう。ソリトも気をつけてね」
私は笑って返した。
「悪魔に気をつけて、とか。お前ほんと変わってんな」
「そうかな?」
「あぁ」
そう言ったソリトの表情は少し穏やかに見えた。
(ソリト、私なんかによく笑ってくれるな。でも、ソリトは人間が嫌いだって言ってたよね・・・。私のことも本当は嫌いなのかな)
暗くなり始めた空のせいか気持ちも少し暗くなった。
「ねぇ、ソリトって、人間、嫌いなんだよね」
そう聞いた途端、ソリトの顔から笑顔が消えた。
「嫌いなんてもんじゃねぇ。大っ嫌いなんだ」
その時吹いた風が、すごく冷たく感じた。
「んなことより、いい加減家に入れよ。送ってきた意味なくなんだろ」
「あっ、そ、そうだね。ありがとうソリト。またね」
「あぁ」
ソリトは私に背を向けて周りに誰もいないのを確認すると向かいの家の屋根へ飛び上がった。そしてあっという間に姿が見えなくなった。
「速いなぁソリト」
「使小さん。わたし達も中へ入りましょう」
「あ、うん」
女神さんに声を掛けられ、私は家のドアを開けた。
ココロです!この作品を読んでくださりありがとうございます!これからもまたマイペースで更新しますので、気長によろしくお願いします!