雨を切望する眷族
後書きの使い方がわかりましたので、人物紹介を各話の後書きに割り振りました(^_^;)
パレンスは右手で頬杖をつきつつ、先日の事を思い出しつつ呟く。
「少しピピエンスと言い合いにはなったが、モレスタスに生気を送って良かった」
現在猛暑に加えて、更に困った事態が発生した。
パレンスの眷族が生息する東アジア地区に、雨が降らない日が続いていたのだ。
眷族の幼生体は水中に生息する。
そして、パレンスの眷族の幼体は道の脇にある溝や雨水の貯留場所に生息している。
連日の晴天と猛暑で水域が干上がってしまい、眷族の数が減り、集まる生気の量が激減していた。
幸い、安定した環境下に眷族がいるモレスタスが、先日礼とのことで快く生気を分けてくれている。
『おいおい、会議中に独り言かい。我らの眷族の発生源の危機だと言うのに』
「話し合いをしたところで、雨が降るわけでしょう。アエデス・ステゴミア・アルボ」
そう言いパレンスは、スクリーン越しに映る黒髪の女性、アルボに答える。
『アエデス一族とクレックス一族は宿敵同士。その筆頭であるステゴミアの血統の当主である私と、貴女との会合だ。もう少し真面目にしてもらいたい』
そう言い黒い上着から白と黒の縞模様の腕を覗かせ、黒髪を背に追いやるアルボ。
その時にちらりと見える黒髪の中の一筋の銀髪が、彼女の特徴である。
「天候ばかりはどうしようもない。それぞれの一族の中で余裕があるものから生気を融通してもらって、耐え忍ぶしかない」
『アエデス一族の眷族大半は、卵で乾燥を耐え忍んでいる。活動状態の眷族自体が少ない状況だ』
ステゴミア家の眷族は、生息が不利な状況になると、卵の状態で休眠する。
その卵は乾燥に強く、水が回復すると孵化することができると有名だった。
「雨が降るまで待てばいい」
『雨が降って、眷族の幼生体が孵化して成体になるまで、どれだけかかると思っている?」
「3週間? 4週間かな?」
『生気が枯渇するわ!』
「私と違って、君の眷族の分布は世界中あちこちにあるでしょうが。東アジア地区の生気が減ったところで、大差無いでしょう?」
眷族の分布が東アジアに片寄っているパレンスと違い、アルボは世界中の温帯から亜熱帯に分布している。
乾燥に強い卵を、ヒトが荷物と一緒に船で運んで勢力を広げる手助けをしたのだと、愚かなヒトを小馬鹿にしていたことを思い出すパレンス。
同じ一族間で争い生気を融通し合えない、それ以前に一族の眷族が一斉に休眠状態と言えども、少し倹約すれば問題ないはずだが…
『今は少しの減少も許されないのだ!』
「……何に無駄遣いしてるのよ…」
『今年こそエジプティとの勢力争いに勝たねばならないのだ! 故に、不足分の生気を寄越すのだ!』
アルボの上から目線の要求に、パレンスは一瞬のうちに怒りの限界を突破してしまった。
「内輪揉めにこっちを巻き込むな! 生気は融通しない! 雨乞いでも勝手にしてろ!」
言い終わるや否や、パレンスは乱暴に通信を切った。
○Aedes (Stegomyia) albopictus
和名:ヒトスジシマカ
東アジア原産
現在は世界中の温帯~亜熱帯に分布
日本で近年分布が北上している
主に卵で越冬する
昼間吸血性で野外でよく刺される白黒の縞の蚊
人を好むが色々な動物を吸血する
媒介する主な感染症:
チクングニア熱
デング熱
ジカ熱
ウエストナイル熱