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78話

 ライラは黒い皮で出来た手袋のようなものを手にぴっちりと付けており、手の甲の部分には銀の十字架の装飾が施されているのが見える。


 推定6m...つまり一般住宅の2階程の大きさのオーガが目前まで来ているのでコウはサンクチュアリを構え一歩前に出ようとすると隣に立っていたライラが先に一歩前へ足を出す。


「心配しなくても大丈夫ですよ〜」


 きっと策があるのだろうとは思うのだが、心配なのでコウは前に出ようとするとライラは右腕を横に伸ばし丁度コウの視線の位置へと腕を置かれ前が見えない。


「前が見えない、何を...」


 コウは前が見えないのでライラの腕に手をかけ退かすと既にオーガの大きな拳がライラに向かって放たれていた。


 不味い――!


 既に目の前には大きな拳があり、魔法で氷の壁を作ろうにも間に合わない。


 コウはきっとオーガの拳を喰らっても吹き飛ばされてしまうだろうが身体は頑丈なためきっと致命傷は受けないはずだ。


 しかし目の前に立っているライラであり、女性の聖職者なのだ...戦闘が得意だと思えず致命傷どころでは済まない。


 そしてライラには策があるのかもしれないがまだ何もしておらずこの距離では間に合わないだろう...。


 オーガの拳のドスン!とぶつかる音がしオーガの拳から放たれた風圧が周囲に吹き荒れ土埃が上がるとライラの呑気な声が聞こえてきた。


「だから心配しなくてもいいって~言ったじゃないですか~」


 周囲に舞い上がった土埃が晴れるとそこには僅か30~40cm程手前でピタリとオーガの大きな拳が止まっており、ライラの両手のグローブに装飾されている十字架は白く光り輝きながら光を放っているのがみえる。


 しかもライラはオーガの大きな拳を片手で受け止めていたのだ。


「嘘だろ...?」


 あの細い腕でどうやってオーガの拳を受け止めたのだろうか...コウは口を開き唖然としてしまう。


「よいしょ~!」


 ライラは受け止めていない逆の手を大きく振りかぶり握りしめ拳を作ると受け止めていたオーガの拳へと自身の拳をぶつけオーガの拳から骨が砕けるような音がしオーガは数mほど吹き飛ぶ。


 オーガも拳の骨が砕けた激痛で悲鳴を上げ砕けた手を押さえながらのたうち回るので振動がこちらにも響いてくる。


「さぁ~いきますよ~!」


 普段、のんびりと行動しているライラからは想像もつかないほどの俊敏な動きであり、のたうち回っているオーガの元へ走っていく。


 やられっぱなしにならないようにオーガは手の激痛に耐えつつ起き上がりライラを迎え撃とうとしているのが見える。


 しかし所詮は魔物...オーガは学習していないのか同じ様に今度は骨が砕けていないもう一つの拳を走って向かってくるライラに向かって放つがそれを見事にひらりと横に回避していく。


 躱されたオーガの拳は地面に衝突し大きく穴を開け、腕は地面にめり込むとライラはそのまま地面にめり込んだオーガの腕に乗って駆け上がっていった。


「えいっ!」


 ライラはオーガの顔の近くまで行き顎の部分に辿り着くと拳にはめているグローブの十字架が再び光り輝きオーガの顎をそのまま拳で撃ち抜く。


 オーガは頭を揺らされて脳震盪を起こしたのか白目を剥いてズシン!と地面へと倒れ、オーガの強靭な顎は殴られた方向に変形しており、かなり強い拳の威力というのがわかる。


 ライラはオーガの頭の上に立って「完全勝利~!」などと言っているのが見えた。


「ライラを怒らすのはやめておこう...」


「キュイ...」


 コウとフェニはライラの戦い方を見て怒らすのはやめようと固く誓う。


 もし怒らしてライラからあの拳が自身へと飛んできたらたまったものではない。


「とりあえずとどめを刺すか」


 そのまま放置していたらまた目を覚まし起き上がるので倒れたオーガに近寄りコウはとどめを刺そうとオーガの首へとサンクチュアリを振り下ろす。


 半分ほどまでサンクチュアリは沈み込むがそれ以上はオーガの筋肉が邪魔しており、入っていかないのでサンクチュアリに魔力を込め刀身の穴からジェット噴射の様に水を吹き出すと首から頭が離れた。


 そうすると切り口から大量の鮮血が溢れるのでこれ以上、周囲が血の絨毯としてならないようコウはすぐに収納の指輪の中へとオーガの死体をしまう。


 そして聖都シュレアへと続く道の邪魔者は消えたので再び馬車へと乗り込むと一息つく。


「ふぅ~どうでした~?私こう見えて強いんですよ~?」


 手にはまっている十字架の装飾品が付いているグローブを外し修道服の横にあるポケットへと仕舞いながらライラは自慢げに言ってきた。


「まさかライラがここまで強いと思わなかったよ」


 コウも素直にライラの言うことを認めるとライラは何故か嬉しそうニコニコしている。


 聖職者が強いと言われて喜ぶのはどうかとは思うのだが...。


「というかそのグローブもしかして魔道具か?」


「そんな感じですね~魔力を込める量に応じて力が強くなるとか~」


 ライラがはめていたグローブについて聞くとなるほどなとコウは理解した。


 グローブのお陰であの様な高威力な拳が振るえてしまうのだと。


 ライラの魔力がどれほどの量かはわからないが、もしコウがあのグローブをはめて魔力を全力で込めてしまえばどれだけの威力が出るのだろうか想像ができない。


 そうこうしているうちに馬車も準備が整ったのか御者が馬車を走らせる為、乗っているコウ達を確認すると再び聖都シュレアへと進み出すのであった。

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