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たまには我儘言ってもいいでしょう?

14

 俺の指示の下、マイザー主導で奴隷改革が開始されてから4ヶ月が過ぎた。

 幸いと言うかなんと言うか、いきなり反乱が起きるようなことはなかったし、いくらかの不満はあるようだが、特別大きな反発もなく改革は順調に進んでいる。

 季節は本格的な夏を終え、そろそろ過ごしやすくなってきたと感じられるある日――あ、どうでもいい話だけどこの世界には日本のようにはっきりとした四季が存在する。

 まぁ、そんなある日に定期的な報告を終えたマイザーに俺はある用件を切り出した。


「奴隷……ですか?」

「うむ」


 信用できる部下が欲しい。と考えた結果、俺が辿り着いたのは奴隷を購入することだった。

 考えてみれば、簡単なことで理由付けも非常に楽な超グッドアイディアである。

 腹黒敏腕宰相ことマイザーとは言え、さすがに市井の奴隷のすべてにまで根回ししておくことは不可能だ。

 奴隷を部下にしたところで権力面での援護は期待できないだろう。しかし、権力面では役に立たないとしても武力の面で非常に頼りになるのだ。

 どれくらい頼りになるかと言えば、ゲームに登場した獣人のキャラクターは物理アタッカーの最有力候補になる優秀なキャラで、行動速度は速いし、攻撃も一発一発の威力が高い上に連続攻撃まで可能なんていう下手すればバランスブレイカーになりかねないキャラだった。

 まぁ、さすがにそこまですごいのは、主要キャラに選ばれるような一握りの才能溢れるやつだけだろうが、戦略シミュレーションRPGだったフォア戦のⅡに登場した汎用の獣人部隊は、速度に特化し攻撃力もそこそこ高いって設定だったので、一般的な獣人でも十分な戦力になり得る。

 なんでこんな簡単に信用できる部下を入手できる方法をすぐに思いつけなかったのかとちょっぴりへこんだのは内緒である。

 俺はそんな内心を隠して、マイザーに奴隷が買いたいことを伝えた。


「俺の考えは伝えたが、実際にどうすべきかの手本というものが必要だろう? 俺の考えを正しく伝える手本を用意できるのはまた俺だけだ。ならば、俺が手ずから奴隷はこのように扱うのだと手本となるのを妨げる理由はない」

「ですが、なにも陛下が奴隷を買うことなど……」

「マイザー、正直に言うとな? それだけが理由ではないのだ」

「と仰りますと?」

「暇なのだ」


 俺がそう言うと、マイザーは言葉の真意が読めないのか僅かに首を傾げた。


「2日に1回は自由になる時間が半日ある。稽古事ばかりでは息が詰まるのでそれは嬉しい限りだが、その時間をいつも1人で過ごしては暇でしょうがない。年の近い奴隷でもれば、話し相手にもなるし遊び相手にもなるではないか」


 ふ、建前の後に本音と偽った話をすれば、それ以上裏があるとは考えまい。

 しかし、本音と偽った話と言っても全てが嘘なわけではない。

 むしろ本当のことだけしか言っていない。ただ、もっと他に理由があるだけの話だな。

 なにせ、茶会の時に他の貴族の子どもと遊んだりはできるが、それも4日に一度のことだ。それとは別に半休があるわけだが、いい加減書庫の本は読み飽きたし、一人遊びをするのも限度がある。

 当たり前のことではあるが、王城には俺以外に子どもは誰一人としていないので、正直暇をもてあまし気味だった。

 遊び相手として奴隷を購入するのはそれも解決出来る良い方法なのである。


「かしこまりました。では、明日にでも奴隷商を呼びつけましょう」

「待て待て。それでは意味がないのだ」

「何か問題でもございますか?」


 そんなことをされては、お前マイザーの息が掛かった奴隷しか用意されないではないか。

 それは困る。

 具体的に言うと、隠していた本当の本音の部分が叶わなくなってしまう。


「いにしえの賢王ジーニアスはこう言っている――『王は市井をその目にし、民に過不足のあるを悟りて政の糧とせよ』――とな」

「ですが陛下」


 俺の言わんとしてることを理解したマイザーが難色を示す。

 俺は生まれてからただの一度もこの城を出たことがないのだ。

 そして、俺はいにしえの時代に賢王と呼ばれた男の言葉である『王様は自分の目で国民の生活を目にして、何が多すぎて何が足りないかを確かめ、それを政治のために役立てよ』というものを引き合いに出して、城を出て王都を歩くと言っている。

 これが普通の貴族の子女が言っているのであれば、そこまで難色を示す理由はない。

 護衛をつけて好きなようにさせるのが一般的だろう。

 しかし、俺の場合はそうはいかない。

 俺がである以上に、今現在この国で唯一人の王族・・を名乗れる人間であることが非常に大きな問題なのだ。

 もしも、俺がただの王子であったならマイザーは困った顔はしつつも貴族の子女と同じように扱っただろう。少なくとも難色を示したりはしなかったはずだ。

 だが、俺は齢6つにして国王なのだ。

 俺よりも下に王族を名乗れる人間は1人も居らず、両親祖父母が揃って他界しているので上にも王族を名乗れる人間はいない。

 万が一にも俺に何かが起こったりすれば最悪の場合、4つの公爵家による王位を巡った血みどろの内戦に発展することも考えられる。

 だからこそ俺には万が一にも万が一が起きることは許されない。


「お前の懸念も分かっている。万が一すら俺には許されん。だからこそ、俺は考えた。しばらく、城勤めの騎士――できれば近衛の中で俺と背格好の近い弟がいる者を選出するのだ。そして、その弟を何度か顔を隠して城に通わせる。帰りは、兄も一緒にな」


 今現在、王城勤めの人間はそのほぼ全てが法衣貴族か、その関係者だ。下男下女ですら貴族の子女を行儀見習いとして雇い入れ、料理人や庭師ですら、法衣の男爵で城内の一角にある寮で生活している。

 万が一にも家族を人質に取られて、俺を害そうとする人間を出さないためだ。

 法衣貴族として警備が厳重な城内で暮らすか、自前で十分な防衛措置が取れる貴族だけが城での仕事に就けるようになっている。

 それぐらい俺の身辺警護に力が入れられているのだ。

 そんな城内に来ることが出来るのは貴族家の子女ぐらいなので、当然登城する際は馬車を使う。

 馬車を乗り降りする際にも顔を隠していれば、そんな状況で敵の目がない城内で俺と入れ替われば、城の外で待ち構えているかも知れない敵には、俺が城の外に出たことがわからないはずだ。


「そのような手段は……」

「なに、エドウィンに鍛えられているのだ。近衛を相手に2分は持たせられる程度には腕も上がったのだぞ?」


 これは俺自身びっくりなのだが、このルードという男は闇属性魔法という魔法を使う上では非常に難儀な属性を授かってしまったが、こと武術においては恐るべき才能を秘めていたのだ。

 6才児がわずか4ヶ月程度の鍛錬で、この国の最精鋭である近衛兵を相手に2分間も戦えると言うのは普通に考えてありえない。

 ゲームでラスボスとして登場した時のあの弱さはなんだったのかと疑問に思えるほどルードは強くなれる素質を持っていた。

 それでもあの弱さだったのは、きっと闇属性魔法しか使えないという事実に心が折れてしまったのかも知れない。いや、単純に王族としての義務って奴を果たすつもりがなかったのかも知れないが……


「それは聞いておりますが、やはり賛成はいたしかねます。どうしても、城へ商人を呼ぶのではいけないのですか?」

「くどい。茶会に来る者達は皆、自分の家からこの城まで来ているではないか。その時にいかほどの危険があると言うのだ? この俺が、臣下の子女がやっていることすらも出来ぬ臆病者のようではないか!」


 これだけは、どれだけ難色を示されようと、なんとしてもごり押ししなくてはならない。

 普段は言わないような理不尽な我儘でもなんでも言って絶対実行してみせる。

 幸いというか、どれだけ普段俺の地が出て子どもらしさに欠けていても、見た目は6才のルードくんなのである。

 これぐらいの我儘は6才の子どもならばおかしいことでもないだろう。


「かしこまりました……ですが、陛下の策のみでは心許ありません。より確実な方法をとらねば……」

「実行は3日後だ。それ以上遅れることは許さん。護衛は策に使う兄と平服の近衛を5人も見繕えばよいだろう」


 ……あれ? なんか根回しとかさせないように急ぐよう言ったけど、よく考えたら俺が買う予定の奴隷は6才ぐらいの子どもだ。

 いくら腹黒宰相マイザーとは言え、いくら準備期間を与えたってそんな子どもにどれだけ仕込みが出来るって言うんだ?

 失敗したかな?

 まぁ、大したことじゃないし吐いた唾は飲み込めない。

 この発言が問題に発展しないよう祈ろう。


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