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後悔先に立たず

12

 俺の魔法属性が闇と分かってからも俺の生活にはそれを理由にした大きな変化はなかった。

 違いと言えば、習い事に毎日の鍛錬が付け加えられたことと4日に1度お茶会が開かれるようになったことぐらいだ。

 習い事やお茶会で忙しい日々を1年も過ごした頃、この世界は実はゲームとはすごく似ている別の世界なんじゃないかなんて思い始めた頃、とうとう恐れていた事態が訪れる。

 それは、ある日に開かれたお茶会でのことだ。


「ルード様、本日はいつもとは変わった遊びをしませんか?」


 そう言ったのは、シルバン伯爵の息子で、ゲームにも登場したアーティことアーサー・シルバンだ。

 ゲームでは、高飛車ないかにもと言った貴族キャラで、友好度を上げると徐々にデレてくると言う美形なくせに性格が災いして人気ランキングでは比較的下の方にいるキャラである。


「ほう……どんな遊びだ?」

「はい。実は先日、父に奴隷を買い与えられましてね。それを使った遊びをするのはいかがでしょうか?」

「っ!? …………奴隷?」


 まったく予期せぬタイミングで出た言葉にひどく動揺してしまったが、なんとかソレを悟られないよう平静を装う。

 奴隷ってあの奴隷だよな?

 ゲームでは、獣人やエルフ、ドワーフなんかの亜人種族が奴隷にされて、人権無視の酷い扱いを受けるって言うあの奴隷だろ?

 え? この国って元から奴隷制あったの?


「はい。ドワーフの奴隷なのですが、これがなかなか頑丈でして。石を投げて的当てでもいたしましょう」

「的当て……だと?」

「は、はい……」


 思わず低くなってしまった俺の言葉に、アーティは何か機嫌を悪くしてしまったのかと怯えつつ頷いた。


「まぁいい。その奴隷を連れて来い」

「はい」


 あらかじめ従者と打ち合わせていたのかアーティが手を上げると、彼の従者は頭を下げてから庭園を出ていった。

 しばらくして戻ってくると、ずんぐりむっくりとした髭もじゃの男を連れてガゼボへとやってくる。

 ゲームで見た姿そのままのドワーフを見ても、俺は素直に喜ぶことが出来なかった。

 やはり、のドワーフは見るからにボロボロで、治りかけの傷や古傷など体中が傷で溢れている。


「どうです? 見るからに頑丈そうでしょう?」

「………………ダメだな」

「ルード様?」

「今日は気分が悪い、茶会はこれで終わりだ」

「え? ルード様? どうなさったんですか?」


 俺はアーティの言葉を無視してガゼボを出ると足早に庭園を後にする。

 真っ直ぐと執務室に向かい、ドサリと乱暴に音を立てながら椅子に腰掛けると大きく息を吐いた。


「マイザーを呼べ」

「かしこまりました」


 アンジェリカは庭園に置いてきてしまったので、対応したのは別のメイドだ。

 それでもアンジェリカに負けず劣らず優雅な礼をして執務室を出ていけば、程なくしてマイザーがやって来る。


「陛下、どうかなさいましたか?」

「マイザー、我が国では奴隷をどのように扱っている?」

「奴隷……ですか?」

「そうだ」


 元日本人だからと言って、奴隷制という制度を野蛮で悪い制度だと盲目的に断ずるほど俺の頭は固くない。

 地球だって、かつては奴隷制があったし、21世紀の日本だって、見方を変えれば契約の名の下に社員という奴隷を会社が雇用しているのと変わらないと思っているぐらいだ。

 では、なんで日本の社会において会社員が奴隷と呼ばれないのかと言えば、基本的人権と働く上での権利を有しているからだ。

 奴隷という身分である以上、十全な権利を有することなどは出来ないかも知れないが、最低限の権利は認められるべきだと思う。

 それさえ認めていれば、奴隷制というものも一概に悪いと言うべきではない。


「質問の意図がわからないのですが……」

「……すまんな。少しイラついていて言葉少なになっていた。我が国においてどのような者が奴隷となる?」

「戦争相手の国の民を奴隷とする戦争奴隷。税を払えない者や税を払ったせいで生活が立ちいかなくなり身売りした経済奴隷。罪を犯した者の犯罪奴隷の3種となります」

「…………なるほど」


 具体的に質問するとマイザーは考えるそぶりすら見せずにスラスラと答えた。

 そう言った人間が奴隷とされているのならば、明日から突然奴隷制は廃止ですなんて言うことは出来ないだろう。

 何度でも言うが俺としては、奴隷制を悪いとは言わない。

 特に軽犯罪は別だが、重罪を犯した人間は奴隷として国家事業で使いつぶすぐらいした方が良いと思っている。なんで、税金使ってクソ野郎を養って安穏とした生活を送らせなくちゃいけないんだ。

 少なくとも、先ほどのアーティのように奴隷だからという理由で簡単に虐げる真似をすることは認めたいとは思わない。 


「では、お前は奴隷を享楽のためや特に意味もなく虐げる行いをどう思う?」

「珍しくはないことかと。奴隷はあくまでも持ち主の所有物です。持ち主がどのように扱うかは個人の考え次第ではないのでしょうか?」


 やっぱりそういう認識が一般的なのか。

 そこら辺が問題なんだ。

 ゲームでは、それらの行為が過剰になって、貴族は奴隷を好き勝手に殺していいとまで考えるようになっていた。

 正直、俺にはそんな風潮は受け入れがたい。


「なるほど……だが、俺はそれが腹立たしくてな」

「腹立たしい?」


 俺は、そうだとマイザーに言ってさらに続ける。


「ここ10年以上我が国は戦争をしていない。と言うことは、今いる奴隷の多くはもとを正せば我が国の民と言うことだ。税を払えずに奴隷に身を落とす者や罪を犯して奴隷となる者など理由は様々であろうがな」


 俺は大きく息を吐き、真っ直ぐとマイザーの目を見る。

 さぁ、マイザー。

 お前は俺の言葉になんて応える?


「一度奴隷となったのならば、その者はもう我が国の民ではないのか? 俺はそうは思わん。そして、我が国の民が別の民を意味もなく痛めつけるような真似がまかり通っていることが腹立たしいのだ。特に民を守るべき貴族がそのような真似をしているかと思えば腸が煮えくりかえる」

「…………なるほど。そういうことですか。確かに陛下の仰ることは間違いではありませんね」


 マイザーは頷きながらそう言った。

 マジで? お前本当にそう思ってるの?

 実は、お前は奴隷なんかどうなってもいいと思ってるんじゃないの?


「そうであろう? 死罪にするほどではないが重罪を犯した者などならば、重い労役を課せられるのならばわかるが、そうでない者は救われる道があるべきだ」

「かしこまりました。奴隷もまた我が国の民であるという考えの下に法を見直してみましょう」


 さて……腹黒宰相はいったいどのような改善案を出すというのか。

 これは、ある意味試金石だ。

 自分の罪を全てルードにおっかぶせるような悪逆非道の外道宰相が、どう対応するのか。

 ゲームの設定では10年以上ひどい政治が続いたとあるから、そろそろ片鱗を見せる頃だ。

 俺の意見を気持ち程度にでも取り込んで、奴隷の待遇を少しだけ改善するのか。

 それとも、俺の意見はやっぱり無理ですと言ってむしろ改悪方向に持って行くよう口八丁で丸め込もうとしてくるのか。

 少なくとも、劇的な改善は望めないだろう。

 既得権益と言うか、突然の変化は既存の奴隷を扱っている商人や奴隷の所有者などからの反発が大きいはずだからな。


「そうか……そうしてみてくれ」

「ええ、お任せください。陛下・・


 俺は冷徹な笑みを浮かべるマイザーを見て背筋が凍ったかのように感じた。

 いったいこいつはどうするつもりなのか。

 もしかしたら俺はとんでもないことを言ってしまったのかも知れない。

 どうするつもりなのかなんてまったく想像もつかないが、マイザーの笑みを見てそんなことが頭をよぎる。

 しかし、後悔してももう遅い。そして、発言の結果は予想をはるかに超える速さで、それも思いも寄らぬ形を成して現れるのだった。


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