引きこもりのモレスタス
気温が上がる中。眷族が生気を集めつつある。
順調に進んでいる現状に満足していたパレンスに通信が入る。
パレンスが軽く前に手を振ると、彼女の目の前にスクリーンが映し出される。
「…ん?」
本来ならスクリーンに通信相手が映し出されるはずだが、何も映っていない。
『当主様におかれては、ご機嫌麗しゅう…』
スクリーンから発せられる聞き覚えのある声に対して、ため息をつくパレンス。
「モレスタス…通信でも引きこもりは止めて欲しい…」
『誰か引きこもりだ!』
パレンスの言葉が終わるや否や、眼鏡を掛けた女性がスクリーンに躍り出た。
錆色の髪に眼鏡の奥の黒い瞳、同じクレックス・ピピエンス家であるクインケと同様、パレンスと姿が酷似している。
「で、引きこもっている地下やビルで何かあったの?」
『例年通り居心地は良いのですが…その…眷族があまり生気を送ってくれないので、少し分けて貰えないかと…』
そう溜め息を吐くモレスタスは確かに覇気を感じられない。
「え、順調に気温も上がっているし、眷族も活動しやすいでしょう?」
『はい、眷族は休眠しませんし、活動できる気温なのですが、あまり吸血していないみたいで…』
モレスタスの言葉を聞き、パレンスは思い出したようにポムっと手を叩く。
「あ、そう言えば…モレスタスの眷族は、吸血しなくても一回は産卵出来るんだったわね」
『はい…そのお陰で眷族は生き残り易いのですが、吸血してくれないと、私が困る訳で…』
「うーん、これから暑くなると私の眷族もあまり活動出来なくなるから、温存しておきたいのだけど…」
そこで言葉を切って思案するパレンス。
クレックス・ピピエンス家において、モレスタスはヒトの生活圏の奥深くに生息できる眷族を持つ、唯一の吸血鬼である。
「我らクレックス・ピピエンス家、ひいてはクレックス属の勢力維持を考えると、支援した方がいいか」
一つ頷き、スクリーン越しにモレスタスに視線を向けるパレンス。
「分かった。生気を送りましょう」
『ありがとうございます』
モレスタスは深く礼をし、そのまま通信は切れた。そして、モレスタスに向けて生気を送り始めるパレンス。
これから訪れる暑い季節で生気が足りなくなったら、暑苦しいほど元気なクインケから奪おうと考えるパレンスだった。
○Cx. p. form molestu
和名:チカイエカ
温帯~亜熱帯にかけて広範囲に分布
地下鉄など安定した環境下にいる
越冬はしない
比較的哺乳類を好む
吸血しないで1回目の産卵が出来る
媒介する主な感染症:
ウエストナイル熱