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お茶会の練習

07

 それはもう見事なまでのドリルだ。

 クルクルと捻られている巻き髪とかそんな次元ではない。これぞまさにと言わんばかりの円錐を逆さにした形の髪の毛が頭の左右に取り付けられ・・・・・・、後ろ髪はくるくると渦巻いているように見える。

 あの髪型は、セットするのにどれだけ時間が掛かるんだ?


「陛下、大丈夫ですか?」

「ああ。大丈夫だ……見苦しいところを見せたな。許せ」


 個人的には、尊大なしゃべり方はいかがなものかと思うんだが、これも立場故なので仕方がない。

 3人は突然吹き出した俺を見て戸惑ったような表情を浮かべるが、後ろに立つそれぞれの従者に促され慌てて頭を下げている。


「ご機嫌麗しゅう陛下。わたくしは、エリザベート・マカルファと申します」


 そう言って、最初に挨拶の言葉を述べたのはエリザベートだ。

 まだ5才でありながら、頭を下げる動作一つにも確かな気品が感じられる。

 先ほども思った通り、見た目はゲームで登場した15才になった姿の面影が今の時点である。

 今のエリザベートを評価するなら、肩口まで伸ばされた煌やかな金髪の美少女と言ったところだろう。


「お初にお目に掛かり光栄の至りにございますわ。わたくし、ベアトリス・カロンと申しますの」


 エリザベートに続いて、優雅な動作で頭を下げたのがベアドリル――ではなく、ベアトリス。

 もう、ドリルしか目に入らない……ってのは冗談にしても、エリザベートと同じく5才だって言うのに所作が洗練されている。

 見た目はドリル。なんか、我儘な悪役令嬢とか幼い時はこんな見た目だったんじゃないかって、容姿だな。

 愛らしいと表現できるレベルだが目はつり上がってるし、髪型も相俟ってお嬢様って呼びたい。


「す、スタンリー・イプキスと申します!」


 元気があって大変よろしい。

 しかし、スタンリーくんよ、自己紹介の前の挨拶が抜けてるぞ?

 案の定、従者に耳打ちされて顔を赤くしている。


「も、申し訳ありません。お初にお目に掛かります。スタンリー・イプキスと申します」


 耳まで真っ赤になって可愛らしいことだ。

 俺が内心で筋肉達磨と呼んでいるエドウィンの息子とは思えない可愛らしさだ。

 線は細いけど、声に力があるし、緊張しているだけでおどおどとした様子もない。

 地はやんちゃ坊主って感じかな?

 だとすれば、これからあの筋肉達磨のようになるのかと思うと時の残酷さが感じられるな。

 是非とも美少年から美青年に成長するラインで進んで欲しい。

 いや、男の容姿とか正直どうでも良いけど、暑苦しいのが量産されるのは勘弁して欲しい。


「スタンリーよ、緊張せずとも皆が初めての茶会なのだ。失敗など気にせず、気楽にせよ」

「は、はい!」

「うむ、よろしい。知っているだろうが、ルード・ドーコカーノである。今日は我の招きに応じたことを褒めてつかわす」


 尊大な口調でそう言うと、3人が揃って頭を下げる。

 なんだろうね。

 友達作りのイベントのはずなのに、頭を下げさせたり上下関係があるってのは……貴族って本当に面倒くさいと思う。


「さて、では座るが良い。早速、王家自慢の茶を楽しめ」


 俺の言葉に従って3人は先ほど座っていた席に座り直す。

 俺も含めれば人数は4人なので、四角いテーブルのそれぞれの辺が埋まる。

 席順は、上座に座る俺から見て右隣がエリザベートで左隣がベアトリス、正面にスタンリーの形だ。

 王国で最高位の身分である俺が上座なのは当然として、右隣が次の身分、左隣がその次、正面が最下位と言うことになる。

 俺の顔が最も見やすい正面が最下位というのは意外かも知れないが、今回は4人しかいないので良い位置に感じるだけで、何人も集まるような会食などの際に長テーブルを使えばそういうわけにもいかない。

 お誕生日席から見て右左右左と身分が下がっていくのだ。このルールはテーブルが短くなっても変わらない。

 俺たちがキチンとルールに従って席に着くとすぐにアンジェリカが適温の紅茶を5つ・・載せたテーブルに置いた。

 エリザベートがその中の1つを指さし、それを手に取ったアンジェリカは少し中身を口に含んで、エリザベートの従者にカップを渡す。


「問題ございません」


 アンジェリカと同じように紅茶を少し飲んだエリザベートの従者がそう言うと残されたカップをそれぞれに配っていく。

 いわゆる毒味という奴だ。

 ホストである俺ではなく、ゲストで最高位のエリザベートがランダムな1つを選び、配膳役のアンジェリカとエリザベートの従者が順々にそれを口にする。

 ホストとゲストそれぞれで毒がないことを確認するわけだな。

 一応、希望すれば他のゲストも自分の従者に毒味をさせることができるが、それはほとんど相手を警戒していることの現れなので、国同士の会議でお茶が出るような場面以外ではやるような人間は滅多にいない。

 毒味が終わりそれぞれのカップを受け取った3人が紅茶を飲むと驚きに目を見開いているのが印象的だった。

 それもそのはずで、このお茶を常飲できるのは王族だけで、元王族である公爵ですら常飲は許されない。

 貴族は王族の茶会に招待された時にしか飲めない最高級品なのだ。

 この茶葉の産地を領地に持つ貴族ですら飲むことを許されていない特別なものなので、味も香りも他の茶葉とは比較にならないと言われている。

 俺の唯一の食の清涼剤だ。

 なぜって? 飯が不味いんだよこの国は。

 朝飯は異様に酸っぱいし、昼飯はものすごく辛くて、夕飯はあり得ないほど苦い。

 朝昼晩と不味さの方向性も違うし、なんか味が薄くなったかと思ったら、その次の日にはまた元の味に戻ると言うなんとも残念な食事事情なのだ。

 王の食事がこれでいいのかと、何度かアンジェリカやマイザーに文句を言ったが、一向に改善する様子はない。

 そんな残念な食事事情の中で、この紅茶の味わいだけは前世でも口にしたことがないほどの美味しさで、初めて飲んだ時は涙がこぼれたよ。

 なんで紅茶はこんなに美味いのに、飯はあんなにまずいのかってな。


「このように美味しい紅茶は初めてですわ」

「ええ。我が家のお茶も美味しいと思っていましたが、この味と比べてしまいますと……」

「美味しいです!」


 3人が口々に褒め立ててくる。

 そうだろうそうだろう。

 飲み終わったらおかわりするといい。


「茶葉もそうだが、アンジェリカの腕もある。我に仕える者達の中でも彼女ほど茶に精通しているものはおらんからな」

「恐縮でございます」


 本当のことだ。

 俺専属のメイドは複数人いるが、侍従筆頭――メイド長の彼女はメイド業務すべての分野で頭1つ抜けた実力を誇る。

 紅茶1つ取っても、他のメイドがアンジェリカと同じようにいれても、何となくアンジェリカの方が美味いと感じられる。

 残念ながら、俺は微細な味の違いを表現できるほど繊細な舌を持っていないので、何となくそう思う程度に違うと感じるだけだ。

 だが、アンジェリカはそんな俺でも気づけるぐらいすごいって事だと思う。繊細な舌を持っていれば、なおさら違いが際立つだろう。


「さて、エリザベートよ。マカルファ公爵は壮健かね?」

「ええ。父からは陛下にくれぐれもよろしく伝えるよう言付かっております」


 エリザベートはカップをソーサーに置きながら鈴の鳴るような声で答える。

 マカルファ公爵は初代フォア戦で革命を主導すると言う、ある意味で最大の敵だ。なんとしても、マイナス印象のない今のうちに友好的な関係を築いておきたい。


「そうかそうか。親戚とは言え、なかなかどうして会うことも滅多に出来んことを残念に思う。次は親子揃って会えることを楽しみにしていると伝えておけ」

「しかと陛下の心温かな言葉を父へと届けます」


 エリザベートはそう言って頭を下げる。


「うむ。ベアトリス、カロンの地は先月に続いた大雨の影響があるそうだな? 領地で集める税が予定を下回りそうだと聞いている。カロン公爵領の食料は大丈夫そうなのか?」

「え!? あ、はい。他領からも援助がありますし、陛下のご恩情で税を減らしていただいたので、父共々民に負担を強いることなく済みそうだと安堵しております」


 エリザベートと同じく父親のことを聞かれると思っていたのだろう。

 最初は戸惑っていたが、なんとか取り繕うことには成功したようだ。

 と言うか、カロン公爵やるな……

 まさか5才の娘に大雨の時の話題を教えておくとは。

 答えられなかったら、嫁取り問題で減点できたのに……

 そう。エリザベートの時もそうだが、幼い子ども同士のお茶会なので、会話にはある程度のテンプレートが存在する。


「お父さんは元気ですか?」

「はい、元気です。あなたのお父さんによろしく伝えて欲しいって言ってましたよ。」

「そうですか、ありがとう。私からもお元気でいてくださいって伝えてください」

「優しいですね。ありがとう。必ず伝えます」


 とか、そんなやり取りだ。

 今回あえて俺が、テンプレから外れたことを言ったのは本来ならよろしくないことだが、俺は子どもであると同時に国王でもある。家臣を心配する話題もおかしくはないのだ。

 それも見越して対策を立ててきたカロン公爵はちょっとばかり侮れない相手だな。嫁取り問題についてずいぶんと手強い相手になりそうだ。


「そうか。民あっての貴族である。カロン公爵にはしかとこの言葉を伝えよ」

「かしこまりました。陛下のお言葉を胸に誇りある貴族となるよう父へ伝えさせていただきます」

「うむ。スタンリー」

「は、はいぃぃっ!」


 落ち着け。

 順番来るの分かってるんだから、心の準備しっかりしとけよ。


「スタンリー侯爵は城に勤めているから改めて何かと言うことはない。しかし、お前からも我が日々の勤めに感謝していると伝えよ」

「か、かしこまりました!」


 うん。

 了承だけじゃなくて、前後に語句をつけような? その練習のためのお茶会でもあるんだから。

 ま、緊張しすぎてるし、仕方ないな。

 とりあえず、3人とはそれぞれ課題・・は終わらせたわけだ。


「アンジェリカ」

「はい」

「もう構わんか?」

「…………ええ。よろしいかと存じます」


 アンジェリカのゴーサインも出たことだし、これからが本番だ。


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