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それは所謂1つの転機

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 俺はあいつを知っている。

 色濃くつながり横一線の一本眉、半筋高く某ギャンブル漫画並みに鋭角な鼻、線のように細い目とフを描く口。具体的に言うとモとフを縦に並べたあの顔を俺は知っている。

 うわ、マジかぁ。

 そう言えば、キャラデスってのはモーブの家名だったな。

 ぶっちゃけどうでもいいキャラだから忘れてたわ。

 名前と家名つなげれば、『モブキャラです』になる顔だけじゃなくてネーミングも面白なキャラだったな。

 モーブとは、初代フォア戦に登場する顔グラのみのキャラクターだ。

 メインキャラは、放課後パート用のCGと会話アドベンチャーパートの立ち絵と顔グラフィックが用意されているのだが、モーブのような物語上必要とされるが、必要な場面以外は登場しないレベルのモブは顔グラしか用意されていない。

 しかし、その他の顔グラすら男女が判別できるだけで『男子A』やら『女子B』なんて名前のモブキャラよりは優遇されていると言えるだろう。たとえそれが、ギャグ枠であろうとも。

 さて、そんなストーリー上は必要なキャラであるモーブはどう必要になるかといえば、主人公がゲームの冒頭、物語が始まる入学式でトラブルを起こす相手として必要なキャラクターだ。

 ざっくり展開を説明すると、モーブは自らの奴隷であるアーシアという獣人を無理矢理学院に入学させ、入学式の前に大声で罵倒し、暴力を振るう。

 そんな光景を見てしまえば正義感(笑)溢れる主人公が見て見ぬ振りをするわけがない。

 アーシアを助け起こし、平民でありながら貴族のモーブに食って掛かるという話だ。

 物語が少し進むとモーブは、アーシアを奴隷から解放することを強制され、解放した後は一度も登場することなくフェードアウトする正直なところどうでもいいキャラクターである。

 ついでに言えば、モーブを語る上で忘れてはならない特徴は、モブという字を縦に並べた文字顔なとこだ。

 現実で見ると奇跡的なバランスだね。

 さすがに、6才でニキビはないから、ブじゃなくてプになってるけど。


「父上、僕は早く新しい奴隷おもちゃが欲しいです。前のエルフはすぐに壊れちゃったから、今度は獣人ですよ」

「もう少し待ちなさい。話は終わりだ。お前らはさっさとそこをどくがいい」


 今、モーブこいつはなんて言ったんだ?

 新しいおもちゃ……ここで買うものと言えば奴隷しかない。つまり、こいつは奴隷をおもちゃだと言っているのか?

 いや、そもそもエルフが壊れた云々と言っている以上、間違いなくおもちゃとは奴隷のことだ。

 壊れた云々ってことはやっぱりあれだろ? アーティのように意味もなく奴隷を痛めつけてるってことだ。

 奴隷の待遇を改善する新法が施行されたはずが、こいつらはそれを知らないのか?

 せっかく俺の破滅を回避するための第一歩を踏み出したって言うのになんてことをしてやがるんだこいつらは……

 あれ? ちょっと待てよ?

 獣人・・の奴隷?


「……キャラデス男爵と言ったか? お前は新たな法を知らんのか?」


 思い浮かんだ疑問を飲み込み、カールの弟であるリガードの仮面を脱ぎ捨てて王らしい尊大な口調でが問うべきことを問いかける。

 すると、モーブの父親は突然格下扱いしている人間が連れた子どもが偉そうな口調で話していることを俺が狙った通り、トマトも斯くやと言わんばかりに顔を赤くして怒り出した。


「なんだぁその口の利き方は!」

「あぁっ!?」


 大きく手を振りかぶったキャラデス男爵は、カールが制止する暇もなくその手を振り下ろした。

 バチンという音が廊下に響く。

 やったね?

 やってしまったねキャラデス男爵。

 お前は今どれだけ大変なことをやってしまったのかわかっているのか?

 わかってないよな。

 わかってたらやらないだろ?

 どれだけヤバいことをしたのかわかってるカールがめっちゃアワアワしているが、それはこの際どうでもいい。


「そこのデブ。お前は店主だろ? 客に新法の説明はしてないのか?」

「え? あ、はい」


 大人に思いっきり顔を叩かれたというのに尊大な口調で質問されて小太りの男は驚きのあまり反射的に頷いた。

 そう、頷いた。

 新法の説明をしないで、奴隷を売っているとこの俺の前で認めてしまった。

 本当のところは違うとしても、この俺の目の前で一度でも認めてしまったのだ。

 ということは、この店は違法商だ。

 誰がなんと言おうと本当のところがどうであろうとそれはもう関係ない。

 このデブは、この国の最高権力者に自分は犯罪者ですとはっきり認めてしまったのだ。

 そうとなれば話は早い。

 俺は怒り狂ってなにやらわめいているキャラデス男爵の足を払って転ばせる。

 いくら相手が大人だといっても、幼い子ども相手と油断しきっていればこの程度は造作もない。


「あがっ」

「カール、行くぞ」

「え!? あ、はい!」


 キャラデス男爵は間抜けな声を出して倒れ込み、突然の事態に小太りの男はあたふたとしている。

 その隙を突いて俺はカールを促して逃げるように店を出て、それと同時に声を張り上げた。


「ウォルター!」

「待てこのガキが! っな!?」


 俺たちを追いかけてきたキャラデス男爵が、俺につかみかかろうとするがその手は別の手に掴まれて動きを止めた。

 さすがは近衛と言うべきなのか、キャラデス男爵とは腕の太さが段違いだ。


「何をする! 私を誰だと思っているのだ! さっさとこの手を離さんか!」


 掴まれた腕を振り解こうとするも、鍛え上げられた掴む手からは一向に抜け出せない。

 キャラデス男爵の腕を掴んでいる男――馬車の御者を装っていた近衛であるウォルターが、そんなキャラデスの抵抗など意にも介さず、ギリギリと掴む腕に力を込める。


「あががが」

「お前が誰かなどは知らんが、お前がどなたに手を出そうとしたかは知っている」


 多分に怒気をはらんだ口調でそう言ったウォルターは、瞬時にキャラデス男爵を組み伏せる。

 お見事。

 背後に回るや否や掴んでいた腕を手前に引きながら倒れ込むように相手を押し倒したことで、これ以上ないほどきれいに極まっている。

 あれだけ見事なら、引いている腕にもっと力を込めていれば倒したのと同時に肩を外せただろう。


「ウォルター、そいつは俺の顔を張ってくれてたよ。あと、この店はこの俺を前にして新法には従えないと言っている。扱っている奴隷もそいつと一緒に全員連れて行け。俺も戻る」

「はっ!」


 少しばかり予定外のことが起きすぎた。

 しかし、まったく想定していなかった形で良さげな結果が得られそうなのはラッキーだな。


「ま、待て小僧が! お前は誰に手を出したのか分かっているのか!? 私は宰相閣下とも懇意にしているんだぞ! 絶対に許さんからな!」


 カールを伴って馬車に乗ろうとしたところでキャラデス男爵がそんなことをわめいている。

 なんだ、こいつマイザーと親しいのか?

 それは拙いことをしてしまったな。


「そうか。マイザーからキャラデス男爵などという名前は聞いたことがなかったが、親しくしているのか? それならば、マイザーにもお前のような男と親しくしていたことに罰を与えないといけないな」

「ばっ!? な、何を言っているのかわかっているのか!? 役立たずな法衣男爵の縁者程度がどれだけ不遜なこと!」

「まぁ、俺が誰なのかは後で分かるだろう。ウォルター、そいつはうるさいから口をふさいでおけ」

「はっ!」


 ウォルターの返事に1つ頷くと、今度こそ馬車に乗り込む。

 しかし、俺の言うことには貴族なら従うっていうマイザーの言葉は、ただのおべっかだとは分かっていたけど、これはまたどうなっているんだか……

 いや、貴族だって人間だ。いろんなやつがいることはわかっている。

 そもそも、忠誠心が高いのは城勤めのやつらと領地持ちでも高位貴族や低位なら一部の貴族だけだ。

 忠誠心が高い主な理由は、国王に与えられた加護の強さだろう。

 逆らうには、王の力は強すぎる。と言ってしまえば、少しばかり野蛮すぎるが、忠誠心が高い貴族の多くは戦争経験者で、国王の魔法と言う恩恵に与ったことがある連中だ。

 法衣貴族は、給料を払ってくれる相手に逆らうマネはしないし、領地持ちは王について行けば自分の領地は守られるという安心感がある。

 俺の場合、魔法は使えないようなものだが、俺の子どもの代になればそうはならない可能性が非常に高い。

 そんな王家の血の力というやつのおかげで、王位を簒奪しようという馬鹿はそうそう現れないはずだ。

 そもそも、ゲームの世界観的な常識として、野心がある奴もだいたいは国という枠の中で少しでも上を目指す傾向にある。

 一応、現実になったことでこれも確実な話だとは言えないが、野心から王位を簒奪し、王を僭称したところで神からの加護を与えられることはない。

 神の加護が与えられない簒奪者はどれだけ自らが王であると言ったところで、中身が一切伴っていない偽物の王様にしかなれない。

 それにこの間の御前会議で俺が王を続けることが認められているのだから、そうそう自らの野心で王位を狙う奴は現れないだろう。

 王位を狙う野心で動く奴はいないだろうが、自らの欲で動く人間というやつはどこにでもいる。

 キャラデス男爵のように国の定めた法を無視して奴隷を徒に殺しても、癒やしの神の加護でもなければ、加護が奪われることはない。これは、ゲーム内で貴族が好き勝手やっていても魔法が使えたことからも明らかだ。

 しかし、それでも多くの貴族が法に従うのは、王の力で庇護されている面が強いからだろう。

 領地持ちなんかは、王の力があれば自分の領地は守られるが、王に逆らえばその力が自分たちに向く危険性を正しく理解できる人間は法を遵守する。

 というのは表向きで、裏で好き勝手するキャラデス男爵みたいな人間がいるって話だな。


「さて……どうするか……」


 俺は、揺れる馬車の中でそう独りごちた。

 自国の王に暴力を振るったキャラデス男爵家は取り潰しになるだろう。

 しかし、キャラデス男爵みたいな人間が他にはいないなんてことは絶対にありえない。

 国王である以上、俺にはこの国の民を守る義務がある……なんて格好つけてはみるが、実際のところ革命起こされるなんて嫌だからできるだけ善政を敷きたいだけだ。

 身の程をわきまえた贅沢をするぐらいの生活を是非とも続けたい。

 しかし、それを邪魔するマイザーをはじめとした悪徳貴族共……

 つぶすか?

 しかしどうやって……

 とりあえずマイザーはちくちくと攻めて、キャラデスみたいな連中をどうにかするよう言ってみるか。

 マイザーは基本優秀だ。

 正直、未だにマイザーが本当に好き勝手やるのか断言できない。

 今回のことを踏み絵にして、実際のところどうなのかを知ることが出来るといいんだけどなぁ……


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