とある女性の転生
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『フォウアード戦記』ってゲームを知ってる?
誰に聞いても、名前は聞いたことがあると答えられるぐらいには有名なゲームだと思う。
『フォア戦』って名前の方が馴染みがある人もいるかも知れないわね。
初代の『新フォウアード戦記』がPCP――プレイングコンピューターポータブルで発売した後、据え置きのPC2――プレイングコンピューター2で続編の『フォウアード戦記Ⅱ - 平原の覇者 -』が発売。
それからもPCシリーズの新作ハードが出ると続編が発売され、ついにはPC5のローンチソフトとして『フォウアード戦記Ⅴ - 天地無双 -』が発売ラインナップに並ぶほどのタイトルにまで成長しているの。
このゲームの面白いところは、シリーズものでありながら、毎回ゲームシステムや小ジャンルが変更されているところかしらね。
それなのにストーリーはしっかり続編なんだから不思議よね。
初代は、育成シミュレーションRPG。Ⅱは戦略シミュレーションRPGで、ⅢはアクションRPGになり、Ⅳではごく普通のRPGと言った具合で変わっているわ。
Ⅴはタイトルと事前情報から無双系のアクションゲームになってるみたいだから、とうとうRPGというジャンルすら飛び出してしまっているみたい。
続き物でこれだけ節操がないのも珍しいんじゃないかしら?
この点の評価は人によりけりだけど、いろいろなシステムのおかげでフォア戦好きでもどのシリーズが好きかって話で盛り上がれるので私は面白いと歓迎している。
ちなみに、私が好きなのは圧倒的に初代ね。
ストーリーをすっごく簡単に説明すると、圧政に嘆く王国で魔法の才能があったことから学園に入学することになった農家出身の主人公(男女選択可)が、学園卒業と同時にクーデターを起こして王様になる。って感じかしら?
クーデターとか物騒な感じがするし、平民からいきなり王様になるなんて、とかツッコみどころ満載だけど、ゲームだからそこはご都合主義でも良いと思うの。
そもそも、初代の面白いところはメインストーリーじゃないのよ。
メインは学園編で、全体の9割以上がこのパートで、クーデターを起こす卒業後の話は物語の締めとしての大きなイベントでしかないって言うのが、私の見解ね。
ゲームの大部分である学園編は、授業パートと放課後パートに別れていて、授業パートで育成経験値をゲットして放課後はキャラクターを自由に操作して他のキャラクターと交流したり、自主練したりと好きなように行動できるの。
そう。学園編の中でも特にメインと言えるのはなんと言っても、放課後パートなの。
自由度は無限大、プレイヤーの数だけ楽しみ方があるなんてレビューサイトに書き込まれていて、私は激しく同意できたわ。
誰とも交流せずに1人でどこまで強くなれるか試すのも良いし、1人のキャラクターを後ろからひたすら追いかけるのも良い。
当然、いろいろなキャラクターと交流するのも面白い。
総勢20名を超えるキャラクターとの交流は、内容もボリュームも10年以上昔の携帯ゲームだって言うのに最新の据え置きゲームと比べても遜色ないって言われているんだから、どれだけのものかは想像できるかしら?
さすがにロード時間とかグラフィックとか比べものにならない箇所はあるけど、未だに最新技術を使った初代のリメイクを望む声がネットにあるぐらいすごいゲームなのよ。
話題の放課後パートのどこが良いかって言えば、各キャラクターの個別シナリオを完走した時に一定以上の好感度に達していれば、親友や恋人になることができるの。
そしてそして、恋人に性別は関係ない。
真実の愛の前には性別なんてものは障害にすらならないのだ!
うん。まぁ、私がどんな人間かはよく分かってもらえたと思う。
勘違いしないで欲しいのは、私は男同士に激しく萌えるだけであって、恋愛対象は普通に男性です。
腐っているから男は男同士で結ばれると考えている。なんて偏見は辞めて欲しいわ。
中にはそんな業の腐かい人がいるのは否定しないけど、それは極少数派の本当に業が腐かい人だけなのよ。
だって、男のオタクだって「俺の嫁」とか言いつつ、リアルで結婚してる人もいるでしょう?
出会いがなかったり、個人の資質的な問題で恋人や結婚ができない人もいるでしょうけど、オタクだから完全に三次元の女性に興味がないって人がどれだけいるのかって言うのと同じ話だと思うのよ。
閑話休題。
フォア戦は、恋人に性別が関係ないからと言って特定の趣味嗜好の女性にしか楽しめないゲームじゃないわ。
キャラクターの半数以上は女性キャラクターで、ロリからBBAにツンデレ、クーデレなどなど各種属性のキャラクターが揃ってるもの。
ハーレムプレイも逆ハーレムプレイも可能だし、一途に1人のキャラクターを追いかけるのも自由。なんだったら、恋人も友達も作らないぼっちプレイだって出来る。
プレイヤーの自由な発想でいろんな楽しみ方が出来る初代こそが、フォア戦で最高の作品だと私は思う。
ヘレン・イーヤン。
それは、初代――つまり新フォウアード戦記で男の主人公を選択した時にだけ登場する幼なじみポジションのキャラクターの名前。そして、それが私の名前だ。
そう、一体全体どういうわけか私はゲームのキャラクターになっていた。
5才になると誰もが聖別の儀式を受けるんだけど、それを受け終えると同時にここがゲームの世界だと理解した。
たぶん、生まれ変わりってやつ? ネット小説だと転生って言うやつよね?
前世の自分のことはぼんやりとしか思い出せないし、いつごろにどうやって死んだのかも覚えていない。だけど、好きだったゲームや漫画のことはよく覚えている。
それはもう愕然としたわ。
だって、私はこの世界でこれから起きることを知っている。
効率の良いレベルアップの仕方や強力なアイテムの入手方法も知っているし、敵の弱点や行動もわかる。
人生イージーモードってやつじゃない。
そしてなにより、私は王妃になれる。
ただの農民から一国の王妃、それも正妻になるシンデレラストーリー。
だってそうでしょ?
ただの農民だった主人公は、聖別の儀式で魔法の才能を認められ、同じく魔法の才能を持っていた幼なじみ――つまり私と一緒に15才を迎えるとゲームの舞台である学院に入学する。
ゲームが始まるのは15才になってからで、私が前世を思い出したのは5才。
そう、他のヒロインが誰もいない状況で10年ものアドバンテージがある。
10年間で主人公を私に依ぞ――げふんげふん、ぞっこんラブ(死語)になるように洗の――げふんげふん、調き――げふんげふん、えぇと……そう、私の魅力でメロメロ(死語)にしてやるのよ。
ゲームが始まる前に勝負をつけてさえしまえば、その後は万が一にも心変わりがないように他のキャラクターとのフラグを叩き折って、粉砕して、畑の肥やしにでもしてやればいい。
別に女キャラなんていなくたってゲームはクリアできるもの。
嗚呼、待っていなさい私の薔薇色の人生よ。