敗北を糧とせよ
19
「アーシアと申します」
ベスとビービーの気迫に押され、仕方なしに呼び出されたアーシアは嫌がるそぶりも見せずにそう言ってペコリと頭を下げた。
その所作はベスやビービーに比べると優雅さに欠けるが、突貫で作法を身に付けたことを考えれば十分に及第点は満たしているだろう。
「これがルード様の奴隷……」
「ルード様はこのような容姿が……」
「可愛いですね」
それぞれがアーシアについての感想を述べるが、なんかベスとビービーはなんか違うんじゃないか?
まぁいいけど。
「奴隷とは言っても、境遇的に同情できる部分もあるからな。どちらかというとこいつもお前らと同じ友達枠だ」
「そうなんですの?」
「そうなんだよ」
本当は戦力枠だけど、それを言葉にする必要はない。
「…………友達」
そう言われて嬉しいのか、アーシアはほんのりと笑みを浮かべた。
アーシアの笑顔を見たベスやビービーがなんとも言えない複雑な表情を浮かべている。
「またライバルが……」
「せっかくの協定の意味が……」
なんかぶつぶつ言ってるけど、声が小さいから聞こえない。
まぁ、子どもの考えることなんてよくわからなんからほっといていいか。
さすがに奴隷を持ったからってマカルファ家が即敵対ってことはないだろう。
「それでルード様、今日は何をしますか?」
スタン、お前は空気を読めないな。
いや、今はその空気の読めなさが救いだ。
「これといってやりたいことはないが、お前はなにかあるか?」
「ルード様も剣の鍛錬をなされているんですよね? 是非とも試合いたいです」
さすが脳筋筋肉達磨――いや、近衛隊長の息子だな。
だが、俺は対外的には剣の稽古などしていないことになっている。
だって当然だろう。国防の要である王の魔法が使えないということはトップシークレットなのだ。
知っているのは、大臣や公爵クラス以上にほとんど限られる。
例外は、俺の鍛錬に付き合う一部の近衛ぐらいのものだ。
俺が剣の鍛錬をしていると聞けば、魔法の鍛錬をしないのは何故かという話になり、もしかしたら……なんてことになりかねない。
少しでも違和感をなくすために毎日サマリエルを登城させているくらいだ。
今この場にいる人間の親は知っているだろうが、子どもに真実を伝えるような馬鹿は――いや、あの筋肉達磨ならやりかねん。
「なんのことを言っているのかわからんな。魔法を習う気分転換程度に剣を振ることはあるが、お前のように剣を専門にしようというわけではない……そうだ」
いい余興を思いついた。
せっかくだから、その実力をこの目で是非とも見てみたい。
「アーシア」
「はい」
「スタンと試合ってみるか?」
「へーかがお望みなら」
俺たちのやり取りに3人が驚きの表情を浮かべる。
「その子と試合うんですか?」
「ルード様、アーシアは女の子ですのよ!?」
「まぁ待て。アーシアは俺がその才能を買って護衛も兼ねて俺の奴隷としたのだ。 まだ日は浅いが近衛からも指導を受けている女とは言え、将来は有望なのだぞ?」
俺の言葉に納得したのかしないのか、俺たちは揃ってガゼボの周りに植えられた芝生のエリアに出る。
アーシアとスタンはそれぞれ、アンジェリカに言って持ってこさせた木剣を持って距離を取る。
剣道で言う正眼の構えに近い正統派王国剣術の構えを取るスタンに対し、アーシアは片手でぶら下げるように木剣を持ち構えると言うよりも、少し足を開いて立っているだけの自然体だ。
「では、始め」
俺が開始の合図を出すとまずスタンが動いた。
様子見も何もなく大上段に構え、アーシアを射程に捕えた瞬間振り下ろす。
子どもながらに鋭い振りだ。
あれぐらいの振りが出来るなら、騎士とまともに打ち合えるぐらいの実力はあるだろう。
「っな!?」
切っ先が前髪を撫でるほどギリギリの距離でアーシアはスタンの一撃を避けて見せた。
あれは辛うじて避けたと言うものではなく、むしろ最小限の動きで躱したと言った方が正しい動きだ。
「くぅっ!」
渾身の一撃を避けられて驚きの表情を浮かべたスタンであったが、即座に前へ出ながら振り下ろした直後の剣を振り上げる。
これは普通ならば紙一重で躱したアーシアを捉えるためにはいい追撃だろう。
動いた距離はわずかなのだから、前に出ながら振り上げれば切っ先はアーシアを捉えるはずである。
しかし、アーシアはさらに半歩退きスタンの剣筋と体の向きが平行になるような動きでスタンの追撃を回避する。
スタンの剣がアーシアの前髪をふわりと揺らした。
ぶら下げるように持っていた木剣を振り上げ、スタンの顔の横で動きを止める。
「それまで」
アーシアの今の実力を知っているので、アーシアが勝つだろうとは思っていたが、まさかたったの3手で決着がつくとは思わなかった。
スタンも子どもにしては高い実力を持っているのだろうが、はっきり言ってアーシアの相手をするには未熟に過ぎる。
世が世なら剣士になるために生まれてきたと言われるだけの実力が現時点で備わっているのだから。
「すごいですわ」
「かっこいいですね」
アーシアの実力のほどを正しく理解できていないベスとビービーの2人はただただ喝采を送っているが、負けたスタンは自分が攻めていたはずだと言うのに気づいたら負けていたことに酷く驚いている。
ショックだろうな。
間違いなくスタンも子どもとは思えない実力を持っている。そのことは剣の鍛錬をしているうちに確かな自信となっていただろう。
だというのに同い年の子ども――それも女の子相手に何も出来ずに負けたのだ。ショックを受けないはずがない。
俺はキャーキャーとアーシアの下へ駆け寄っていく2人を尻目に呆然とした様子でこちらへ歩いてくるスタンの正面に立った。
「スタン、鋭い剣筋だったぞ」
「……ルード様」
「アーシアは強い。しかし、お前の剣筋を見てもお前が大人の騎士と遜色ないレベルなのは間違いないだろう」
「ですが……俺は……」
「ここだけの話だが、アーシアは実戦経験者だ」
「そんな!? まさか……」
6才にして実戦経験があるなど普通では考えられないことだ。
スタンが驚くのも無理はない。
スポーツで練習よりも試合が大きな経験になることがあるが、この世界においては実戦経験は文字通り経験値が訓練とは段違いに入手できるので、実戦経験の有無は非常に大きな差違となる。
「アーシアは才能もあり、実戦経験もある。今のお前では勝てないだろう。いつかお前が実戦を経験してもアーシアとの差が埋まるという保証はない」
はっきりとした俺の言葉にスタンは悔しそうに俯く。
「だが、それの何が悪い?」
「え?」
「自分よりも強い者がいるということは、自分にも成長の余地があるということだ。アーシアの技を盗み、自分のモノとして鍛え上げればお前もまだまだ強くなれるという証明だろう?」
俺の言葉にスタンはハッとした表情を浮かべた。
「それに、アーシアは味方だ。強い味方がいることほど心強いことはあるまい?」
「そう……ですね。その通りです」
「うむ。スタンよ。俺はお前が今よりも強くなることを期待している。だが、焦るなよ? 俺たちはまだガキだ。アーシアは戦わざるを得ない環境にあったから実戦を経験しているが、俺たちのようなガキが実戦に出るなど10年早い」
「はい」
出来る限りのフォローはしたけど、今回のことで腐ったりしないでくれよ?
正直アーシアより強くなるのは不可能だと思う。
ゲームでは近接キャラで比較した場合、全シリーズでスピードはトップ、攻撃力もトップ5に毎回ランクインしている。
使い勝手という点で考えれば、まず間違いなく近接で最強のキャラはアーシアだ。
ただ、アーシアがいればゲームをクリア出来るのかと言えば、当然そんなことはない。
近接2人、後衛2人、サポート1人がRPGだったフォア戦Ⅳでスタンダードな組み合わせだったが、近接はアーシアの他にもう1人必要になる。
他のシリーズでも1人だけ育てれば勝てるほど――ゲームとしてクオリティが高い――無印以外のフォア戦シリーズは甘くない。
それに、スタンはいいやつなのだ。
ちょっと空気が読めないところが玉に瑕だが、裏表はないし、快活で思いやりもある。
このまま真っ直ぐと成長して欲しい少年なのだ。
こんなことでひねくれたりしないで、是非とも真っ直ぐ育ってくれよ?
そう期待してやまないのだ。
しばらく更新はお休みします。
詳細は2019/06/08の活動報告をご覧ください。




