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はじめてのごぜんかいぎ

11

 老神官をお見送りしてからすぐにマイザーは矢継ぎ早に指示を出し、半刻もしないうちに主立った者を会議場に集めた。

 近衛隊長のエドウィン、宮廷魔術師長のサマリエル、軍略方主席のハビエル、摂政のマイザーと各大臣たちというこの国を動かしている人間に加え、王都にいた爵位の高い貴族数名が揃っている。

 上座に置かれた一際豪華な椅子に腰掛ける俺は、1度だけ大きく息を吐いてからマイザーを見て頷いた。


「歴々は忙しい中、急な招集に応じたことを陛下からお褒めの言葉を頂戴している」

「我らは皆、陛下の御為おんため、この国の為に働いているのだ。陛下の御名において命じられたことに従うのは当然のことだ」


 エドウィンが代表して答えると誰もが頷いている。

 本当にゲームで腐敗の極地にあった国のお偉方とは思えないほど忠誠心と愛国心に満ちているな。


「それで……今日の急な会議はいったい何のためだ?」

「うむ。陛下にまでご臨席いただくほどの問題なのかね?」

「役付きだけでなく、領地持ちの我らまで集めることなどこれまでにないことだろう?」

「なんぞ陛下の聖別の儀で問題でもあったんか?」


 急に集められた理由が分からず、口々に疑問を並べ立てる。

 本来ならば、王の前で許可も求めずに口を開くことは無礼に当たるが、まだ幼い俺が舐められているわけではない。

 彼らとは今までにも何度か個別に会う機会があり、きちんと俺への敬意を払い、礼を持って接してきた。

 そんな彼らでさえもマナーに違反してしまうのは、俺の――今代の王の名前を使って行われる会議が即位後2年を過ぎて初のことだというのに加え、通常なら会議に呼び出されることのない領地持ちと呼ばれる貴族まで呼ばれているのが原因だ。

 貴族は領地持ちと法衣に分けられ、文字通り自分の領地を持っているのが領地持ち貴族で領地は持たないが王都で役職を与えられているのが法衣貴族だ。

 王城で行われる会議なのだから、本来王城の業務に携わらない領地持ち貴族が会議に出席することはありえない。

 領地持ち貴族まで招集される会議は、それこそ戦争などの国全体に関わる非常に重大な問題について論じる時だけだ。

 初めて俺が参加するのに加えて、一部とはいえ領地持ち貴族まで呼ばれるのだからよほど重要な話があるのだろうと落ち着けないのも無理はない。


「静まれ! 今日、歴々を集めたのは――」

「マイザー、構わん俺が話す」

「――陛下!?」

「俺が話すべき事だ。ハビエル、よく分かったな」


 マイザーの言葉を途中で遮って俺がそう言うと、名指しされたハビエルは何のことを指しているのか分からずに首をひねった。

 腰の曲がった爺が小首を傾げても可愛くないから、それはやめてほしい。


「あん? なんのことや?」

「聖別の儀を執り行った結果、俺にも魔法が使えることは分かった」

「おぉ、そんは祝着」

「が、属性が闇だった」


 属性を言った瞬間、口々に祝いの言葉を並べ、喜んでいた全員が凍り付いた。


「マイザーに聞いて初めて知ったが、闇属性はダメだな。ほとんど使い物にならん。魔法が使えないのと変わらないと言っていい」

「陛下……」

「それは……」


 どう慰めればいいのか。そんな感じの一同をゆっくりと見回し、俺はこの場に集めた理由を語る。


「そこで問題となるのは、俺をこのまま王位につけておくのかと言うことだ」

「なっ!?」

「陛下何を仰せられるのですか!?」


 誰もが椅子を蹴るようにして立ち上がり、口々に何を言っているのかとの声を上げる。


「当然のことだろう? 王とは民を守る最後の砦だ。それがまともな魔法も使えないのでは、話にならん。民がこのことを知れば、戦などが起きた時に不安を感じることだろう。そんな王ならば、別の者を王に据えた方がいいのではないか?」

「ですが!」

「まぁ、待て。俺はこれでも王としての意地はある。魔法が使えぬのならば、剣でも槍でも使えるように鍛えれば良いと考えるぐらいにはな。だが、それを良しとするのか?」


 俺は、もう一度ぐるりと全員の顔を見回してからゆっくりと続ける。


「俺がそのように考えてもやはり、不安を感じる者はいるはずだ。そんな時にはここにいる者達に支えてもらうこととなるだろう。だが、そもそもお前たちが俺に不信であったならば誰が俺を信ずる?」

「我らは陛下に忠誠を誓っております!」


 エドウィンが心外だとでも言わんばかりに叫ぶ。

 それは知っている。

 俺みたいなガキが国王でも、ここにいる誰もが自己の利益に走らず、俺という王を立てていたことはマイザーから報告された中に数字としても表れている。


「だが、誓ったのは俺の属性が闇だと分かる前の話だ。勘違いするな。お前たちがこれまで俺に忠誠を尽くしていたことは疑っていない。そして、お前たちの忠誠を試しているわけでもない。いや、ある意味で試しているだろうな。しかし、それは俺への忠誠ではない。国への忠誠だ」


 国への忠誠と王への忠誠は同じように思えるが、まったく別のものだ。

 極端な話、王が誰であろうと国をまとめてさえいれば国は守られる。

 国家という形を守りさえすれば良い。

 それこそ、無印や初代で革命が起こされて王家がまるっと主人公を初代とする王家に変わっても、国民が別の人間と入れ替わるわけではない。

 そして、今問題となるのは、国をまとめるはずの王にその資格がないかもしれないと言う点だ。


「王である俺のことなどよりもまず、国のことを……民の事を考えろ。その上で、答えろ。俺に王の資格はあるか? 否と答えることは不義ではない。むしろ、本心を隠し阿諛追従することの方がこの上ない不義である」


 ダンと机を叩きながら俺が言うと全員の顔が厳しいものになる。

 それもそうだ。俺へ誓った忠誠を考えれば、本来ならば王を代えることなどありえない。

 この場にも比較的王家と血が近い公爵家はいるが、この世界の常識として王族と公爵家は身内と言われる間柄であっても明確に別の血統と見なされる。

 王族が全員死んだ時になって初めて公爵家に王位を継ぐ順番が回ってくる。

 だからこそ公爵家を差し置いて3才という若さで俺が王位につけられたのだ。

 しかし、王の血筋よりも、王への忠誠よりも、国の未来を考えて答えろという王の命に従うのであれば、その答えが是になるとは限らない。


「と言っても、すぐに答えは出ぬだろう。しかし、答えはすぐに出す必要がある。俺の前では出来ぬ話もあるだろうから、しばらく俺は中座しよう」


 会議室を出ようと俺が立ち上がると同時にエドウィンも立ち上がり、俺の前へと進み出た。

 近衛騎士であるために王の前でも帯剣が許される彼の手は、その腰に下げられた剣にかけられている。


「どうした? 無能な王をその手にかけるか?」


 俺がそう言うと、エドウィンは剣を勢いよく腰から抜いて俺の前に突き出した。

 しかし、剣は鞘に収められたまま、柄が俺の方へと向けられているではないか。


「私の忠義が信じられぬと言うのならばどうぞ、この剣で私の首をお刎ねください」


 そう言って剣をこちらに差し出したまま跪いて頭を垂れる。


「お前の忠義は疑っていないさ。しかし、国のことを思えば俺が王位にあるのが本当に正しいと思っているのか?」

「陛下以上のお方はいないと確信を持って言えましょう。誰を王位に就けようとも陛下以上のお方はこの国に存在しない」

「まだ5つになったばかりのガキにずいぶんと過大な評価をするものだ」

「どれ、んなこと言うんならエドウィンのついでにワシの首も持って行ってもらおうかいの?」


 どっこいせと言いながら立ち上がったハビエルがエドウィンの隣に並ぶと膝をついた。


「ハビエル、お前もエドウィンと同じ考えなのか?」

「まあの。陛下はまだ5つと言う取ったが、貴族のガキとて表は取り繕えても、中身はそうはいかん。陛下以外に陛下のような5才児がどこにおる?」


 やっぱり異常な存在だと思うよな。

 なにせ、見た目は5才児だが、中身は日本で育った大人なのだから。


「やだねやだね~こんなパフォーマンス。そんなに僕ちゃん陛下へーかのこと信じてますって言ーたいの? ただ一言魔法まほーなんか使えなくても、陛下へーか王様おーさまに相応しーって言えばいーのに」

「んだとサリー!」

「サリーって言うな! 僕は男だ! 女の子みたいな名前で呼ぶなって何度言わせるんだ!」


 また始まったよ。

 エドウィンとサマリエルは非常に仲が悪い。

 いい年してるくせにすぐガキみたいな喧嘩を始めるのだから困ったものだ。


「陛下、そこで騒いでいる馬鹿者もおりますが、陛下のことを年齢通りの子どもと思っている者は誰もおりません」

「そして、そんな陛下を魔法が使えぬと言う一点だけを見て王に相応しくないと考える者もです」

「陛下ご自身で仰ったではないですか。魔法が使えぬなら剣でも槍でも使えるようになると」


 エドウィンとサマリエルを放置して、大臣たちや集められた領地持ち貴族たちが口々に俺を王と認める言葉を述べる。

 意外と俺って信頼されてるんだね。まだ5才のガキだって言うのに。

 俺だったら、こんな気味の悪い5才児怖いって思うんだけど?

 まぁ、感じ方は人それぞれか。


「あとは……サマリエルとマイザーか」

「どうなんだ? サマリエル」

「え? 僕?」


 あと一歩でエドウィンと取っ組み合いの喧嘩にまで発展しそうなところでサマリエルはこちらを向いて首を傾げた。


陛下へーか以外に王様おーさまに相応しー人なんているの? 僕嫌だよ? そこの摂政様せっしょーさまみたいな頭のかったーい人が王様おーさまになるなんて。魔法まほー研究けんきゅー自由じゆーに出来なくなりそーじゃん」

「そうか……マイザーは?」

「私は陛下のお決めになったことに従うのみです」


 そりゃ、お前は俺が王でいる方が良いよな。


「そうか……後から心変わりした際はすぐに言え。だが、今はこうして俺を王と認めたお前たちに感謝しよう。ただ……」


 一同が訝しがる中、俺はサマリエルを見て笑みを浮かべた。


「しかし、そうすると残念だなサマリエル。魔法が使えるようになったらお前から習う約束だったが、その時間は全てエドウィンとの稽古の時間になってしまいそうだぞ?」

「え!? うそ!? ちょっと待って、なしなし。それはなしでしょ!?」


 会議室が笑い声で溢れる。

 さて、国王が続投できる以上、この国をより良くしないとな。

 これからのマイザーの動向なんかに注意しないと……


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