チートはないって事ですか?
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「何か問題でもあるのか?」
驚いている様子の3人に問いかけると、戸惑うばかりでなかなか返事がない。
つーかフォア戦に闇属性なんてなかったはずなので、俺もその点は戸惑っている。
ゲームでは、火、水、風、土の4つと神官が使う回復の5種類しか魔法はなかったはずだ。
ちなみに、神の加護によって魔法が使えるようになるが、属性はどの神の加護かではなく、個人の資質によって決まるものとされている。
火属性の神とか水属性の神とかがいるわけではないのだ。
神様ってやつは、誰でも大なり小なり魔法が使えるとされているのが理由らしい。
とりあえず、3人の様子から見ても俺の属性が闇だっていうのは歓迎できない事態なのだろうことは容易に想像できるが、どんな問題なんだろうか?
闇属性は魔王の証とかなんとか、そんな伝説でもあるのだろうか?
「い、いえ……問題などはなにも……」
あのマイザーですら、答えるのを躊躇わせるほどのものなのか。
今の腹黒宰相マイザーは、俺の代わりにあらゆる公務で八面六臂の活躍を見せる傍らで、先日まで行われていたお茶会の日程合わせや、今日の聖別のセッティングなんていう秘書みたいな仕事までこなす有能な摂政だ。
いつも冷静で、動じているところなどゲーム内ですら一度もなかったマイザーが動じている。
それだけで、この闇属性と言う奴がどれだけヤバい存在なのかが分かろうというものだ。
「マイザー……俺は無駄が嫌いだ。今この場でお前が話さずとも、後からいくらでも調べることは出来る。だが、そんな無駄な労力を払うよりは、俺が最も信頼するお前に全てを教えて欲しい」
「…………陛下」
まぁ、アンジェリカと同じで――というか、その親玉であるお前なんだから――信頼はしてるけど、信用はしてないけどね。
マイザーはそんな俺の内心など露とも知らず、信頼すると言う言葉に感動したのか、わずかに身を震わせると意を決したように俺を見つめながら口を開く。
「闇属性の魔法はあまりにも使い道がないのです」
「…………………………………………はい?」
え? なに? どゆこと?
あまりにも言葉の意味が分からなくて、たっぷり10秒ぐらいフリーズした上に素が出ちゃったんだけど?
使い道がない?
どゆこと? ハズレ系の魔法ってこと?
そうだよね? ハズレ引いたって事だよね?
マジで?
「闇属性で唯一と言っていい使い道のある魔法は、黒い煙を周囲に広げることで視界を奪う魔法です。そして、それ以外には何の使い道もありません」
…………それは酷い。
攻撃魔法はなく、防御魔法もなく、状態異常ですらない目隠しができるだけで、他には使い道がない。
もはや魔法である必要すらないクソ属性じゃないか。
煙幕なんて、それこそ煙玉使えば事足りるわ!
魔法は使えるけど、使えないのとほぼ同じなのだから、あの反応も納得だな。
言われてみれば、闇って何に使うんだよ。
なんか状態異常系が多そうなイメージだけど、魔法は現象を起こす力であって、状態異常のように人の体に作用させることは――回復魔法と言う例外を除けば――できないのだ。
あとは……ブラックホールとか? でもあれ、闇じゃなくて重力だよね?
闇で攻撃する方法なんて俺には想像つかない。
そうするといろいろまずいな。
魔法が貴族を貴族たらしめる証である。
それは、魔法という力で民を守るからこそ、貴族という立場にあるからだ。
魔法を使えないということは、民を守る力がないと言うことであり、それはすなわち民を守れない貴族は貴族ではないということになる。
しかもそれは、貴族の話だ。ことが国王ともなれば事態はさらに悪化する。
王権神授を地で行くこの世界において、王とは神から認められた存在だ。
そして、魔法は神の奇跡を人間が代行するようなものであり、魔法は神からの加護が強ければ強いほど力を発揮する。
すなわち、王とはその国家で最も神から強い加護を授かった存在であり、国家防衛の要になるのだ。
今の俺は、膨大な魔力を持っていながら、それを使うことが出来ないのと同じ状況にある。
「なるほど……民を守る最後の砦たる王が、王族でありながらまともな魔法も使えないのではどうしようもないな。それこそ国王失格だ」
「…………陛下」
自嘲気味に笑みを浮かべると、マイザーとアンジェリカが目尻に涙をためている。
やはり、革命が起きるのはルードが原因なのだろうか?
今回の魔法の属性が闇だったことで自暴自棄になり、自ら国を乱したのか。
それとも、マイザーに失望されたのか。
当面はあらゆる可能性を考慮しないといけないな。
いや、それよりもまず心配しないといけないこともある。
「神官殿。当たり前のことを念押しするようで申し訳ないが、このことは他言無用に頼む」
「陛下!? あ、頭をお上げください」
「陛下、何をなさっているのですか!?」
突然俺が頭を下げたことで神官のじーさんが酷く恐縮して俺の顔を上げさせようとする。
しかし、ここで顔を上げるわけにはいかない。
慌てて駆け寄ろうとするマイザーを顔は上げないまま手で制する。
「なに、今後のことを話し合えば、王ではなくなるかも知れないような王の頭だ。頼み事をするのに下げることを拒むほどの価値はないさ」
俺はそう言って顔を上げるとカッカと笑みを浮かべた。
気落ちしていない様子の俺に毒気を抜かれたのか、神官のじーさんは一瞬間の抜けた顔をした後、神妙な顔つきで頷いた。
「聖別の結果を誰かに話すことなどもともとしませんが、あえて言わせていただきましょう。この事実は決して私の口から他者に漏らすようなことはいたしません」
どうぞ、ご安心ください。と、神官のじーさんは優しげな笑みを浮かべている。
俺は、神官のじーさんの言葉に内心で安堵したが、それはなんとか表に出さずに頷いて返した。
「そうか。神官殿、感謝する。マイザー、アンジェリカ、神官殿を見送り次第、すぐに主立った者を集めよ。今後のことを話さねばならん」
俺はそう言って颯爽と身を翻すとマイザーとアンジェリカの間を通り抜けて部屋を出る。
さて、ゲームのことを考えれば王位を取り上げられることはないとは思うけど、どうなってしまうのやら……